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王都防衛編
127.その日の朝に。
しおりを挟む『種』の位置を調整し、その後安定するまで淫液を上下から受け続けたディー先輩が元気になったのは、ご主人様が訪問してから10日ほど経った後のことだった。
朝晩ずっと絶え間なく淫液を与え続ければ実際はもっと早く済むらしいが、そこまで量を用意できないのと、人格破壊が起こってしまう可能性があるということで、慎重に慎重を期して治療と術後の対処が行われたそうだ。
そのせいかディー先輩には、悪魔の実に取り込まれたときのような、身体の中身をすべて入れ替えるような壮絶過ぎる快感は鳴りを潜めて、痛みが強く出たらしい。
情けない姿を見せたくない、と言っていたディー先輩の言葉が思い出されて、私は直接ディー先輩に会いに行くことはなかった。だから、ほとんど間接的に話を聞くばかりだ。
「ではっ、もうディー先輩に会いに行ってもよいだろうか?」
身体の変化は順調に進み、立派な魔肛持ちの群青騎士になったと、エーゴン医師が太鼓判を押したと聞いたのは、その日の朝、ダイニングでのことだった。奴隷たちが食事を取り、騎士は水を片手に歓談といういつもの朝食風景である。
ただ、そこにはまだディー先輩とイェオリの姿はなかった。
「今日あたりはもういいんじゃないかな?明日からディーも一緒に、ここで朝食食べられるようになるかもね」
「ふふ。それなら、明日はディー先輩とカップケーキを半分こにしよう」
私だけ毎回なぜか特別に用意してもらうカップケーキ。
時折そのままもらってディー先輩と食べたことを思い出して、私は期待に胸が膨らんだ。あとはオリヴァー先輩が揃えば、一輪寮全員が揃うことになる。……元気だろうか、オリヴァー先輩。べぎべぎにいじめられていないだろうか。
エリーアス様なら、なにかご存じではないかと改めて視線を向ければ、にこやかな私とは対照的に浮かない表情だった。珍しく目の下にうっすらと隈を作り、やつれている。
無論エリーアス様はエリーアス様なので、やつれていてもまたいつもと違った美しさがあるが、いつもの凛とした芯がへんにょりと折れている感がある。
「クンツ、おいで」
がたりと椅子を引き、エリーアス様は座ったまま膝を手のひらで叩いて私を呼んだ。私はそろりとマインラートの様子を伺った。
普段ならエリーアス様の斜め後ろに控えて、何かと甲斐甲斐しく、奴隷というより従者のような身のこなしを見せるマインラートだが、ここのところエリーアス様と距離がある。
今日も壁際に立って、どこか物憂げに窓の外を眺めていた。エリーアス様が私を呼んだことに気付いていないこともないだろうに、こちらに視線を向けることもない。
「クンツ」
私のことを、マインラートの感情の揺さぶりに使うのはやめていただきたい。断ろうと口を開いたが、こちらに向けるエリーアス様の視線にどこか切なさが滲んでいて、呼ばれるがままに私は立ち上がった。近づけば腕を取られる。
「乗って」
「重いと思うのだが」
「浮かせられるから平気」
「そうか、では……」
けして女性的ではないが、私より細身のエリーアス様の身体を心配して躊躇したが、エリーアス様が良いというので、エリーアス様の胴を挟む形で跨った。両肩に手を置いて顔を覗き込む。
目の下の隈に加えて、眼差しに生気がない。いつもより肌も荒れているようだ。珍しい。
「えと……私のおっぱいで良ければ揉むか?」
「揉む」
即答だった。私がぷちぷちと騎士服の胸ボタンを外して前を寛げると、エリーアス様はシャツのボタンまで外してしまい、私の胸に直接手を差し入れた。シャツにうっすらと私の胸を揉みしだく、エリーアス様の手が浮かび上がる。
「はーぁ、マインラートが最近冷たいんだよ。酷いと思わない?精液はくれるけどさ、抱っこしながらキスもさせてくれないんだ」
「はあ」
「あと一緒にいられるのも、そう長くないのに……」
ぎゅむぎゅむ私の胸筋を揉みながら、両手で寄せた胸の谷間に顔を埋める。エリーアス様はもごもごとやや聞こえにくい声でぼやいた。乳首を指先で軽く抓られて、息が詰まる。
マインラートの、奴隷としての刑期があと少しで終わるらしい。落ち込むエリーアス様に釣られてか、近くの席に座っていたアンドレ先輩が若干死んだ眼差しになる。
アンドレ先輩の専属奴隷のハイラムも、刑期の残りがほかの奴隷よりも短い。あと3年ほどだという話を聞いたのは、私がここにきて少し経った後だっただろうか。あの頃から少し月日が経っているから、さらに減っているはずだ。
他国の元王族だったハイラムは、今の職は天職だとは考えているようだが、奴隷という立場は好んでいないようだ、というのはアンドレ先輩の弁である。ちゃんと聞いたのか聞けば、聞けてないという。
