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第1弾 I am ■■■■■
2話
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2020年5月16日、その日が父さんと母さんの命日になってしまった。原因は旅客機のガソリンタンクに火がつき、爆発したということだ。その旅客機の破片は空港に突き刺さり、人々を押し潰す。爆発の規模が大きかったこともあり、爆風で死亡する者と熱で死ぬ者が起きた。生きていたとしても何かしらの後遺症や大火傷が残るのは必然的だった。
唯一軽傷で済んだのは自分を含めた約200名のみ。重傷者は約820名、死亡者は……約180名。そしてその中に、父さんと母さんも居た。他も同じだ、両親だけが死んでしまい残ってしまった子どもや、大切な人を失った方だっている。
重傷者が1番大変だ。生きていても後遺症が残ってしまう故に元の生活には絶対に戻れないからだ。いや、元の生活に戻れないのは何処も一緒なんだ。そしてこの事件を起こした犯人は捕まってない。もしくは爆発に巻き込まれて死んだかのどちらかである。だが後者だろう、そうとしか考えられない。
今は、両親のお墓の前に居る。雨だけが世界の傷跡を癒そうとしているけれど、自分の中の傷までは全く癒してくれなさそうだ。だって……こんなにも…………辛くて……苦しくて……っ!
「ふざけんなァアアッ!
ただの旅行だったのに!
ただ2人で楽しんできて欲しかっただけなのに!
何で……こんな…………!」
こんなことになるんだよ。何でテロを起こさせようとしたんだ。大切な両親を! 自分を育てて見守ってくれてた両親を!なぜこの手から奪ったァ!?
「Tom……」
「トム君……」
後ろからボブと紗季の声が聞こえる、でも今は心配されたくない。1人で居たいんだ……傘も要らない、雨で濡れたかった。少しだけ、本当に少しだけでも冷たくなって流してほしかったのかもしれない。
2人の墓の前で、泣き叫び続ける。もう米国人とかそんなのどうだって良かった。心からの叫びは全て……昔の自分だった。今の自分ならば出来たはずなのに、そんな危機さえも伝えられずに終わってしまった。無常で、非常で、残酷で……くるしいよぉ。とおさん、かあさん。ほんとうに、いないの?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
泣き疲れて紗季と一緒に帰り、自分はベッドに寝ていた。不意に目覚めた自分は少しふらついた足取りでリビングに向かった。するとキッチンの方で紗季が料理をしているのを見かけた。使い方に関してはSOPHIAが教えたのだろう、まぁまぁの広さのキッチンをスムーズに移動し出汁の香る何かを作っている。
「あ、起きた。おはようトム君。」
おは……よう? 今時間を確認していたら18時半とあった。どのぐらい寝ていたのかに関しては、自分でも覚えていない。覚えていたとしても、今は寝ぼけて頭が働いていない状態だ。
「……おはようって時間じゃ無いよ?」
「でも朝起きたら“おはよう”って言うよね。それと同じだよ。」
「……そんなものか?」
「そういうことなの。あ、ソファで座って待ってて。もう少しで出来上がるから。」
そう紗季に言われるがまま、ソファに座り込む。次第に頭がスッキリとしてくるが、同時に両親の死が現実のものであると実感させられていく。その悲しみが自分の体と心を蝕んでいく感覚に陥られるが、自分はその抜け出す方法を全くと言って良いほど知らない。
……いや、そこまで考えが及んでいないのもあるのだろう。頭がいっぱいいっぱいで別の考えに移せないのだろう、けれどそうする方法すら今の自分には思いつかない。今の自分は、ただのガキに戻っていた。
「お待たせ、出来たよ。」
紗季が料理を乗せたトレーを持ってこちらにやって来る。テーブル付近に座りこみ自分の前に差し出した。玉子焼きに塩昆布トッピングの雑炊、暖かい緑茶。玉子焼きは多分出汁巻き玉子だろう、日本料理が目の前に並べられるが今はそんな気分では……
