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第1章 土佐の以蔵
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「以蔵君には剣の才能が有ります。さっき私もこの目で、この身体で感じた。きちんと鍛錬を積めば素晴らしい剣士になると思うのです。稽古の費用が払えないというのなら金でなくても、作物でも、何なら無料で稽古つけてもいい。絶対に、立派な剣士にしてみせる。どうか、この通り、お願いします!」
そう言って半平太は頭を下げる。
「そんな、武市先生、頭を下げないでください!」
「そうですよ。以蔵が、本人が通いたいというのなら私たちは反対しませんから」
里江は慌てて半平太の肩に手を触れる。そして義平は半平太の横で静かにしていた以蔵の頭のぽんと手を乗せ、やさしい声で尋ねた。
「以蔵、おまんはどうしたいんじゃ? ん?」
以蔵はおずおずと上目遣いに義平を見た。彼はいつものように歯を見せて笑っている。
横目で家の中の様子ををちらりと見た。
古びた座敷。炊事場も年季が入っている。窓は一つだけ。壁に装飾は一切なく、茶黒い木肌がむき出しになっている。冬には風雨が降れば雨漏りをする屋根。長屋の中でも最も狭く、古く、傷んだ状態である以蔵の家。
寺子屋は通わせてくれた。まだ啓吉が幼かったからか、食生活自体はそんなに変わらなかったか、畑仕事の方は義平が朝から晩まで行っていた。
月謝を払うのにどれだけのものを代わりにしたのだろう。
自分だけ好きなことをして、家族に負担をかけたくない。家族だけが、何かがあっても唯一味方になってくれる人たちだから。
半平太には申し訳ないが、やはり断ろう。
脳裏に取り組みが終わった後の光景が思い浮かび涙が出そうになって、頭を横に振る。
だめだ。やっぱり、家族に迷惑をかけたくない。
そう決心し、口をぎゅっと結んで義平の顔をまっすぐ見上げた。
「おとう……」
以蔵が言葉を発しようとした瞬間、その表情から何かを感じ取ったのか、義平が彼の口に人差し指を当てた。義平はふん、とため息をつき、以蔵に言った。
「家が貧しいから断るは、なしじゃ。純粋に、おまんの気持ちを聞いとるがじゃ。以蔵。おまんは、剣を習いたいんか? どうなんか?」
まっすぐに義平に見つめられ、以蔵は堪えていた者が一気にあふれて出てきた。
喜び。感謝。申し訳なさ。たとえ町の人がどんなに自分の事が嫌いでも、この町の、この家族に生まれてよかった。武市半平太に出会えてよかった。
自分を認めてくれる人がこの世にいてよかった。
ぽろぽろと、大粒の涙を流しながら、それでも以蔵ははっきりと答えた。
「武市先生に……、剣を習いたい…です……!!」
そんな以蔵を、半平太、義平、里江は笑顔で見守っていた。
そう言って半平太は頭を下げる。
「そんな、武市先生、頭を下げないでください!」
「そうですよ。以蔵が、本人が通いたいというのなら私たちは反対しませんから」
里江は慌てて半平太の肩に手を触れる。そして義平は半平太の横で静かにしていた以蔵の頭のぽんと手を乗せ、やさしい声で尋ねた。
「以蔵、おまんはどうしたいんじゃ? ん?」
以蔵はおずおずと上目遣いに義平を見た。彼はいつものように歯を見せて笑っている。
横目で家の中の様子ををちらりと見た。
古びた座敷。炊事場も年季が入っている。窓は一つだけ。壁に装飾は一切なく、茶黒い木肌がむき出しになっている。冬には風雨が降れば雨漏りをする屋根。長屋の中でも最も狭く、古く、傷んだ状態である以蔵の家。
寺子屋は通わせてくれた。まだ啓吉が幼かったからか、食生活自体はそんなに変わらなかったか、畑仕事の方は義平が朝から晩まで行っていた。
月謝を払うのにどれだけのものを代わりにしたのだろう。
自分だけ好きなことをして、家族に負担をかけたくない。家族だけが、何かがあっても唯一味方になってくれる人たちだから。
半平太には申し訳ないが、やはり断ろう。
脳裏に取り組みが終わった後の光景が思い浮かび涙が出そうになって、頭を横に振る。
だめだ。やっぱり、家族に迷惑をかけたくない。
そう決心し、口をぎゅっと結んで義平の顔をまっすぐ見上げた。
「おとう……」
以蔵が言葉を発しようとした瞬間、その表情から何かを感じ取ったのか、義平が彼の口に人差し指を当てた。義平はふん、とため息をつき、以蔵に言った。
「家が貧しいから断るは、なしじゃ。純粋に、おまんの気持ちを聞いとるがじゃ。以蔵。おまんは、剣を習いたいんか? どうなんか?」
まっすぐに義平に見つめられ、以蔵は堪えていた者が一気にあふれて出てきた。
喜び。感謝。申し訳なさ。たとえ町の人がどんなに自分の事が嫌いでも、この町の、この家族に生まれてよかった。武市半平太に出会えてよかった。
自分を認めてくれる人がこの世にいてよかった。
ぽろぽろと、大粒の涙を流しながら、それでも以蔵ははっきりと答えた。
「武市先生に……、剣を習いたい…です……!!」
そんな以蔵を、半平太、義平、里江は笑顔で見守っていた。
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