きもちいいあな

松田カエン

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獣軍連邦潜入編

幕間:軟禁されてる僕<エリーアス視点>

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 僕が群青魔道騎士団本部に、監禁されてもう2週間が過ぎた。クンツはもうすでに、あの獣感あふれる首都に到着した頃だろう。びっくりして、あの巨木から落ちたりしないかなー。僕は初めて招待されたときは、厳重な移動ばかりでよく見れてなかったけど、あそこ観光地にしたらすごくいっぱい人が来ると思う。面白いし。
 クンツは浮遊魔法も使えないから、足元おろそかにしてないか考えると、ほんと不安は尽きない。

 僕が押し込められている部屋は、本部に滞在する来客用の客室……という名の煌びやかな監獄だ。ふかふかの絨毯に壁には高いらしい肖像画や、飾り棚の上には凝ったデザインの胸像なんてものも置かれている。あれ全部、監視用の魔具なのは知ってるんだけどね。
 嵌め殺しの採光窓のおかげで、日中でも明かりをつけずに事足りるけど、部屋全体に見えない監禁用の魔法陣が描かれていて、さすがの僕でも突破するのは時間がかかる。他にはキングサイズのベッドと、丸いテーブルに一脚の椅子しかない。細工は凝ってるけど、うっすらと魔力が漏れてるから、これも何かの魔具だ。

 はー……別にこんなところに閉じ込めなくても、あることないことちゃんと話す気なのに、ルカリオ・マルツィオ……ルカの念の入れようったらない。
 団長も承知の上だろうけど、僕を監禁している主犯は副団長のルカだ。同じ副団長でも、ドマニが相手なら、結構簡単に騙されてくれるのに。腹黒と腹の探り合いとか、あーやだやだ。
 っていうか閉じ込めてから、誰も僕に事情聴取してくれないんだけど、あからさまな時間稼ぎにもほどがある。
 ベッドに自堕落に寝転がるのも飽きてしまい、腕立て伏せや腹筋などをして身体を鍛えていると、ドアを叩く音が聞こえて、今日の食事が運ばれてきた。

「しっ、失礼いたします!」

 声を裏返しながら入室してきたのは、うちの寮の研修制服と似た服を身に着けた、鼻の上に散ったそばかすがとてもチャーミングな、見目若い黒髪の少年だった。
 彼は、本部に下働きとして買われた奴隷で、ここに来てから、僕とはもうすでに何度も顔を合わせている。

 彼が持ってきたトレイの上には、僕の食事のスープやパン、メインディッシュの鴨肉のソテーなどが並べられていた。湯気も立ってるし美味しそうなんだけど、まー悲しいかなほとんど食べれないけどね。本部には群青騎士の事情を知らない職員も多いから、カモフラージュだ。実際のメインディッシュはである。

 この子は、クンツみたいに全然性交したことありません、って感じのピンクのつやつやした亀頭を持ってて、でもそれでいて体つきに対して、大ぶりな性器の持ち主だった。僕に好意を持ってくれているおかげで、結構すぐに精液を出すし、ちょっとしゃぶってやるだけで、すぐにビンビンに勃たせてくれるからとても助かっている。

「ああ、ありがとう」

 テーブルの上にトレイを置いた彼に礼を口にしつつ、魔法で汗を浄化する。そんな僕を、彼は顔を赤くしながらうっとり見ていた。僕はこの部屋から出れてないし、シャツにスラックスという出で立ちで、騎士らしい素振りは全然見せてないんだけど、それでもラフな格好でもかっこいいです!と拳を握って、声を張り上げてくれるぐらいには、僕のことが好きらしい。

「今日も1人で食事をするには味気ないから、付き合ってくれる?」
「お、俺で良ければぜひ!!」

 少し被せ気味に頷いてきた少年に微笑むと、僕は彼に近づいた。距離が詰まってわずかに引いた彼の側頭部に素早く伸ばし、催眠魔法をかける。魔力を持っている貴族なら、少しぐらいは、雑音のようなものを感じるだろうが、魔力を持たない彼は何の疑いもなく、僕の魔法にかかった。
 少し瞳孔が開いた目が僕を捉える。よしよしいい子だねー。

