きもちいいあな

松田カエン

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王都防衛編

119.読まれた手紙と魔性具

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 ユストゥスは、けして手紙の狼が自分のことだとは認めなかった。でも、私はユストゥスこそがその狼だと確信した。誰に言われても納得しなかったが、自分でちゃんと確かめて、あいつが手紙の狼だと思ったから、手紙を渡すことにしたのだ。

「これが、その手紙だ」

 セックス後の気だるい時間、私はジュストの背負った包みの中から、毛にまみれた手紙を取り出す。ユストゥスは無言でその手紙を見つめた。
 これには私が魔力を通さないと読めないので、ユストゥスを抱きかかえながら見せてやろうとやつの背後に回ったところ、<それは勘弁してくれ>と逆に私が抱きかかえられることになった。若干窮屈だ。

「ほら」

 手紙をしっかりと握りながら魔力を通すと、何もなかった白い紙に汚い文字が浮かび上がる。私は何度も読んだ文章だ。肩越しに覗き込むユストゥスが、手紙を広げてみせた私の手を覆うようにして重ねる。そしてその眼差しが文字を追い始めた。否定した割に食い入るように見つめるその視線の強さに、私の口からはかすかにため息が漏れた。

 掴まれる手に篭る力が強くなる。そのうちユストゥスの身体がわずかに震え出した。振り返って様子を伺いたいが、何となく悪いことをしようとしている気がして、私はこてんとユストゥスの身体に寄り掛かったまま、無駄に部屋の中に視線を彷徨わせた。

 しばらくすると、私の手を覆っていた手から力が抜けてするりと落ちた。その手はそのまま私の腹を、ぎゅうっと抱き締めてくる。
 髪が私の頬に触れ、深呼吸するユストゥスの呼吸が首にかかる。抱き締められていることに、男の吐息が首にかかることに、私の鼓動は勝手に高鳴った。

 ユストゥスの好きにさせながら、これは私の感情ではない。と自分に言い聞かせる。これは前の私の置き土産だろう。嬉しいと思う気持ちも、何もかも。

 ……なにせ私には、ユストゥスと共有した思い出などない。男が、獣人で私の狼だと認識した途端に溢れた感情など、私のものではない。

「私は、違うからな。この手紙を書いたのは、私ではない」

 辛かろうが否定しておかなくてはならないだろう。するとさらに力を込めて抱きすくめられた。泣いているのだろうか。この男は案外泣き虫なところがある。
 少し迷ったが、身体を張ってまで私を止めようとしたことに敬意を表して、少しばかり慰めてやるか。
 青い光沢のある髪を掻き回すように撫でると、ユストゥスはそっと頭を上げた。目が合いそうになって、ついっと顔を逸らす。

「この手紙は、お前が持っているといい。読みたくなったら言え。魔力を通してやる。……ほら、いつまで抱きついている」

 邪魔だと頭を押しやると、離れかけた腕が絡みついた。身体を捩って睨みつけると、少し目が赤くなった男に見返されて少しばかり言葉に詰まる。

<手紙には狼を頼むと書いてあった。随分冷たいんじゃないのか>
「この手紙の狼だと、お前は認めるのか」
<…………ああ>

 ゆっくり頷いたユストゥスに、私は大きく一つ息を吐いた。腕を振り払って手紙を畳むと、それをそのままユストゥスに押し付けてベッドから降りる。自分で身体に洗浄呪文をかけて、さっぱりとしたところで服を身に着けた。群青色の騎士服を着こむと、ようやく人心地着いた気がする。
 裸でいた方が開放的ではあるのだが、ユストゥスの前で裸体でいるのはどうにもむず痒く感じる。この感情自体も前の私のものだろう。記憶だけしか持ち去らないとは。本当に忌々しいことだ。

