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Bizarre Youth
17話
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午前2時、その時間帯に差し迫る時にデトロイト州の廃工場に向かって訪れてくる黒色のランボルギーニ。その廃工場の封鎖されたゲート前までやって来ると、灯りをつけた車内で男、マギウス・エディアは1通の手紙を改めて確認し始めた。
事の発端はMAKINAの抵抗を無理矢理抑制させて寄生させてから十数日後のことであった。マギウスの会社に、今どき誰が使っているか分からないその1通の手紙がエディア・コーポレーションに届いたことからだった。
受付嬢がその手紙の入った封を見るなり、おかしいものだと感じた。封の表側にFrom Magius・Ediaと、裏側にただ To Know the madness.とだけ書いてあった。何故このような記述があるのかは受付嬢には理解できなかったものの、兎も角これは社長に届けなければならないことは確かであった。
そして届けられたその手紙の内容を見て、行かざるを得なくなった。この内容そのものが罠だとしても、冷やかしだとしても、彼は行かなければならなかった。
━━I know your madness. I know your ambition. If you do not want the truth to be revealed, come to this place alone.━━
その文の下に、今居る廃工場の住所が書かれてあった。“あの狂気を見られた”、“あの儀式を見られた”。そうして考え付いたのは2年前にMAKINAを奪取し姿を晦ました科学者のディム・ラタストクが思い浮かんだ。
マギウスからしてみれば、ディム・ラタストクという男は計画を知らずに加担していた哀れな科学者という認識でしかなかった。何れにせよマギウスの信仰する存在を知れば、否が応でも誰もかれも畏怖し、崇拝せざるをえない。マギウスと出会った存在は、そのような恐ろしき存在であった。
男の声は「Do you want to create a world you don't know?」と囁かれた。そしてその後に女の手は摩訶不思議なものを見せてくれた。この時代ではそもそも完成しうることはないであろう、ロストテクノロジーや超科学とも呼べるべき技術で作られた人間の心臓であったのだ。
iPS細胞による再生治療など塵芥にしか見えなくなった。その心臓は老爺の声が言うに、純粋に1から創り上げたものであった。人類の祖が生まれた時の空間状態と、アミノ酸などによる材料によって創りあげられた物体。
その技術をマギウスは欲した。老婆の声とともに目の前に出されていく、現代科学を超越した魔法の如き“超科学”を。故に差し出された無数の手の1本を掴んだ。
そうしてその超科学の技術を持ってして作られたのがMAKINAとEXだ。その超科学の技術を知り、あの光景を見られたとあれば黙っている訳にはいかない。
今のマギウスにはEXとMAKINAの両方を寄生させているためその膂力などはもう生物の域を脱しているに等しいだろう。が、その代わり抑制剤の使用頻度が増えたことが否めない。早急に終わらせれば、邪魔をするものはいなくなる。
マギウスはランボルギーニから降りてネクタイピンに取り付けられたライトを点灯させて、その廃工場の敷地内へと入っていく。ここまで来てもまだ相手側は反応を見せていないようであったので、辺りを見渡す。すると左前方のコンクリート造りの建物の窓辺に薄らと灯りのようなものが見えた。
その建物に警戒心を持って入ると、ピチャリと足元の方で音がした。音から察するに水溜まりのような場所に踏み込んだのだと理解しつつ、また1歩ずつ建物内に侵入していく。だがどうしたことか、水溜まりは何故か続いていた。
しかしその大きな水溜まりも歩けば終わりを迎えるも、マギウスは不信感を持つ。この場所に来たのにも関わらず誰一人として姿を見せようとしないことに対してだ。
そうしてその建物の中心へと踏み入った途端、四方から何かが崩れる音が聞こえたと同時に大量の水が此方へと流れてきていた。その水がマギウスへと流れていくのだが、咄嗟に上空に逃げて天井の1部に五指で穴を開けて張り付いた。
すぐさま下を見て誰によるものなのかを確認しようとする。が、ここから1番下まで目測10m以上あるため下手人が誰なのかは分からなかった。そのため腕を伸ばして下へと降りていきながら周囲を確認していく。
