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1)ショタコン扱いされてます
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「俺は信夫と結婚する!」
近所に引っ越してきた家族の中に、小学四年生男児がいたのだが、どうやらその子に清水信夫は求婚されいるようだ。
「はいはい、結婚は女の子としようねー」
いつもの事だと軽く受け流し、いつもの通勤路を足早に進む。
今は仕事の忙しさで飼ってはいないが、昔からハムスターやリスなどの小動物が好きで飼っていたことがある。
彼はそのペットだったのだと、何かの漫画かアニメの影響であろう妄想をぶつけてきていると信夫は解釈している。
「俺たちは運命なんだ!何度転生してもお前の傍にいることは絶対運命なんだ!」
二十七歳、平均的な体と体力で取柄もなく、未婚な上にここ数年彼女なしという悲しい状況とは云え、入社して五年、やっと仕事が追い風を受けるようになり、忙しい時期に入った。
色恋沙汰など、考える余裕など信夫には到底ない。
近所の子供の戯言など、丁寧に相手するのも面倒なほどに、気持ちに余裕がない状況だ。
一人暮らし向けからファミリー向けまで、様々な間取りを所有するマンションに信夫は住んでいる。
信夫の部屋は一人暮らし用の間取りだが、隣がファミリー向けの為、騒音などの問題が入居前に多くあった問題の部屋ということもあり、とても安く入居することができた。
騒音も気になるほどではなかった為に、信夫はとてもこの場所が気に入っていた。
何より、今の時代ハムスターですら禁止とする賃貸物件が多い中、低賃金でペット可という魅力。
十七歳くらいからペットを飼ってはいなかったが、大学を卒業したらハムスターを飼おうと思い大学時代から変わらずにこの部屋に住んでいる。
就職して、落ち着いたら迎えようと思っていたが、なかなか運命的な出会いがなく、今はペットもいない本当の一人暮らし。
数か月前まで、隣には違う家族が住んでいたのだが、家を建てたという理由で退居してからすぐに、新しい家族が入居してきた。
「駒井です。ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします」
若い夫婦が、赤ん坊と小学生くらいの子供二人を連れて丁寧に挨拶に来た事は、今でも鮮明に覚えている。
「のぶお!」
まだ自己紹介もしていないというのに、信夫の名前を呼ぶ少年。
「清水……信夫です……」
驚いたものの、何かの偶然だろうと信夫は思った。
「え?宮登……清水さんを知ってるの?」
母親が驚いた顔で息子の顔を見つめると、宮登と呼ばれた少年はハッとした表情を見せる。
「ううん……前の学校の……のぶおくんに似てたから…」
こんなおっさん顔の小学生がいてたまるか。と、心の中で指摘する。
「ごめんなさいね。こんな家庭ですが、よろしくお願いします」
深々と頭を下げてきた母親と、赤ん坊を抱っこしていた父親が軽い会釈をして次の部屋へと挨拶に向かう。
「のぶおくんなんて学校にいたかしら……」
「隣のクラスだったから、ママはしらないよ!」
親の子会話を聞きながら、信夫は静かに玄関の扉を閉じた。
次の日から、信夫は宮登にしつこく付きまとわれる様になる。
家を出る時間が同じである事から、顔を合わせる事が多い事くらいは理解できる。
前の住人だった家族の子供も小学生で、同じ時間だった事もあり、気にする事ではなかったが、前に居た子供は軽く挨拶をする程度で、それ以上は、お互い興味関心のない良い距離を保った存在だった。
しかし、今回はちがう。
顔を合わせると挨拶どころではなく、しつこく付きまとってくるのだ。
宮登が通う小学校の前を通らないと、かなり時間のロスになってしまう通勤路。
小学校にさえ着いてしまえば、宮登も諦め校舎へ向かう。
軽くあしらえば、なんてことない時間である。
子供に好かれるのは、嫌なことではない。
ただ、内容が少し変だという事に疲れを感じる事がある程度だ。
「じゃあな、ちゃんと勉強してくるんだぞ」
ようやく小学校の校門前に辿り着き、足早に会社へと向かう。
