2 / 48
降臨
1話
しおりを挟む
目覚めれば、真っ白な空間。何もない上に視界がうるさいので、おちおち目も開けていられない空間に自分は居た。細目で辺りを見渡しても何にもないのがわかった。はて、自分は何でこんな場所に居るのだろうか。
そんな考えの中ボーッと辺りを見渡していれば、どこからともなくコツコツと足音が響き渡る。これは誰の足音なのだろうか、いやそれよりも……なぜ足音がそこかしこから聞こえてくるのだろうか?
だがこれだけはわかった、この足音は徐々に自分の方へと近付いていることに。言い知れぬ恐怖感によって警戒心が増幅していく。険しい視線で辺りをキョロキョロと見渡し、次第に顔まで動かしていく。だが一向に足音の正体は掴めない。
「ふー」
「っ!?」
突如後ろから耳に息を吹きかけられたことで、1つの恐ろしさが全身を駆け巡ったことで咄嗟に振り向きざまに手刀を出してしまった。だが当たった感触は感じられず、虚しく空を切るだけであった。
「おーこわっ。まぁそんぐらい警戒してるなら大丈夫そうだし、別に良いんだけど。」
目の前から声が聞こえた。その声の正体は精々良くて12歳前後の少年が、ヘラヘラと小馬鹿にしたような表情でこちらを伺っているみたいだ。しかしどことなく……異質な雰囲気が醸し出されている。いや、この場に居る時点で異様としか言い様がないのだが。因みに掛けた訳では無い。
目の前の少年(?)は不気味すぎるほどのにこやかな笑みを浮かべてこちらの方に近付いてくる。後退り……をしたかったが、何故か体が動かない。気付けば少年は目と鼻の先に居た。
「────やっぱり、いつ見ても君は素晴らしいよ。■■ ■■」
「ッ──!?」
名前が、聞こえない──!? まるでノイズにでも掛かったみたいに自分の名前だけが塗り潰されて……自分ですら名前が何なのか分からないというのか!? こんなこと……この世にあって良いのか!?
「ここはこの世じゃなくて、あの世なんだけどねぇ。」
「────」
コイツは今、何と言った? いやそれよりも、俺の考えに対する答えをコイツは発言していた! そして先程のあの世というキーワード────まさか自分は……!
「察しが良いねぇ。ま、その性格は1つの禁忌に触れるから、有ってはならないものに成りかねないけど。」
「──死んだのか、自分は」
「当たりっ。」
にこやかな笑みを保ちながら指を鳴らして自分を見ている少年。どうやら自分の考えは当たっていたが、そうなるとどのような死因で自分は死んだのだ?
「まぁ流石にそこは分かんないよね。ちょーっとあれだけど、君の死んだ理由……聞きたい?」
片目だけを広げさせて私の視界に近付いた少年を見て思案する。だが先程のも合わせると思案している内容は筒抜けと見ていいだろう。ここで考えるのもどうかと思うが、嘘なんぞ言ったところで即刻バレる。ならば聞かせてくれ、自分はどのようにして死んだのかを。
「────良いねぇ、やっぱり君を選んで正解だった。」
選んで正解?──どういう意味だ。
「それについては後、先ずは君の死因からだ。まぁ言ってしまえば…………全部僕が仕組んだゲームのせいで死んだ。これが事実さ。」
ゲーム……だと? 自分はゲームをしていた覚えは無い。まぁそもそも記憶が曖昧なのだから覚えてなくても仕方ないのかもしれんが。
「曖昧なら、その記憶を確実なものにすれば良いさ。──さて、ゲームって言ってたけど実際は人間と地球外生命体を使ったものでね、これまでに何度もそんなことをしたよ。んで君は……最終局面で発狂した仲間に殺された、ってのが君の死因さ。簡単に纏めるとこうだよ。」
──つまり何か? お前はゲームの駒として人間と……地球外生命体、宇宙人を使用しているとでも?