ゆっくりと辺りを確認しながら降りていくのだが、突如何者かが階段を上っていく音が聞こえた。マギウスからして後ろの方から音がしていたため、迎撃しようと階段の方まで腕を伸ばして向かおうとした。
が、伸ばした手を掴んだ場所の近くに銃を持った誰かが──否、裏切り者の容姿が見えた。その姿が見えたのは、既に自身を発射させたところであった。
「Diiiiiim!」
ディムはその銃をマギウスの腕に向けて撃つと、その銃から電極のようなものが飛び出して腕に刺さった。そして刺さった瞬間、マギウスの体は制御が効かなくなったのか途中で床へと落ちてゴロゴロと体を転がせた。
ディムが撃ったのはテーザーガンと呼ぶもので、簡単に言えばアメリカのアクソン社が開発した銃タイプのスタンガンである。これは約5万-100万ボルトまでの電圧を与える銃であるが、アンペア数が低いため殺傷能力は低い。それでも当たれば強制的に筋肉を収縮させられ身動きが取れなくなる代物である。
今回ディムが撃ったのは62万ボルトの出力のもの。それを諸にくらったマギウスは強制的に動きを中断させられ、地面を這い蹲ることになった。
そして高出力の電気が体内に流れているため、マギウスの中にいるMAKINAとEXが暴れ始めた。必死にマギウスから逃げ出そうと、弱点である電気から逃れようと必死になっている。
そんなタイミングで階段を上っていた足音の正体が漸く到着した。近くにいたディムに対して脇目も振らず、決して速くはない走力でマギウスに近付いている。
しかしマギウスもまだ諦めようとしていなかった。痺れて動きづらいであろう腕で上着の懐からケースを取り出し近くに落とすと、震える手でケースを開けた。
中に入っていたのは3本の注射器、1本は先程地面を転がった時に壊れてしまったのか抑制剤の中身が零れていた。あとの2本は無事であるため、その内1本を必死になって手に取った。
マギウスの左腕からは液体のようなもの、人工寄生生命体が出始めていた。しかし逃れようにも、まだ足りない。あと一押しといったところだった。
「MAKINA!」
その声の主である、クロードは必死にその手を伸ばした。そして──────
マギウスから出ていた人工寄生生命体と触れた瞬間、マギウスは抑制剤を打った。しかし時は既に遅く、先程出ていた人工寄生生命体は宿主を変えていた。クロードの中に取り込んでいくと、宿主であるクロードは以前のような筋肉質へとなっていった。
そうして体格が変わり終えていくと、クロードは1歩だけ足を踏み込ませマギウスの上空を通り過ぎようとしていた。そんなクロードに対して腕を伸ばそうとしたマギウスであったが、その腕は全く伸びもしなかった。
「Shit……!」
マギウスの背後に立ったクロードは、この再会を喜んだ。彼女が居なくなってからそこまで月日は経ってないにせよ、クロードからしてみればとても長い時を過ごしていたのには変わりなかったのだから。
たとえ彼女にどんな理由があって、自身を騙してまでも兄を取り戻したかったからとはいえ、それまでに過ごしてきた様々な経験と時間だけは何の偽りもない。そこにはどのような形であれ、確かな友情があった。
「Welcome back…… MAKINA.」
『──I'm home, Claude.』
そんな再開の喜びも束の間、マキナが勝手に腕を伸ばしてディムの方へと移動した途端、マギウスの拳が先程までクロードが居た床の一部に穴を開けた。
『I will rejoice with you again!』
「Of course! Now beat────the guy!」
『Correctly my partner!』
ゆっくりとマギウスはまだ痺れが残っているであろう体を起き上がらせていくと、ディムとクロード、そしてMAKINAを睨みつけた。
「This idiot! Do extra things over and over again! Do not disturb my sublime purpose!」
「What is the noble purpose?! It's just an irresistible stupid delusion! I do not let you use MAKINA and EX for such a thing!」