 ふと私の机の上に、体液収集のための男根型の魔具が置きっぱなしになっていることに気づき、私はそれを手に取った。今の時間なら、皆朝食のためにダイニングにいるはずだ。誰かに押し込んでもらうか。何となく今、ユストゥスにその手のことを頼みにくい。
 魔具を持ったまま部屋を出ようと足を向けると、音もなくベッドから降りたユストゥスが立ちふさがった。私は胡乱げに男を見上げる。私も身長は高いが、こいつの方が若干背が高いのが腹が立つ。気がする。

「なんだ」
<好きだ。愛してるクンツ>

 端的に感情を押し付けてくる男にいらっとして、私は手のひらで男の頬を叩いた。ぱぁんといい音がする。拳で殴ると下手したら首の骨を折ってしまうかもしれないからな、手加減だ。

「この、浮気者め!同じ身体なら中身が違ってもよいのか!」
<はっ?ちがっ!俺は>
「うるさいうるさいうるさーいっ!私は!お前など大嫌いだっ!!」

 ユストゥスと、前の私のことを考えるならば、私がこの男を愛している素振りでも見せてやればいいのかもしれない。私も好きだ、愛してる。なんて、心にもないこと口にできるか。
 否定すればするほど冷えていく感覚がある。でもこれは私の感情ではない。ないったらない!

「身体は好きにすればいい。私だってお前の精液が必要だしな。だがな、今の私はお前が愛したクンツ・リンデンベルガーではない。同じ振る舞いを期待するな!」
<そういうつもりじゃねえ。俺はただ>
「うるさいと言った、手を動かすな!」

 私が怒鳴るとユストゥスは手をぴたりと止めた。何か言いたげな眼差しが向けられる。ええい視線までうるさい男だな、こいつは!

「お前が愛しているのは、前の私だ。そうだな?手は動かすな。イエスかノーか、それだけで答えろ」

 私が詰問するように告げると、ユストゥスはゆっくりと一度だけ頷いた。ここで急に否定されたら、私は烈火のごとく怒る自信がある。素直に認めたことは良しとしてやろう。

「私は、前の私とは違う人間だ。それも理解したか?したな?イエスか、はいか、同意以外には認めないぞ。そら、頷け。……うーなーずーけっ!」

 頭を掴んで無理にでも頷かせる。ふうっ、もうめんどくさい男だな。

「なくなった記憶が戻るという話は聞いたことがない。が、もし前の私が戻ってくることがあれば、私は潔く身体を明け渡してやる。それでいいな」
<いやだ。俺は前のお前も、今のお前も好きだ。……クンツが好きなんだ>
「黙れこの……ばかっ!ばかぁっ!」

 頭を押さえていた私の手を掴んで外させると、ユストゥスは眉尻を下げて今にも泣きだしそうな顔で私に抱き着いてきた。しっかりとした胸板に抱き込まれて、反抗心が湧くどころか……力が抜ける。
 匂いも身体の厚みも違うと身体は訴えるのに……もしかして今の私が、この男に馴染んできているのだろうか。
 嫌だ。私を好きではない男に絆されるのは嫌だ。下手をすれば今の私も記憶を失いかねないし、あんな手紙を書く私と……そしてまっすぐ愛情を口にできる男との間に、入る気など毛頭ない。横恋慕などまっぴらだ。
 考えてみれば、我らリンデンベルガーに恋愛など不毛な話だ。どうせすぐに死ぬ。前の私は何を考えてのだろう。ああ、ただでさえ頭が悪いのに、少しも思考がまとまらない。

「放せ!……ともかく、私はお前のことは嫌いだ。前の私のことが好きというのなら、私に愛を囁くのは言語道断。私とは清く正しく、身体のだけの関係で収めてくれ。これ以上駄々を捏ねるなら、私は本部に奴隷変更願いを出すぞ」

 そこまで脅すと、ユストゥスが信じられないと言わんばかりの表情で、肩を掴んで私の顔を覗き込んできた。だが私が至極真顔でおり、嘘もないとわかると身体から力が抜ける。ようやく黙ったユストゥスに、私はすっきりした気持ちでその手を外した。