「あっ…………ふふっ。」
「……いただくよ。」
「うん、召し上がれ。」
こんな時でも腹は鳴るみたいだ、しかも周りに聞こえるぐらいデカく。流石にこのままだと自分も危うくなりそうなので、諦めて出された食事に手をつける。
最初に紗季が土鍋から深めの器によそった塩昆布粥を食べる。鉄製のスプーンだから熱が直に伝わり舌を火傷しそうになるが、熱を逃がすために空気ごと熱を口から出していく。手の方は特に何とも無い、強いて言えば少し熱を帯びているなという認識だ。
にしても……美味しい。塩昆布のアクセントだけで白米を食べる手が進んでいくのは、まさに科学の応用とも見て取れる。舌から脳に伝わる電気信号が食欲を増進させ、この組み合わせをまた味わいたいと強制的に手を動かしてしまう。
そんな食べている時だった、自分の頬から何かが流れているのが分かったのは。暖かいが、落ちていくと徐々に冷たくなっていくこれは……涙、なのか? 時間が経てば経つほど、流れていく雫は数を増やしていき自分のズボンに落ちていった。
オマケに鼻水まで誘発された。……あぁ、泣いているのか。死に対する悲しみじゃなくて、とても美味しくて落ち着くから泣いているんだ。そこまで自分は精神的に追い込まれていたのだろう、この料理を食べただけで絆されていく。
「昔ね。」
唐突に語り始めた紗季。だが自分は紗季の方に顔を向けて黙ってその話を聞いた。
「学校で本当に辛いことがあった時、おじいちゃんがこれを作ってくれたの。それで食べたら、トム君と一緒で泣いちゃったの。でもおじいちゃんは言ってくれたんだ。
“辛い時は、暖かい物を食べなさい。ほら、とっても気持ちが落ち着くだろう”って。」
紗季から器へと視線を移動する。紗季は裕二郎さんから、この1杯の不思議な力を教わったんだ思うと少しだけ感慨深くなった。
「今なら、おじいちゃんの言ってたことが分かるんだ。だってトム君も、何か顔がスッキリし始めてるんだもん。」
『Sir. Please look at your face yourself.』
SOPHIAがホログラムを使用して、自分の顔を見せてきた。涙の跡が何重にも重なっているが、少しだけ乾燥して薄く白いものがある。目は充血して普段の白さは全くない上に、鼻水もちょっとだけ……いや、普段は出さない量を出している。
あぁ、自分ってこんな顔になってたのか。そう思った。いつも朝は洗面台で自分の顔を見るが、今はどうだ? 誰がどう見てもブサイク極まりない。これが自分だと思うと変な笑いが込み上げてきて、つい吹き出してしまった。
「ぶふっ」
「あっ、やっと笑った……!」
『Saki was worried about sir. Why do not you give thanks?』
「The mouth really got worse, SOPHIA.」
『I hate to see you forever you are crying.』
「SOPHIA?」
「いや良いよ、紗季ちゃん。確かにずっと泣いてるのは自分らしく無いや。」
そうだ自分らしくない。そして今自分はやらなければならないことがたくさんある、泣いてる暇は無い。箸を持って出汁巻き玉子を切り取り、食べる。咀嚼する度に出汁の風味が広がり体の芯にまで広がっていくような錯覚を覚えていく。またこの味が食べたいと思うようになる体に、少し紗季に改造されたみたいだ。
その味わいから、また粥に移る。塩昆布のアクセントが出汁の味わいから強制脱出し、求めるものを変えた。そしてまた出汁巻き玉子を食べ、その繰り返しを続けていった。気付けば土鍋にあった粥は全て消え、気を付けて食べていた出汁巻き玉子も無くなっていた。
ここまで食い意地張ってた記憶は無かった筈なんだけど……いや、そうさせるようにした紗季の手料理が自分の食欲を刺激してくれたのだろう。そして全て食べ終えた時、何か憑き物が取れたみたいにスッキリとしていた。