「Watch the way you speak! I am close to God! I'll do my best to get rid of that rude attitude!」
「Try it! I am not offended this time!」
『I will go with you, Claude!』
「Yeah!」
事の発端はMAKINAの抵抗を無理矢理抑制させて寄生させてから十数日後のことであった。マギウスの会社に、今どき誰が使っているか分からないその1通の手紙がエディア・コーポレーションに届いたことからだった。
受付嬢がその手紙の入った封を見るなり、おかしいものだと感じた。封の表側にFrom Magius・Ediaと、裏側にただ To Know the madness.とだけ書いてあった。何故このような記述があるのかは受付嬢には理解できなかったものの、兎も角これは社長に届けなければならないことは確かであった。
そして届けられたその手紙の内容を見て、行かざるを得なくなった。この内容そのものが罠だとしても、冷やかしだとしても、彼は行かなければならなかった。
━━I know your madness. I know your ambition. If you do not want the truth to be revealed, come to this place alone.━━
その文の下に、今居る廃工場の住所が書かれてあった。“あの狂気を見られた”、“あの儀式を見られた”。そうして考え付いたのは2年前にMAKINAを奪取し姿を晦ました科学者のディム・ラタストクが思い浮かんだ。
マギウスからしてみれば、ディム・ラタストクという男は計画を知らずに加担していた哀れな科学者という認識でしかなかった。何れにせよマギウスの信仰する存在を知れば、否が応でも誰もかれも畏怖し、崇拝せざるをえない。マギウスと出会った存在は、そのような恐ろしき存在であった。
男の声は「Do you want to create a world you don't know?」と囁かれた。そしてその後に女の手は摩訶不思議なものを見せてくれた。この時代ではそもそも完成しうることはないであろう、ロストテクノロジーや超科学とも呼べるべき技術で作られた人間の心臓であったのだ。
iPS細胞による再生治療など塵芥にしか見えなくなった。その心臓は老爺の声が言うに、純粋に1から創り上げたものであった。人類の祖が生まれた時の空間状態と、アミノ酸などによる材料によって創りあげられた物体。
その技術をマギウスは欲した。老婆の声とともに目の前に出されていく、現代科学を超越した魔法の如き“超科学”を。故に差し出された無数の手の1本を掴んだ。
そうしてその超科学の技術を持ってして作られたのがMAKINAとEXだ。その超科学の技術を知り、あの光景を見られたとあれば黙っている訳にはいかない。
今のマギウスにはEXとMAKINAの両方を寄生させているためその膂力などはもう生物の域を脱しているに等しいだろう。が、その代わり抑制剤の使用頻度が増えたことが否めない。早急に終わらせれば、邪魔をするものはいなくなる。
マギウスはランボルギーニから降りてネクタイピンに取り付けられたライトを点灯させて、その廃工場の敷地内へと入っていく。ここまで来てもまだ相手側は反応を見せていないようであったので、辺りを見渡す。すると左前方のコンクリート造りの建物の窓辺に薄らと灯りのようなものが見えた。
その建物に警戒心を持って入ると、ピチャリと足元の方で音がした。音から察するに水溜まりのような場所に踏み込んだのだと理解しつつ、また1歩ずつ建物内に侵入していく。だがどうしたことか、水溜まりは何故か続いていた。
しかしその大きな水溜まりも歩けば終わりを迎えるも、マギウスは不信感を持つ。この場所に来たのにも関わらず誰一人として姿を見せようとしないことに対してだ。
そうしてその建物の中心へと踏み入った途端、四方から何かが崩れる音が聞こえたと同時に大量の水が此方へと流れてきていた。その水がマギウスへと流れていくのだが、咄嗟に上空に逃げて天井の1部に五指で穴を開けて張り付いた。
すぐさま下を見て誰によるものなのかを確認しようとする。が、ここから1番下まで目測10m以上あるため下手人が誰なのかは分からなかった。そのため腕を伸ばして下へと降りていきながら周囲を確認していく。
ゆっくりと辺りを確認しながら降りていくのだが、突如何者かが階段を上っていく音が聞こえた。マギウスからして後ろの方から音がしていたため、迎撃しようと階段の方まで腕を伸ばして向かおうとした。
