TAXIM

マルエージング鋼

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降臨

16話

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 時刻は過ぎて帰宅し、夕食を摂っている。といっても、開発部内でピザを食べたのでお腹は張ってる。そんでもって夕食を食べ終えて自室のベッドで横になっている時、今日のことを考えてみた。

 やはりピザは不味かっただろうか。いや味の方面ではなく満腹度に関係するものなんだけど。何か半分食べ終えてた時点で辛そうだったし、ピザじゃなくて日本食にすれば良かったかな? 作り方ぐらいは覚えたし、材料さえ揃えばいけるかもと思っていたり。

 さて、ホログラム映像に関してだけども……予想するに大きく4つの問題にぶつかるだろう。映像の解像度、ミストの凝縮密度に触覚センサー、そして超音波の弊害だ。1つはSOPHIAの助力をすれば良いのだけど、その機械に金がかかる。まぁその問題はどうでも良いんだ、費用はあらかた自分の貯金を崩すから。

 最大の問題点はミストの凝縮密度だ。幾ら超音波によって浮かせられたからといって、そのミストが霧散してしまえば話にならない。最悪この発明品の計画は中断しなければならないからな、それだけは避けなければ。


「SOPHIA. How do you think to deal with the mist scatteringミストの霧散を防ぐにはどうすれば良いと思う?」
Generate ultrasonic waves as a whole to shape or form by electromagnetic induction全体的に超音波を発生させ形を留める、または電磁誘導による形成However, in the case of electromagnetic induction, the burden on personnel expenses and production costs will increaseただし電磁誘導の場合、人件費や制作費の負担が大きくなります.』
「Hmmm……Hm?」
Something seems to have come up何か思い付いた様子ですね.』


 いや思い付いたけども……ある程度費用を増やさなきゃいけないけど言った通り電磁誘導よりかは随分と安くなるな。超音波で浮かせるのではなく、形に沿って壁を作らせることをすれば或いは……いや使えるかも。あとの問題点は他の技術者と相談して答えを出してもらえば良いかな?

 しっかしお腹が……きちゅい。ピザが腹の中に残ったままの状態で夕食食べるんじゃないわ、これ。でも折角作ってくれたのに食べないのは勿体ないんだよなぁ。

 ……後出しジャンケン、か。いや何で今これを思い出したのかは自分でも分かりはしない、けれど確かにほぼ全ての人間の行動は後出しジャンケンみたいなものになるのだと思う。発明品だって、決意だって。それに技術だってね。

 ちょっとだけ、スッキリしたよ。ありがとうサキちゃん。あとで何かお礼しなきゃね。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 彼との研究の日々は私たちに様々な刺激を与えてくれた。それは何ものにも変え難い刺激で、彼が見てきた世界の一端が分かってきた気がする。確かに彼は天才と呼ばれてはいたが、彼はどうも発想力と記憶力に優れている点で天才であるということだ。

 科学者にとってこの2つは何よりも望むものだろう。それも嫉妬の念が視線に込められるほどに。ほんの小さな想像力が発明に繋がり、8歳とは思えない技術力で成功させる。技術力はどのようにして身に付けたのかは分からないが、そんなものは彼にとって些細なことだろう。

 思いつく限りの技術、覚えている限りの理論や現象、効果を併せる力。多分世間の一部はこのように羨ましがってるから否定的な意見しか述べないのだろうと悟った。しかしそんな彼でさえも悩みの1つや2つ、人間故にあるものだ。

 彼が提案した超音波の防壁によってミストの霧散は防げたが、触覚センサーが感知できないという問題点に当たった。しかも超音波によって触覚センサーが1つお釈迦になって、彼もそれに悩んだ。

 確かに超音波技術によって物は浮かせられる。だが触覚センサーの反応が無ければ触れられるとは言えども映像が全く動かなくなる、単なる立体映像になってしまうのだから。

 その彼はというと、開発部内を動き回っていた。ただ単に動き回るのではなく、開発途中の試験補助スーツの稼働状態を確認しつつ悩みに悩んでいた。私にだけ教えてくれたが、今着ている補助スーツはバッテリーの軽量化と燃費性能を向上させているらしい。今後は人工筋肉に空気圧を施させて更なる値下げに挑戦してみるとのこと。

 私だけ妙に信頼されている証拠……なのだろうか。随分と彼とは親しくなった気がする、気がするだけかもしれんが。やはり子ども故に、だれかに頼りたいと無意識に思ってしまうのだろうか。

 さて問題に戻るか。こればかりは難しいことだ、超音波で形を作ろうとすると触覚センサーが機能停止に追い込まるこの事態。恥ずかしながら未だに自分でも打開策の想像が付かない。確かに超音波によって物体の浮遊は可能ではあるが…………いや待て、何か引っかかったぞ。


「────!」


 どうやら彼も何か引っかかったか、或いは何かに気がついたみたいだ。すると彼は空いている1つのコンピューターにまで向かい何かに取り憑かれたかのように操作し画面に出てきたのは……私の研究の実験映像!?


