きもちいいあな

松田カエン

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獣軍連邦潜入編

78.動く歯車

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 ジュスト狼ぬいをぶんぶん振り回しながら、ユストゥスの住まいに向かう。いつもより早い時間だから、いないかもしれないとも思った。その時はまたあとで夜に来よう。毎日の通いなれた道だ。私もだいぶ身軽に歩けるようになった。両手を使って伝い歩きしながら下っていたことが嘘のようだ。
 木を下り、ユストゥスのいる下部を目指していると、驚いたことに前から数人がやってくる。この先にはユストゥスの住まいしかないのに。

 この辺りでは見たことのない顔ばかりだった。服装も傭兵のような実用的な鎧ではなく、どこか私兵を彷彿とさせる揃えの服を着ている。1人だけ、フードマントをまとった小さな個体が混じっていた。フードを被っているせいでその者だけ表情が見えない。
 ただ他の者は私の姿に気づくと、わずかに顔をしかめた。色合いは異なるが、どれも灰色の獣耳に尾を持っている。狼獣人だ。

 下から登ってくる彼らの邪魔にならないように、間に作られた休憩所と思しき小さな笠の上で端に寄る。大人と思しき3人が、真ん中に据えた小さな個体を誘導して先に行くように促した。だが、その少年は大人たちの制止を潜り抜けると、私の前に仁王立ちした。片手でフードをまくり上げ、パサリと跳ね飛ばす。現れた顔に、私は小さく息を飲んで、ぎゅっとジュストを抱き締めた。

「お前がクンツか」

 足元から頭までじっくりと眺めたあと、ふん、と鼻を鳴らす。銀の毛並みに、首後ろで一本にくくった長い髪。揺れるまだ小さい尾。狼獣人の子供だ。二重で釣り気味ではあるが、美少年と言っても良いぐらいの顔立ちをしていた。ただ、鼻の形や、唇の形に、見覚えがある。

兄様あにさまはお前を伴侶にする、むれの同意が得られないなら群を抜けると言われた。だが兄様は誰よりも強い狼だ。その血は同族の雌の腹で受け継いでもらう方がいい。群れに戻らないなど許されない。子熊、狼の庇護が欲しいなら俺が嫁にしてやる。兄様は駄目だ」
「は……?」
「……まだ道理もわからぬ子供に手を出すとは……どうして」

 私がよく状況を飲みこめていないことを、無垢な子供の態度と取ったのか、少年は頭を押さえながら呻いた。その子供を他の狼がひょいっと抱え、フードをかぶり直させている。

「ユェザリ、子熊には接触するなと言われただろ」
「新長がユストゥスは好きにさせてやれと言ったんだ。今更俺たちが口出しすることじゃない」
「悪いな子熊。ユェザリは訳あっておおばば様に育てられてな、古い選民思想が抜けんのだ」
「もっと早く兄様が戻ってくれば!デジリオじゃなく、兄様が長だったのだ!今からでも選定のやり直しんぐっ」
「はいはい。愚痴は俺らが聞くから行くぞ」
「んぐうう~~~ッ!」

 どこから取り出したのか、ひもでぎゅっと小さな狼……ユェザリを縛り上げると、私にはひらりと手を振って木を登っていってしまった。口を布で覆われて喋ることもできない子狼が恨みがましい唸り声をあげている。それを適当に慰める声はあっという間に風に溶けていった。残された私は、ほう、と息を吐く。

 顔立ちが、ユストゥスそっくりだった。あの顔を見れば血縁なのはわかる。しかし、なんの話を……群の同意?あいつは何をしている。軍の内部を調べていたのではなかったのか。首を傾げながら木を下りてユストゥスの住処に行くと、他にも話し声が聞こえた。
 つまり、ユストゥスだけではなく、誰かほかにいるのだ。不明瞭で聞き取れない。多少よくなっただけの耳では、あまり役に立たないことに気づいてジュストを抱き締めて足を止めた。やはりいつもの時間に来るべきだったのだ。近頃は住処にいるし日中呼び出されていなくなる率も減った。だから今でもいると思ったが、来客中、という頭はなかった。

 帰ろう。

「クウ?」
 くるりと背を向けた瞬間、ドアが開いてユストゥスに呼びかけられた。狼は耳がいいのだ。私が立てる何かしらの音を聞いたのだろう。わずかに悩みながら振り向く。出てきたユストゥスの目が私の頭に伸びていて、はっとして触れば耳がぺたんと垂れていた。感情がすべてバレてしまう獣耳は扱いにくい。

