TAXIM

マルエージング鋼

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降臨

15話

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 2日後、ワシントン国際空港に到着して電話を掛けると土産物店で何を買うか決めているらしい。教授の言っていた店名のある場所まで行ってみると日本人顔の団体様が分かる範囲で10名以上、その内の1人が自分らの家族に気付くと他の人に声を掛けてからこちらの方に来た。

 だんだんと近付いてきて漸く顔のパーツなどで分かった、芹沢教授達のチームだ。よくここまで集められたなと率直に思ったり、自分の噂なんてリサーチ済みだし。大学内でも聞こえてたっての。ま、それより挨拶をしなきゃね。


Welcome to the USA professor Serizawaようこそ芹沢教授、アメリカ合衆国へ.」
Thank you for inviting me this time Mr.Coleこの度はお招きいただき感謝します、コールさん.」
Everyone, thank you for coming all the way from the far way皆さん、遠路はるばるからお越しくださりありがとうございますRapidly, let's go to the my father’s corporation in Massachusetts早速ですが、マサチューセッツにある父の会社まで行きましょう.」


 自分ら家族は自家用ので、父さんもう一仕事お願いします。芹沢教授のチームらは新しく入った秘書さんが手配してくれた小型バスで向かうことになっている。

 暫くして先に我が家に到着して、母さんを家に帰宅させる。その後で自分と父さんの2人で会社に赴いて案内を済ませていく予定になってる。因みに今はお昼の2時、時差ボケがあって眠たいけど我慢我慢。


「Thomas, you can sleep少し寝てもいいよYou don’t have to endure it我慢はしなくて良いから.」


 おっとバレた。流石に子どものことは見てるよな……仕方ない、寝させてもらうとしよう。まぁ、ありがとう父さん。


Well then, I will sleep a littleそれじゃ、少し寝るよ.」


 寝ようとして目を瞑ろうとした途端、父さんから暖かい笑みが零れた。……あぁ、こんなにも笑顔で安心できたのは幸せなんだろうな。本当の自分を、見てくれているような気がして。

 眠気を覚ますものもあった筈だけど、今この時だけはぐっすりと眠りたかった。世間的に見る、8歳の少年みたいに。今だけは、子どものように眠りたいんだ。嫌なことを忘れたくて……。

 どのぐらい経ったのだろうか。微妙な状態で意識が目覚めかけている。今ならすぐにでも起きられる状態で、車の揺れが感知できるぐらいに触覚の機能が戻ってきた。目を覚まして欠伸を1つ、そのあと運転席に居る父さんをミラーの反射で確認する。

 腕を伸ばし首をポキポキといわせて意識をキチンと覚醒させる。窓から外を覗くと見慣れた景色、Cole Corpへと続く街並みが見えている。そろそろ到着しそうではあるものの、ふとリツウェッドを起動させて時間を見る。2時半、そういえば食事して無かったな。

 どうせならピザでも頼むとしよう。大人数だからL……いやMが良いか。他国から見ると日本人は少食性の部類に入るぐらいだし、Mで充分足りるだろ。自分も食べるから良いや。人気のピザ店のデリバリーサービスを利用してCole Corpの62階ホログラム映像開発部に届けてもらうとするか。因みに部屋名は仮称。

 そんなことはともかく、今更ながら父さんはとことん自分に対して甘いというか。新しい発明品のアイディアを聞き出した途端真剣に話を聞くし、その後は少しだけ考えて作ると決めたものに対しては自分に開発権と部屋、その他一式を全て揃えるのだから。

 中々ここまでやろうとする父親も居ないわな。まぁ給料が発生しないから結局はボランティア、無償でやってるから特に問題は無い。お小遣いは別だ、今毎月150ドル貰ってるとはいえ。

 さて宅配ピザを頼んで、向かいますか。っと、先にエントランスで伝えておくか。


「Excuse me.」
「What is it?」
A pizza courier will come later so please tell itあとでピザの宅配業者が来るので、62階のホ to reach the hologram development department on the 62nd floorログラム開発部に届けるように伝えてください.」
「OK. I received it承りました.」


 さて、行きますか。接触可能なホログラム制作に向けて、やってやりますか。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 この世に天才と呼ばれる部類の人間は数多く居る。それぞれの分野に、最低でも1人の天才が居る摂理にそれは変わらない。私は超音波による技術を様々な分野に可能性を見出し、それなりに世間に知れ渡っている。医療技術によって多くの患者が救える事実をも生み出した。

 だが今私たちの目の前に居るにはどのような科学者も見劣ってしまうだろう。この私も例外ではない、言い方は悪いがこの少年なのかどうか理解できない子には負けてしまう。

 トーマス・コール。2004年当時4歳の彼はたった1人で補助スーツの制作に成功し、その技術力の高さから──彼は知らないかは判断しかねるが──ギネスブックにも載るほど有名人だ。世界最年少にして、1人で補助スーツを制作出来る能力は瞬く間に日本にも知れ渡った。

 だが世間はこの偉業を成し遂げた少年に対して否定的な意見が多い。皆忘れているのか、彼はまだ8歳の子どもだ。感受性がまだ高い状態で、世間からの評価をニュースやサイトで散々言ってしまえば……幾ら彼といえど心が折れるのは避けられない。

