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Bizarre Youth
15話
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「Patient's pulse does not stabilize! His breathing is getting weak too!」
「Administer nitroglycerin! Heart massage too! Never stop your hand! Prioritize everything for the patient's life!」
担架に乗せられながら緊急病棟に搬送されていく青年が居た。呼吸器に繋がれ意識が戻らず、更には心拍数が少しずつ低下していく非常事態に見舞われている。
救急隊員はその青年の身元は知らない。大きな音とによって目覚めた付近の住人が通報し、今現在青年を救おうと必死になっているその隊員たちは、目の前にある未来を助けるためだけに動いている。
たとえ身元が分からなくとも、たとえピエロの仮面を被っていた変人であろうと、たとえその体格に見合わず何故か奇妙に痩せ細っている状態であろうと、絶対に見捨てることはしない。それが命を救う者の使命である。
しかし、やはりというかこの青年の異様な姿に隊員たちは奇妙な印象を受けた。体格的に見れば普遍的な同年代の青年よりも確かに筋肉量が減少している傾向が見られる。それだけならば変に思わずに済んだが、狭心症にも似た状態になっている時点で何かがおかしいと感じていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
苦悶の声をあげながらゆっくりと目を開けていき、視界に映る光に眩しさを覚えて光源から目を逸らす。先程まで居た外ではなく、白で塗りつぶされたかのような天井と壁の一部が見えた彼は思考が追いつかなかった。
「…………Where is here?」
首を動かして今自分が何処にいるのかを先に確認していく。目に映ったのはよく病院で見かける機械類と窓1つ、そして自身がベッドの上で横になっていることも一応理解した。
そしてゆっくりとその体を起こそうと力を入れてみるが、何故か上手く力が入らない。数cmほど起き上がったものの、力が抜けてポスンと頭が枕へと戻っていた。その際自分の腕に違和感を感じて、それを見た。
痩せていた。以前より痩せていた。それが現実であることが理解出来ず不安になり、同時に彼は気付いた。
「MAKINA…………MAKINA!? Hey! Hey?!」
そう、彼は共に過ごした存在が居ないことに気付いたのだ。何度呼びかけても、何も聞こえない。何も答えてくれない。その現実を受け止めきれなくて、ただただあの時のことが事実であろうと信じられることが出来なくて、彼は──Claude Ratstockは泣いていた。
そうして次第に過呼吸気味になりつつあったところを、先程のMAKINAを呼ぶ叫び声が聞こえた警察の人間が医者を呼んで落ち着けさせていく。暴れはしなかったものの、精神状態が正常に戻りづらいのが今の彼であった。
医師が止むを得ず、彼に鎮静剤を投与すると極限状態から戻っていったのかゆっくりとまた眠りに着いた。そうして次に目が覚めたのは、日付にして9月12日の午後10時頃となっていたのだ。
夜遅くとはいえども、身元が判明していないクロードには聞かねばならないことがあるため、警察は事情聴取を行う。身辺調査、身分証明、あの現場で一体何があったのかと色々聞かなければならないことはたくさん。
ある程度自身のことについて話したあと、あの現場でのことになると唇をギュッとかみしめて顔を俯かせながら、“知らない”と。“何故あの場所に居たのかが朧気も思い出せない”と言った。
警察も、彼の表情などから察するに何か知っているんだろうと考え、何か手掛かりを掴もうとクロードに質問を続けた。だが返ってきた答えは知らないなどの一点張り、そのため警察もお手上げとなった。
そうして事情聴取を受けること30分が経過したころ、クロードの両親が共に駆け付けてきた。クロードの今の様子を目にした途端、母であるシャルティアは息子に近寄り手を取って涙を流した。父であるアデルはその変わりように絶句していた。
1度警察の聴取もあるので両親は部屋から出ることになったものの、その両親の表情は暗いものであった。変わり果てたその無残とも言える姿に対し、次第に誰も問い質すようなことはしなくなっていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