「ありがとう紗季、美味しかったよ。」
「ふふっ、それなら良かった。作ったかいがあったよ。」
「もし良ければ、またお願いしても良い?」
「勿論、また辛くなったら食べさせてあげるから。」
「ありがとう。……よし、SOPHIA. Present what I should do now.」
『Here it becomes all.』
SOPHIAが見せたのは両親の遺産相続の件と、会社CEO就任の件に報道へのコメント。他にも細かいことはあるが重要なのはこの3つだけで、それさえ分かれば準備を今すぐ始める。紗季が食器を片付けようとしていたので、その手を止めさせる。
「それ、やっておくよ。流石に紗季ばっかりに手を煩わせちゃ駄目だしね。」
「私が好きでやってることだから、トム君は自分のやるべき事をやって。それに、家事なら前に家政婦さんに鍛えてもらったから。」
「そうか……なら分かった、悪いけど頼んでも良いかな?」
「えぇ。あ、それと」
紗季は不意打ちが得意だ。特に脈絡も無さそうなのにキスをしてくるのが大得意で、ちょうどそれをくらってしまった。軽く触れるだけのフレンチ・キスを成功させた紗季は、してやったりの表情を浮かべていた。
「ここに1ヶ月間泊まるから、ちゃんとお仕事終わらせて帰ってきてね。」
「1ヶ月か……ハイペースで終わらせてくるよ。一段落したら、少しゆっくりと過ごそう。」
「うん、頑張って。」
「了解。」
紗季の表情が綻ぶ、多分自分も表情が崩れているだろう。けれど、それだけ自分が嬉しいということなんだろう。だが紗季と過ごす前に先ずは、両親の残していった物事を解決させてからの話しになる。
これが6月20日のことであった。その時空は、自分の心模様を描いているように晴れ晴れとしていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
電子音が静寂な雰囲気漂う部屋に広がり、鮮明に聞こえるであろう社長室に自分は居た。社長代理として副社長の方からその電子音は聞こえていて、デスクを挟んで向かい側に自分が立っている。
副社長さんはホログラムの操作を終えると自分に向けた。この書類は謂わば、自分が社長の業務を引き継ぐことを決めるための契約。会社は必然的に自分の物になる訳ではなく、こうした行いが必要とされるものだ。
署名欄に自分の名前を書き記す。書いたものを提出すると、副社長は目を瞑り席を立ち上がった。そして目を開き、自分に手を差し出した。
「You have now officially become the CEO of Cole Corporation's headquarters. Congrats.」
「Thank you for staying with my father until now.」
そう、今から自分は……いや私は6月25日、父さんの意思と希望を引き継いで社長になった。
唯一軽傷で済んだのは自分を含めた約200名のみ。重傷者は約820名、死亡者は……約180名。そしてその中に、父さんと母さんも居た。他も同じだ、両親だけが死んでしまい残ってしまった子どもや、大切な人を失った方だっている。
重傷者が1番大変だ。生きていても後遺症が残ってしまう故に元の生活には絶対に戻れないからだ。いや、元の生活に戻れないのは何処も一緒なんだ。そしてこの事件を起こした犯人は捕まってない。もしくは爆発に巻き込まれて死んだかのどちらかである。だが後者だろう、そうとしか考えられない。
今は、両親のお墓の前に居る。雨だけが世界の傷跡を癒そうとしているけれど、自分の中の傷までは全く癒してくれなさそうだ。だって……こんなにも…………辛くて……苦しくて……っ!
「ふざけんなァアアッ!
ただの旅行だったのに!
ただ2人で楽しんできて欲しかっただけなのに!
何で……こんな…………!」
こんなことになるんだよ。何でテロを起こさせようとしたんだ。大切な両親を! 自分を育てて見守ってくれてた両親を!なぜこの手から奪ったァ!?