拗ねる様子が目に入るものの、構っている時間などない。
「わかった!信夫とセックスする為に勉強をしてくる!」
背を向けて先へ進むと、大きな声で宮登が叫ぶ。
叫ぶ内容が、朝の人が多い公共の場で、堂々と発言できる内容ではない。
「え?ちょっとあの人……」
「やだ……子供に何教えてるのかしら」
「パパかしら?」
「あの子の父親は違うはずよ」
「え?じゃあ……きっと男児好きの変態よ!犯罪予備軍なんじゃない?」
「PTAに連絡する?それともすぐにでも警察呼ばなくていい?」
送迎に来た親や近所の人が、怪しい目で信夫を見てはヒソヒソと陰口を叩き始める。
陰口というよりは、誰が通報するかの談論をしていると言うほうが正しいだろう。
「あー!ゼノなんとかボックスな!帰ったら一緒にやろうな!」
焦った面持ちで振り返り、最近話題のゲームの名前を曖昧ながらにワザとらしく大声で叫ぶ。
「なんだか怪しいわね」
「焦っているように見えるわ」
「洗脳されているかもしれないわあの子、だからあの男焦っているんじゃない?」
「やっぱり警察に……」
女の話好きは、こういう所で厄介さを露呈させる。
「大丈夫です!本当に何でもないですから!」
威嚇するのも逆効果かもしれないが、反論せずにいられず、怒鳴るように言葉を投げた。
一瞬はピタッと止まった談論だったが、声を小さくしてまた何かを話し始めたのを目に入れる。
他人の会話など気にしている方が負けだと、諦めた気持ちをぶら下げて仕事へ向かうことを優先し、信夫はその場を発った。
――――――なんて日だ。
今日も業務が溜まっていて忙しいというのに、さっきの出来事が上乗せさせれて、心穏やかに過ごせそうにない。
会社に着いて、大きな溜息と共に重力に任せて椅子に腰かける。
「おーどうした清水」
「さっき見てましたよー変質者扱いされてましたねぇ」
ラグビーでもやっていたのかと思える体つきの逞しい男と、茶髪で眼鏡の小柄な女性が話しかけてくる。
隣の席の同僚である氏川と、後輩の明美という女性社員だ。
「え?ついに?」
「ついにってどういう意味だよ」
「ほらお前可愛いの好きじゃん。小さいくて丸いの」
「小動物が好きだって話が、どうしてそう繋がるんだよ」
信夫が小動物好きなのは、仲が良い人間なら誰もが知っている事。
信夫のスマートフォンの画面には、ハムスターの子供が集合して寝ている姿の画像。
それを見て癒され、顔を緩めて休憩時間を過ごしている事は、社内で有名な話である。
「小学生も小動物みたいで可愛いですよねー」
「お前!子供にまでスケベな顔するのか!ショタコンだったのか!」
「スケベな顔ってなんだよ!」
同僚に茶化され機嫌を尚更悪くすると、女性社員がフォローするかのように説明をする。
「セックスの勉強とかウケるんだけど!」
「子供のただの言い間違えだ!」
ゲラゲラと笑う同僚の首を、苛立ちの勢いと怒りを込めて筋張った腕で固める。
「私もあの道を通って出勤するんで、よく見かけますけどぉ。本当子供に好かれてて良いなぁって思いますよー」
「明美ちゃん……なんのフォローにもなってないから」
「サーセーン」
「いるなら声かけてくれよ」
「私、今忙しいんで。通勤時間の一人の時間も大事な時期なんで」
目の前に突きつけられたスマートフォンの画面に目にをやると、そこにはとあるゲームの華やかな画面がそこにある。
「今日ぉ、推しの誕生日イベントでぇ、今日限りの限定アイテムゲットする為に、卓回しまくってるんでぇ、命かけてるんで」
「たく?」
「あ、このキャラのジョブが雀士なんで、アイテムゲットするには卓回しって言ってぇ……」
明美は目を輝かせながら、お気に入りのキャラクターについて説明をし始めた。
お前はそういう奴だよな。という表情をして、信夫と氏川は呆れ顔で明美を見る。
「さって、仕事しますか」
肩を回しながら、自分の席へと氏川は戻る。
「えー?もう始めるんすか?まだアイテム埋まってないんすよー仕事休もうかな」
「来たならちゃんとやれ」
「へーい」
それが女の返事かよと指摘したくなるダルそうな返答を耳にしながら、信夫は二人の会話を微笑ましく聞く。
「よし、やるか」