数日ほど検査入院をし、漸く解放されて家へと帰宅するや否や、クロードは塞ぎ込んでしまった。薄暗い自室でベットに寝そべり、壊れたピエロの仮面を、ハーレクインへとなるための仮面を手に取ってじっと見続け、そして後悔の念を浮かべることを幾度となく繰り返す。
まるで壊れた機械、何度も何度も同じ言葉を繰り返すロボットみたく奇っ怪な行動を繰り返していく。そして決まって最後に、彼女の名を呼ぶのだ。
【MAKINA】────マキナ、と。
そんな暗闇に放り込まれ、孤独のような感情を抱いていく日々を過ごしていると、自室の扉を叩く音が耳に届いた。その扉の向こうから、母の声が聞こえた。
「Claude, she is a visitor to you. She said, "I'm the one who helped you."」
そう言った母の言葉から記憶を辿り、思い出した。あの時、マキナの力に溺れかけていた時に怪我をさせてしまったあの人の、あの女性のことだと。本当は行きたくなかった。けれど、見えない何かが自分の体を動かしていた。
まるで無意識の自分が、このままでは駄目だとでも言っているかのように自然と身体が動いた。まるで運命がそうしなければならないと強制的に作用しているように。
ゆっくりと、彼はその姿を初めて両親以外に晒した。玄関の扉が開かれると、その変わりように驚いた表情を見せる女性はクロードを心配していた。
「Excuse me. Could you listen to the story for a little while?」
そう訊ね、少しの間考えたあと女性は承諾した。クロードは女性と外で事の顛末をなるべくぼかし、なるべく端的に言い終えて女性が口を開く。
「Are you important to that friend?」
「…… It was very important. But there are no more .」
「Then change the question. Do you still think about that friend and want to get along again?」
意味が分からないと思った。もうマキナは居ない、マギウス・エディアによって吸収された。そんな過去の事実を再確認した上で、彼はふと疑問に思った。
そう、あの時とてつもない苦しみが襲ったにせよマギウスに吸収されたのは間違いない。それはまるで初めて出会った頃、マキナが寄生していく状態を表しているかのようだと気付いた。そして導き出された結論は────マキナは生きている。
彼は喪失感によって、マキナは死んだと勝手に思い込んでいたがそうではない。マギウスに吸収されたのならば、どんな形とはいえども必ず生きている。そんな確証の持てる予測にクロードは嬉しくて泣いた。
「Want to meet…… ! I just want to see you again,…… I never want to leave again!」
「That's good. If you want to meet again, be sure to meet and reconcile.」
「…… Thank you.」
「If you get along well, will you introduce that friend?」
「Am…… my friends are pretty shy.」
そうはぐらかして家へと戻り自室に入ると、すぐにリツウェッドを開いてマップ機能を展開。以前訪れたあの廃洋館に何かあるのではないのかと経路を調べていくが、徒歩で約1時間ほどかかってしまう。
けれど、その1時間でマキナを救える手掛かりがあるのならば惜しくはない。1分1秒が惜しいとクロードは出かける支度をして先ずはバスであの廃洋館近くまで向かった。
以前より筋肉量が減り、持久力もその分減ったとは言えども、その内に潜む希望の念だけがクロードを動かしていた。
そうして廃洋館から近いバス停に降りると道を思い出しながら進み、見慣れた木々に挟まれた小道が見えた。湧き出る恐怖を必死に抑えながら、その小道を真っ直ぐ歩いていく。
辿り着いた先にはあの柵扉と風化したレンガの壁、しかし扉は何故か開いており停まっているであろうジープは何処にも見られなかった。しかしこれはあの時の男が居ないことへの、またとないチャンスの証明にもなる。
すぐに玄関まで走り、洋館の中へと入る。ギシギシと今にも崩れそうな床はゆっくりと歩き、階段下の扉のノブを回して開けると階段を降りていく。暗いのでリツウェッドのライト機能で照らしながらあの部屋に到着した。
そこで何か無いものかと探そうとすると、ガチャンと扉が閉まる音が聞こえると同時に男の声が聞こえた。
「Who is there?」
クロードは慌てて振り返りその人物をライトで照らす。その光を目で直視した男は怯んで顔を片腕で隠していたが、ある程度光に慣れたところでゆっくりとその顔を露にした。