「そそっ。人間の認識としてはそれでOK。」
────では、そのゲームの実行者であるお前は何だ? あまり信用されそうにない単語を平然と使っている辺り、自分からしてみれば狂言を吐いているようにしか映らんが。
「知りたい?──ふふっ、じゃあ名前だけね。」
あの不気味な笑みに戻った少年は、自分から離れる。するとどうしたことか、少年の左腕が気持ち悪い程の音を立てて変貌していくではないか。ただこの変貌ぶりは見ていて良いものでは無いし、気持ち悪い。
その少年の思わしき何かは、異形の腕を強調させつつも自己紹介を始めた。
「そうだね……【ニャルラトホテプ】って言えば分かるかな?」
◇◇◇◇◇◇◇◇
ニャルラトホテプ──というと、クトゥルフ神話では有名な邪神の一柱だったか。成程、納得いった。確かにゲームと称して悪趣味な展開をその身で体験させられたであろう自分にとっては、信じるに値する。
「ふふん──君らしいね。」
──でだ、お前が言っていた“選んで正解”の言葉の意味は何だ? 自分は何に選ばれたというのだ? あまり想像はしたくないが。
「なぁに、簡単なことさ。僕の望みを聞いて欲しいんだ。」
望み? 神であるニャルラトホテプが、自分に望みを聞いて欲しいだと? ある意味胡散臭い上に嫌な予感しかしない。
「嫌な予感……か。確かにその予感は的中してるかもしれない、でもこれは僕にとって死活問題ってのもあってね。まぁ言ってしまえば手伝いをしてほしい訳さ。」
手伝い? この私がか?
「そうそう、君が出来るお手伝い。それは────僕の目や耳、まぁ……【化身】となってほしいってことさ。」
──化身?
「そう、化身。あぁ、あんまり聞き覚えがないよね。んー…………簡単に言えば、僕自身になってほしいってことかな?」
お前……ニャルラトホテプ自身にか? すまんがその意味がわからん。いや、先程の目や耳となってほしいという意味は何となく分かる。だがお前自身になれというのは疑問に思うのだが?
「あっはっはっ、確かに。……言っちゃえば、君が僕と同じ権能を使えるってことさ。化身ってさ、身を化かすための器っていう意味もある訳で、つまり僕の依り代になってって意味。あ、君の意識はあるよ?特別サービスさ。」
特別サービス──自分の魂のエネルギーの量、によるものか。ある意味救われたとも言うべきか。
「まぁ化身って言っても、体は人間だから死ぬのは変わらないけどね。」
……まぁ、そうそう良いこと尽くしという訳でもないみたいだな。しかし、このようなことを自分が味わう羽目になるとは……奇妙な縁だな。
「確かに。んまぁ長話もここまでにして、早速話しを進めていくよ。」
そう言ってニャルラトホテプは1つのビジョンを見せる。ニャルラトホテプの手の平に映されたのは青い青い地球、その青い地球の映し出されている右手とは反対の左手からは3つの空き欄。
左手に映し出された3つの空き欄を投げるようにしてこちらへと近付けさせた。その空き欄は自分の周りに散らばり、左端の1つが前に来た。そしてニャルラトホテプは説明を始めた。
「まず、君が出向く世界……今時の文化に合わせるなら異世界ってヤツさ。そしてそこに異世界転生してもらう。まぁ君の場合は転生じゃなくて“降臨”だけどね。」
──転生と降臨の違い、とは如何なるものだ?
「そうだねぇ……降臨の場合は、僕ら神々の権能を使用出来るってのがあるかな。違いはたったそれだけさ。」
ふむ、成程。神々の力が使えるのが降臨であり、転生は……輪廻転生などのあれか。
「それ以外も極稀にあるけどね。さて、次に僕からの贈り物なんだけど……願い事を3つ叶えられる、これまた今時に合わせたら“特典”ってヤツだね。」
……特典が無くとも十二分に生活は出来るだろう。なぜそんなものを欲するのだ? よく理解できんが……。
「転生者が前世の自分とは違ったもの、目に見える“異能”が欲しいっていう願望があったんだよ。君みたく研究一筋だった人には分からない感性さ。」
そんなものなのか?