「さあ、ここに腰掛けて」
「……はい」

 本来なら僕が座るべき椅子に彼を座らせて、カトラリーを持たせて食事をさせる。料理を残してたら、僕を大好きな人たちが心配するかもしれないからねー。一輪隊隊長の僕が、ここに監禁状態ってことだけで、だいぶ何事って思われてるんだろうけど。

 ぎこちなくナイフやフォークを動かして、食べ始めた彼の足元にしゃがみ込むと、足を開かせて、身に着けているスラックスのベルトを外し、ファスナーを下ろして、まだ少しも反応を見せていないペニスを引っ張り出す。

「じゃあいただきます」
 ぱくっと僕は、彼のペニスを口に含んだ。

 僕のフェラで勃たない男なんていない。彼も初々しい性器を力いっぱい大きくしてくれて、間違って射精しないように気をつけながら跨って、きっちり3回搾り取る。帰るときはよろよろしていた。

 いつも美味しい精液ありがとう!でもその記憶は残してあげられなくてごめんね!

 日に3回、それぞれ違う奴隷がローテーションで来てくれるけど、ほんっとに団長もルカもドマニも顔を出さない。マインラートやベッカーも寄越さないなんて、徹底してる。彼らは彼らで別に事情聴取されてそうだけど、僕にやらされたことを話す程度なら問題ないはずだ。
 嘘はつけない。彼らが結ばれる奴隷契約は、そういうことになっている。ただ、話さない、話をはぐらかす、ということは出来るはずだ。マインラートならうまくやる。

 ベッカーは……どうだろうか。あれでも軍人だったし、そのあたりうまく……ああでも、うまくできなかったから、他国に奴隷として売られてしまったのかもしれない。不安だなあ。マインラートのに付き合ってる気配があるから、そっちで誤魔化し利かないようなことになってないといいけど。

 僕が頼んだ改ざんとは別に、マインラートがなにかしているのは知っている。でも僕は関与していなかった。マインラートもどうせ、僕には何も話してくれない。どうかこれ以上、お立場が悪くならないように、王家に仇なすようなことは、やめていただきたいのだけどね。でもどうせ、あの方は僕の言うことなんて、少しもお聞きくださらない。

 それに群青騎士団本部だって、本気で僕を法の裁きにかけるつもりは毛頭ないはずだ。司法預かりになるわけじゃなく、本部での監禁に済ませてる。改ざんに関して、僕を拘束するような魔具はつけられていない。群青騎士団でどうにか収集は付けたんだろう。あとで団長には謝っておこうっと。

「はー……ねえルカ、もうさー部屋にいるの飽きたんだけど。もうそろそろ証拠固めも終わった頃じゃない?事情聴取してよ、今なら何でも話すよ。今日のパンツの色だって話すからさーねえねえ」

 監視用の魔具が仕込まれた胸像に、寄り掛かりながら訴える。人の視線を感じて、振り返ったら胸像がある、なんて随分とわかりやすい。他にもいくつか僕を眺めている目があるのは知っているが、でもここが一番あからさまだった。

「ルカーねえルカ。そろそろほんと、出してくれない?僕、いい飼い犬してるじゃん。ほら君が言うなら、3回回ってワンって吠えるからさー。舐めろって言うなら靴裏だって丁寧に舐めるし……どうしてもって言うなら、僕の尻穴貸してあげてもいいし」

 体内魔力で、セーフティーネットを作れれば、腹を壊さない。クンツはそこまで魔力練度が高くないから、よく可哀想なことになってたりするけどね。だって僕のカウパーでもお腹壊しちゃうんだよクンツ。ごろごろ鳴るお腹を抱えて具合悪そうにしているのは……結構可愛い。
 ユストゥスに噛み殺されそうだから言わないけど。うちの寮でネット作れるのは……うん、僕ぐらいかな!結構繊細な魔力操作が必要だしね。頑張って作れるようになっても快感に流されてたら、すぐに綻び出ちゃう。クンツなんかは5分と持たなさそう。あの子本当に快感に弱いから。