が、伸ばした手を掴んだ場所の近くに銃を持った誰かが──否、裏切り者の容姿が見えた。その姿が見えたのは、既に自身を発射させたところであった。
「Diiiiiim!」
ディムはその銃をマギウスの腕に向けて撃つと、その銃から電極のようなものが飛び出して腕に刺さった。そして刺さった瞬間、マギウスの体は制御が効かなくなったのか途中で床へと落ちてゴロゴロと体を転がせた。
ディムが撃ったのはテーザーガンと呼ぶもので、簡単に言えばアメリカのアクソン社が開発した銃タイプのスタンガンである。これは約5万-100万ボルトまでの電圧を与える銃であるが、アンペア数が低いため殺傷能力は低い。それでも当たれば強制的に筋肉を収縮させられ身動きが取れなくなる代物である。
今回ディムが撃ったのは62万ボルトの出力のもの。それを諸にくらったマギウスは強制的に動きを中断させられ、地面を這い蹲ることになった。
そして高出力の電気が体内に流れているため、マギウスの中にいるMAKINAとEXが暴れ始めた。必死にマギウスから逃げ出そうと、弱点である電気から逃れようと必死になっている。
そんなタイミングで階段を上っていた足音の正体が漸く到着した。近くにいたディムに対して脇目も振らず、決して速くはない走力でマギウスに近付いている。
しかしマギウスもまだ諦めようとしていなかった。痺れて動きづらいであろう腕で上着の懐からケースを取り出し近くに落とすと、震える手でケースを開けた。
中に入っていたのは3本の注射器、1本は先程地面を転がった時に壊れてしまったのか抑制剤の中身が零れていた。あとの2本は無事であるため、その内1本を必死になって手に取った。
マギウスの左腕からは液体のようなもの、人工寄生生命体が出始めていた。しかし逃れようにも、まだ足りない。あと一押しといったところだった。
「MAKINA!」
その声の主である、クロードは必死にその手を伸ばした。そして──────
マギウスから出ていた人工寄生生命体と触れた瞬間、マギウスは抑制剤を打った。しかし時は既に遅く、先程出ていた人工寄生生命体は宿主を変えていた。クロードの中に取り込んでいくと、宿主であるクロードは以前のような筋肉質へとなっていった。
そうして体格が変わり終えていくと、クロードは1歩だけ足を踏み込ませマギウスの上空を通り過ぎようとしていた。そんなクロードに対して腕を伸ばそうとしたマギウスであったが、その腕は全く伸びもしなかった。
「Shit……!」
マギウスの背後に立ったクロードは、この再会を喜んだ。彼女が居なくなってからそこまで月日は経ってないにせよ、クロードからしてみればとても長い時を過ごしていたのには変わりなかったのだから。
たとえ彼女にどんな理由があって、自身を騙してまでも兄を取り戻したかったからとはいえ、それまでに過ごしてきた様々な経験と時間だけは何の偽りもない。そこにはどのような形であれ、確かな友情があった。
「Welcome back…… MAKINA.」
『──I'm home, Claude.』
そんな再開の喜びも束の間、マキナが勝手に腕を伸ばしてディムの方へと移動した途端、マギウスの拳が先程までクロードが居た床の一部に穴を開けた。
『I will rejoice with you again!』
「Of course! Now beat────the guy!」
『Correctly my partner!』
ゆっくりとマギウスはまだ痺れが残っているであろう体を起き上がらせていくと、ディムとクロード、そしてMAKINAを睨みつけた。
「This idiot! Do extra things over and over again! Do not disturb my sublime purpose!」
「What is the noble purpose?! It's just an irresistible stupid delusion! I do not let you use MAKINA and EX for such a thing!」
「Watch the way you speak! I am close to God! I'll do my best to get rid of that rude attitude!」
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