そこで初めて、お互いがそれぞれを顔を見て驚きの表情を浮かべた。そして第一声が────
「Dim?!」「Claude?!」
顔見知りどころか親戚が意外な場所に居ることへの純粋な驚愕であった。
「Administer nitroglycerin! Heart massage too! Never stop your hand! Prioritize everything for the patient's life!」
担架に乗せられながら緊急病棟に搬送されていく青年が居た。呼吸器に繋がれ意識が戻らず、更には心拍数が少しずつ低下していく非常事態に見舞われている。
救急隊員はその青年の身元は知らない。大きな音とによって目覚めた付近の住人が通報し、今現在青年を救おうと必死になっているその隊員たちは、目の前にある未来を助けるためだけに動いている。
たとえ身元が分からなくとも、たとえピエロの仮面を被っていた変人であろうと、たとえその体格に見合わず何故か奇妙に痩せ細っている状態であろうと、絶対に見捨てることはしない。それが命を救う者の使命である。
しかし、やはりというかこの青年の異様な姿に隊員たちは奇妙な印象を受けた。体格的に見れば普遍的な同年代の青年よりも確かに筋肉量が減少している傾向が見られる。それだけならば変に思わずに済んだが、狭心症にも似た状態になっている時点で何かがおかしいと感じていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
苦悶の声をあげながらゆっくりと目を開けていき、視界に映る光に眩しさを覚えて光源から目を逸らす。先程まで居た外ではなく、白で塗りつぶされたかのような天井と壁の一部が見えた彼は思考が追いつかなかった。
「…………Where is here?」
首を動かして今自分が何処にいるのかを先に確認していく。目に映ったのはよく病院で見かける機械類と窓1つ、そして自身がベッドの上で横になっていることも一応理解した。
そしてゆっくりとその体を起こそうと力を入れてみるが、何故か上手く力が入らない。数cmほど起き上がったものの、力が抜けてポスンと頭が枕へと戻っていた。その際自分の腕に違和感を感じて、それを見た。
痩せていた。以前より痩せていた。それが現実であることが理解出来ず不安になり、同時に彼は気付いた。
「MAKINA…………MAKINA!? Hey! Hey?!」
そう、彼は共に過ごした存在が居ないことに気付いたのだ。何度呼びかけても、何も聞こえない。何も答えてくれない。その現実を受け止めきれなくて、ただただあの時のことが事実であろうと信じられることが出来なくて、彼は──Claude Ratstockは泣いていた。
そうして次第に過呼吸気味になりつつあったところを、先程のMAKINAを呼ぶ叫び声が聞こえた警察の人間が医者を呼んで落ち着けさせていく。暴れはしなかったものの、精神状態が正常に戻りづらいのが今の彼であった。
医師が止むを得ず、彼に鎮静剤を投与すると極限状態から戻っていったのかゆっくりとまた眠りに着いた。そうして次に目が覚めたのは、日付にして9月12日の午後10時頃となっていたのだ。
夜遅くとはいえども、身元が判明していないクロードには聞かねばならないことがあるため、警察は事情聴取を行う。身辺調査、身分証明、あの現場で一体何があったのかと色々聞かなければならないことはたくさん。
ある程度自身のことについて話したあと、あの現場でのことになると唇をギュッとかみしめて顔を俯かせながら、“知らない”と。“何故あの場所に居たのかが朧気も思い出せない”と言った。
警察も、彼の表情などから察するに何か知っているんだろうと考え、何か手掛かりを掴もうとクロードに質問を続けた。だが返ってきた答えは知らないなどの一点張り、そのため警察もお手上げとなった。
そうして事情聴取を受けること30分が経過したころ、クロードの両親が共に駆け付けてきた。クロードの今の様子を目にした途端、母であるシャルティアは息子に近寄り手を取って涙を流した。父であるアデルはその変わりように絶句していた。
1度警察の聴取もあるので両親は部屋から出ることになったものの、その両親の表情は暗いものであった。変わり果てたその無残とも言える姿に対し、次第に誰も問い質すようなことはしなくなっていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
数日ほど検査入院をし、漸く解放されて家へと帰宅するや否や、クロードは塞ぎ込んでしまった。薄暗い自室でベットに寝そべり、壊れたピエロの仮面を、ハーレクインへとなるための仮面を手に取ってじっと見続け、そして後悔の念を浮かべることを幾度となく繰り返す。