Thomas, why are you holding my experimental footageトーマス、何故私の実験映像を所持しているんだ?」
「Amm……Explaining the reason makes the story longer理由を説明すると話が長くなりますよ.」


 映像が再生すると、超音波による物体浮遊の事実が映し出される。だが彼はその部分だけを何度も何度も見返し、次第に左手の指が後頭部に連続して触れている。


「…………It is the mass of mistミストの質量It should be a mist of mass that does not scatter into the air空気中に霧散しない質量のミストにすれば良い!」
「! I see……And adjusting the viscosity of the mist may be successfulそしてミストの粘度を調節すれば、成功するかもしれん.」


 彼は耳につけているBluetoothイヤホンを手で覆い、何か呟いている。しかも聞こえないようにもう片方の手で口を抑えて漏れないように、かなり用心深くなるしかない相手だと思われる。しかしこれで進歩するぞ、このホログラム映像は!

 この進歩に至るまで、私たちは実に1年の歳月を経ていた。その間にも、彼に対するチームの認識も変わりつつあった。年月というものは、人の見られなかった一面を知るのに必要だと改めて感じた瞬間であった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 ホログラム開発に携わって早2年となり、自分も漸く2桁の年代に到達した。勿論ホログラム開発は疎かにせず他の発明品の着手も両立し、空気圧を用いた人工筋肉のスーツも既に製作し世間にも出ている。ただ人工筋肉の内部に空気圧を調整する機械と筋電信号を読み取る機械を取り付けたためか、想定していたより重い。それでも軽さは今までのスーツの中でトップクラスにさせてもらったよ。

 ……そしてついこの間、芹沢教授にSOPHIAを紹介したんだ。勿論のこと驚いて、尻もちついて暫く言葉すら発さなかった。しかもその間呼吸すらしてなかったから意識が戻った途端空気を欲していたのを覚えている。

 初めて他人にSOPHIAのことを教えたけど、芹沢教授なら信用できる気がしていた。だからだろうか、SOPHIAの思考ルーチンアルゴリズムを見せた途端目を輝かせていた。専門分野ではないにせよある程度知っている芹沢教授からしてみれば……いや全ての科学者達はこぞってSOPHIAへの感心が芽生えるだろう。もしくはそのまま取り憑かれるかもしれない。

 これは今のところ2人だけの秘密にしている。SOPHIAの存在が露見してしまえば世界がSOPHIAを狙うためだ。世界初で人工知能だからこそ、隠すべきものであると理解しているから。

 さてそんなことがあった自分ではあるが、旅行には必ずと言って良いほど訪れることが習慣になっていた。既に父さんが自家用ジェットを買ったためか制約云々は許可さえ出せば日本でも持ち歩けるようになった。スパイの件もあったから身体技能を高めていたけど、ついでにお守り程度で護身用の武器を開発した。

 といっても殺傷性は無い。というより殺傷性があったら単なる兵器と変わらないのだから作りたくもない、せめて相手を気絶させる程度の威力だ。それでもあれだなと思ってしまうのは、どうすれば良いんだろう。割り切れば良いのか?

 この旅行には日本から呼んだチームの全員も一時的に日本に帰国させている。去年も同じようなことをして喜んではもらえたから、今年もやろうと決めた。久々の日本なのだからゆったりと過ごしてもらいたい。

 日本ではスマホの普及が始まり、自分も前世で使っていたSNSや動画配信サービスも始まった。これなら大抵の映像データはここから取り出してくれるから……まぁ過去は消えないけどさ。

 話は変わるが、自分は今10歳。だが既に高校1年に進級していることを言っておこう。紗希ちゃん──日本語勉強をしたというで両親や知り合いを誤魔化した──は10歳で小学4年生である。日本と外国の教育制度の違いが現れている。

 自分は完全に大人の世界……いやナニ方面とか酒方面での大人の世界じゃないのを先に言っておこう。敢えて言うなら社交界に呼ばれたり大人との相手をする時間も増えたことに対する言葉の綾だ。そんなことをしているせいか、価値観が普通の10歳とは全く違ったものになってしまったということだ。

 何が言いたいのかというと、平均的な10歳の価値観がよく分からなくなった。別に自分は問題は感じていないが、傍から見て自分でも問題だなと思うのが紗希ちゃんの価値観ということ。

 紗希ちゃんの価値観なのだが……確かに世間的に見て少々ズレていると感じる。10歳であるにも関わらず歴史書を見ていたり、かと思えばサイエンス誌を読んでいたり。と思っていたら今度は環境問題について書かれた本を見てるし。あ、環境問題の本でアイディアが思い付いた。

 話を戻そう。そんな紗希ちゃんだが、依然として友達という人が見当たりそうに無いのだ。友達の話題になると空気が気まずくなったから聞くのは止めたけど、自分しか居なさそうな雰囲気であったのは覚えている。

 そんな紗希ちゃんだが、どうやら英語の勉強を始めていたらしく彼此かれこれ2年間英会話スクールに行ってるらしい。何故かと聞いたら、キチンと自分との話しがしたいからと。確かに両親が居る前で日本語を喋ったら不味いって思ってた時期だったからなぁ。でも残念、色々と遅かったみたいだ。言わないけど。

 そんでもって今日この日なのだが、BBQが行われる予定であった。いつもは格式張った料亭やらレストランだったから、敢えて野外でのBBQをするのは新鮮味がある。たまにはWiFi環境の無い場所で……SOPHIAと連絡取れないからダメだやっぱ。でも持ってて良かったポケットWiFi、これでSOPHIAとの連絡が出来る。
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