「そういうものさ。さて、特典の方なんだけど──」
要らん、というよりも必要性が皆無だ。そもそも特典の必要性は自分には無いのではないのか?
「……んー、成程。要らない……ね、良いとも。まぁそれだと僕の気が済まないかーら……」
ニャルラトホテプが指を自分の額につける。瞬間、頭が異様に冴えていく感覚が自分の中を駆け巡っていった。ニャルラトホテプが指を退けてもその感覚がまだ残っているみたいだ。
……ニャルラトホテプ、貴様は自分に何をした?
「ちょっとした細工さ。それじゃあ……世界に降臨しておいで。君は僕の目となり耳となり、そしてその世界を謳歌していってね。」
それを気に意識がドンドン薄れていく。視界がぼやけ暗闇が広がっていき……いつしか自分の意識は消えていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
西暦2000年8月12日、この日アメリカ合衆国に1人の赤子が誕生した。マサチューセッツ州ボストンの産婦人科でその姿を現した赤子は、額に十字の痣があった。
その特殊な痣を持つ子どもは、普通の赤子と変わらぬように泣き続け元気な証拠を見せつけていた。
分娩台で横になっている女性 『メツェル・コール』、そして産まれた赤子を大事そうに見つめているメツェルの夫である『フェデル・コール』。その2人は手を繋いで喜びを分かち合っていた。
「Fedel.」
「What’s it?」
「What is the name of our son?」
「I have thought of candidates for son’s name.」
小さな我が子の、小さな手を、フェデルは自身の大きな手で覆い被せる。少しだけ隙間はあるものの、その暖かさは伝わっている。
フェデルの言葉を、メツェルは笑顔で待つ。期待と、これからの希望を思って。
「His name is────Thomas. Thomas・cole.」
「Thomas────it's good name.The world seems to make amazing things as I think.」
「Yeah,……I see.」
これが始まりであった。フェデルとメツェルも、この赤子が持つ額の十字にさして興味なんてなかった。ただ少しだけ痣が特殊な形をして現れただけと、そう考えているのだから。
天の監視者……ではなく、ニャルラトホテプはその赤子を見る。人間というものは弱く、脆い。だが感情の揺さぶりによって行動が変わるため、飽きない。飽きずに人間に干渉し続ける。
それが例え、化身とはいえ自分の意思が確立される運命にある赤子でさえも、ニャルラトホテプからしてみれば1つの玩具に等しい。
この赤子は、2人の言う通り世界に震撼を起こすことが、ニャルラトホテプによって約束されている。
そんな考えの中ボーッと辺りを見渡していれば、どこからともなくコツコツと足音が響き渡る。これは誰の足音なのだろうか、いやそれよりも……なぜ足音がそこかしこから聞こえてくるのだろうか?
だがこれだけはわかった、この足音は徐々に自分の方へと近付いていることに。言い知れぬ恐怖感によって警戒心が増幅していく。険しい視線で辺りをキョロキョロと見渡し、次第に顔まで動かしていく。だが一向に足音の正体は掴めない。
「ふー」
「っ!?」
突如後ろから耳に息を吹きかけられたことで、1つの恐ろしさが全身を駆け巡ったことで咄嗟に振り向きざまに手刀を出してしまった。だが当たった感触は感じられず、虚しく空を切るだけであった。
「おーこわっ。まぁそんぐらい警戒してるなら大丈夫そうだし、別に良いんだけど。」
目の前から声が聞こえた。その声の正体は精々良くて12歳前後の少年が、ヘラヘラと小馬鹿にしたような表情でこちらを伺っているみたいだ。しかしどことなく……異質な雰囲気が醸し出されている。いや、この場に居る時点で異様としか言い様がないのだが。因みに掛けた訳では無い。
目の前の少年(?)は不気味すぎるほどのにこやかな笑みを浮かべてこちらの方に近付いてくる。後退り……をしたかったが、何故か体が動かない。気付けば少年は目と鼻の先に居た。
「────やっぱり、いつ見ても君は素晴らしいよ。■■ ■■」
「ッ──!?」
名前が、聞こえない──!? まるでノイズにでも掛かったみたいに自分の名前だけが塗り潰されて……自分ですら名前が何なのか分からないというのか!? こんなこと……この世にあって良いのか!?
