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キリの村編 〜クーリエ 30歳〜

X-19話 不思議な箱の中身

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「この箱がそうなのか?」

 右手に馴染むようにすっぽりと収まっている箱を注視しながら声を漏らす。底面の俺が書いたと思われる名前が刻まれていたことには驚きを覚えた。だが、昔の自分がこのような箱を作った或いは貰った記憶はチリ一つとも存在していない。

「分かんないものは開けてみるしかないか」

 それまでの苦労が嘘かのように箱は開けられる力に従ってすんなりと開いていく。さながらタイムカプセルのようだと俺は思った。この中には少なからず俺が介入したであろう物、或いは何かのヒントの兆しになることが含まれているのは想像に難くない。だが、昔の俺がこれに込めた思いや、記憶というものを月日が経つことによって完全に抜け落ちている。それを改めて開けてみるのだ。自分でも気づきもしなかった、幼少期の考えなどを知ることもできるかもしれない。

なのでこれをタイムカプセルと称しても何ら遜色ない。だが、一点不明瞭なのはこれが本当に未来の自分に当てて作られたものであるのかと言うこと。これをコルルの父さんが所持していたと言う事実も腑に落ちない。

 月光の下にそれは完全に正体を表した。箱といっても手のひらサイズ。中に入れることができるものも限られている。中身に入っているであろうものはあらかた予想が立てられる。試しに箱を左右に激しく揺さぶってみる。中に物体が入っていれば何らかの音が鳴るはずだ。だが、何度揺さぶってみても音は生まれない。痺れを切らして俺はゆっくりと箱を開けていった。

「なんだこれは。3枚の紙が入ってるぞ?」

 幾重にも折り曲げられた紙が中から姿を表した。そこまで古みを帯びていない紙から順に上に置かれている。俺はとりあえず一番上に重ねられていた紙をゆっくりと慎重に取り出す。面積的にも一番小さい二つ折りで入れられているただの白い紙。ただ、折られてた面に達筆な筆致で文字が書かれていた。

「コルルへ——か。これは流石に俺が見ない方が良さそうだな」

 俺は一人でに言葉を漏らすと、手に握られているものをクローゼットの上に置いた。そして、その下に置かれている紙に手を伸ばす。こちらも先ほどのコルルに充ててのメッセージと同様の大きさの白い紙で二つ折りにして、クーリエという文字が書かれて入れられていた。ただ、少し異なるのは白い紙の隅から伝播して微かに黄ばんでいる箇所が見受けられるところだ。これが封入されてから、ある程度の期間が設けられていることは容易に見て取れた。

「こんな状態になるほど昔から、この村のことを記憶から抹消しようとしていた俺に対して充てた文章があるのか? 益々分からない。俺がこの場にいずれやってくるという確証に近いものが彼にはあったと言うことか? そうだとしたら俺とコルルの父さんの間にどのような関係が築かれていたと言うんだ」

 ペリペリという乾いた音を立てながら白い紙を全て埋め尽くすように書かれた文章が目に飛び込んでくる。だが、その文字は所々突如として激しく乱れていた箇所も見受けられた。だが、その程度のことは気にも留めない。暗闇の中の僅かな光源のもとで静かに俺は文章に目を通していった。

『この手紙を読んでいる時はきっと私はこの世を去っているだろう。うん、なんとなくそんな気がする。誰が悪いと言うわけじゃない、強いて言うなら私のミスだろう。もし君がそのことで気に病んでいるとしたら気にしないでくれと言う言葉を残させてもらおう。

さて、今手紙を書いている日付は今神教歴3008年4月18日の午後10時を少し回ったところだ。時間まではいらないかもしれないが一応ね』

「神教歴3008年4月18日。今は神教歴3024年だから、俺が14歳の時だな。もうすぐ村を離れることが決まるくらいの時期か」

 時系列を口に出して確認してから、更に文章を読み続ける。

『私は一介の村人。君について知っていることは数少ない。だが、一つだけ言えることは君は最初からこの村にと言うことだ。そして、それをを伝えるためにこの文章を残している」

「俺がこの村に来たことに理由があった? それを認識できていない?」

 頭の中に浮かぶ疑問符を先延ばしにすることで、その先の文字を必死に目で追っていった。
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