「服を着ろ。お前はきちんと朝食を食べて精液を生産するのが仕事だろう。ダイニングにい……っん」

 呆然と立ち尽くす男にそう声をかけ、服でも着せてやらなくては駄目だろうかと脱ぎ散らかされたベッドを眺めていたところで、顎を掴まれ親指で下唇を揉まれ、口付けを与えられた。
 さっきも散々していたのにと思うが、腹が立つことに私の身体はこの男のキスが大好きらしい。唇を開らき首の角度まで変えて、受け入れる気満々ではないか。

 太い舌で口内をまさぐり、的確に敏感な部分を舌先でくすぐられて、私は腰にじわりと快感がくすぶるのを感じた。ユストゥスの胸板に空いていた手を軽く添える。魔具を掴んだままのもう片方には強く力が篭るのに、ユストゥスに触れた手は男を押しのけもしない。それどころか、その体温や鼓動を感じたいと言わんばかりにぴったりと触れた。

 ああもう忌々しい。

 キスを続ける男は、私の反応を探っているようだった。ひとつひとつ丁寧に唇と舌と歯で愛撫され、短くも長く感じられる時間ののちに唇が離れた。下唇を甘噛みされて、わずかに追いすがるように顔を角度を上げてしまう。言ったそばからこの反応では、ユストゥスも勘違いするだろう。
 私はばつの悪い気分を味わいつつ、手のひらで唇を抑えながら不貞腐れたように声を零した。

「違うからな。これはお前のことを好きな前の私の感覚を覚えている身体が、勝手に反応しているだけで、私の意思ではないからな」

 ゆっくり神妙な面持ちで頷いたユストゥスが、私の腰を抱いてちゅっとこめかみにキスをしたので思わず後ずさる。

<なるほど。身体は俺のことが好きだってことだな>
「なっ……」
<ダイニング、行くんだろ?>

 男の手を振り払おうと身じろぎをした瞬間に、ユストゥスはあっさりと離れる。それから麻の奴隷服を身に着けると、しれっと手話で促してきた。
 ……本当にこいつ、わかっているのだろうか。疑う私をよそに、いつの間にか平静を取り戻したユストゥスに、部屋から連れ出される。私の腰を抱いて片手まで取られてエスコートされかけ、落ち着かない。前の私もこんな風にされたことがあったのだろうか?

「いいから、もう私に触るな」

 手にしていた魔具でべちんと男の手の甲を叩くと、私はずんずんといつもより肩をいからせながら、少しばかりの早足でダイニングに向かった。背後から一定距離を空けて付いてくるユストゥスが鬱陶しい。

 落ち着かない気分のままダイニングにたどり着いて中を覗くと、そこにはエリーアス様以外の群青騎士の姿はなかった。奴隷も数が少なく、いるものも急いで食事を取って出ていく。
 ライマー先輩の専属奴隷のジルケは、私には軽く頭を下げ、ユストゥスには気安く手を振りすれ違うように出ていった。悠長に食事をしているのは、奴隷ではハイラムとベッカーだけだ。
 マインラートはいつものように早々に食事を終えたのか、優雅にグラスの水を傾けているエリーアス様の斜め後ろに立っていた。

 ただ、少しいつもよりマインラートとエリーアス様の距離が近い気がする。マインラートは楽しそうな雰囲気を滲ませ、無言でエリーアス様の首筋に手を伸ばし、つうっと指先で撫でた。その軽い触れ合いに、エリーアス様のグラスの水がぐわんと揺れる。よくよく見れば、エリーアス様の頬は上気し、うっとりとした表情を浮かべていた。
 精錬された騎士の淫靡な空気に、見ているだけの私までなぜかそわそわしてしまう。

 騎士用のテーブルにまでついて来ようとするユストゥスには、腰元を蹴り上げるようにして奴隷たちのテーブルに向かわせ、私自身はエリーアス様の隣の席に座った。じろりとマインラートに睨まれて、ぱちりと瞬きをする。

