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12)見知らぬ高校生

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 信夫は、背の高い高校生二人を連れて氏川の自宅から近いスーパーで買い物に来ていた。
世間的に大きなイベント事のない今時期、オードブルなんて売り出している時期なのか?と思いながら来てみたが、やはり、そういったものは置いていない。
あるのは、一人前の弁当や惣菜だ。

「こういうの寄せ集めれば良いんじゃないっすか」
 
 俊が並ぶ弁当を見ながら提案するが、大人としては少しは良いものを出したいものだ。
信夫は自身の財布の中身を確認し、スマートフォンで近場にテイクアウトが可能な店を検索し始める。

 不慣れな手つきで検索していると、圭太が隣で同じことを検索し始める。
やはり若者には敵わないようで、圭太の方が情報を収集するのは早かった。

「この店とか」

 圭太から提案された店は、見た目が良く色鮮やかな多種類の料理が掲載されていた。
値段も手頃で、そしてテイクアウトも充実しているという情報が記載されている。

 育ち盛り食べ盛りの高校生相手は、安く美味い店を見つけるのが上手い。
大人としての威厳を見せるつもりではあったが、若者の行動力には敵わなかった。

「いいな、そこにするか」

 三人は店へと向かう前に、電話でテイクアウトの注文をするが、今からでも早くて三十分ほど時間が必要だと告げられた。
三十分なら想定内だと判断し、三人は店から近いゲームセンターで時間を潰すこととなった。

 ゲームセンターへ行きたいと申し出たのは、俊だ。
どうやらお気に入りのVRゲームがあるようで、俊は箱型のゲーム機から出てこない。
熱意に負けて来てみたはいいが、さっぱり今のゲームには着いていけない信夫は、懐かしいアーケードゲームを目に入れた。

「若い頃によくやったなー」

 俊もゲームに集中している上に、圭太は飲み物を買いに姿を消してから戻ってこない。
信夫は、久しぶりに目にするゲームをやることにした。

「げっ!今どきのゲーム一回二百円もするのか」

 懐かしいゲームタイトルが画面に浮かぶ、格闘技のアーケードゲーム。
タイトルは同じだが、シリーズになっている様で中身は最新のようだ。

だが、暇つぶしと懐かしい気持ちを優先した信夫は、財布の中から小銭を出し始める。

 二百円を入れ、タイトル画面から懐かしいメロディーが流れると、信夫のテンションは一気に上がった。
だが、タイトル画面に映し出された文字には、プレイヤーがもう一人必要だと記されている。

「なんだ?」

 どうやら、二人プレイ用は二百円という事だったらしい。
和司は、慌てて返金ボタンをガチャガチャ鳴らすが、キャンセルは不可能。
プレイヤーがもう一人いないと始まらない挙句にキャンセルができない状態で、和司は頭を悩ませた。
 圭太が早く帰ってきてくれればいいのにと思っていると、見知らぬ茶髪の高校生が近づいてくる。

「おっさんどうしたの?間違えて入金しちゃった感じ?」

 どういった状況なのかを高校生にすぐに把握され、信夫はばつが悪い表情を見せた。

「これ最新版でさ、二人ペアでプレイできるやつだよー。たまにいるんだよね、懐かしいからってプレイしようとしてさ、間違って二百円入れちゃう大人」

 と、無邪気に笑いながら高校生が隣に座る。

「はい、百円。俺もやるよ。あ、向こう側の台と対戦ねー。俺のダチだから安心して」

 高校生が百円を信夫に渡し、一緒にプレイしようと誘ってくれた。

なんて優しい高校生だ。
信夫は彼らの優しさにジーンと喜びを感じながら、一緒にプレイを楽しむことにした。

 十分程度の格闘ゲームは、三人の高校生と共に白熱した戦いとなった。

「おっさん超うまい!ベテランじゃん!」

 隣に座った高校生が、ハイタッチをしながら無邪気に笑う。

明るい髪以外は誠実そうな少年。と、信夫は彼に良い印象を持った。

「……のぶおじさん……なんでそいつらといるの?」

 盛り上がっている時に、俊と圭太の凍り付いた表情が向けられている事に気づいた。

「おー二人とも、そろそろ時間か?」

「なんでそいつらと居るんだって聞いてるんだよ!」

 俊が荒げた声で叫ぶ。

賑やかな音が流れる室内に、ビリッとした空気が流れた。

「なんだ?知り合いか?」

 怒鳴り声を耳入れ、信夫は空気を読もうと努力する。
だが、どう答えても正解にはならないような雰囲気であった。

「へー。お前らいたの?今日あのねずみっころはどうしたの?」

 先ほどまで無邪気に笑っていた高校生の軽やかだった声色が、重さと低さを出した。

「おじさん、こいつらの連れだったのー?マジかー」

 やっちまったという表情で、高校生が立ち上がった。

「お前らが一緒で、呼び名がのぶおじさんって事は、こいつがあの運命ってやつ?うわー気持ち悪い。仲良くして損したわ」

 軽蔑するような、そんな声と口調。
彼は、ハイタッチした事を後悔しているとあからさまに解るように、自身の服で強く手を拭って見せた。

「関根……てめぇ」

 俊が睨む高校生の名前は、関根というらしい。

空気は重く、今にも喧嘩を始めそうな雰囲気であった。
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