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アルゴーの集落編 〜クーリエ 30歳?〜
X-37話 衝撃の実験内容
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「死んでる——のか? でも、一体どうして・・・。ここには常にお医者さんがいたし、毎夜俺も様子を確認しにきていた。というか、ついさっきまで呼吸も正常だったはずなのに」
「後悔しても遅いよ。その人は死ぬ運命だったんだから」
寝転びながら言い放つ彼に、俺は勢いよく近寄ると両手を伸ばし胸ぐらを掴むと、一気に自分の身体に手繰り寄せる。不意に持ち上がる身体に彼は驚きの顔を浮かべていたが、俺の表情に笑みはなかった。
「この世に生まれた以上、無駄に散らしていい命なんてあるはずがない。それを、いや、彼が死ぬと、もしくは殺されると分かっていたのならそれを無理してでも止めるのが人間が取るべき行為なんじゃないのか!!」
彼の顔から笑顔が再び消えた。そして、宿るのは底知れぬ負の感情。決して表に出してはいけないそれが顔を出す。
「彼はこの世に生まれた命を助ける医者でもありながら、無駄に命を散らしていたんだよ。それでも助ける価値があるっていうの?」
「どういう意味だ?」
「天恵の複数所持。口で言うのは簡単だけど実験はそう簡単に進むはずがない。多数の人体実験が行われてきたんだよ? この集落でね!!
あなたは、いやあんたは何にも分かっちゃいない!! 天恵とは本来万物の命一個に対して等価的に一つ宿すもの。それを複数にするとは、どう言うことか! どう言う実験が行われるのか!!」
「ま、まさか・・・。命のキャパシティ超過が引き起こされるのか? 人の身を超えた天恵を所持した際には。もし、そうなるであれば——」
「死ぬんだよ。身体の中で天恵が暴発してね。でもね、あなたはまだ甘い! その天恵を、他の人に宿らせるためのそれをどうやって集めてきたと思う? 奪うんだよ。
最初は、もう寿命が間近な老人であったり、治療を受けにきた人から。次第に、それは孤児に移り変わり、最終的には優れた天恵を持つものから積極的にかつ強引に奪うようになった。
彼らはどうなったんだろうね・・・。天恵を奪われ、生きる意味を見いだせなくなった人も多くいたと聞く。そんな犠牲の上に成り立つ実験がこの集落で行われており、それら全てを招いたそのおっさんを!!!」
彼の口から吐き出される言葉に時折嗚咽が混じる。気がつけば彼の頬を一滴の水滴が一筋の線を描きながら、ベットに落ちシーツに吸い込まれていった。
「なぜ無駄なリスクを背負ってまで助けなければいけないんだ?」
俺は何も答えることができず、静寂の中に時折混じる涙と共に喉を鳴らす音がただ虚しくこのテント内を響かせていた。
「後悔しても遅いよ。その人は死ぬ運命だったんだから」
寝転びながら言い放つ彼に、俺は勢いよく近寄ると両手を伸ばし胸ぐらを掴むと、一気に自分の身体に手繰り寄せる。不意に持ち上がる身体に彼は驚きの顔を浮かべていたが、俺の表情に笑みはなかった。
「この世に生まれた以上、無駄に散らしていい命なんてあるはずがない。それを、いや、彼が死ぬと、もしくは殺されると分かっていたのならそれを無理してでも止めるのが人間が取るべき行為なんじゃないのか!!」
彼の顔から笑顔が再び消えた。そして、宿るのは底知れぬ負の感情。決して表に出してはいけないそれが顔を出す。
「彼はこの世に生まれた命を助ける医者でもありながら、無駄に命を散らしていたんだよ。それでも助ける価値があるっていうの?」
「どういう意味だ?」
「天恵の複数所持。口で言うのは簡単だけど実験はそう簡単に進むはずがない。多数の人体実験が行われてきたんだよ? この集落でね!!
あなたは、いやあんたは何にも分かっちゃいない!! 天恵とは本来万物の命一個に対して等価的に一つ宿すもの。それを複数にするとは、どう言うことか! どう言う実験が行われるのか!!」
「ま、まさか・・・。命のキャパシティ超過が引き起こされるのか? 人の身を超えた天恵を所持した際には。もし、そうなるであれば——」
「死ぬんだよ。身体の中で天恵が暴発してね。でもね、あなたはまだ甘い! その天恵を、他の人に宿らせるためのそれをどうやって集めてきたと思う? 奪うんだよ。
最初は、もう寿命が間近な老人であったり、治療を受けにきた人から。次第に、それは孤児に移り変わり、最終的には優れた天恵を持つものから積極的にかつ強引に奪うようになった。
彼らはどうなったんだろうね・・・。天恵を奪われ、生きる意味を見いだせなくなった人も多くいたと聞く。そんな犠牲の上に成り立つ実験がこの集落で行われており、それら全てを招いたそのおっさんを!!!」
彼の口から吐き出される言葉に時折嗚咽が混じる。気がつけば彼の頬を一滴の水滴が一筋の線を描きながら、ベットに落ちシーツに吸い込まれていった。
「なぜ無駄なリスクを背負ってまで助けなければいけないんだ?」
俺は何も答えることができず、静寂の中に時折混じる涙と共に喉を鳴らす音がただ虚しくこのテント内を響かせていた。
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