 マインラート、さっきまで機嫌がよかったのに急に悪くなったな。でもエリーアス様しかいないのに、私が一席空けて座るとか不自然すぎるだろう。エリーアス様が微苦笑を浮かべた。

「マインラート、クンツを睨むのはやめなさい」
「おはよう、エリーアス様」
「おはよう、クンツ。……張り型、入れてないの?」

 手にしていた魔具をことりと卓上に置くと、目を細めたエリーアス様が熱い吐息を貰いつつ、軽く首を傾げてきた。朝からとても色香のあるお姿だ。

「ユストゥスと少々揉めてな。朝食はこなしてきたのだが、入れてもらう雰囲気ではなくて……他の皆は?」
「今全員で、その魔具使って淫液を搾り取ってる最中。部屋から出れないから、部屋でみんなあんあん喘いでるよ。昨日一緒にクンツを可愛がったことで、ディーの心境に変化あったみたいでね。クンツだけじゃなくていいって。思わぬ副産物があってよかった。絶対量が足りないと思ってたから」

 瞳を潤ませたまま、エリーアス様が艶やかに笑う。普段は清楚な笑みなのにまるで性交中のような色っぽさで……そこまで考えてようやくぴんと来た。

「エリーアス様も、その、魔具が入った状態なのか?」
「うん。部屋だとどうしてもおちんぽ欲しくなるから、こうしてダイニングまで出て来たんだよ」

 魔肛から分泌される体液を搾り取るための魔具は、挿入すれば、うぃんうぃんうねって刺激を与えているはずだ。エリーアス様は多少気だるげだが、こうして普通の表情で座ってられる程度には平静を保っている。

 すごい。さすがはつよつよおまんこの持ち主だな。

 私がきらきらと尊敬の眼差しで見つめていると、マインラートがそっと私の前に水と小さなカップケーキを出してくれた。嫌っていても、注意されればそつなく動くマインラートに感心してしまう。
 いつもならバルタザールが出してくれるのだが、朝の時間は大抵ダイニングにいるはずのバルタザールがいない。外出中なのだろうか。

「ディーがちゃんとした魔肛持ちになって群青騎士として動けるようになるまで、一輪隊は出撃はなし。今後の魔肛持ちの命運もかかっているからね。今はディーの身体に問題なくなることが、一輪隊全員の任務だ」
「む」

 ちびちびと、カップケーキを大事に少しずつ食べていた私は、エリーアス様の言葉に残りをぱくっと全部口に放り込んだ。良く噛み締めて味わって飲み込む。美味しい。
 任務と言われれば、こなさなければならない。ただ、私は一度魔具の挿入に失敗している身だ。プロに頼むのがいいだろう。

「エリーアス様、入れてくれ」

 私は立ち上がってベルトを外し、スラックスをすとんと絨毯に落とすと、魔具を手にしながら少し長めの詰襟の裾をたくし上げた。奴隷たちのテーブルから咳き込む音が聞こえる。
 見ればベッカーが噴き出して咽ていた。向かい側に座っていたらしいハイラムが迷惑そうな顔をしている。がたんと食事を取っていたはずのユストゥスが立ち上がった。

 それを見てエリーアス様は軽くこめかみを揉みながら、グラスをテーブルに置いた。

「ユストゥスは食事ちゃんと取ってなさい。昨日はあんまり食べてないんだから。……マインラート、君がやってあげて。僕が触るよりいいでしょ」
<……承知しました>

 珍しい。エリーアス様は何かと私にセクハラしてくるのに、マインラートにさせるなんて。近づいてきたマインラートに指示されて、テーブルの空いた部分に上半身を倒し、尻を突き出した。むにいっと臀部を鷲掴みにして狭間を晒す。
 すぐさまほっそりとした滑らかな指が私の秘部をまさぐり始めた。滑らかでささくれ一つない指だ。

