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10)成長しても見た目は子供
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あの頃の少年は、十八歳という大人の一歩手前になった。
の、はずなのだが……。
「信夫ぉぉ!久しぶり!」
飛びついてきたのは、十八歳には到底見えないほど、小柄な身体とあどけない顔を持つ男。
だが彼、宮登はしっかりと歳を重ねた、十八歳の高校三年生であるのは間違いない。
「オッサンと並ぶと、ミースケが小学生にしか見えねぇな」
「みーは童顔だから」
低い声の会話が耳に入る。
宮登が現れる時は、必ず男二名がおまけでついてくるのだ。
「三人とも、申し訳ないっすね。助かるっす」
明美がいつもの可笑しな口調に戻って、彼らを出迎えた。
バスケットが得意そうなほどの高身長が目を惹く、顔が柴犬のような男、麻見田俊。
同じくらい背の高い、表情筋が死んでいるのではないかと思うほどに、硬い顔をした真面目そうな男、湖沢圭太。
二人は近くの高校に通う、現役の高校三年生で、宮登の同級生ある。
「んにゃ、いいんすよ。若い力のプライスレス!」
「子守なら、俊の方が役に立ちますよ」
「え?あ、うん。そうそう!俺、下の兄弟多いから面倒見るの楽勝だよん」
男子高校生とは、こんなにも軽い空気を持っているのか。
信夫はべったりくっついて離れない宮登よりも、二人の存在に目を向けた。
「あ、のぶおじさん。お久しぶりでーす」
俊がボールの弾むテンションで、信夫に声を掛けた。
今まで、信夫の存在を忘れていたというような態度。
そして流れるように名前と組み合わせて使われている、おじさんというワード。
信夫は年上への敬意を払ってほしいという気持ちを滲ませたが、実際に三十を超えた男に向けられる通称はこれに限る。
ましてや、十代という若い年の頃からしたら、それが自然体な呼び名だろう。と、受け入れるしかない。
「さっきから、ずっといるよ」
「やぁねぇ、知ってますよー」
わざとだとは解っていたものの、指摘せずにはいられなかった信夫に、俊は冗談だとケラケラ笑う。
「さて、来てもらってすぐで申し訳ないっすけど、この荷物二階に運んでほしいっす」
パンッと手を叩き、皆の視線を集めた明美が、大まかな役割をその場にいる全員に言い渡した。
一階のキッチン周りの荷物を取り出し、食器を乾拭きすることを頼まれた信夫は宮登とペアになった。
「お前、ワザとだろ」
信夫は明美を睨みつけた。
「えー?何のことっすか?」
「じゃないと、こんな役割分担にならないはずだ」
「みやっちゃんは先輩と居たいみたいっすよ?」
てへっと古臭い仕草を見せる明美に、信夫はイラッとした表情を見せる。
隣で黙々と段ボールのガムテープを剝がしては、中身の食器を丁寧に拭く宮登。
手が小さく不器用なのか、ガムテープが上手く剥がれていない上に、ボロボロに開けられた段ボール。
出す食器を拭く仕草は丁寧ではあっても、気が緩むと割ってしまうのではないかと思う程にぎこちない動き。
そんな宮登を目に入れ、信夫は仕方なくその作業に加わった。
「ほら、貸せ」
二つ目の段ボールに手を付け始めようとしていた宮登に、信夫は声をかけた。
「うん、ありがとう」
昔なら、こんなに素直ではなかっただろう。
宮登は見た目は幼さを残したが、しっかりと成長をしていた。
会えば喜んで飛びついては来るが、そこで終了。
それ以外は、空気のように大人しくなることが増えた。
「ミースケ!これ取れるか?俺らの手だとデカくて無理なんだよぉ!手伝って!」
俊が宮登を呼んだ。
「あー?んー、いいよー。つか何それ?」
呼ばれた方へと、宮登が向かう。
八年前は、頭を悩ますほどに迫ってきていたが、高校に上がってからは場所を弁える様になった。
話し方も、子供にしては年寄り臭い口調だったギャップもなくなり、若者らしい言葉を使う様になっている。
宮登は、転生したという事を口にしなくなっていた。
忘れているという訳ではない。
人間としての常識が少しは身についてきている、と云うのが正しいだろう。
人間らしい、心を身に着けて成長をした。
特に、ここ最近になって強く思う。
周りの環境が良かったのだろうと、信夫は思っている。
子供の成長は大人にとっては嬉しい。
寂しい気持ちも生まれるのも、確かにあるという。
どうしてだろうか、すっきりしない気持ちに信夫は襲われる。
嬉しいや悲しいという気持ちでは無い何かが、奥底で引っ掛かっているのだ。