「ここはこの世じゃなくて、あの世なんだけどねぇ。」
「────」
コイツは今、何と言った? いやそれよりも、俺の考えに対する答えをコイツは発言していた! そして先程のあの世というキーワード────まさか自分は……!
「察しが良いねぇ。ま、その性格は1つの禁忌に触れるから、有ってはならないものに成りかねないけど。」
「──死んだのか、自分は」
「当たりっ。」
にこやかな笑みを保ちながら指を鳴らして自分を見ている少年。どうやら自分の考えは当たっていたが、そうなるとどのような死因で自分は死んだのだ?
「まぁ流石にそこは分かんないよね。ちょーっとあれだけど、君の死んだ理由……聞きたい?」
片目だけを広げさせて私の視界に近付いた少年を見て思案する。だが先程のも合わせると思案している内容は筒抜けと見ていいだろう。ここで考えるのもどうかと思うが、嘘なんぞ言ったところで即刻バレる。ならば聞かせてくれ、自分はどのようにして死んだのかを。
「────良いねぇ、やっぱり君を選んで正解だった。」
選んで正解?──どういう意味だ。
「それについては後、先ずは君の死因からだ。まぁ言ってしまえば…………全部僕が仕組んだゲームのせいで死んだ。これが事実さ。」
ゲーム……だと? 自分はゲームをしていた覚えは無い。まぁそもそも記憶が曖昧なのだから覚えてなくても仕方ないのかもしれんが。
「曖昧なら、その記憶を確実なものにすれば良いさ。──さて、ゲームって言ってたけど実際は人間と地球外生命体を使ったものでね、これまでに何度もそんなことをしたよ。んで君は……最終局面で発狂した仲間に殺された、ってのが君の死因さ。簡単に纏めるとこうだよ。」
──つまり何か? お前はゲームの駒として人間と……地球外生命体、宇宙人を使用しているとでも?
「そそっ。人間の認識としてはそれでOK。」
────では、そのゲームの実行者であるお前は何だ? あまり信用されそうにない単語を平然と使っている辺り、自分からしてみれば狂言を吐いているようにしか映らんが。
「知りたい?──ふふっ、じゃあ名前だけね。」
あの不気味な笑みに戻った少年は、自分から離れる。するとどうしたことか、少年の左腕が気持ち悪い程の音を立てて変貌していくではないか。ただこの変貌ぶりは見ていて良いものでは無いし、気持ち悪い。
その少年の思わしき何かは、異形の腕を強調させつつも自己紹介を始めた。
「そうだね……【ニャルラトホテプ】って言えば分かるかな?」
◇◇◇◇◇◇◇◇
ニャルラトホテプ──というと、クトゥルフ神話では有名な邪神の一柱だったか。成程、納得いった。確かにゲームと称して悪趣味な展開をその身で体験させられたであろう自分にとっては、信じるに値する。
「ふふん──君らしいね。」
──でだ、お前が言っていた“選んで正解”の言葉の意味は何だ? 自分は何に選ばれたというのだ? あまり想像はしたくないが。
「なぁに、簡単なことさ。僕の望みを聞いて欲しいんだ。」
望み? 神であるニャルラトホテプが、自分に望みを聞いて欲しいだと? ある意味胡散臭い上に嫌な予感しかしない。
「嫌な予感……か。確かにその予感は的中してるかもしれない、でもこれは僕にとって死活問題ってのもあってね。まぁ言ってしまえば手伝いをしてほしい訳さ。」
手伝い? この私がか?
