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第1章 土佐の以蔵
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汗を流して鍛錬に励む半平太の姿を、以蔵は瞳を輝かせながら見つめていた。半平太が一太刀振るうごとに、彼の胸は高鳴っていく。
こうして以蔵が毎朝半平太の剣をひっそり見るようになったのは、七日ほど前の事だった。たまたま朝に畑へ行った帰り、ぶらぶら散歩をしていた時にこの家から半平太が剣を振るう声が聞こえたのである。生垣に顔をうずめて見つけた声の主とその剣の美しさに、以蔵は一目で夢中になったのだ。その日は朝食を食べずにいたものだから慌てて帰った以蔵だったが、結局食事中も畑仕事中も寝る前も、一日中半平太の剣が頭から離れずそわそわしながら過ごしていた。
次の日になっても忘れられず、同じ時刻に家を飛び出して記憶を頼りに彼の家にたどり着いた。生垣から中をのぞいたちょうどその時、半平太が庭に出てきて鍛錬を始めたので、以蔵は思わず頬を紅潮させた。そのときこの時刻が彼の鍛錬の時間なのだと理解した。剣を習いたくても習えなかった以蔵は、こうして憧れの目で毎日半平太を見ていたのである。
ちなみに、彼が半平太であると以蔵が知ったのは、初めて彼を見かけた日から三日後の事だった。
「すごい……。わしもあがに剣振るってみたい……」
頬を紅潮させて以蔵はほぅとため息をつく。自分も剣をやってみたい。半平太のような、美しい剣を。
彼の剣を初めて見てから、以蔵は見様見真似で剣の練習を始めた。家の物置で見つけた古い木刀をこっそり持ち出し、家の手伝いの合間に人気のない近くの竹林に行って木刀を振るっていた。
けれどいくらやっても半平太の刀に近づかない。木刀は大分以蔵の手になじみ、それを振るう感覚も覚えている。型も、太刀筋も、同じようにまねているはず。
でもどこか違うのだ。
それは、相手がいなければ培えぬもの。敵の動きと刀筋を読み、それに合わせて、それを越える剣を繰り出す。半平太は過去に道場で剣術を学び、一つの流派を皆伝している。ゆえに一人で鍛錬している時も相手を意識し刀を振るっていた。
しかし以蔵は違う。戦いとは相手がいるもの。そう頭でわかっていても、本当の意味では理解していなかった。敵は自分の予測を越えて動く。そこにあるのは生か死か。竹を相手にしている以蔵には、その時点で半平太との大きな差があったのだ。
「きれいじゃのう……」
以蔵はもっとよく見ようと背伸びをし、生垣をかき分けた。
その時。ぱきっと乾いた軽い音がなる。
「誰だ!?」
物音に気づいた半平太は素振りをやめて以蔵のいる辺りを睨際しい瞳で睨んだ。どうやら生垣に触れた時、体重をかけすぎたらしい。以蔵はまずい、と思いその場をかけだした。
「あ、おい!」
以蔵が逃げるのを感じ取ったらしい。後ろから声と足音が追いかけてくる。以蔵は後ろを振り向いた。半平太が竹刀を持ったまま門の外にでてこちらを見ている。一瞬武市の赤い視線と自分のそれとが交わった気がしたが、以蔵はそれにも構わずすぐに行く先を見て一目散に走り続けた。
「なんだったんだ、あの童は……」
走り去っていく小さな後ろ姿を見ながら、半平太は眉をひそめたのだった。
こうして以蔵が毎朝半平太の剣をひっそり見るようになったのは、七日ほど前の事だった。たまたま朝に畑へ行った帰り、ぶらぶら散歩をしていた時にこの家から半平太が剣を振るう声が聞こえたのである。生垣に顔をうずめて見つけた声の主とその剣の美しさに、以蔵は一目で夢中になったのだ。その日は朝食を食べずにいたものだから慌てて帰った以蔵だったが、結局食事中も畑仕事中も寝る前も、一日中半平太の剣が頭から離れずそわそわしながら過ごしていた。
次の日になっても忘れられず、同じ時刻に家を飛び出して記憶を頼りに彼の家にたどり着いた。生垣から中をのぞいたちょうどその時、半平太が庭に出てきて鍛錬を始めたので、以蔵は思わず頬を紅潮させた。そのときこの時刻が彼の鍛錬の時間なのだと理解した。剣を習いたくても習えなかった以蔵は、こうして憧れの目で毎日半平太を見ていたのである。
ちなみに、彼が半平太であると以蔵が知ったのは、初めて彼を見かけた日から三日後の事だった。
「すごい……。わしもあがに剣振るってみたい……」
頬を紅潮させて以蔵はほぅとため息をつく。自分も剣をやってみたい。半平太のような、美しい剣を。
彼の剣を初めて見てから、以蔵は見様見真似で剣の練習を始めた。家の物置で見つけた古い木刀をこっそり持ち出し、家の手伝いの合間に人気のない近くの竹林に行って木刀を振るっていた。
けれどいくらやっても半平太の刀に近づかない。木刀は大分以蔵の手になじみ、それを振るう感覚も覚えている。型も、太刀筋も、同じようにまねているはず。
でもどこか違うのだ。
それは、相手がいなければ培えぬもの。敵の動きと刀筋を読み、それに合わせて、それを越える剣を繰り出す。半平太は過去に道場で剣術を学び、一つの流派を皆伝している。ゆえに一人で鍛錬している時も相手を意識し刀を振るっていた。
しかし以蔵は違う。戦いとは相手がいるもの。そう頭でわかっていても、本当の意味では理解していなかった。敵は自分の予測を越えて動く。そこにあるのは生か死か。竹を相手にしている以蔵には、その時点で半平太との大きな差があったのだ。
「きれいじゃのう……」
以蔵はもっとよく見ようと背伸びをし、生垣をかき分けた。
その時。ぱきっと乾いた軽い音がなる。
「誰だ!?」
物音に気づいた半平太は素振りをやめて以蔵のいる辺りを睨際しい瞳で睨んだ。どうやら生垣に触れた時、体重をかけすぎたらしい。以蔵はまずい、と思いその場をかけだした。
「あ、おい!」
以蔵が逃げるのを感じ取ったらしい。後ろから声と足音が追いかけてくる。以蔵は後ろを振り向いた。半平太が竹刀を持ったまま門の外にでてこちらを見ている。一瞬武市の赤い視線と自分のそれとが交わった気がしたが、以蔵はそれにも構わずすぐに行く先を見て一目散に走り続けた。
「なんだったんだ、あの童は……」
走り去っていく小さな後ろ姿を見ながら、半平太は眉をひそめたのだった。
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