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第1章 土佐の以蔵
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以蔵が武市道場に通い始めて、一月がたった。
夏も本番を迎え、じりじりと強い日差しが土佐を照らす。
半平太に見出されてから、以蔵は休みことなく稽古に励み、その才能を開花させていった。 たったの一月でほかの門下生を抜き道場一番の腕前となっていた。
線の細かった身体もわずかに筋肉がつき、幼かった顔つきに凛々しさが生まれている。薄緑色の髪は相変わらず長いまま、左側の髪の毛を緩く編んだ先に、義平から受け継いだ宝玉が輝いていた。その髪型は以蔵の初めての稽古の時に半平太が結ってくれたもので、以蔵自身とても気に入っていた。
以蔵が武市道場で学ぶことは多い。
剣だけでなく、髪の結い方や他人との接し方から、今の世の中の情勢まで。あらゆることが以蔵にとって新鮮だった。
勉学にほとんど興味のない以蔵だったが、半平太の話は聞いていてわかりやすく、興味深いものだった。
「最近土佐も物騒になってきたからな。夜は決して一人で歩いてはいけない」
ここ最近、半平太は稽古が終わるたびに毎回口酸っぱく忠告する。それを聞いてから、門下生たちは道場を後にするのだ。何故半平太がそこまで言うのか、以蔵にはずっとわからなかった。
「先生、」
皆が帰り始める中、以蔵はずっと疑問に思っていたことを聞こうと、正面に座っていた半平太に一人声をかける。
「なぜ、物騒なんじゃ…でしょうか。僕が道場に通い始めた頃とそんなに変わらないように思えるのですが……」
「ああ、以蔵。その話の根本は、お前が来る前に皆に話したから以蔵は聞いていないのか。少し長くなるが、それでもいいか?」
「大丈夫じゃ……です!」
威勢のいい返事に、半平太はくすくす笑って立ち上がった。
「わかった。では、私の家の方に行こうか。お茶でも飲みながら話すとしよう。……ところで、前にも言ったが、その話し方、無理しなくていいんだぞ。土佐言葉はなかなか抜けないものだ」
ははは、と楽しそうに笑いながら自宅の方に向かう半平太の後ろで、以蔵は顔を真っ赤にしていた。
道場に通い始めてからというもの、以蔵の半平太にあこがれる思いは弱まるどころか強くなっており、行動のすべてをまねするようになっていた。仕草や礼儀作法などはすぐに慣れたものの、言葉だけはなかなか治らない。訛りは抜けないし、勢い余るとすぐ土佐ことばに戻ってしまう。
そんな以蔵に半平太は気づいているらしく、時折四苦八苦している彼を面白そうに眺めたり、今のように言葉に出したりしてくる。
「いいのです! 先生のように、強く、なりたいので……」
以蔵は半平太の後ろをついていきながら、すねた口調で答える。
そうかそうか、と言いつつも、肩が震えている半平太を見て、以蔵はさらに顔を赤くし、頬を膨らませるのだった。
夏も本番を迎え、じりじりと強い日差しが土佐を照らす。
半平太に見出されてから、以蔵は休みことなく稽古に励み、その才能を開花させていった。 たったの一月でほかの門下生を抜き道場一番の腕前となっていた。
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剣だけでなく、髪の結い方や他人との接し方から、今の世の中の情勢まで。あらゆることが以蔵にとって新鮮だった。
勉学にほとんど興味のない以蔵だったが、半平太の話は聞いていてわかりやすく、興味深いものだった。
「最近土佐も物騒になってきたからな。夜は決して一人で歩いてはいけない」
ここ最近、半平太は稽古が終わるたびに毎回口酸っぱく忠告する。それを聞いてから、門下生たちは道場を後にするのだ。何故半平太がそこまで言うのか、以蔵にはずっとわからなかった。
「先生、」
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「なぜ、物騒なんじゃ…でしょうか。僕が道場に通い始めた頃とそんなに変わらないように思えるのですが……」
「ああ、以蔵。その話の根本は、お前が来る前に皆に話したから以蔵は聞いていないのか。少し長くなるが、それでもいいか?」
「大丈夫じゃ……です!」
威勢のいい返事に、半平太はくすくす笑って立ち上がった。
「わかった。では、私の家の方に行こうか。お茶でも飲みながら話すとしよう。……ところで、前にも言ったが、その話し方、無理しなくていいんだぞ。土佐言葉はなかなか抜けないものだ」
ははは、と楽しそうに笑いながら自宅の方に向かう半平太の後ろで、以蔵は顔を真っ赤にしていた。
道場に通い始めてからというもの、以蔵の半平太にあこがれる思いは弱まるどころか強くなっており、行動のすべてをまねするようになっていた。仕草や礼儀作法などはすぐに慣れたものの、言葉だけはなかなか治らない。訛りは抜けないし、勢い余るとすぐ土佐ことばに戻ってしまう。
そんな以蔵に半平太は気づいているらしく、時折四苦八苦している彼を面白そうに眺めたり、今のように言葉に出したりしてくる。
「いいのです! 先生のように、強く、なりたいので……」
以蔵は半平太の後ろをついていきながら、すねた口調で答える。
そうかそうか、と言いつつも、肩が震えている半平太を見て、以蔵はさらに顔を赤くし、頬を膨らませるのだった。
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