TAXIM

マルエージング鋼

文字の大きさ
上 下
20 / 48
降臨

19話

しおりを挟む
 部屋の探索を続け、漸くリツウェッドとBluetoothを発見。紗希ちゃんの所持品も取り返したところでSOPHIAと通信を取る。


「SOPHIA.」
『Good evening sir. I seem to have failed to communicate for 6 hours6時間も通信が取れなくなっていましたね.』
Better confirm the current position than thatそれよりも現在位置を調べろAfter that, please give the police the address of this placeそのあとは警察にこの場所の住所を出せ.」
『Roger.』


 リツウェッドを確認すると今は午後9時頃。先程6時間もの間通信が取れなかったとSOPHIAから聞いたし、これだと誘拐事件でアイツら豚箱行きだな。んま、自業自得ってことだな。

 ……何やら紗希ちゃんがモジモジと我慢している風にしか見えない。そりゃそうか、言っちゃぁあれだから敢えて言わないけど6時間も拘束されてたらねぇ、いや流石にそこら辺は許してくれただろうけど緊張の糸が解れたからって所かも。

 
「あー……紗希ちゃん、コンビニ行く?」
「ぅ、ぅん……。」
「OK. SOPHIA, search nearby convenience store付近のコンビニの位置を検索.」
It is 200m from here on the road opposite the other sideここから右200m先の向かい側の道路にあります.』


 離れるか……しゃあない。リツウェッドで先に安否情報と行く場所を伝えておくか。送信先は父さんのLINEに、それと誘拐犯の現状も伝えておくとしようか。

 一先ずLINEを送信して、SOPHIAの言ってた場所まで紗希ちゃんを連れていく。200mの辛抱は大丈夫なようで、取り敢えず一息付ける。一応日本円あるからミネラルウォーター……いやスポーツ飲料が良いな。水分と塩分を摂取しておかなきゃ。6時間もあの状態だったし……ってかよく考えてみたら6時間も気絶してたのか自分は。

 紗希ちゃんが出てきた所でスポーツ飲料2本の支払いを終えて、コンビニの前で待つ。買っておいた1本紗希ちゃんに渡して、もう1本は自分で飲む。というか他に誰が飲むというんだ。

 飲んで一息。ってかさっきまで特に何とも無かったのに、急に喉が乾いてきた。なのでまたガブ飲みに近いぐらいの摂取量になってしまった。対し紗希ちゃんは少しずつ飲んでいる、流石にまた行くのは嫌だもんね。


「……ぷへっ、生き返るねぇ。」
「何かおじいちゃんみたい。」
「そう? 言われたこと無いんだけどさ。」


 また飲む、中身を見たら半分以下にまで減っているのが分かったのでキャップを閉めて一先ず飲むのを止めた。紗希ちゃんはキャップの開いたペットボトルを持ったまま下を見て俯いている。


「……強いんだね、トム君は。」
「いきなりだね。」
「だって、さっきの人達全部トム君がやっつけたんだよね?」
「殆ど機械頼りさ、護身用具が無かったら逆にやられてたと思うし。」
「それでもすごいよ。私なんて……怖くて何も出来なかったから。」


 ……それは仕方の無いことだ、そもそも生きている年数が違う上に自分は6歳の頃に面倒なことだってあった。前回の二の舞にならないように必死に護身術ならって、運動して、要は鍛えてたから出来た。

 対して紗希ちゃんはまだ精神肉体共に平均的な小学4年生の女の子なのだ。こればかりは決して埋まらない差で、どうしようも無いことと納得するしかない。女子の方が精神的に成熟しやすいとはいえ、怖いものは怖い。それこそ人の恐怖を見て体感したというのなら、尚更だ。

 紗希ちゃんの俯いている頭に手を置く。おいそこナデポとか言わない、そんな気は全くもってサラサラ無いから。まぁこれで落ち着くのならば、自分は何度でもするつもりだけど。紗希ちゃんがこちらを不思議そうに見る。


「それが普通なんだ。本当はあんなこと、怖くて出来ないのが当たり前なんだよ。別に紗希ちゃんがそんなこと考えなくて良いから。」
「でも……」
「こう言うのもあれだけどさ、自分だから出来ただけなんだ。他の子も、紗希ちゃんと同じ反応をするよ。それに……守らなきゃって思ったからね。紗希ちゃんと、父さんのことを。」
「……何でトム君のお父さんが出てくるの?」


 まぁ、だろうね。どちらかといえば自分は世間的に見てファザコンの部類なのだろうけど、実際は父さんが作ってきた希望そのものを守りたいだけ。義手や義足を作って、また歩けたり、物を持てたり、人と触れ合えたりできる喜びや自由に動ける喜びを与えてきた父さんの思いを守りたかっただけだ。


「父さんさ、自分が産まれる前に色んなことをしてきたんだ。腕や脚、手や足の無い人達に義手や義足を渡してきたんだ。父さんの作った物を着けてる人達を見たことがあるんだけど、その人達の笑顔が素敵だったんだ。その笑顔を作った父さんと笑顔になったその人達のことを絶対に守りたいって、そう思ったんだ。」
「お父さんのこと、本当に好きなんだね。」
「あぁ、大好きさ。」


 母さんのことも忘れている訳では無い。ただ自分の中では母さんよりも父さんの方が誇らしいって思える。母さんも勿論誇りに思ってるさ、だって今までずっと癌患者を治してきたんだもの。そんな大それた事普通は不可能だって誰しも思うし。