聞いて認められたら立つ瀬がないと消極的だ。なら私が代わりに聞こうか、と提案しても嫌がられる。難しいものだな。
エリーアス様の落ち込みに、うっかり被弾して沈んでしまったアンドレ先輩とは別に、ハイラムはいつもと同じく優雅に食事を終えて食堂を後にしている。エッチも悪くないが、あの男はだいぶ私とは違う意味でマイペースだ。
しかしマインラートの刑期終了が、それほど近いとは知らなかった。
「なるべく最後まで、僕としてはマインラートといちゃいちゃしてたいんだけどね」
当てこすりのように愚痴りながら、エリーアス様がマインラートにわざとらしい視線を向ける。エリーアス様はアンドレ先輩とは違って、マインラートを奴隷から解放したいらしい。アンドレ先輩も別に解放したくない、というよりは離れたくないという願望があるようだったが、その点エリーアス様はさっぱりしていた。
「あと10日もないんだよ?離ればなれになったらもう2度と会えないのに、ああ悲しい」
泣き真似をしつつも、その日を待ち遠しく感じているようだった。不思議だ。どうして、こんなにやつれて悲しげなのに、どこか晴れやかな笑みを浮かべることができるのだろう。
私なら……。
そう考えかけて、久々にずきんと頭が痛んだ。離れたくないと思ったのは確かなのに、その相手は出てこない。ええい、また昔の私の残滓が悪さをしているな。
軽く頭を振ると、エリーアス様の手慰みに弄られる乳首と胸部からの刺激に、感傷もどこかに消えていった。
「んっ、あ……っ」
「はー……マインラートね、なんか悪巧みしてるのに、僕になんにも教えてくれないんだよ?ひどくない?」
私の胸の谷間に舌をぬるぬると差し入れながら、きゅきゅっと緩急をつけて突起に爪を立てる。じんじんとした痛みが、もう気持ち良くて、腰が揺れた。魔肛になにも挿入されていない状態で快感を拾うのは久しぶりで、腰を揺らしてしまう。
「っ、ふ、ちょ…ぁ、」
「そりゃあさ、僕だって一緒にいたいよ。でもせっかく刑期終わるんだから、自由にしてやりたいのが親心ってもんじゃない?ね」
コン、と壁を叩く音がやけに大きく響いた。瞬間、他の騎士の何気ない雑談が途切れる。音の主は1人、壁際に立っていたマインラートだった。皆あからさまに視線を向けるわけではないが、マインラートを意識しているのは明らかだった。私?私はあからさまに見ているぞ。こっそり盗み見るのはそこまで得意でないからな!
<貴方に育てられたことなんて、ありませんけどね>
視線を逸らしたままの手話。私の胸板に顔を埋めていたエリーアス様が、その手の動きに目を細め……。
「いっ、いった、いたい!エリーアス様痛いっ!」
八つ当たりはやめてほしい。
きゅうっと強くつままれて悲鳴を上げると、奴隷たちのテーブルから誰かが立ち上がる音がした。足音を立てて近づいてきた奴隷は、背中側から私のわきの下に手を差し入れて持ち上げると、意地悪な手から私を救出してくれる。
「ゆ……っ、おじさま!」
振り返ってみてみると、ベッカーおじさまだった。じろりとエリーアス様を睨みつけ、シャァッと軽く威嚇までする。ベッカーに怒られたエリーアス様は肩を竦め、面白くなさそう髪を弄ってはマインラートに視線を向けていた。
私はといえば、おじさまに縦抱きにされて、器用に片手だけではだけた私の胸元を直されていた。
獅子獣人のおじさまは、人族としては大柄な私を縦抱きにしてもびくともしない。優しい手つきを嬉しく思うのだが、なんとなくユストゥスが来るものだと思っていたせいで、軽い喪失感があった。
「ありがとう、おじさま」
無意識に私の奴隷に視線を向ければ、食事もそこそこにフォークとナイフを握ったまま、テーブルに突っ伏している姿が見える。よく知らないが、何故だかユストゥスはここのところ眠りが浅いらしい。
たまたま喉の渇きを覚えて目を覚ました時は、緩く抱き締めていた腕を外しても起きなかったのだが、その日のユストゥスの隈はより一層ひどかった。
エリーアス様やユストゥスだけではなく、寮内はふわふわと浮足立ってる気配がある。ディー先輩の治療に合わせてしばらく出撃もなかったせいだろうか。おじさまはきっちり一番上までボタンを留めると、私を下ろしてわしわしと頭を撫でた。。
<嬢ちゃん、今日は俺と絵本読もう。それともお絵描きするか?>
「絵本を読んでほしい!騎士様の絵本!」
何度読んでもあの絵本は名作だ。おじさまの手話に合わせて読むのは飽きることがない。私のおねだりにするりとおじさまの尻尾が私の腕に絡んだ。尾に招かれて、私は食堂を出ようと足を進める。