「そうそう、君が出来るお手伝い。それは────僕の目や耳、まぁ……【化身】となってほしいってことさ。」
──化身?
「そう、化身。あぁ、あんまり聞き覚えがないよね。んー…………簡単に言えば、僕自身になってほしいってことかな?」
お前……ニャルラトホテプ自身にか? すまんがその意味がわからん。いや、先程の目や耳となってほしいという意味は何となく分かる。だがお前自身になれというのは疑問に思うのだが?
「あっはっはっ、確かに。……言っちゃえば、君が僕と同じ権能を使えるってことさ。化身ってさ、身を化かすための器っていう意味もある訳で、つまり僕の依り代になってって意味。あ、君の意識はあるよ?特別サービスさ。」
特別サービス──自分の魂のエネルギーの量、によるものか。ある意味救われたとも言うべきか。
「まぁ化身って言っても、体は人間だから死ぬのは変わらないけどね。」
……まぁ、そうそう良いこと尽くしという訳でもないみたいだな。しかし、このようなことを自分が味わう羽目になるとは……奇妙な縁だな。
「確かに。んまぁ長話もここまでにして、早速話しを進めていくよ。」
そう言ってニャルラトホテプは1つのビジョンを見せる。ニャルラトホテプの手の平に映されたのは青い青い地球、その青い地球の映し出されている右手とは反対の左手からは3つの空き欄。
左手に映し出された3つの空き欄を投げるようにしてこちらへと近付けさせた。その空き欄は自分の周りに散らばり、左端の1つが前に来た。そしてニャルラトホテプは説明を始めた。
「まず、君が出向く世界……今時の文化に合わせるなら異世界ってヤツさ。そしてそこに異世界転生してもらう。まぁ君の場合は転生じゃなくて“降臨”だけどね。」
──転生と降臨の違い、とは如何なるものだ?
「そうだねぇ……降臨の場合は、僕ら神々の権能を使用出来るってのがあるかな。違いはたったそれだけさ。」
ふむ、成程。神々の力が使えるのが降臨であり、転生は……輪廻転生などのあれか。
「それ以外も極稀にあるけどね。さて、次に僕からの贈り物なんだけど……願い事を3つ叶えられる、これまた今時に合わせたら“特典”ってヤツだね。」
……特典が無くとも十二分に生活は出来るだろう。なぜそんなものを欲するのだ? よく理解できんが……。
「転生者が前世の自分とは違ったもの、目に見える“異能”が欲しいっていう願望があったんだよ。君みたく研究一筋だった人には分からない感性さ。」
そんなものなのか?
「そういうものさ。さて、特典の方なんだけど──」
要らん、というよりも必要性が皆無だ。そもそも特典の必要性は自分には無いのではないのか?
「……んー、成程。要らない……ね、良いとも。まぁそれだと僕の気が済まないかーら……」
ニャルラトホテプが指を自分の額につける。瞬間、頭が異様に冴えていく感覚が自分の中を駆け巡っていった。ニャルラトホテプが指を退けてもその感覚がまだ残っているみたいだ。
……ニャルラトホテプ、貴様は自分に何をした?