「珍しいなこの時間に来るなんて。昼来れなかっただろ?来いよ」
「いや、でもお前、だれか来客がいるだろう。今日は帰る」
「帰るって、丸一日腹に注がれてないんだから、腹空いただろ。入れてやる」
「……」

 まるで根が生えたように、その場で動けなくなった私に大股で近づいてくると、ユストゥスは私を抱き上げてしまった。積極的に逃げる元気もないのに、抱き締められると苦しくなる。目を細めたユストゥスに見惚れて、ずきりと頭が痛んだ。

「今の時間ここに来たってことは……もしかして途中ですれ違ったか?俺の弟」
「似ていたな。長がどう、とか」
「あー……ったく余計なことを言うなって、言っといたのにな。気にすんなよ」

 気にするなと言われて、気にならないわけがないだろう。そう言いたかったが、私は押し黙った。ああ、早く任務を終えて、王国に帰りたい。私の狼も連れてだ。どうして私が気にしなければいけないのだ。この男は私の物なのだから、私が好きにする。すると言ったらするのだ。

 部屋の中に連れ込まれると、ドゥシャンがいた。話し相手はドゥシャンだったのだ。部屋の奥に向かって座っているせいで、大きな背しか見えない。顔見知りがいたことで少しほっとしてユストゥスの手から逃れて下りると、ドゥシャンの大きな背に抱き着いた。

「クーちゃん、珍しいな。こんな時間に」
「ドゥシャンこそ。どうし……」

 抱き寄せられ、ジュストを抱いた状態で膝の上に乗せられてから、向かい側にもう1人いることに気づいた。ドゥシャンの大きな背に隠れて気づかなかった。ユストゥスやドゥシャンに比べ、かなり身なりがいい。この男も周辺住民では見たことがない。薄茶色の髪に金地に黒のラインの耳と長い尾を持つ男は、私を見て「幼児か」と短く呟いた。
 立ち上がった男が私に近づいてくる。見目は良いが表情が硬い。何やら怒ってそうな表情をしている。な、なんだ。ぎゅっとドゥシャンに縋りつくとドゥシャンに頭を撫でられた。

「フレイ、クーちゃんをあんま脅すな」
「そいつも群青騎士だろう?しかし本当に幼児の匂いがするな」
「えっ?」

 ドゥシャンに抱きすくめられ、さらに近づいた男にクンクンと匂いを嗅がれる。「狼臭い」とぼやいたのはスカーフを身に着けているからだろう。がそれはどうでもいい。
 ドゥシャンに私が騎士であることが、バレた……?恐る恐る見上げると、いつも通りの笑顔で、私の頭を再度撫でてくれた。

「ユストゥス、話したとおりだ。俺はもうクーちゃんとは交尾しねえからな」
「わかってるよ。代わりにアーモス食わせる。あいつが勝手に変な性癖に目覚めてんだからな」
「えっ?え??ドゥシャン、私ともう交尾してくれないのか?なぜ。私がすぐにへろへろになってしまうからか?気持ちはいいと思うのだが……」

 騎士であるがバレたことより、なにより重要なことを言われたぞ?
 ドゥシャンが、私と交尾しないと言った。せっかくドゥシャンのおちんぽを三分の二まで飲み込めるようになったというのに。ぎゅーっと抱き締められながら、押しつぶされるようにバックから責められるのが気持ちいいのに。嫌だ。
 ドゥシャンは私に甘い。今だって願えば撤回してくれるかもしれない。意識して瞬きを増やしながら、縋るように見上げた。ぺたりとドゥシャンの耳が垂れる。

「ドゥシャンとおまんこ、したい」

 ぴったりと抱きつきながら訴えると、ドゥシャンは震えながらくぁっと一鳴きし、立ち上がると私のわきの下に手を差し入れ抱き上げて、ユストゥスに渡してしまった。どうでもいいが、扱いが本当に幼児だな私。私を縦抱きにしながらユストゥスが意地悪く笑う。

「いいのかドゥシャン、勃ってっぞ?俺のお嫁様が、別に問題ない相手ってのはわかってるだろ」
「いいって言ったらいいんだ!クーちゃんは俺の養子むすめになるんだからな!」
「ドゥシャン、私は男なのだが」
「クーちゃん。頼むから俺のことはもう誘わんでくれ。大事にしたいんだ」