絵本を読んで、時間があれば一緒にお絵描きもしようではないか。そのあと、ディー先輩の様子を伺いに行こう。午後は先輩方との手合わせだ。ここしばらく動いていなかったから身体がすっかり鈍っている。性交のための柔軟運動だけでは物足りない。
今日の予定を楽しく考えていたところで、キン、と前触れもなく頭痛が走った。
「っ?!」
『これは緊急招集命令である。王国危機レベル3。アダルブレヒト最前線に出兵中以外のリンデンベルガーは、直ちに出撃せよ。近衛騎士団、紅蓮騎士団、群青騎士団所属の者は、所属騎士団に許可を取った上で出撃待機。繰り返す。これは緊急招集命令である。王国危機レベル3。アダルブレヒト最前線に出兵中以外のリンデンベルガーは、直ちに出撃せよ。近衛騎士団、紅蓮騎士団、群青騎士団所属の者は、所属騎士団に許可を取った上で出撃待機。座標は――』
無機質な声が脳内に響く。バルタザールが寮内で騎士たちに呼びかける魔術とはまた別で、この声は範囲は問わないが、リンデンベルガーの騎士にしか聞こえない。そこまで優秀ではない私たちにさえ招集がかかるのは、レベル4か5だったはずだが……レベル3で招集されるのは珍しい。さらに緊急招集がかかること自体、私が騎士になってから初めてだ。そうあることではない。
<嬢ちゃんどうした?頭いてえのか?>
頭を押さえながら足を止めたことで、おじさまに心配をかけてしまったらしい。私はぎこちなく笑った。
非番の者たちならともかく、任務に赴いている兄弟たちは、今の緊急招集で即座に任務から離脱を図っている頃だ。私も魔肛持ちの群青騎士でなかったら、たとえ戦闘中であったとしても離脱していたに違いない。
ただ、前線にいる者も外されるとなると、騎士として生き残っている兄弟従兄弟のうち、半数ぐらいだろうか。多い人数なのか少ない人数なのか迷うところだ。小隊ぐらいは形成できる人数はいるかもしれないな。
「すまない、おじさま。今日は無理そうだ。……エリーアス様!」
出撃待機と言われば、準備を整えて待たねばならない。絵本を読む時間はなさそうだ。名残惜しくおじさまの尾を撫でてから手放し、エリーアス様の元に戻る。
「ん?どうしたの?僕とえっちする?」
「しない。実家からの呼び出しが入った。私の兄弟たち……リンデンベルガーの騎士に招集がかかっている。私は今のところ出撃待機のようなのだが、出撃命令が出た場合、私はエリーアス様の指揮系統から外れることになるので、その許可が欲しい」
私の言葉に、エリーアス様が身にまとっていた怠惰で緩んだ気配が一気に変わった。空気が張り詰めるのがわかる。
背後でがたっと大きな物音が鳴る。不思議に思って見やれば、さっきまで寝こけていたユストゥスが椅子を倒したまま、こちらに向かってくるところだった。寝てたのではないのか?
「バルタザール!本部に連絡」
「わかってる。ちょっと待ってて!」
奴隷たちから日常の聞き取りをしていたバルタザールが、あわただしく食堂を出ていく。あからさまに慌てる者はいないが、それでも緊張が満ちた。エリーアス様に無視される形になった私は、もう一度口を開く。
「エリーアス様、許可を「許可はしない。リンデンベルガーに招集がかかるような任務なら、群青騎士団にだって出撃要請が入ってるはずだ」
確かにそれは一理ある。優秀な騎士が多い群青騎士の方が、よほど私たちより戦力になるだろう。他の騎士団にも連絡が入っているかもしれない。
「クンツ、出撃があるとしても、君は群青騎士として出撃させる。リンデンベルガーの騎士じゃなくね」
「ふむ。エリーアス様の意向はわかった。なるべくはその意向に沿いたいが、万が一、上位命令があればそちらが優先されるのではないかと思う」
「どういう意味?」
曖昧な口ぶりになってしまった私に、エリーアス様は目を細めた。うなじがちりちりするような圧を感じる。
「どう、と言われても。リンデンベルガーの騎士は、より上位命令に従うように出来ている。エリーアス様を飛び越えて指示が出れば、私はそちらに従うだろう」
「僕を飛び越えてクンツに指示なんて、誰が出させるか。……ねえマインラート、ちょっと僕と仲直りしてくれない?」
<……仕方ないですね>
エリーアス様の呼びかけにマインラートはため息を付いながら、いつも通り、エリーアス様の斜め後ろの立ち位置に戻る。それを喜ばしく思っていると、私より大きい影がぬっと進み出て抱きついてきた。
「ユストゥス」
名を呼べばすぐに身体を離し、そっと私の頬を撫でる。言いたげな青金の瞳を見返しながら軽く胸板を叩いた。
「私の鎧の準備を頼む」
その言葉に、ユストゥスはゆっくりと一つ頷いた。
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