朝の出来事の疲れなど忘れ、二人から元気を貰い、信夫の忙しく賑やかな日常が、今日も始まる。
近所に引っ越してきた家族の中に、小学四年生男児がいたのだが、どうやらその子に清水信夫は求婚されいるようだ。
「はいはい、結婚は女の子としようねー」
いつもの事だと軽く受け流し、いつもの通勤路を足早に進む。
今は仕事の忙しさで飼ってはいないが、昔からハムスターやリスなどの小動物が好きで飼っていたことがある。
彼はそのペットだったのだと、何かの漫画かアニメの影響であろう妄想をぶつけてきていると信夫は解釈している。
「俺たちは運命なんだ!何度転生してもお前の傍にいることは絶対運命なんだ!」
二十七歳、平均的な体と体力で取柄もなく、未婚な上にここ数年彼女なしという悲しい状況とは云え、入社して五年、やっと仕事が追い風を受けるようになり、忙しい時期に入った。
色恋沙汰など、考える余裕など信夫には到底ない。
近所の子供の戯言など、丁寧に相手するのも面倒なほどに、気持ちに余裕がない状況だ。
一人暮らし向けからファミリー向けまで、様々な間取りを所有するマンションに信夫は住んでいる。
信夫の部屋は一人暮らし用の間取りだが、隣がファミリー向けの為、騒音などの問題が入居前に多くあった問題の部屋ということもあり、とても安く入居することができた。
騒音も気になるほどではなかった為に、信夫はとてもこの場所が気に入っていた。
何より、今の時代ハムスターですら禁止とする賃貸物件が多い中、低賃金でペット可という魅力。
十七歳くらいからペットを飼ってはいなかったが、大学を卒業したらハムスターを飼おうと思い大学時代から変わらずにこの部屋に住んでいる。
就職して、落ち着いたら迎えようと思っていたが、なかなか運命的な出会いがなく、今はペットもいない本当の一人暮らし。
数か月前まで、隣には違う家族が住んでいたのだが、家を建てたという理由で退居してからすぐに、新しい家族が入居してきた。
「駒井です。ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします」
若い夫婦が、赤ん坊と小学生くらいの子供二人を連れて丁寧に挨拶に来た事は、今でも鮮明に覚えている。
「のぶお!」
まだ自己紹介もしていないというのに、信夫の名前を呼ぶ少年。
「清水……信夫です……」
驚いたものの、何かの偶然だろうと信夫は思った。
「え?宮登……清水さんを知ってるの?」
母親が驚いた顔で息子の顔を見つめると、宮登と呼ばれた少年はハッとした表情を見せる。
「ううん……前の学校の……のぶおくんに似てたから…」
こんなおっさん顔の小学生がいてたまるか。と、心の中で指摘する。
「ごめんなさいね。こんな家庭ですが、よろしくお願いします」
深々と頭を下げてきた母親と、赤ん坊を抱っこしていた父親が軽い会釈をして次の部屋へと挨拶に向かう。
「のぶおくんなんて学校にいたかしら……」
「隣のクラスだったから、ママはしらないよ!」
親の子会話を聞きながら、信夫は静かに玄関の扉を閉じた。
次の日から、信夫は宮登にしつこく付きまとわれる様になる。
家を出る時間が同じである事から、顔を合わせる事が多い事くらいは理解できる。
前の住人だった家族の子供も小学生で、同じ時間だった事もあり、気にする事ではなかったが、前に居た子供は軽く挨拶をする程度で、それ以上は、お互い興味関心のない良い距離を保った存在だった。
しかし、今回はちがう。
顔を合わせると挨拶どころではなく、しつこく付きまとってくるのだ。
宮登が通う小学校の前を通らないと、かなり時間のロスになってしまう通勤路。
小学校にさえ着いてしまえば、宮登も諦め校舎へ向かう。
軽くあしらえば、なんてことない時間である。
子供に好かれるのは、嫌なことではない。
ただ、内容が少し変だという事に疲れを感じる事がある程度だ。
「じゃあな、ちゃんと勉強してくるんだぞ」
ようやく小学校の校門前に辿り着き、足早に会社へと向かう。
拗ねる様子が目に入るものの、構っている時間などない。
「わかった!信夫とセックスする為に勉強をしてくる!」
背を向けて先へ進むと、大きな声で宮登が叫ぶ。
叫ぶ内容が、朝の人が多い公共の場で、堂々と発言できる内容ではない。
