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アルゴーの集落編 〜クーリエ 30歳?〜

X-34話 力の実態とリスク

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 伸ばしかけた手は思いがけない主からの声にその場で静止する。驚きのあまり声を出せずにいると背中越しに再び声をかけられる。声がぶつかる背中には人知れず冷や汗が溢れ出ていた。

「聞こえてるよな・・・。あれ、僕は声帯を失うほどの怪我を負ったのかな?」

 そういうと、ガサガサとベットの上で身体を動かす音が聞こえる。俺がゆっくりと伸ばした手引っ込めて振り返った時には、彼は特徴的な大きな目を先ほどとは違いはっきりと開かせて、自分の喉元付近を触れていた。

「いや、振動が手から感じ取れる。空気が漏れているということもなさそうだし、あなたも振り返った。うん、僕の声帯は正常みたいだね」

「気が付いたのか?」

「あぁ、おかげさまで。あなたが放った一撃で後頭部に大きなダメージを受けて、気を失ってはいたものの、何とかさっき目覚めることができたよ」

 青年の顔には笑みが溢れている。その様子からは集落を炎の渦に陥れた張本人とは想像できない。だが、憎たらしくつくその悪態に俺の心は多少なりとも揺さぶられていた。

「それは何よりだ。さて、君が目を覚ましたのなら聞きたいことがいくつもあるんだけど」

「あぁ、まずは君の天恵の話だよね」

 俺は思わず目を見開く。だが、その一瞬の動揺すら彼は見逃さなかった。

「その感じだと身に覚えがあるようだ。あなたの天恵は自分の身体に合っていない。それどころ、使えば使うほど身体に面白い変化が現れているようにも見えるな~。詳しく聞きたい?」

 俺は呆気に取られるしかなかった。だが、彼の話ぶりは異様なほど自信に満ち溢れている。実際に、彼が話す内容は俺が気になっていることの肝心な点と何ら相違はなかった。つい、前のめりになっていたのだろうか。彼の表情に自信と並んで、更に笑みが刻まれる。

「ふふふ。もっと聞きたいみたいだね。なら、教えてあげてもいいかな~。僕は、神童な上に、性格までいいから。これくらい誰でも分かることでもあえて、教えてあげるんだよ。まさに慈善活動と言ってもいいよね。

頭が乏しい人に対して、賢者が進言するのはさ。ノブレス・オブリージュってやつさ」

「減らず口を叩くのなら、今すぐ君を集落の人の前に連れ出して、君がやったことを公にしてもいいんだぞ・・・」

 普段なら絶対に出さない声。怒りを含ませた低い声と共に、相手のヘラヘラした顔を睨みつける。だが、彼はそんなことは一切気にしない素振りで相変わらず笑顔のスタンスを崩すことはない。

「怖い怖い。まぁ、簡単だよ。あなたが人類では出せることのない力を繰り出すことができているのは紛れもなく君の天恵によるもの。恐らく、寿命が縮む系じゃないのかな。

そんな天恵は聞いたことがないけど。でも、実際にあなたの寿命は確実に減っている。今の寿命は推定、約28歳。大体そんなところじゃないかな」

「俺は30歳だ。天才も間違えるんだな」

「何回使った?」

「え?」

 喉から上擦った声が出てしまう。

「攻撃。僕たちを気絶させたレベルの攻撃を何回使ったの?」

「分からないけど。3、4回くらいかな」

「それだよ。あなたの寿命は!! 加えて、僕たちを気絶させたところから考えて、その力を扱えていない。扱えるのであれば、あそこまでの力は余分すぎる。今話して感じたけど、あなたは無闇に人を傷つけることを嫌う人だ。それだと、尚更あの力の暴発と言ってもいいレベルは異様だ。だから、余計にその減りが早いんだよ、コントロールできてないから。蛇口のネジを常に全開にしているみたいなもんだもん。あなたの強さは、言わば諸刃の剣なんだよ!!」

 そんなことが。この言葉がつなげることができなかった。確かに、アンディー牧師も口酸っぱく俺に対してこの天恵の危険性を伝えてきた。だが、俺は確実にこの力を。強くなった気でいた。なんのリスクも負わずに。

「でも、なんでお前にそこまで見通せるんだ。これは誰にでも分かることなのか?」

 尋ねる俺の顔を、上から見下すような表情でため息をつきながら彼は答えた。

「はぁ。いくら神童でもそんなの頭の中だけで分かるわけないじゃん。これが、だからだよ!」
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