「だからねえ。僕が大人しくしてるうちに、外に出してよ」

 確かに好き勝手したのは僕だけど。でも僕だよ?
 他の誰でもない、英雄エリーアス・シュリンゲンジーフだ。傍若無人に振舞うのがだ。
 ずっと頭を押さえこまれて、黙ってるような人間だと思わないで欲しいなあ。ルカ、知ってると思ってたんだけどね。

 僕の訴えが届いたのか、それから1時間後に、僕はルカに呼び出しを受けた。

 僕を連行……引率するのは、ルカが率いる五全隊の副隊長だ。一応同僚になるけど、あんまり好きな相手じゃない。ルカに心酔しきってる信者だ。五全寮に入る群青騎士は、みんないつの間にか、そんな風になる。リンデンベルガーの洗脳魔法を応用してるって話聞いたことあるけど、藪蛇になるから深くは調べてない。

 でもそのくせ、面倒なリンデンベルガーの騎士自体は、ドマニが率いる四聖寮に押し付けっぱなしだ。

 有事の際のは、集めておいた方がいいって考えにはそもそも賛同しかねる。あとクンツは、初めから魔肛を受け入れられる、とっても可愛い子だったから、一輪寮に強引に引っ張った。……バルタザールも四聖寮の寮監のように、疲れ切ってしまわないといいけど。
 数年前、彼らを助けたいと熱意をもって語った四聖寮の寮監は、次々に殉死していく彼らに耐えられなくて異動届を出したと聞いた。群青騎士団関連ではあるが、だいぶ違う、末端の安い仕事に就くらしい。人の生き死には関係ない職だ。

 クンツはまだ、リンデンベルガーの騎士の中ではすごく扱いやすく、それでいて程よく抑制が効いている。あれだけ惚れているっぽいユストゥスには『嫌い』と言ったままだ。
 途中でそれが『好き』に変わったら危ない。その時点で、クンツはユストゥスのことを可能性がある。

 リンデンベルガーの騎士は、未練を残さないように、未練になるような記憶自体を失う。

 ユストゥスはこのことを知らないはずだから、教えておけばよかった。
 寮内に……国内にいる間なら、まだ僕がどうにかできるのに。専属奴隷がユストゥスだから仕方ないけど、本当はベッカーあたりが同行した方が問題なかったはずなんだよね。ベッカーは手を出してないし、彼のために死なないという選択肢は、クンツにはないだろう。でもたぶん、ユストゥスは違う。躊躇する可能性がある。だから、クンツはユストゥスのことを嫌いなままでいる。……無意識の抑制って凄いね。

 はー……早く獣群連邦に、迎えに行きたい。

 弱みを見せるようなことはしないけど、でも内心ぎりぎりと奥歯を噛み締めていると、本部の10人程度が入れる会議室に通された。
 そこには、ルカリオ・マルツィオだけがいた。広くない会議室だ。木のテーブルを挟むように向かい側にルカが座り、ドア側にはもう一つ椅子が置いてある。勧められもしないうちに、僕はその椅子に腰かけ、テーブルに肘をついて、頬を支えた。

「やあエリー。浮かない表情だなあ」
「2週間も押し込められてたらそりゃあね。僕はナイーブなんだから、丁重に扱ってよ」
「だれがナイーブだって?こんなに堂々と資料改ざんしておきながら……よくわかんないのも混じってるんだけど、このあたりの説明、してくれるんだよなあ?」

 どさり、と僕とルカの間に置かれた資料の多さに、内心めまいを覚える。そりゃいろいろ改ざんしまくった記憶はあるけど、僕は匂いと見た目に関するものを主に変えただけで、それ以上に改ざんされた書類が多い。気象観測に関する論文や、化粧品の成分に関する報告書?ナニコレ。
 マインラートは便乗して、。……ああでも、あの方は僕が聞いても、絶対答えてくださらない。

 そんなもろもろの葛藤は少しも見せずに、僕はにっこりと笑った。

「どうしようっかなぁ。ルカがあんなに長く、僕を閉じ込めたりしなかったら、素直に答えられたと思うんだけどね~」

 ここで話を長引かせるのなんて、悪手もいいところだ。本当なら全部洗いざらい話して、すぐさま王都を出た方がいい。早く迎えに行ってあげないと、ユストゥスは別として、おそらくクンツは二度とこの国には戻ってこれない。
 僕は何度も共同戦線任務で獣群連邦に入った結果、客分としての身分があるから、他の人間よりあの国に入りやすい。首都に入るにも、僕たち諸外国の魔力を持つ貴族は、何重もの申請書やら魔力量検査などを経る必要がある。首都に入るだけで一カ月はかかるだろう。そういうところが鎖国的なんだよね、あの国。
 でも魔力を持たずに生きる彼らにとって、貴族は魔族並みに恐ろしい生き物だろう。だからこそ僕の外面が生きてくるんだけど。