「え?ちょっとあの人……」
「やだ……子供に何教えてるのかしら」
「パパかしら?」
「あの子の父親は違うはずよ」
「え?じゃあ……きっと男児好きの変態よ!犯罪予備軍なんじゃない?」
「PTAに連絡する?それともすぐにでも警察呼ばなくていい?」
送迎に来た親や近所の人が、怪しい目で信夫を見てはヒソヒソと陰口を叩き始める。
陰口というよりは、誰が通報するかの談論をしていると言うほうが正しいだろう。
「あー!ゼノなんとかボックスな!帰ったら一緒にやろうな!」
焦った面持ちで振り返り、最近話題のゲームの名前を曖昧ながらにワザとらしく大声で叫ぶ。
「なんだか怪しいわね」
「焦っているように見えるわ」
「洗脳されているかもしれないわあの子、だからあの男焦っているんじゃない?」
「やっぱり警察に……」
女の話好きは、こういう所で厄介さを露呈させる。
「大丈夫です!本当に何でもないですから!」
威嚇するのも逆効果かもしれないが、反論せずにいられず、怒鳴るように言葉を投げた。
一瞬はピタッと止まった談論だったが、声を小さくしてまた何かを話し始めたのを目に入れる。
他人の会話など気にしている方が負けだと、諦めた気持ちをぶら下げて仕事へ向かうことを優先し、信夫はその場を発った。
――――――なんて日だ。
今日も業務が溜まっていて忙しいというのに、さっきの出来事が上乗せさせれて、心穏やかに過ごせそうにない。
会社に着いて、大きな溜息と共に重力に任せて椅子に腰かける。
「おーどうした清水」
「さっき見てましたよー変質者扱いされてましたねぇ」
ラグビーでもやっていたのかと思える体つきの逞しい男と、茶髪で眼鏡の小柄な女性が話しかけてくる。
隣の席の同僚である氏川と、後輩の明美という女性社員だ。
「え?ついに?」
「ついにってどういう意味だよ」
「ほらお前可愛いの好きじゃん。小さいくて丸いの」
「小動物が好きだって話が、どうしてそう繋がるんだよ」
信夫が小動物好きなのは、仲が良い人間なら誰もが知っている事。
信夫のスマートフォンの画面には、ハムスターの子供が集合して寝ている姿の画像。
それを見て癒され、顔を緩めて休憩時間を過ごしている事は、社内で有名な話である。
「小学生も小動物みたいで可愛いですよねー」
「お前!子供にまでスケベな顔するのか!ショタコンだったのか!」
「スケベな顔ってなんだよ!」
同僚に茶化され機嫌を尚更悪くすると、女性社員がフォローするかのように説明をする。
「セックスの勉強とかウケるんだけど!」
「子供のただの言い間違えだ!」
ゲラゲラと笑う同僚の首を、苛立ちの勢いと怒りを込めて筋張った腕で固める。
「私もあの道を通って出勤するんで、よく見かけますけどぉ。本当子供に好かれてて良いなぁって思いますよー」
「明美ちゃん……なんのフォローにもなってないから」
「サーセーン」
「いるなら声かけてくれよ」
「私、今忙しいんで。通勤時間の一人の時間も大事な時期なんで」
目の前に突きつけられたスマートフォンの画面に目にをやると、そこにはとあるゲームの華やかな画面がそこにある。
「今日ぉ、推しの誕生日イベントでぇ、今日限りの限定アイテムゲットする為に、卓回しまくってるんでぇ、命かけてるんで」
「たく?」
「あ、このキャラのジョブが雀士なんで、アイテムゲットするには卓回しって言ってぇ……」
明美は目を輝かせながら、お気に入りのキャラクターについて説明をし始めた。
お前はそういう奴だよな。という表情をして、信夫と氏川は呆れ顔で明美を見る。
「さって、仕事しますか」
肩を回しながら、自分の席へと氏川は戻る。
「えー?もう始めるんすか?まだアイテム埋まってないんすよー仕事休もうかな」
「来たならちゃんとやれ」
「へーい」
それが女の返事かよと指摘したくなるダルそうな返答を耳にしながら、信夫は二人の会話を微笑ましく聞く。
「よし、やるか」
朝の出来事の疲れなど忘れ、二人から元気を貰い、信夫の忙しく賑やかな日常が、今日も始まる。
応援ありがとうございます!
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