 まるで告白めいたことを口にすると、ドゥシャンはちゅっと私の頬にキスをして出ていってしまった。ひげが擦れてじゃりじゃりした。おじさまを思い出す。おじさまは元気だろうか。
 しかし、ドゥシャンは本当に私のことを『娘』扱いするつもりだろうか。息子ではだめか。……駄目なのだろうなぁたぶん。
 おじさまに続いて、お父様まで私を幼女扱いする獣人になってしまった。仕方がない。残念だ。今まで以上に甘えておこう。多分その方が喜ぶ。仕方ない。ふふ。

「元気になったな」
「ん」
 ユストゥスの手が、ぴんと立った私の耳を柔らかく揉む。ぞくぞくとした小さな快感に目を細めていると、虎耳の獣人が立ち上がった。

「ベギアフレイド、興味あるなら、俺のお嫁様に触っていくか?俺が仕込んだからな。最上の身体してる」
「ぁんっ」

 言いながらユストゥスは私の胸の突起に触れた。布越しにきゅっと摘ままれて、ジュストの前足を握ったまま、ユストゥスの胸に抱き着く。爪を立てられるとじんじんして、痛いが気持ちいい。
 ユストゥスがこういうのなら、食べていいおちんぽなのだ、この男は。じっと下半身を見やって反応を待つ。だが男はそっけなく首を横に振った。

「オリーがいますから。彼には俺しか与えてないので」
「お前がいなかったり、足りなくなったときどうするつもりだ?生態知ってて飢えさせるなんて最低だぞ」
「ご心配なく。足りなくもなりませんし、常に連れ歩きます。……今はその幼児が気になるというので、多少は自由を与えてますが、いずれ我が妻だ。我が国に潜入捜査している、という形を取らせてもいい。ではまた」

 言うだけ言って、虎は部屋を出ていった。ユストゥスは小さくため息を付いて、私を抱いたまま腰を下ろす。

「オリヴァーは潜入捜査型の群青騎士だ。男を落とす手管はいくらでもある。入れ込んでも悲しむのはあいつだろうに」
「んっ?どうしてここで、オリヴァー先輩の話になるのだ?」
「ああ、覚えてねえんだったな、あの男は軍人のベギアフレイドって名前で―」

 男が呼ぶオリー、と言うのが、オリヴァー先輩の仇名らしい。男はオリヴァー先輩の、専属奴隷のようなことをしていること。今回の軍の孤児と兵器密輸のルートを探す協力者で、私が記憶を失くした数時間の時にもいたらしい。んんっ?もしや愚痴を口にしていた相手の男が、あの男か?
 ユストゥスの話を聞いて、今度は私が口を開く。日中来れなかった理由、そして今来た理由。オリヴァー先輩が今日から日中は孤児院に来てくれること、その際に男のことで愚痴を言っていたが、思いのほか、まんざらではなさそうな顔をしていたこと。それを告げると、ユストゥスは難しそうな顔をした。

「一応友好国とはいえ、別の国の軍人に惚れるなんて、あいつがするはずないとは思うが……ま、何がきっかけで恋に落ちるなんて、わかったもんじゃねえからな」
「やけに実感を込めて言うではないか」

 経験でもあるのか。なんとなくいらいらしてしまい、鼻の頭に噛みつくと、驚いた顔をされた。毛布の上に押し倒されて、一か所ボタンを外した合わせ目から、ユストゥスの手がシャツの中に入り込む。あ、服。服脱いでないぞ。

「ユス、服を……お前の匂いが」
「夜抜け出て、俺のところに来るのがバレてて、それで孤児院公認で夕方出てくること許可もらってて、俺の匂いの付いたスカーフ巻いて……それでいて、今お前俺に……あー勃ってきた」
「あっ、待てユストゥス!お前に話すことが!!」
「あん?別に後でもいいだろ。お嫁様だって、俺のちんこ欲しいくせに」

 欲しいは欲しいのだが、でもたぶん、ユストゥスに気づかれるより、自分から伝えておいた方が色々私の身が危なくなくていいはずだ。ユストゥスの顔をジュストでぐいぐい押し退けながら、私は叫んだ。

「ライニールに!首に吸い付かれた!!」
「……どこに、吸い付かれたって?」

 ほら!ほらぁ!!こいつのことだ、急に不機嫌になると思ったのだ!あれだけ他の男に私を勧めながら、ライニールは駄目というのが意味がわからん!うう……。

「ここだ。……痕、残ってるか?」

 ストールをゆっくりと外して、私の狼に首筋を見せる。自分ではうまく見えないが、そこには確かに、ライニールの付けたキスマークがあるらしい。ユストゥスの指が、私の首筋をなぞる。ぐる、と不機嫌そうにユストゥスは喉を鳴らした。私が悪いことをしたわけでもないのに、思わず首を竦めてしまう。

「でもっ、ちゃんと、私はライニールに交尾はしないと言ってきたぞ?偉いな?私は偉いだろう??」

 そうだ。ただでくれるというおちんぽを一本、ユストゥスの意見に従って、断腸の思いで投げ捨ててきたのだ。ユストゥスは、偉いと私を褒め称えるべきなのだ。怒られる筋合いはない。褒めろ!

