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キリの村編 〜クーリエ 30歳〜

X-22話 物語る背中

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「はぁ。もう旅立って行くのかい? クーリエよ。久々のキリの村だと言うのに」

 昼食を終えた後、その足で教会にまで戻った俺は急いでアンディー牧師のところに立ち寄り今日この村を出る旨を伝えた。まだ、太陽も南の空でその輝きを最大限に地上に降り注いでいた刻。彼の周りにはこれからの行く末を見てもらおうと縋る参拝者の人や狂信者の姿も多く見受けられたが、そんなのは俺の目に入っていなかった。

アンディー牧師は、彼らに対して一言詫びの言葉を告げるとこちら側に歩み寄ってくる。そして、心から名残惜しそうにそう告げるのであった。

「はい。短い期間の滞在でしたが十分満喫させていただきました。ですが、そろそろ前に進み出さなければ私も一応冒険者という肩書きがありますから」

「ふむ。して、どこに向かうつもりなんじゃ? アテはあるのかい」

 首元の十字架を少し触れて、正しい場所に位置を戻し、そして、鋭い目つきで俺を見つめながらそう問う。恐らくこれは彼なりの見送りなのだろう、と俺は直観する。いい歳をした大人同士、下手に下手に旅立つという決意を踏み躙るような行為は取れないし、取らない。しかし、そこに明白なプランもなく、ただ漠然として村から去ろうというのなら話は違うぞという意味合いが暗に込められていた。

「アルゴーという村です。ほら、ここから北にあるという。そこに一度立ち寄って王都を目指そうかと。私もここに飛ばされる前には様々なクエストその身に掲げていましたから、ここまで帰りが遅くなると心配されるというものですよ」

 そう言って頭をかきながら大きな声で笑い飛ばす。実際のところ、俺はクエストなど受注していない。ソロとしてずっと自分の研鑽に時間と労力を費やしてきた。そもそも、怪物を単独で戦おうという考え方こそが時代遅れなのだ。自分の身の丈以上の身長を誇り、力の差も相手が上位になればなるほど開き続ける。

そんな時に役に立つのがチームだ。通常は一チーム5人単位で構成され、アタッカーなりタンクなりそれぞれの天恵にあった役職をチーム内で発揮することで生存確率をグッと高めることができる。強い天恵を持つものはチーム募集の張り紙を掲載すると、一度に100を超える申請があったという話もザラではない。

もちろん、天恵を持ちもしない俺にそんな勧誘は来るはずもなかったが。そもそも、掲載するための必要最低条件として天恵の詳細を記す必要がある。無いものを有ると偽ることができないので、チームを募集することさえ叶わなかったのだ。

だが、今はそうではない。天恵を宿した身体になり、チームメンバーの募集を掲げることもできるし、なんだったら自分でチームを作り上げることすらできる。まだ自分の天恵について把握できていないことは多くあるが、それも王都までの道順で時間をかけて見つけていけばどうにでもなることだと、たかを括っていた。

「して、ミス・コルルはどうするんじゃ?」

「コルルがどうかしたのですか?」

 突飛な質問に思わず声が上擦ってしまう。

「どうかしたのかとはお前さんも薄情なやつじゃな。親を亡くし、家も無くなった。彼女には帰る場所がないのじゃぞ。有るのは、お前さんとの繋がりだけ。彼女がそれを大事にしているのは君が湖に投げ出されたのを助けた行動から見てもじゃろう。それなのに、お前さんは何も言わず黙ってこの村を去るのかい?」

 アンディー牧師はそれだけ言うと、人混みの中に帰っていった。その後ろ姿を見送った後、俺は手を顎に当ててゆっくりと熟考する態勢に入る。そして、頭の中でコルルの姿を鮮明に思い描く。可愛らしい笑顔が浮かぶと共に、確かに涙を流し心に深い傷を負った彼女の姿も映し出される。

だが、果たして俺が彼女に言うべき言葉は残されているのだろうか。そんな悩みを抱えながらも俺はコルルが休む部屋へと足を進めたのだった。

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