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キリの村編 〜クーリエ 30歳〜

X-16話 眩しすぎる笑顔

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「君と君の父さんの間に血縁関係はないのか?」

 俺の口から思わずその言葉が溢れる。そして、言った直後にハッとして後悔した。力任せに頭をかきむしる。頭皮から伝わる痛みでも自分の配慮のない一言に対しての怒りは消えそうにもない。

このような発言は苦しんでいるコルルに対して、今このタイミングで言うべきことではなかったと。目の前の泣き崩れている彼女に家族関係といった他人に進んで話すべきでは無いことを話すよう促すのは、これ以上の心の負荷を要求することに他なら無い。いくら彼女が強い人だといっても限度もある。許容量を超える苦しみは人を心の奥底に閉じ込めてしまう危険性すら孕んでいた。

「い、いや! すまない・・・君のことを考えもなしに口走ってしまった。あれだ、無視、そう今のは無視してくれも構わ無い。ていうか、そうしてくれ」

「何を慌ててるのかしら? おかしな人ね。でも、そうね。今のこの高ぶった気持ちのまま話す内容でもないし。またの機会に話すことにするわ」

 そういうと、彼女はスッと立ち上がると俺の隣から移動し、いつも座っているのか慣れた動きで腰をかけるには丁度いい通路越しにある岩に座ると、心ここにあらずという感じに目の前の景色をただ視界におさめる。そして、何も言葉を発さなくなった。その姿は正に儚いと言う言葉を体現化したもののように見えた。

彼女の一連の行為を最後まで目で追いかけると、俺は視線を真っ正面に戻した。彼女のことは気がかりではあったが、俺にもするべきことがある。それこそ、今日ここに来た目的。アンディー牧師にさえ隠した父さんとの約束を果たさなければならない。

そう、この中から父さんの部屋のクローゼットを探すのだ。そして、その中にある箱。そこに何があるのか分からないが、何かのきっかけになることは間違いない。もしかしたら、俺の人生を大きく左右するものかもしれないし、ただコルルに残した最後の言葉かもしれない。どちらにせよ、まずは見つけなければ話にならない。

 俺は、ゆっくりと木材の山に足を踏み入れる。コルルの視界に入らないように後ろ側に回るという配慮も欠かすことはない。だが、いざ木材の山に入ってみるとどこがどこの部屋だったのか見当すらつかない。

最初の方は、彼女が触らずにいた場所を彼女側からは見えないとしても崩していくことに罪悪感を覚えたが、視界が赤みを帯び、木材が作り出す影が短くなればなるほど、一向に見つかる気配もない目当てのものに対しての焦りが生まれる。早く見つけないと、今日1日を棒に振ることになってしまう。それは言い換えれば、俺の寿命が何も成果を得られないまま一日短くなっただけと同意だ。

たかが一日だが、されど一日だ。木材を掴む俺の手に自然に力が入り、手にしていた物を横に音もなく少し移動させる。砂塵が少し立ち込め、手に木片がへばりつく。俺の集中力は限りなく目の前の木材たちに注がれていた。そのため気づかなかった。短くなっていた影がに。

「何をしているの? そんなところで」

「コルル!? いや、これはだな・・・」

咄嗟に言い訳を考えるが、何も思いつかない。ただ、コルルからの視線を横にずらして虚無の時間が二人の間に流れた。

「何か探し物でもあるの?」

「——探し物といえば、そうだな。実はクローゼットの中に俺の貴重品を入れてて。大事なものだからこの中に埋もれてたら見つけ出しておきたくて」

「クーリエさんが寝てた部屋にはクローゼットはなかったはずだけど?」

「そうなんだよ。だから、君の父さんに預かってもらっててさ」

 苦しい言い訳だ。大怪我をした俺を見つけ、家まで運び治療してくれたのは他でもないコルルだ。彼女は俺が倒れていた時に持っていた所持品を全て把握してるだろう。つまり、あの時ことなどお見通しだ。

心臓が跳ねる。それと同時に罪悪感で胸が締め付けられる。自分の直感を信じるため命の恩人である彼女に嘘をつかなければいけないことは、自分の良心を大きく傷つけた。だが、コルルはそんなことを知る由もなく、満面の笑みを俺に向けた。

「そうなのね! お父さんの部屋のクローゼットってことは私も見たことがあるし。おおよその場所なら分かるわ。こっちにきて」

彼女は俺の手を取り、それがあり得る場所に俺を引っ張っていく。返事を聞かないで動く強引さや、彼女の底抜けに明るく誰にでも屈託のない笑顔を見せる性格が、この時ばかりは俺にとっては目を瞑ってしまうほど眩しく映った。

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