 でも、それはそれ。これはこれ。

 ルカのむかつく笑顔見てたら、素直に答えてやろうなんて気は、さらさらなくなってきちゃう。ごめんクンツ、ちょっとだけ待っててね、国境さえ越えられれば僕の魔力なら、一瞬でそっち着くから。一旦連邦に入っちゃえば、抜けるのは結構楽。あとで国交問題に発展しても、僕はしらを切る。

「っていうと思ったぜ」

 にやーっと気持ち悪い笑みを浮かべたかと思えば、ルカは僕の前に、一つの魔具を差し出した。手のひらに隠れそうな小さなキューブで、表面に刻まれた魔法陣を見る限り……何かの記録用の魔具らしい。
 僕が訝しがっていると、ルカは「疑うのもわかるけど、まずは再生してみな」と余裕綽々の表情でのたまった。その表情がやけに気にかかるが、ひとまず手に取り、魔力を通す。すると、がさがさと物音が聞こえた。

『マルツィオ様のばかっ!…………あっ、違う。今日は謝らなければならないのです。すみません。通信魔具の、ぬいぐるみを壊してしまいました。なので、今はべつのぬいぐるみに入れています。目つきの悪い、かわいくない狼のぬいぐるみです。うまのぬいぐるみより大きいのです。手触りは柔らかいです。ツェルリリにも取られない、素晴らしいぬいぐるみです』

 流れてきた声は、明瞭で、間違いようもなかった。クンツ・リンデンベルガーの声だ。思わずそこに本人がいるかのように、ゆっくりと指先で魔具を撫でる。

「……これは」
 延々とぬいぐるみについて語る小さな箱に、僕は思わず口元を押さえながら、ルカに尋ねた。だめだこれ、口元がにやける。ルカはそんな僕を見透かしたように、うんうんと頷いた。

「獣人になったリンデンベルガーの、日常生活報告。報告……なのか?よくわからん。予定通り一週間に一度、もっときちんとした任務報告は届くんだけどよ、それ以外はずっと、お友達の大猩々獣人にぬいぐるみ取られたとか、尻の匂いを子供の獣人にずっと嗅がれてるとか、専属奴隷が忙しくてキスが足りないとか、俺に対しての愚痴とか、そういうのがひっきりなしに届くんだぜ」

 いやこれ、ルカが得意満面なのもよくわかる。僕が思わず浮足立つのを想像してたんだろう。見透かされてて悔しい。クンツなんでこういうのを僕に言ってくれないんだ、ルカ鬼畜にこんなこと言ったら、後が怖いぞ。でもその前に。

「ぬいぐるみってなに?」
「ほら、あのリンデンベルガー、ガキの獣人に思われてんだろ?魔具らしい形が見えない方がいいからな。通信魔具の擬態に、うまのぬいぐるみに入れたんだ。んで、通信魔具に付属で魔石つけて、リンデンベルガーがいなくても音を集音させとこうと思ってたんだけどな。何がどうやったら取れるかわかんねえけど、魔石が魔具の撚糸から取れちまって、途中から全然聞き取れてねえの。でも代わりに、こういうかわいー感じの報告が「全部買取するから複製して。いくら?ってかずるくない?ルカより僕のこと罵ってほしい。今度お願いしてみるかな。……で、いくら?」」
 敬語を使うクンツもレアだ。これはぜひとも全部聞きたい。僕がその貰ったキューブをポケットにしまいながら尋ねると、そこでまたルカがにやーっと笑った。

「金なんかじゃ渡せねえなあ。わかんだろ?この資料のせ・つ・め・い」
 ルカにぱんぱんと手の甲で資料を叩きながら、満面の笑みを浮かべられてしまった。


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