希うは夜明けの道~幕末妖怪奇譚~

ぬく

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第1章 土佐の以蔵

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しかしじっと半平太に見られているのもなんだかむずむずしてきて耐えられない。以蔵は何か話さなければと頭の中から無理やり話題を引っ張り出した。


「ほんで……なんでわしがあの竹林の中におるとわかったんじゃ?」
「ああ…。それは私の妖怪混じりとしての力だな。わたしはかまいたちを起源に持つらしく、風を操ったり風を読んだりするのが得意だったそうだ。私も妖力は低いがそのような能力を持っているのでな。風の動きと大気に響く音で誰かいるとわかったのだ」
「かまいたち……」


 風を鎌のように操り、害をなすものに攻撃する動物妖怪、かまいたち。彼らは多くの仲間を持ち、日本各地にその子孫がいると聞いたことがある。風使いの子孫ならば、気配を読んだり音が生み出す大気のわずかな振動に敏感なのも納得がいく。


「お前こそ以蔵、お前は妖怪なのか? それとも妖怪混じりか?」
「わしも妖怪混じりじゃ。祖先は鬼ときいとる。わしの両親や弟は全くと言っていい程妖力がない。人間と変わらない見た目をしとるがじゃ。けんど、なんでかわしだけこんな白っぽい髪で生まれてきて。しかも妖力の使い方もわからん。町の者には避けられるばかりじゃ……」
「なるほど…。それでお前は私の鍛錬の様子もひとりで見ていたり、ひとりで刀の練習をしたりしていたのだな」


 以蔵はこくりと頷いて、再び恥ずかしそうに下を向く。


「みんなわしの事を揶揄うばっかりじゃき。あんたみたいの、初めてじゃ。……ありがと…ございます」


 半平太はそんな以蔵を見ながらにっこり笑うと、空いた方の手で以蔵の頭をわしゃわしゃ撫でた。


「お前はまだ世を知らないのさ。お前ほどの妖力の妖怪混じりならうちの道場にも数人いる。見たところ、以蔵、お前はやる気がありそうだし、うちの道場にぜひとも連れて行ってみたいんだ」


 にやりと笑った半平太の顔に、以蔵はしばらくぽかんとしていたが、その言葉の意味を理解して瞳を輝かせた。


「えっ!! わしを道場にいれてくれるがか!?」


 半平太は笑顔で再び以蔵の手を引き歩き出した。
 以蔵の胸は高まっていた。
 普通の人なら嘘かもしれない、と思っていた。


でもきっと彼は違う。
きっと、その行く先は以蔵の想像した場所と同じであるはずだ。
半平太が嘘をつく様な者とは思えなかった。
だって、こんなにも温かい手をしているのだから。
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