「Tom……」
「トム君……」
後ろからボブと紗季の声が聞こえる、でも今は心配されたくない。1人で居たいんだ……傘も要らない、雨で濡れたかった。少しだけ、本当に少しだけでも冷たくなって流してほしかったのかもしれない。
2人の墓の前で、泣き叫び続ける。もう米国人とかそんなのどうだって良かった。心からの叫びは全て……昔の自分だった。今の自分ならば出来たはずなのに、そんな危機さえも伝えられずに終わってしまった。無常で、非常で、残酷で……くるしいよぉ。とおさん、かあさん。ほんとうに、いないの?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
泣き疲れて紗季と一緒に帰り、自分はベッドに寝ていた。不意に目覚めた自分は少しふらついた足取りでリビングに向かった。するとキッチンの方で紗季が料理をしているのを見かけた。使い方に関してはSOPHIAが教えたのだろう、まぁまぁの広さのキッチンをスムーズに移動し出汁の香る何かを作っている。
「あ、起きた。おはようトム君。」
おは……よう? 今時間を確認していたら18時半とあった。どのぐらい寝ていたのかに関しては、自分でも覚えていない。覚えていたとしても、今は寝ぼけて頭が働いていない状態だ。
「……おはようって時間じゃ無いよ?」
「でも朝起きたら“おはよう”って言うよね。それと同じだよ。」
「……そんなものか?」
「そういうことなの。あ、ソファで座って待ってて。もう少しで出来上がるから。」
そう紗季に言われるがまま、ソファに座り込む。次第に頭がスッキリとしてくるが、同時に両親の死が現実のものであると実感させられていく。その悲しみが自分の体と心を蝕んでいく感覚に陥られるが、自分はその抜け出す方法を全くと言って良いほど知らない。
……いや、そこまで考えが及んでいないのもあるのだろう。頭がいっぱいいっぱいで別の考えに移せないのだろう、けれどそうする方法すら今の自分には思いつかない。今の自分は、ただのガキに戻っていた。
「お待たせ、出来たよ。」
紗季が料理を乗せたトレーを持ってこちらにやって来る。テーブル付近に座りこみ自分の前に差し出した。玉子焼きに塩昆布トッピングの雑炊、暖かい緑茶。玉子焼きは多分出汁巻き玉子だろう、日本料理が目の前に並べられるが今はそんな気分では……
「あっ…………ふふっ。」
「……いただくよ。」
「うん、召し上がれ。」
こんな時でも腹は鳴るみたいだ、しかも周りに聞こえるぐらいデカく。流石にこのままだと自分も危うくなりそうなので、諦めて出された食事に手をつける。
最初に紗季が土鍋から深めの器によそった塩昆布粥を食べる。鉄製のスプーンだから熱が直に伝わり舌を火傷しそうになるが、熱を逃がすために空気ごと熱を口から出していく。手の方は特に何とも無い、強いて言えば少し熱を帯びているなという認識だ。
にしても……美味しい。塩昆布のアクセントだけで白米を食べる手が進んでいくのは、まさに科学の応用とも見て取れる。舌から脳に伝わる電気信号が食欲を増進させ、この組み合わせをまた味わいたいと強制的に手を動かしてしまう。
そんな食べている時だった、自分の頬から何かが流れているのが分かったのは。暖かいが、落ちていくと徐々に冷たくなっていくこれは……涙、なのか? 時間が経てば経つほど、流れていく雫は数を増やしていき自分のズボンに落ちていった。
オマケに鼻水まで誘発された。……あぁ、泣いているのか。死に対する悲しみじゃなくて、とても美味しくて落ち着くから泣いているんだ。そこまで自分は精神的に追い込まれていたのだろう、この料理を食べただけで絆されていく。
「昔ね。」
唐突に語り始めた紗季。だが自分は紗季の方に顔を向けて黙ってその話を聞いた。
「学校で本当に辛いことがあった時、おじいちゃんがこれを作ってくれたの。それで食べたら、トム君と一緒で泣いちゃったの。でもおじいちゃんは言ってくれたんだ。
“辛い時は、暖かい物を食べなさい。ほら、とっても気持ちが落ち着くだろう”って。」
紗季から器へと視線を移動する。紗季は裕二郎さんから、この1杯の不思議な力を教わったんだ思うと少しだけ感慨深くなった。
「今なら、おじいちゃんの言ってたことが分かるんだ。だってトム君も、何か顔がスッキリし始めてるんだもん。」
『Sir. Please look at your face yourself.』
SOPHIAがホログラムを使用して、自分の顔を見せてきた。涙の跡が何重にも重なっているが、少しだけ乾燥して薄く白いものがある。目は充血して普段の白さは全くない上に、鼻水もちょっとだけ……いや、普段は出さない量を出している。