 奴隷たちはその扱いから指先が綺麗、ということはない。滅びた国の元王族のハイラムは、その経歴から元々気を付けているのか、そこまで荒れてはいないのだが、他の奴隷たちはそうでもない。ユストゥスだって、武器を握ったことがあるだろう剣だこがあり皮膚の固い手や指をしている。
 その点マインラートはとても綺麗だった。
 柔らかな弾力を感じさせる指で私のアナル周辺を揉み、魔肛を反応させてからゆっくりと指を潜り込ませてくる。潤滑剤など使わなくても濡れる魔肛は、物足りなさそうに細い指をしゃぶった。

「ぅうっ、ん、んっ」

 手つきはとても丁寧だった。もっと乱雑に扱われるかと思ったが、的確に私の感じるところを刺激し、淫液を分泌させて広げる。事務的にされる愛撫でも気持ちいい。

「クンツの媚態は慣れたんじゃなかったの、ベッカー。……怒んないでよもう」

 椅子を奴隷たちのテーブルに向けて軽く手を振ったエリーアス様に釣られて、ちらりと視線を向ける。ベッカーは真っ赤で顔を逸らしたまま座っている。それに比べて無駄にガン見してくる私の奴隷と言ったら……。ハイラムは食事を終えたのか普通に悠々と出ていった。マイペースな奴隷だな。アンドレ先輩の苦労が伺える。
 きっとバルタザールがいたら、ここでするなとかなんとか苦言を呈しただろうが、エリーアス様を止められる人はいない。皆は服を着て普通に過ごしているというのに、私は……。
 ふいに恥ずかしさが生まれて、私は俯いた。羞恥心が芽生えたというのに、私の足の間に膝をついたマインラートに足を大きく開かされて、中を掻き回される。

「んっんっ……ぅ」

 口に拳をあてて、嬌声を押し殺した。ふーふー肩で息をしている私に、エリーアス様が興味深そうな視線を投げかけてくる。

「マインラート……、あ、はい。触っちゃだめね。了解」

 なにやら主従でやり取りがあったらしく、ぐりっと強く前立腺を潰された。声もなくのけ反る。くちゅっくちゅっと水音が大きくなってきた。昨日もだいぶ達して、枯れたと思っていた陰嚢が重くきゅっとせりあがり、ペニスの先端がテーブルクロスに擦れる。
 ああ……っ汚してしまった。あとでエリーアス様に洗浄魔法を掛けて、いただかないと……っ。

 突き上げられると中を開き、抜けようとする指には追いすがって絡みつく。一定のリズムで掻き回す指に釣られて腰を揺らしていると、急に引き抜かれた。
 余韻が残る身体は、そのまま揺れ、ペニスをクロスに擦り付けながら淫猥な穴を収縮させる。

「クンツ、入れるよ」
「っは……ぁっ!」

 喋れないマインラートの代わりにエリーアス様が宣言してくれた。ソコは、押し込まれた魔具を貪欲に飲み込んでいく。ゆっくりとだが、抜き差しは行わずにすべて根元まで飲み込ませたマインラートは、魔具をベルトで固定してから私をゆっくりと立たせた。

「あっ、あり、がと……っう」

 乱した服装はてきぱきと整えられる。達しそうだったペニスも、ろくに刺激を与えられずに衣服に押し込められた。前が窮屈なのはもとより、魔具の付け根の出っ張りが下着とスラックスを押し上げてやや突っ張るが、それも仕方ない。

「訓練も、一定量確保できるまではなし。だから、クンツもがんばってね」
「わか、った、ぁ……っ」

 私の魔力を感知してか、うねり始める魔具に腹の中を抉られ、膝から力が抜けてテーブルに手を付くが、手ががくがくと震えてずるずるとその場に蹲ってしまう。

 よ、よくエリーアス様は、これで優雅に過ごせるな?!皆が部屋にいるというのも頷ける。官能を煽る男根型の魔具だけあって、ろくに歩けないのだ。

「ゆ……っおじさま、その、部屋に運んでくれない、か……?」

 部屋に戻してもらおうとユストゥスを探してばちりと目が合った瞬間、私はかあっと赤くなる頬を抑えながら、ユストゥスではなくベッカーに頼み込んでいた。


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