 そんな彼が去年の秋頃に、正確には10月頃父親と共に私の元へ訪れてきた。この時は、私が研究開発チームを集めることに1年の歳月をかけてしまうとは思わなかったがね。

 彼は私の超音波の研究に興味を示してくれた。そして自身の目指す発明品の一部に使いたいと言った。それはホログラム映像、しかも触れられる立体映像というあまりにも絵空事のような発明品であった。

 だが私は、彼に対して1つの希望を抱いた。もしかしたら、この子ならば絵空事が現実となるのではないのかと。人々が今までに夢想してきた考えを、科学という分野によって作り出せるのではないのかと。

 仮称として立体ホログラム映像発生装置と名付けられた発明品の仕組みに関しては、これならば出来るのではと考えさせられた。超音波技術で映像をハッキリさせるミストを上昇させ、そのミストに多方向からの映写機によって立体に映し出す。そして触覚の反応を検知することで、映像の回転や拡大縮小を行うという……あまりにも現実味が出ない仕組みだ。

 だがほんの少しだけ、その仕組みを説明させられたことで現実味を感じてしまった。もしかしたら、この技術がこの発明品を生み出し世界に衝撃を走らせるのではないのかと。そんな彼からしてみればちっぽけな欲望と、好奇心によって私は受諾した。

 それからはチーム集めの日々だった。彼に対する風当たりは強い、故に渋る者も多かった。全ての人間がそうではないのだが、その風潮のせいか協力してくれる人物は当時は多くなかった。漸く掻き集めることが出来たのだが、殆どが彼の根も葉もない噂の真相を確かめようとする大馬鹿者ばかりであった。だがここで我儘を言ってしまえば、彼の夢は叶わない。

 そんな不安を抱えたまま彼と彼の家族が待つワシントン国際空港へと到着したが、到着してからというもののチームメンバーは免税店や土産物店で物色ばかり。科学者の卵としての心構えすらないのかと内心愚痴ったが、すぐに呆れて考えるのを止めた。

 そして彼らと出会い、コールコーポレーションへと赴くことに。清潔感溢れるバスで案内されるも、バス内で駄弁ったり食事をしたりと。食事は良い、だが世界の大企業へ向かうというのに緊張感が一切無いのは可笑しいだろう。仮にも社長は世界に知られているのだぞ。

 そうして時間だけが過ぎて、漸くマサチューセッツ州ボストンにあるコールコーポレーションに到着した。そこで見たのは大企業の肩書きに相応しい社内であったということ。語彙力の低下が自分で理解していたぐらいだ。

 そして社内の62階、ホログラム開発部とある部屋に入ると想像を絶した。中は様々な精密機械や検査機、工具やコンピューターが所狭しと配置されている。彼を表面上知っているとはいえ、ここまでの設備を作るのかと絶句していた。良い意味でだ。


Everyone, you are all together皆さん、お揃いですね.」


 この部屋のドアが開けられると大量の3枚の宅配ピザを持っている彼、トーマス・コールとコールコーポレーション社長のフェデル・コールが居た。彼は宅配ピザを持ったまま中央の部屋スペースにまで向かい、大きく足音を出す。

 すると床の一部が浮き出し、十数秒で机へと変貌した。その光景に目を奪われている間、彼は宅配ピザを机に置いて手近な椅子をチームの人数分と自身の分を用意して椅子に座った。箱を開けた途端ピザの匂いが充満し鼻腔を擽った。


President, please return to work社長、業務に戻って下さいAfter that, we will proceed with development hereあとは、こちらで研究を進めますから.」
「……OK. If there is any incompleteness, we will deal immediately何か不備が有り次第、すぐに対処しよう.」
「Thank you.」
「Your welcome.」


 親子ではなく、社長と社員のような会話なあとフェデル・コールは扉を閉めた。残された私たちは、部屋に広がるピザの匂いへと自然に注目していた。そこで彼は呑気にピザを食べているが、私たちを見回すと子どもらしく首を傾げて訊ねた。


Doesn’t everyone eat lunch皆さんお昼ご飯食べないんですか?」


 ……そういえば、彼は旅行帰りだったな。となると食事をせずにここまで来て、態々宅配ピザを頼んでこの部屋で食事を済ませている最中となる。だが何とまぁ不健康な昼食だ、何となく肥満大国と呼ばれる所以が分かる気がする。


「せ、芹沢教授?」


 ふと、チームの1人が私に声をかけた。私は用意された椅子に座り、ピザを1切れ持って口へと運び食した。ふむ、これはこれで中々の味だな。その様子を見ていたであろう彼に、私は無意識口角を上げて答えた。


Actually I have not eaten lunch yet実は昼食をまだ食べていなくてねI will appreciate itありがたく頂くとするよ.」


 また1口ピザを食べる。口と手が止まっていた彼も再度食べ始め、不健康で科学者らしい昼食を食べることとなった。ピザの匂いに当てられたのか、チームもピザを食べ始めたようだ。中には昼食を既に摂っている者も居るというのにだ。

 これから、私たちと彼の開発が始まろうとしていた。そんな中、不意に彼が見慣れない携帯電話のような物を取り出し話し始めた。


「Hello mom. ……I know. I will be back by seven o'clock properlyちゃんと7時までには帰るから. ……Yeah, Yeah bye.」


 まぁ、流石にそう上手くいかないよな。私たちの住居だが、指定されたアパートの部屋を使ってくれと住所とアパート名、部屋番号の書かれた紙を渡された。その後向かってみれば綺麗で住み心地の良かった物件であったことを言っておこう。
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