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アルゴーの集落編 〜クーリエ 30歳?〜
X-33話 低くしゃがれた声
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暗闇の中にまるでそこだけ時間が昼のまま止まっているかのように、光を生み出す光源が赤々とその内部を照らし出している。重傷者を手当てしているテントの下には、複数ものベットが置かれているが、そのどれもが空。空虚にその役割を果たせずにただそこに鎮座しているだけであった。
だが、その奥にはいまだ使用中で上に寝転がる人達がそこにいた。髭を生やした白衣に身を包んだ老人と、その隣でカーテンレースで仕切られた場所で治療を受けている好青年の姿。薬を投与されているのだろうか、どちらも静かに目を瞑っている。腕に取り付けられた点滴の管には何らかの液体が通っているように見えた。
「今日も変わらず・・・かな」
俺は、彼らのベットに歩みを進めると、そのまま老人の方に一瞥すると、青年の側に腰掛けた。そして、カーテンレースで周りと一通り仕切ると、ゆっくりと彼の手に触れた。
そこに、手をつい逸らしてしまいたくなるほどの熱さを誇る炎は見られない。あの時の、身体に炎を纏う姿が嘘であるかのように冷たい感触が皮膚からは伝わってくる。
整った容姿からは想像のできないほど怒りに身を任せたあの表情。
「何がそこまで彼を駆りたてさせたのだろうな」
まだ目を開ける素振りも見せない。かれこれ数日間、日課のようにここに通ってきているが一向に変化の兆しも現れない。
「まぁ。明日もここに来ればいいか」
椅子が軋む音を聞きながら、俺はゆっくりとその場から立ち上がる。そして、仕切りの布に手を伸ばしたその時だった。
「お前・・・。天恵が身体に合ってないな」
低く、しゃがれた声が後ろから鳴り響くのであった。
だが、その奥にはいまだ使用中で上に寝転がる人達がそこにいた。髭を生やした白衣に身を包んだ老人と、その隣でカーテンレースで仕切られた場所で治療を受けている好青年の姿。薬を投与されているのだろうか、どちらも静かに目を瞑っている。腕に取り付けられた点滴の管には何らかの液体が通っているように見えた。
「今日も変わらず・・・かな」
俺は、彼らのベットに歩みを進めると、そのまま老人の方に一瞥すると、青年の側に腰掛けた。そして、カーテンレースで周りと一通り仕切ると、ゆっくりと彼の手に触れた。
そこに、手をつい逸らしてしまいたくなるほどの熱さを誇る炎は見られない。あの時の、身体に炎を纏う姿が嘘であるかのように冷たい感触が皮膚からは伝わってくる。
整った容姿からは想像のできないほど怒りに身を任せたあの表情。
「何がそこまで彼を駆りたてさせたのだろうな」
まだ目を開ける素振りも見せない。かれこれ数日間、日課のようにここに通ってきているが一向に変化の兆しも現れない。
「まぁ。明日もここに来ればいいか」
椅子が軋む音を聞きながら、俺はゆっくりとその場から立ち上がる。そして、仕切りの布に手を伸ばしたその時だった。
「お前・・・。天恵が身体に合ってないな」
低く、しゃがれた声が後ろから鳴り響くのであった。
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