―――宮登はこのまま、時間の経過と共に変わってしまうのか。
そう思ってしまう自分に、信夫は疑問を抱いていた。
の、はずなのだが……。
「信夫ぉぉ!久しぶり!」
飛びついてきたのは、十八歳には到底見えないほど、小柄な身体とあどけない顔を持つ男。
だが彼、宮登はしっかりと歳を重ねた、十八歳の高校三年生であるのは間違いない。
「オッサンと並ぶと、ミースケが小学生にしか見えねぇな」
「みーは童顔だから」
低い声の会話が耳に入る。
宮登が現れる時は、必ず男二名がおまけでついてくるのだ。
「三人とも、申し訳ないっすね。助かるっす」
明美がいつもの可笑しな口調に戻って、彼らを出迎えた。
バスケットが得意そうなほどの高身長が目を惹く、顔が柴犬のような男、麻見田俊。
同じくらい背の高い、表情筋が死んでいるのではないかと思うほどに、硬い顔をした真面目そうな男、湖沢圭太。
二人は近くの高校に通う、現役の高校三年生で、宮登の同級生ある。
「んにゃ、いいんすよ。若い力のプライスレス!」
「子守なら、俊の方が役に立ちますよ」
「え?あ、うん。そうそう!俺、下の兄弟多いから面倒見るの楽勝だよん」
男子高校生とは、こんなにも軽い空気を持っているのか。
信夫はべったりくっついて離れない宮登よりも、二人の存在に目を向けた。
「あ、のぶおじさん。お久しぶりでーす」
俊がボールの弾むテンションで、信夫に声を掛けた。
今まで、信夫の存在を忘れていたというような態度。
そして流れるように名前と組み合わせて使われている、おじさんというワード。
信夫は年上への敬意を払ってほしいという気持ちを滲ませたが、実際に三十を超えた男に向けられる通称はこれに限る。
ましてや、十代という若い年の頃からしたら、それが自然体な呼び名だろう。と、受け入れるしかない。
「さっきから、ずっといるよ」
「やぁねぇ、知ってますよー」
わざとだとは解っていたものの、指摘せずにはいられなかった信夫に、俊は冗談だとケラケラ笑う。
「さて、来てもらってすぐで申し訳ないっすけど、この荷物二階に運んでほしいっす」
パンッと手を叩き、皆の視線を集めた明美が、大まかな役割をその場にいる全員に言い渡した。
一階のキッチン周りの荷物を取り出し、食器を乾拭きすることを頼まれた信夫は宮登とペアになった。
「お前、ワザとだろ」
信夫は明美を睨みつけた。
「えー?何のことっすか?」
「じゃないと、こんな役割分担にならないはずだ」
「みやっちゃんは先輩と居たいみたいっすよ?」
てへっと古臭い仕草を見せる明美に、信夫はイラッとした表情を見せる。
隣で黙々と段ボールのガムテープを剝がしては、中身の食器を丁寧に拭く宮登。
手が小さく不器用なのか、ガムテープが上手く剥がれていない上に、ボロボロに開けられた段ボール。
出す食器を拭く仕草は丁寧ではあっても、気が緩むと割ってしまうのではないかと思う程にぎこちない動き。
そんな宮登を目に入れ、信夫は仕方なくその作業に加わった。
「ほら、貸せ」
二つ目の段ボールに手を付け始めようとしていた宮登に、信夫は声をかけた。
「うん、ありがとう」
昔なら、こんなに素直ではなかっただろう。
宮登は見た目は幼さを残したが、しっかりと成長をしていた。
会えば喜んで飛びついては来るが、そこで終了。
それ以外は、空気のように大人しくなることが増えた。
「ミースケ!これ取れるか?俺らの手だとデカくて無理なんだよぉ!手伝って!」
俊が宮登を呼んだ。
「あー?んー、いいよー。つか何それ?」
呼ばれた方へと、宮登が向かう。
八年前は、頭を悩ますほどに迫ってきていたが、高校に上がってからは場所を弁える様になった。
話し方も、子供にしては年寄り臭い口調だったギャップもなくなり、若者らしい言葉を使う様になっている。
宮登は、転生したという事を口にしなくなっていた。
忘れているという訳ではない。
人間としての常識が少しは身についてきている、と云うのが正しいだろう。
人間らしい、心を身に着けて成長をした。
特に、ここ最近になって強く思う。
周りの環境が良かったのだろうと、信夫は思っている。
子供の成長は大人にとっては嬉しい。
寂しい気持ちも生まれるのも、確かにあるという。
どうしてだろうか、すっきりしない気持ちに信夫は襲われる。
嬉しいや悲しいという気持ちでは無い何かが、奥底で引っ掛かっているのだ。
―――宮登はこのまま、時間の経過と共に変わってしまうのか。
そう思ってしまう自分に、信夫は疑問を抱いていた。
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