あぁ、自分ってこんな顔になってたのか。そう思った。いつも朝は洗面台で自分の顔を見るが、今はどうだ? 誰がどう見てもブサイク極まりない。これが自分だと思うと変な笑いが込み上げてきて、つい吹き出してしまった。
「ぶふっ」
「あっ、やっと笑った……!」
『Saki was worried about sir. Why do not you give thanks?』
「The mouth really got worse, SOPHIA.」
『I hate to see you forever you are crying.』
「SOPHIA?」
「いや良いよ、紗季ちゃん。確かにずっと泣いてるのは自分らしく無いや。」
そうだ自分らしくない。そして今自分はやらなければならないことがたくさんある、泣いてる暇は無い。箸を持って出汁巻き玉子を切り取り、食べる。咀嚼する度に出汁の風味が広がり体の芯にまで広がっていくような錯覚を覚えていく。またこの味が食べたいと思うようになる体に、少し紗季に改造されたみたいだ。
その味わいから、また粥に移る。塩昆布のアクセントが出汁の味わいから強制脱出し、求めるものを変えた。そしてまた出汁巻き玉子を食べ、その繰り返しを続けていった。気付けば土鍋にあった粥は全て消え、気を付けて食べていた出汁巻き玉子も無くなっていた。
ここまで食い意地張ってた記憶は無かった筈なんだけど……いや、そうさせるようにした紗季の手料理が自分の食欲を刺激してくれたのだろう。そして全て食べ終えた時、何か憑き物が取れたみたいにスッキリとしていた。
「ありがとう紗季、美味しかったよ。」
「ふふっ、それなら良かった。作ったかいがあったよ。」
「もし良ければ、またお願いしても良い?」
「勿論、また辛くなったら食べさせてあげるから。」
「ありがとう。……よし、SOPHIA. Present what I should do now.」
『Here it becomes all.』
SOPHIAが見せたのは両親の遺産相続の件と、会社CEO就任の件に報道へのコメント。他にも細かいことはあるが重要なのはこの3つだけで、それさえ分かれば準備を今すぐ始める。紗季が食器を片付けようとしていたので、その手を止めさせる。
「それ、やっておくよ。流石に紗季ばっかりに手を煩わせちゃ駄目だしね。」
「私が好きでやってることだから、トム君は自分のやるべき事をやって。それに、家事なら前に家政婦さんに鍛えてもらったから。」
「そうか……なら分かった、悪いけど頼んでも良いかな?」
「えぇ。あ、それと」
紗季は不意打ちが得意だ。特に脈絡も無さそうなのにキスをしてくるのが大得意で、ちょうどそれをくらってしまった。軽く触れるだけのフレンチ・キスを成功させた紗季は、してやったりの表情を浮かべていた。
「ここに1ヶ月間泊まるから、ちゃんとお仕事終わらせて帰ってきてね。」
「1ヶ月か……ハイペースで終わらせてくるよ。一段落したら、少しゆっくりと過ごそう。」
「うん、頑張って。」
「了解。」
紗季の表情が綻ぶ、多分自分も表情が崩れているだろう。けれど、それだけ自分が嬉しいということなんだろう。だが紗季と過ごす前に先ずは、両親の残していった物事を解決させてからの話しになる。
これが6月20日のことであった。その時空は、自分の心模様を描いているように晴れ晴れとしていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
電子音が静寂な雰囲気漂う部屋に広がり、鮮明に聞こえるであろう社長室に自分は居た。社長代理として副社長の方からその電子音は聞こえていて、デスクを挟んで向かい側に自分が立っている。
副社長さんはホログラムの操作を終えると自分に向けた。この書類は謂わば、自分が社長の業務を引き継ぐことを決めるための契約。会社は必然的に自分の物になる訳ではなく、こうした行いが必要とされるものだ。
署名欄に自分の名前を書き記す。書いたものを提出すると、副社長は目を瞑り席を立ち上がった。そして目を開き、自分に手を差し出した。
「You have now officially become the CEO of Cole Corporation's headquarters. Congrats.」
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