世界の深淵を0歳までの退化デバフをかけられた俺が覗くとき

卵くん

文字の大きさ
上 下
17 / 70
キリの村編 〜クーリエ 30歳〜

X-17話 怒りに任せた拳

しおりを挟む
 この場に来たときには高々と昇っていた太陽は気がつけば陰りを見せ始め、今木材の山から必死にクローゼットを探す人の背中を月明かりが寂しげに照らしていた。コルルに手を引かれて連れてこられた場所を中心に、二人で協力しながら探すも、まだそれは見つかっていなかった。それどころか、一向に目当ての物に近づいている気がしない。

それは、最初この場所を見た時からここの景色はさほど変わっていないことに起因するだろう。汗が滴り落ちるほど力を込めても、重い木材は2人の力では持ち上げることはできない。結局2人集まることによってできるのは可能な限りの範囲で邪魔なものを移動させることだけ。その先にあるのかないのか分からない宝物を探すのはこういう気持ちになるのかと今猛烈に痛感していた。

「コルルー! 今日はこの辺りにしようか。もう前が見づらくなってきた」

 呼びかけるが返事は返ってこない。それもそのはず、現在俺の隣に。なぜそうなったのか。それを語るには少し前の時間まで遡る必要がある。

一頻ひとしきり2人で探索の邪魔になる木材を移動させると、その先に倒れた家具が崩壊した柱の行方を塞ぎ、僅かな空間が作られているのを木材と木材の隙間から確認できた。空間といっても大きなものでもなく、身体をねじ曲げていけば何とか細身の人なら行く事ができるか程度のものだ。もはや、ただ何もない場所と言う表現の方が適しているのかもしれない。

奇跡的な木材同士のバランスでその空間が構成されているので、行くとなれば木材がバランスを失い、空間を埋め尽くす等のそれ相応の危険も伴う。そんなことはお構いなしと言わんばかりに、コルルはそれを目に入れると即座に柔軟体操を始め、頭からその空間めがけて侵入しようとする。もちろん、俺は制止した。それはそれは何度も、最後の方はもしかしたら強い口調になっていたかもしれない。

だが、現実はこれだ。繰り返すようだが、隣に姿。俺の言うことなんて聞く耳も持たずに、

「任せて!」

と、とびきりの笑顔を見せるとそのままスッと入っていってしまった。止めようと手を伸ばしたがそれも空を切ってそれまで。俺の手は彼女に触れることすら叶わなかった。

 ——かれこれ、彼女が隙間に入って5分ほどは経過しただろうか。何度も先ほどと同様の言葉を繰り返してはいるが呆れるほどに返事は返ってこない。クローゼットを見つけれてるのか、そうでないのか。いや、その程度の問題ではない。そもそも中で何をしているのかと疑問を抱いてしまうほどの時間が流れていた。それに、時間が過ぎるほどに彼女に対しての心配がどんどん胸の奥から込み上げてくる。だが、彼女は俺のそんな気など知る由もないだろう。うん、彼女はそんな人の機微に敏感なタチではない。

 俺はふぅーと長いため息をつくと、近くにあった丁度座るのに適した高さと横の長さをしている木材と思われるものに腰をかける。ギィーという木が俺の体重に反発する音を静まり返ったこの場所に響かせる。疲れた身体に夜の兆しを含むやや冷たい風が俺の頬を撫でる。

こうなったらもうとことん『ギィー』彼女に付き合ってやろうじゃないかと『ギィー』腹を括る『ギィー』。どうせこの後の『ギィー』予定なんてない、というかあるはずもないんだし『ギィー』。それならいっそ『ギィー』・・・。

「って!! さっきからこの木うるさすぎだろ!! まともな思考すらできねーよ!!!」

 俺は怒りの感情そのままに右手で拳を作ると勢いよく木材めがけて振り下ろす。下ろした瞬間にやってしまったという後悔が頭をよぎった。人間の力拳程度の力で家をも支える木材に敵うはずがない。強烈な痛みに襲われるのは火を見るより明らかだ。

ベキッという薄っぺらい音が鼓膜を震わせると、予想とは大きく外れていとも簡単に拳は木材を貫いた。そのままスポッと開けた穴から手をゆっくりと上げ、木材との接着を剥がすと、俺は自分の右手をじっと注視する。