『Sir, police vehicles are coming to the two of you警察車両がお二人の元へ来ています.』
「っと、御迎えが来たみたいだ。」
「おむかえ?」
「警察。あとは安心して父さんと母さん、裕二郎さんに無事を言おっか。」
「うん。」





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 さて、一応誘拐事件として処理された先の件のことはやはり色々とメディアに報道されて騒ぎに騒いでいた。しかも実行犯が日本人と、自分らと同国の人だったことから日米両メディアで報道される始末。世間からすれば親日家として知られている自分らが日本を嫌う事になりかねない行為が行われたのだ。こんなのでも国の信頼関係というのは崩れる可能性とてあるから、こちらも慎重に応対しなきゃならない。

 まぁこんなこと考えるよりも、本当は少しゆっくりと休みたいんだけどさ。あらかたの対応は殆ど父さんと裕二郎さんが終わらせてくれたけれども、中には自分と紗希ちゃんに対してエグいまでに質問攻めにさせた記者も居たから圧力をほんの少し掛けさせてもらった。あまり使いたくもなかったんだけどさ。

 そして事件の後、そのまま帰国。ホログラム開発部行きたかったけど、そういえば未だ向こうで芹沢教授達は過ごしていたのを思い出したから久々に家でのんびりする。といっても、毎度のことながら補助スーツ作ってのんびりするだけだ。補助スーツ作ってのんびりという意味が理解できないけども。

 今回作っておいた護身用具のおかげで一先ず解決という形には行けたが……また面倒なことになりそうだ。それにあまりパワーグローブの使用頻度が少なかった点を上げると、単に握力増強じゃなくて拘束機能でも取り付けた方が良いのかもしれない。スタンパー──護身用具の靴のこと──に関してはカートリッジ式という点が弱点か。充電式か、はたまた電池式にするか。いや敢えて設定した出力を下げるという手も考えられる。

 ……あぁそうだ、そういえば環境問題に関するものでも作っておくか。


「SOPHIA.」
『Hello sir. Do you need something何か御用ですか?』
Ask for the present environmental problems and現在取り上げられている環境問題と、 presenting the optimal solution method最適な解決方法の提示を頼む.」
Hold the line, please少々お待ちください.』
Oh, and send that data to LITPWEHDあぁそれと、リツウェッドにそのデータを送信しておいてくれYou can save time and effort手間が省ける.」
『OK sir.』


 さてっと、8666号室に行くか。あまり発明だけ没頭するのは駄目だ。健全な肉体によって頭脳は面白いまでに飛躍的な上昇を遂げるからな、旅行でなら休んでも良いけど流石に帰ってダラダラするのは不味い。

 そのままジャージに着替えて、映像データの中のCQCやローコンバットの動きを覚えて動きを再現する。……ある意味このニャルラトホテプの細工に助けられたというのもあるのか。この異常なまでの記憶処理能力が無ければ、こうして1回みて殆どの動きを真似するなんて芸当は出来はしないからな。喜んでいいのか悪いのか。

 暫く動きを再現していると、リツウェッドが1回だけ鳴った。環境問題と解決方法について纏められたファイルが収められており、早速その中身を読んだ。ふむふむ……デンマークの再生技術か、見るからに凄いなこれは。糞尿までも資源として再生させているし、何よりゴミの分別が細すぎる。前世でも見たことないぐらいだ。

 確かに使えるし、逆に言えばゴミが増えたらその分電気代やガスが自国で賄えるという大きな利点がある。しかし場所の問題もあるし、抵抗感が大きいのもあるだろう。決め手となりそうなのは尿を浄化して綺麗な水で作らせたビールだ、何かしらあっても可笑しくない。

 酸性雨に森林問題、絶滅危惧種の保護問題に海洋中のゴミ問題などなど。ただ画期的な方法で取り組んでいるのは確認できないな。強いて言うならオランダに対して自分でも期待を寄せていることぐらいか。あ、良いかも。オランダで企業訪問という形で色々と見てみるか、アイディア大国だし。

 ふーむ、先ずは森林問題から考えてみるか。植林が有効的な、というかそれしか方法が無い。だがそれ以外にも育つまでにどのようにして育てていくのかが重要にもなってくる。木も使わなければ後の祭りに成りかねないし……っとそういえば。

 あった、ゼンマイの家屋侵蝕問題。確かこのゼンマイの成長速度が雑草みたく早すぎて問題になってるところがあったな。というかゼンマイを雑草扱いするってのは正直理解は出来るものの、納得がいかない。日本では山菜として親しまれてきたゼンマイだからこそ、他にも味わって欲しいという意味合いでゼンマイは食べてもらいたい。尤も、そのためには日本の食に関する技術を学ばねばならないけども。

 さてっと、まだまだ考えることは多そうだし。来年や再来年も一先ずは退屈しなくて済みそうだ。良いのか悪いのかは、はてさてどちらなのだろうか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

閃光の果てに

kkk
SF
果てしなき軍拡。その先に見えるのは希望か絶望か。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

謎の隕石

廣瀬純一
SF
隕石が発した光で男女の体が入れ替わる話

16世紀のオデュッセイア

尾方佐羽
歴史・時代
【第12章を週1回程度更新します】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。 12章では16世紀後半のヨーロッパが舞台になります。 ※このお話は史実を参考にしたフィクションです。

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

No One's Glory -もうひとりの物語-

はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `) よろしくお願い申し上げます 男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。 医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。 男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく…… 手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。 採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。 各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した…… 申し訳ございませんm(_ _)m 不定期投稿になります。 本業多忙のため、しばらく連載休止します。

処理中です...