TAXIM

マルエージング鋼

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降臨

24話

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 それから4時間後、巴家で夕食をご馳走になっているのだが……さっきから紗季ちゃんの機嫌がずっと悪い。不機嫌から発生する無表情の中の怒りが垣間見えている、そしてその理由は自分で完璧に理解した。

 結局自分の答えがアウトだったということだ!日本版のアカウントでYah○o○恵袋で問いかけてみてもSOPHIAが提示した情報と殆ど同じだし! しかも紗季ちゃん……そこまで本気で考えてたのかよぉ! にも関わらず自分が変なこと口走ったせいでこれだよ、つい4時間前の自分を殴りたい!って、これ読み終えたあとも考えてたし。

 この険悪な雰囲気のせいか、普段食べる量より少なく済んでしまった。あ、料理メチャメチャ美味しかったですありがとうございます。

 しっかし……これは弱った。もし謝ったとしよう、だが自分の発言で何か気に食わなかった所があればさらに悪化してしまう事態になる。それだけは避けなければならないとなると通常は時間による感情の沈静が主だが、それでは逆に気まずくなること間違いなし。

 こうなったら誠心誠意謝って……いや、それだけじゃ駄目だ。紗季ちゃんは言うなれば自分に恋心を抱いていた、過去形なのはご覧の通り。自分が盛大にフッたのだから……念の為言っておくが意識はしてないからな!

 となればだ……恋心か。そもそも自分の中に恋心のような感情はあるんだろうか。幸せで居て欲しいという思いはあるけれども、恋愛面でそう考えたことは無かった。しかし紗季ちゃんは恋愛として考えていた、何時からは知らないが。

 ……この状況を打開するには、腹を括るしかないみたいだ。いやそもそも自分みたいな奴が今の紗季ちゃんと一緒に居ても良いのか怪しいところだし。自分の決断自体、まだそのような考えに及んでいない。

 改めて紗季ちゃんと知り合ってからの日々を思い出してみる。初めて知り合ったのは今から8年前か、本当に唐突な出会いで唐突な関係性だった。でも毎回毎回通っている内に仲良くなっていった。

 そういえば、あの時世間の声が聞こえてて疲れてた時とか子どもらしく単純な答えで自分の中の疑問や心の曇りを晴らしてくれたんだったっけ。案外自分もチョロいところあるなぁ。

 そしてすぐ思い出したのがあの誘拐事件の時のこと……まさかのあれか? まぁ何で惚れてしまったのかは後で聞いておくとして、多分拍車をかけてしまったのはこの出来事に違いない。

 今度は自分について……ここが問題になる。言い方はあれだが自分は紗季ちゃんに対して恋愛感情は殆ど持ってなかったに等しい。確かに一部の発言やらで心打たれたけど、それはそれだ。

 ……ふぅ、一か八か。本当に賭けになるけれど、1つだけ思い付いたのがある。それを使うしか方法は無さそうだ。だがこの方法を使ったとしても必ず予想する方に導くことが出来るとは限らない。仮に成功したとしても、今後がどうなるのか予想が付く。どんな方法で、なのかは定かでは無いが。

 善は急げという。早くした方が後々考えずに済む。そのためにお手伝いさんの畠中さんから紗季ちゃんの部屋を聞き、案内される。部屋の前に到着すると畠中さんは一礼してその場を立ち去った。

 ここからは、覚悟を決めなければ。その思いで、襖越しに声をかける。


「フゥ……スゥ 紗季ちゃん、少し話しがしたいんだ。入っても良いかい?」


 待ってみるが返事は無い。だが人の気配がするということは部屋に居るのは間違いない、出てくる気配はしないからここで話をした方が懸命だろう。


「……分かった。それじゃあここで話すよ。」


 廊下に胡座で座り、襖に背を向ける。臆病だとかグイグイ行けだとかは無し。それはまた逆効果に成りかねないからこそ、この場で独り言を言ってるかのような口振りにしないと駄目だ。


「……先ず、紗季ちゃんの気持ちを分かってあげられなくて、ごめん。自分は紗季ちゃんが、そんな感情を抱いてたことを気付くことが出来なかった。」


 余計なことは言わない、絶対に言ってはならない。それが今やれる最善の手でもあるから。


「駄目だな、本当。必ず紗季ちゃんを幸せにするって決めてたのに、これじゃあ……意味が無かった。1人で自分勝手に思い込んで、それが本当に良い事だと勘違いして……大馬鹿だな自分は。」