まるで壊れた機械、何度も何度も同じ言葉を繰り返すロボットみたく奇っ怪な行動を繰り返していく。そして決まって最後に、彼女の名を呼ぶのだ。
【MAKINA】────マキナ、と。
そんな暗闇に放り込まれ、孤独のような感情を抱いていく日々を過ごしていると、自室の扉を叩く音が耳に届いた。その扉の向こうから、母の声が聞こえた。
「Claude, she is a visitor to you. She said, "I'm the one who helped you."」
そう言った母の言葉から記憶を辿り、思い出した。あの時、マキナの力に溺れかけていた時に怪我をさせてしまったあの人の、あの女性のことだと。本当は行きたくなかった。けれど、見えない何かが自分の体を動かしていた。
まるで無意識の自分が、このままでは駄目だとでも言っているかのように自然と身体が動いた。まるで運命がそうしなければならないと強制的に作用しているように。
ゆっくりと、彼はその姿を初めて両親以外に晒した。玄関の扉が開かれると、その変わりように驚いた表情を見せる女性はクロードを心配していた。
「Excuse me. Could you listen to the story for a little while?」
そう訊ね、少しの間考えたあと女性は承諾した。クロードは女性と外で事の顛末をなるべくぼかし、なるべく端的に言い終えて女性が口を開く。
「Are you important to that friend?」
「…… It was very important. But there are no more .」
「Then change the question. Do you still think about that friend and want to get along again?」
意味が分からないと思った。もうマキナは居ない、マギウス・エディアによって吸収された。そんな過去の事実を再確認した上で、彼はふと疑問に思った。
そう、あの時とてつもない苦しみが襲ったにせよマギウスに吸収されたのは間違いない。それはまるで初めて出会った頃、マキナが寄生していく状態を表しているかのようだと気付いた。そして導き出された結論は────マキナは生きている。
彼は喪失感によって、マキナは死んだと勝手に思い込んでいたがそうではない。マギウスに吸収されたのならば、どんな形とはいえども必ず生きている。そんな確証の持てる予測にクロードは嬉しくて泣いた。
「Want to meet…… ! I just want to see you again,…… I never want to leave again!」
「That's good. If you want to meet again, be sure to meet and reconcile.」
「…… Thank you.」
「If you get along well, will you introduce that friend?」
「Am…… my friends are pretty shy.」
そうはぐらかして家へと戻り自室に入ると、すぐにリツウェッドを開いてマップ機能を展開。以前訪れたあの廃洋館に何かあるのではないのかと経路を調べていくが、徒歩で約1時間ほどかかってしまう。
けれど、その1時間でマキナを救える手掛かりがあるのならば惜しくはない。1分1秒が惜しいとクロードは出かける支度をして先ずはバスであの廃洋館近くまで向かった。
以前より筋肉量が減り、持久力もその分減ったとは言えども、その内に潜む希望の念だけがクロードを動かしていた。
そうして廃洋館から近いバス停に降りると道を思い出しながら進み、見慣れた木々に挟まれた小道が見えた。湧き出る恐怖を必死に抑えながら、その小道を真っ直ぐ歩いていく。
辿り着いた先にはあの柵扉と風化したレンガの壁、しかし扉は何故か開いており停まっているであろうジープは何処にも見られなかった。しかしこれはあの時の男が居ないことへの、またとないチャンスの証明にもなる。
すぐに玄関まで走り、洋館の中へと入る。ギシギシと今にも崩れそうな床はゆっくりと歩き、階段下の扉のノブを回して開けると階段を降りていく。暗いのでリツウェッドのライト機能で照らしながらあの部屋に到着した。
そこで何か無いものかと探そうとすると、ガチャンと扉が閉まる音が聞こえると同時に男の声が聞こえた。
「Who is there?」
クロードは慌てて振り返りその人物をライトで照らす。その光を目で直視した男は怯んで顔を片腕で隠していたが、ある程度光に慣れたところでゆっくりとその顔を露にした。
そこで初めて、お互いがそれぞれを顔を見て驚きの表情を浮かべた。そして第一声が────
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