 この右手に家を支える柱となっていた木材を貫くだけの力があるようには思えない。そもそも、貫いたとしたらもう少し右手に痺れるような痛みがあって然るべきだ。だが、そのようなものは待てど待てど襲いかかってくる気配はない。というか、ここまで薄い木材で支えられていた家ってどうなんだと言う疑問すら湧いてくる。

「この家地震とかきてたら一発で崩壊してたんじゃないのか? よっと」

 ひょいと身体を浮かせていましがた座っていた木材から飛び降り、改めてその全容を視界に収める。横に長く、高さも十分な四角形。それでいてよく見てみれば頂点の面の部分が少し下にずれているようにも見える。そして、側面を覆う木材は漆で装飾されたような光沢。それにも関わらず、先ほど座っていた薄い木材の面だけは、まるでと断言するかのように安っぽさを感じる。

「何だよこれはって・・・。まさかな・・・?」

 半信半疑で俺はその木材の塊の底に両手を添える。中々の重量を誇っていることは触れた時点で確信が持てる。だが、ここで止まることはできない。この頭に浮かんだ"まさか"と言う疑問点をこの場で解決しなくてはいけない使命感が俺の身に纏っていた。そして腰を入れて長い息を一つ吐くと、在らん限りの力を入れてそれを勢いよくひっくり返した。

「はは。マジかよ!」

 表面には取手と思われる複数の窪み。そして、家が崩壊したときについたのかはたまたそれ以前からついていたのか分からない無数の傷に加え、下の方に小さくコルルの文字が刻まれていた。

 疑いようのないクローゼットが俺の目の前に今現れたのだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

追放された運送屋、僕の【機械使役】は百年先の技術レベルでした ~馬車?汽船? こちら「潜水艦」です ドラゴンとか敵じゃない装甲カチカチだし~

なっくる
ファンタジー
☆気に入っていただけましたら、ファンタジー小説大賞の投票よろしくお願いします!☆ 「申し訳ないが、ウチに必要な機械を使役できない君はクビだ」 ”上の世界”から不思議な”機械”が落ちてくる世界……機械を魔法的に使役するスキル持ちは重宝されているのだが……なぜかフェドのスキルは”電話”など、そのままでは使えないものにばかり反応するのだ。 あえなくギルドをクビになったフェドの前に、上の世界から潜水艦と飛行機が落ちてくる……使役用の魔法を使ったところ、現れたのはふたりの美少女だった! 彼女たちの助力も得て、この世界の技術レベルのはるか先を行く機械を使役できるようになったフェド。 持ち前の魔力と明るさで、潜水艦と飛行機を使った世界最強最速の運び屋……トランスポーターへと上り詰めてゆく。 これは、世界最先端のスキルを持つ主人公が、潜水艦と飛行機を操る美少女達と世界を変えていく物語。 ※他サイトでも連載予定です。

【完結】投げる男〜異世界転移して石を投げ続けたら最強になってた話〜

心太
ファンタジー
【何故、石を投げてたら賢さと魅力も上がるんだ?!】 (大分前に書いたモノ。どこかのサイトの、何かのコンテストで最終選考まで残ったが、その後、日の目を見る事のなかった話) 雷に打たれた俺は異世界に転移した。 目の前に現れたステータスウインドウ。そこは古風なRPGの世界。その辺に転がっていた石を投げてモンスターを倒すと経験値とお金が貰えました。こんな楽しい世界はない。モンスターを倒しまくってレベル上げ&お金持ち目指します。 ──あれ? 自分のステータスが見えるのは俺だけ? ──ステータスの魅力が上がり過ぎて、神話級のイケメンになってます。 細かい事は気にしない、勇者や魔王にも興味なし。自分の育成ゲームを楽しみます。 俺は今日も伝説の武器、石を投げる!

転生キッズの魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

西園寺おとば🌱
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

倒した魔物が消えるのは、僕だけのスキルらしいです

桐山じゃろ
ファンタジー
日常のなんでもないタイミングで右眼の色だけ変わってしまうという特異体質のディールは、魔物に止めを刺すだけで魔物の死骸を消してしまえる能力を持っていた。世間では魔物を消せるのは聖女の魔滅魔法のみ。聖女に疎まれてパーティを追い出され、今度は魔滅魔法の使えない聖女とパーティを組むことに。瞳の力は魔物を消すだけではないことを知る頃には、ディールは世界の命運に巻き込まれていた。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

処理中です...