 ぺた、ぺたと足音が聞こえる。中に居る紗季ちゃんの気配が強く感じるところから察するに、襖の近くまで来たようだ。


「本当は自分と、そんな関係に成りたかったんだよね。全くもって最悪だ。紗季ちゃんみたいな可愛い子に告白されかけたのにも関わらず、無下にするなんて。最低の男だ。」


 畳が擦れる音が聞こえたかと思いきや、紗季ちゃんが襖を背にもたれかかった。少しの振動から受け取った触覚と、すぐ傍で聞こえた服と襖が擦れる音で気付いた。


「……紗季ちゃん、自分は今謝ることしか出来ない。そうすることしか出来ない。……でももし、もしももう一度紗季ちゃんがチャンスをくれるなら、自分は何でもしよう。紗季ちゃんの願いを、全力で叶えたい。」

「…………本当に?」
「あぁ、本当さ。もう期待を裏切ったりしない、紗季ちゃんから離れないよ。許嫁は関係無く、そうするよ。」


 少しの間静寂が続いたかと思えば、紗季ちゃんは立ち上がり襖を開けた。振り返ってみれば涙が流れていたのだろう、目が充血していた。ゆっくりと立ち上がり紗季ちゃんよりも上の目線で対面する。


「……今度あんなこと言ったら、絶対に許さないから。」
「分かった、もう言わないよ。」
「私の言うこと、何でも聞いてくれる?」
「嘘はつかないよ。」


 その言葉を気に、紗季ちゃんが自分を抱きしめてきた。顔を見られたくないのだろう、また流れる涙を見せたくないのだろう。


「じゃあ……! 私と……ううん、私のお婿さんになって。 そうしなきゃ……絶対に許さないから……!」
「あぁ、分かった。」


 紗季ちゃんを抱きしめ返す。柔らかな感触が伝わり、花のような香りが鼻腔をくすぐる。……あれ、というか何かしら飛躍し過ぎてないかこれ。あぁでもこんな返事になることも予想すべきだったな、自分の落ち度だ。それに言葉選びも……けどまぁ。

 目の前に向けられた、花咲いたような笑顔を見せられたらほんの些細なこととしか思えなくなっていくな。にしてもこれからどうしようか……。


「ねぇ、トム君。」
「ぅん、どうした?」


 ふと顔を上げて自然と上目遣いになって話す紗季ちゃん。あ、破壊力ヤバいかも。普通の人間なら尊タヒしてそうなぐらいの可愛さだわ。


「……今晩は、一緒に寝て。」


 おぉっとぉ、ここに来てまさかの展開! ってか積極的過ぎない紗季ちゃん? いつか何かしら暴走しそうな予感が物凄くするんですけど!?


「今晩、かい?」
「うん。」
「ええっとその……ど、どの部屋で?」
「トム君の方で。」
「あー……んと、ね。流石にこれは急ぎs OK分かった。今晩は一緒に寝よう、少しだけ落ち着いてほしい。」
「……約束、ちゃんと守ってね。」
「……はい。」


 どうやら紗季ちゃんの尻に敷かれそうだな、自分。まぁこういうのも……あり、なのか? まぁそれはそうとして、廊下の曲がり角でこっそりと覗いているそこのお手伝いさん達。ニヤニヤしないでくださいお願いします、他人に見られてるのさっき知ったばかりだから物凄く顔が熱くなってるの恥ずかしくて!


「? トム君、顔赤いよ。」
「……多分、向こうの覗き魔達が見ているせいかな?」
「?…………ッ!?」


 紗季ちゃんも恥ずかしくて顔を赤くさせてしまった。そしてバレたのでそそくさと立ち去っていたお手伝いさん達、既に視界内には誰も入っていない。紗季ちゃん以外に。


「……と、取り敢えずお風呂入ってくるから。案内してくれたら、嬉しい……。うん。」
「ちょ、ちょっと待って……ね。」


 そんな気まずい状況のままお風呂場まで案内されていく。着替えは一応持ってきているのでそれを使用することにし、歯磨きして浴室内へ。入った感想を言おうか、広い。この一言に尽きる。

 匂いからして檜だろう。床や壁 天井に至るまで全てが檜の材質で構成されている。というか檜風呂まであるし、現代的に湯沸かしは電気による熱だけれども他は日本らしさがふんだんに彩られている。

 ここまで広いと1人では物足りなく感じてしまうのは、多分我儘なのだろう。というか浴槽が3人家族なら普通に入れるぐらい大きいからなぁ……いや流石に無い無い、羞恥心ぐらいなら誰でもあるからそんなのは無いも当然で


「お、お邪魔します……。」
「ふぁっ!?」
「ふひゃっ!? と、トム君驚かさないでよ……もう。」
「ご、ごめん……。つ、つい。」


 紗季ちゃん羞恥心ぐらいあるよね、なのになんでそんな積極的なの!? いーやちょっとこれは不味い。何がって? 色々に決まってるよ!4歳の頃は普通に1人でシャワー浴びてたから気にしてなかったけど、未発達とはいえ男としては理性方界待ったナシなんだけどなぁ!?

 といってもタオルで前を覆い隠しているから完全に見えてる訳じゃないし、こればかりは自分も羞恥心を抑えられないからすぐに目を背けたからガン見していない。断じて!


「え、えっと……トム君、体しっかりしてるね。」
「ま、まぁ……ね。ずっと鍛えてたし……。」
「そうなんだ。…………ね、背中洗う時は大変じゃない?」
「え、いや。背中には届くし洗えるから大変では」
「大変だよね?」
「……はい、大変です。誰かに背中洗ってほしいぐらいに。」
「そ、そうだよね! ……じゃあ、トム君の背中洗うけど良いよね?」
「……お願いします。」
「ま、任されましたっ。」


 早速尻に敷かれてるんですがそれは。それはともかくさっきの言い方が心臓に悪いんですが……!何あれ、可愛さの権化か!? あんなのに耐えられるほど自分のメンタル固くはないんだけどなぁ!

 そんな訳で自分は紗季ちゃんに背中を洗われている。そもそもの筋力さもあるし身長差もあるせいで必死になってやってるのは分かるんだけど、背中がなんだかくすぐったい。というかタオルじゃなくて手のひらで洗ってるから変にゾワゾワしてくる!


「ま、前も洗おっか?」
「流石にそこは自分で洗いたいかな、うん。というか洗わせてくださいお願いします。」
「……分かった。」


 何でそんな残念そうなんですかねぇ? 何かこの状態だと傍から見たら尻に敷かれる兄と世話焼き妹みたいな構図なんだろうけど、血は繋がってませんよ! 何言ってんだろ自分。

 それはともかく前は自分で洗って、今度は自分が紗季ちゃんの背中を洗う羽目になった。うぅむ自分に拒否権は無いのだろうか、こんな質問しても意味が無いけどさ。しかし本当に小さいな日本人って、それに柔肌……それは女性特有だろう。


「んっ……んぅっ…………」
「……紗季ちゃん?」
「な、なに?」
「……いや、うん。やっぱり良いや。」
「?」


 言ってもあれだろうし、そもそも声を抑えるなんて無理でしょうに。というか言っても何かしら反撃されそうで怖いから言わないだけかもしれん。そして前は無理だ、そんなの出来るわけない。

 それからは2人で風呂に入って、特に何事もなく終えて漸く就寝。言っておくけど本当に何も無い。あったらあったで自分が羞恥心で死にそう、あと社会的にも。

 就寝には敷き布団が既に敷かれているが、2つともピッタリとくっ付いている。変な気遣いありがとうございます御三方、皮肉だよ。そこからは紗季ちゃんにお願いされて身を寄せあって寝ることになってしまった……よく理性が持つなホント。


「暖かいね。」
「……そうだねぇ。」
「トム君は、またお仕事?」
「まぁねぇ。といってもまだ3泊する予定だし、今すぐ仕事ってわけじゃないね。」
「そっか。それじゃあ明日、どうしよっか?」
「何処かへ出かけるのも良いかも、夢の国とかね。」
「あ、じゃあ屋久島に行きたい。」
「チョイス渋くない?」
「1度行ってみたかったんだ。」


 屋久島か……まぁ大丈夫だろ、プライベートジェットなら。そんな他愛ない話しをして、今夜は暖かな一晩を過ごすこととなった。
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