 じろりと睨みつけると、ユストゥスは無言でぷちぷちと私のシャツのボタンを外した。サスペンダーをキュロットから外し、ファスナーを下ろしていく。締め付けがなくなったところで、キュロットを脱がされた。
 下着を性器の形をなぞるようにゆっくりと指を這わせる。それだけで、私ははしたなく陰茎を勃たせた。ぎゅっと、ジュストを胸に抱く。

「ユス、黙るな。怖い。私を褒めろ」
「……そうだな。偉いぞクウ」

 ふふん。やっと褒めた。もっと褒めていいのだぞ。あっ、服。服脱がねば!あとジュストが!ユストゥスに触られると、私は前後不覚になってしまって、ジュストを放り投げてしまう。最初から別のところに置いておきたい。
 私がもぞもぞと動きうつ伏せになり、ジュストを端に座らせようとすると「持ってろ」と言われた。

「な、っん、ばか、ふくに匂いが」
「いい。公認ってことは俺の匂いいくらつけてもいいってことだろ?黒豹のガキは、クウが俺のだってわかってねえようだから、全身に匂い付けしてやる。今日は魔具で綺麗にしてやれねえから。わりいな」
「っ、そ、孤児院には他にも人がいるのだぞ!やっ、お、お前が!元々匂いをつけないようにと」
「ああ言った。でももう事情が違う。孤児院にもう用はねえからな。お嫁様が俺の、雄の匂いをぷんぷんさせても問題ない」

 い、いいのか?悪いのではないのか?エリーアス様ならこんなとき何というだろうか。群青騎士が抱かれてることは、他の無関係な人間にはバレてはいけないはずだ。でも、今は私は幼児で、ユストゥスのつ、っま、になる予定で、結婚する予定で……。

 私が動揺したまま考えていると、ユストゥスが私の尻に顔をうずめてきた。下着を脱がさないまま、ぺちゃぺちゃと舐められる。唾液が多くてすぐに、そこはべしょべしょになってしまった。

 こいつ、本気で、私にこのまま……!

「やっ、やめろ。お前、リリに尻尾の毛抜かれるぞ!?ギィスにだって噛みつかれるし、ブラムだって突進してくる!跳ね飛ばされるからな!」
「っは、いやがるお嫁様、あんまないから新鮮だな……」

 掠れた背筋がぞくぞくとする色っぽい声で囁いてくるから、私はふにゃりと力が抜けてしまった。持っていろと言われたので、引き寄せて頭上に置いておく。
 ずるりと下着を下げられたが、太もものあたりで止められた。フリルシャツは着たままだし、靴下も、靴も履いたままだ。おそらくキュロットスカートがただのスカートだったなら、そのままたくし上げられて、挿入されていたことだろう。ぺったりとうつ伏せになったまま、私は尾を舐めて、甘噛みしているユストゥスを見下ろしてため息をつく。

 暴走する子供たちを押さえるのは、いったい誰だと思っているのだ。私なのだぞ?またギィスには尻の匂いを嗅がせなければならないし、ツェルリリにはもう一つ、何か交換しなければ、言うことを聞いてくれないかもしれない。ああ、でもブラムだけはきっと大人しくしてくれるに違いない。いい子だなブラム。私の癒しになってくれ。

 いろんな思いを込めながら、「……あいして、ばか」と呟くと、罵られたはずのユストゥスは、なぜかおちんぽをギンギンに大きくして、のしかかってきた。
 ぺろんとうなじを舐められ、がじがじと噛まれる。すでに噛まれた鬱血が痛いが、それでも嫌がらないのはどういうことなのだろうな、私。

 罵られて勃起する変態に犯されて、私はたっぷりと、全身に狼の匂いを擦り付けられてしまった。ああ……先生方の引きつる顔が想像できる。なんと言い訳をしようか、私はユストゥスの尾をブラシで梳きながら、大きくため息を付いてしまった。


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