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13)悪魔の笑顔
しおりを挟む以下のように地の文を強調し、登場人物の心情や状況をより際立たせる修正を加えてみました。
今日、相手をしたのは一体何の人たちなのか。梓の目の前にいる男たちだけでも、三人いる。彼女の記憶の中で、これまで相手にした者たちが何人いるのか数えたこともないが、その数は明らかに彼女の耐え忍ぶ限界を超えていた。
今、梓は薬によって強制的に引き起こされたヒートの渦中にあり、無理やり三人の男と一度に関係を持ったばかりだった。
「酷い……酷いよ!僕の梓ちゃんなのに!」
満足げに服を着直している男たちの背後で、爪を噛みながらブツブツと文句を垂れ流す男が一人いる。柄の悪そうな男たちに対して、彼は勇気を振り絞ることもできず、ただ彼らが早く帰ってくれることを願っているようだった。近くのソファでは、丸馬が相変わらずスマートフォンの操作に夢中になっていた。
「丸馬ちゃん、今日もありがとうね」
その三人の中の一人、特に柄の悪さが目立つ赤髪の男が、丸馬に近づいて礼を言う。丸馬は小さな透明な瓶を何個もソファの下に乱雑に転がしながら言った。
「いいよ、これさえ貰えれば。そいつを好きに抱いてやって」
男たちの会話は軽薄で、笑い声が部屋に響く。彼らはここに閉じ込められて以来、何度も梓と相手をしてきた男たちで、性欲増強剤を丸馬に提供している者たちだ。赤髪の男、猛獣のような体格の男、そして薄っすらと茶色いレンズをかけた男。彼らは違法な薬を取り扱い、打って生計を立てている、いわば闇取引の業者だ。丸馬との関係は謎に包まれており、彼の広がるネットワークは暗い影を帯びていた。
梓は、布一枚も身にまとわず、力なくコンクリートの床に横たわっていた。彼女の心は折れ、身体は無抵抗だった。
「おい、デブ。事後処理ちゃんとしとけよ」
赤髪の男が、部屋の隅で怯えている男に軽々しい態度で声をかける。それを耳にした男は緊張に蒼ざめ、急いで何かを手にすると梓の元へ駆け寄った。
梓のぐったりとした身体を、彼はフェイスタオルで優しく拭く。冷たいコンクリートの上で無防備に横たわる彼女を、ペットボトルに入った水で濡らしたタオルで丁寧に拭い始める。最初に梓を抱いた、樽のような体系の男の役割は、彼女を道具のように扱った後、身体を清潔に保つことだった。
「ごめんね、梓ちゃん。ごめんね。俺が孕ませてあげられなかったから」
身体を丁寧に拭きながら、樽体型の男は小さく梓に言った。
最悪な形で、梓の生まれて初めての性交の相手となった男。その男は、仕事の接待で一度だけ梓の勤めるホストクラブに訪れたことがあった。そこで梓に一目惚れし、たとえ「ベータ」と呼ばれてもその思いを諦めきれずにいた。しかし、金銭的な事情から店に通うことはできず、街を歩く梓を遠くから見守るだけの存在だった。軽いストーカーではあったが、彼に対して害を与えることはないと自負していたのだ。
やがて男は、同性愛者や変わった性癖を持つ者が集うマッチングアプリに手を出し始めた。その中で梓の投稿を見つけ、運命を感じて迷うことなくここにやって来たのだという。
最初は喜びのあまり理性を失っていたと、男は何度も梓に語っていた。そして、責任を取るつもりで何度も梓を抱き続けていたのだと。
しかし、その言葉が梓にとってはどうでもいいものだった。どれほどロマンチックに語られようとも、それは彼にとって言い訳に過ぎない。犯罪の加害者としての立場に足を突っ込んだ瞬間から、愛や恋は相手にとって都合の良い幻想に過ぎなくなった。
性欲に負け、捕まることを恐れながらも、男は言い訳を積み重ねているが、今の状況は何一つ変わりはしなかった。
梓はこの男の言葉など、微塵も信用できなかった。身体を丁寧に拭いている最中の男が、謝りながらも興奮していることが分かる。嫌悪感と吐き気が梓を襲うが、そんな気力もなく、抵抗をしない。何をしても救われない現状に、全てが憎く、全てがどうでもいいと思っていた。
毎日男たちに抱かれながら、ただ一つ思うのは、「早くこの瞬間が終わってほしい」ということだけだった。
「やった!ついに!」
丸馬が歓喜の声を上げる。
「んー?どうしたんだ?」
「面白い話?」
「どうせ良からぬことだろ」
丸馬が嬉しそうにしている近くで、男たちは帰宅の準備をしながら煙草を吸っていた。いつも冷めた表情でスマートフォンを操作している丸馬を見ていた男たちは、何がそんなに嬉しいのかと興味を抱く。
「梓、番ができるよ。おめでとう」
丸馬は至福の時間を手に入れた悪魔の顔を見せた。
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