「ちょっとした細工さ。それじゃあ……世界に降臨しておいで。君は僕の目となり耳となり、そしてその世界を謳歌していってね。」
それを気に意識がドンドン薄れていく。視界がぼやけ暗闇が広がっていき……いつしか自分の意識は消えていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
西暦2000年8月12日、この日アメリカ合衆国に1人の赤子が誕生した。マサチューセッツ州ボストンの産婦人科でその姿を現した赤子は、額に十字の痣があった。
その特殊な痣を持つ子どもは、普通の赤子と変わらぬように泣き続け元気な証拠を見せつけていた。
分娩台で横になっている女性 『メツェル・コール』、そして産まれた赤子を大事そうに見つめているメツェルの夫である『フェデル・コール』。その2人は手を繋いで喜びを分かち合っていた。
「Fedel.」
「What’s it?」
「What is the name of our son?」
「I have thought of candidates for son’s name.」
小さな我が子の、小さな手を、フェデルは自身の大きな手で覆い被せる。少しだけ隙間はあるものの、その暖かさは伝わっている。
フェデルの言葉を、メツェルは笑顔で待つ。期待と、これからの希望を思って。
「His name is────Thomas. Thomas・cole.」
「Thomas────it's good name.The world seems to make amazing things as I think.」
「Yeah,……I see.」
これが始まりであった。フェデルとメツェルも、この赤子が持つ額の十字にさして興味なんてなかった。ただ少しだけ痣が特殊な形をして現れただけと、そう考えているのだから。
天の監視者……ではなく、ニャルラトホテプはその赤子を見る。人間というものは弱く、脆い。だが感情の揺さぶりによって行動が変わるため、飽きない。飽きずに人間に干渉し続ける。
それが例え、化身とはいえ自分の意思が確立される運命にある赤子でさえも、ニャルラトホテプからしてみれば1つの玩具に等しい。
この赤子は、2人の言う通り世界に震撼を起こすことが、ニャルラトホテプによって約束されている。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
虹のアジール ~ある姉妹の惑星移住物語~
千田 陽斗(せんだ はると)
SF
時は近未来、フロンティアを求め地球から脱出したわずかな人々は新たな銀河系にあたらしい文明を築きはじめた しかし惑星ナキの「虹」と名付けられた小さな居住空間にはサイバー空間から発生した怪獣(バグスター)があらわれる 双子姉妹のヤミとヒカリはサイバー戦士として怪獣退治を命じられた
No One's Glory -もうひとりの物語-
はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `)
よろしくお願い申し上げます
男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。
医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。
男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく……
手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。
採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。
各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した……
申し訳ございませんm(_ _)m
不定期投稿になります。
本業多忙のため、しばらく連載休止します。
【完結】異世界召喚されたらロボットの電池でした
ちありや
SF
夢でリクルートされた俺は巨大ロボットのパイロットになる事になった。
ところがいざ召喚されてみれば、パイロットでは無くて燃料電池扱いらしい。
こんな胡散臭い世界に居られるか! 俺は帰る!!
え? 帰れない? え? この美少女が俺のパイロット?
う~ん、どうしようかな…?
スチャラカロボとマジメ少女の大冒険(?) バンカラアネゴや頭のおかしいハカセ、メンタルの弱いAIなんかも入り混じって、何ともカオスなロボットSF!
コメディタッチで送ります。
終盤の戦闘でやや残酷な描写があります。
何なりとご命令ください
ブレイブ
SF
アンドロイドのフォルトに自我はなく、ただ一人、主人の命令を果たすためにただ一人、歩いていたが、カラダが限界を迎え、倒れたが、フォルトは主人に似た少年に救われたが、不具合があり、ほとんどの記憶を失ってしまった
この作品は赤ん坊を拾ったのは戦闘型のアンドロイドでしたのスピンオフです
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第三部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。
一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。
その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。
この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。
そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。
『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。
誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。
SFお仕事ギャグロマン小説。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
江戸時代改装計画
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。
「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」
頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。
ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。
(何故だ、どうしてこうなった……!!)
自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。
トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。
・アメリカ合衆国は満州国を承認
・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲
・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認
・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い
・アメリカ合衆国の軍備縮小
・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃
・アメリカ合衆国の移民法の撤廃
・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと
確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる