HARLEQUIN

マルエージング鋼

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Bizarre Youth

2話

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 自室に戻ってノートパソコンで動画編集作業をしているクロードは、一旦休憩としてリツウェッドから課題の疑問点を解消する為に調べている。情報化社会になってから大抵のものは簡単に調べられるが、今でも“どのように説明するか”ということについては考えを張り巡らさなければならない。

 1通り確認し終えると、今度は動画サイトで友人の配信動画を観る。ホラゲー生実況の様子を見ていくと、まぁまぁだなというのが最初に浮かんだ。確かにプレイ動画としては多少稚拙な部分があって少し見てられないというのがあったりして、面白いのかと聞かれればそうではないと答えそうなものであった。

 そうだとしても、クロードは1つ気に入っていることがある。程よく察しが良いので時折ウザったく感じないことがしばしば。途中で動画を観ることを止めて、また編集作業へと戻る。

 日本のVOICEROIDは良い文明だと思いつつ、手間のかかる作業をかれこれ3時間は続けて漸く完成する。座った状態で両腕両脚を伸ばしてリラックスしつつ、動画を投稿。

 その後は歯を磨いて眠気に従ってベッドに入り込む。ベッドに入れば眠気がすんなりと体と意識に馴染んできて、遂に眠ってしまった。ぐっすりと眠ること、7時間。その7時間の間特に何も起こらなかったそうな。




 ━━7時間後━━
 ━━7月 21日━━
Overslept寝坊…… ! Today is a holiday今日は違うわ.」


 慌ててアラームの通りに跳ね起きたクロードだが、今日は学校に行かなくても良い日だったことを思い出してため息をつく。また寝るのも億劫なので昨日投稿した動画を確認してみると、約8時間で2万回以上再生されていた。

 ただこの数であっても、世界からすれば2万という数字もまだまだ少ない。少し気になってマークの動画を確認すると、この時点で12000回再生。クロードのと比較してもかなり差がある。

 それだけを確認したクロードは、1度リビングに赴いて冷蔵庫の中からチョココーンフレークと牛乳、バナナ2本を持って全部深めの皿に入れる。スプーンとコップ、グレープフルーツジュースを用意し食前の祈りを捧げる。

 昨日は遅れそうだったので割愛させてもらったが、キリスト教徒は本来必ずこうしなければならない。まぁその宗教観念も今や薄れてきているので多少は致し方ないだろう。ただ10年以上もキリスト教徒であるのにその儀礼をしないというのも些かどうなのだろうか。

 とまぁ儀礼を終えると、食事を開始する。簡単なもので朝にピッタリな食事なので特に不快感を感じずに食べ終えていくと、使った食器類を洗って水切り台に置いた。

 今日は朝から行けるので、遠出の準備をしてまたパルクールしながら何処へともなくフラフラしようとしていた。自室に戻って着替えと出かける準備をし、食事から30分後に歯磨きをする。全部の準備が終わったら、遠出用のミニポーチを体に取り付けて家から出ていく。勿論、リビングに書き置きを残して。

 いつものビルの屋上へと向かうと、パーカーのフードに入れていたピエロの仮面を着けて飛び移り始めた。時に方向転換の為だけに壁を用いて宙返りをしたり、時にスリルを求めて少し遠めのビルまで飛び移ったりと忙しなく動いていく。

 この時間だけがいつも楽しいと思える。誰にも邪魔されず、ただ思うがまま色んな場所へとこの足で、この肉体で、その感覚で味わっている。それが何よりも心地好くて、何もかも気にしなくて良いのだから。

 そうして走ること1時間、まだ朝の8時半だが近くの売店でスポーツ飲料を購入してビルの屋上で休んでいた。

 その最中に、屋上の扉が開く音が聞こえた。そちらへと視線を向ければジャラジャラと金属製アクセサリーを多く身に付けている5人組がクロードの居る屋上に現れてきた。


「Wow, look見ろよThere is someone誰か居るぜ!」
「Ow! Moreover, it is a childしかもガキじゃねぇか!」


 面倒な輩に巻き込まれそうだと、そう確信したクロードはすぐに仮面を着けてペットボトルをミニポーチの中に突っ込み、その場から逃げるように向かい側のビルに飛び移った。

 しかし連中は面白がっているのかクロードを追いかけている。こうなれば後は逃げ続けるしかないため、ペースを落とさずに家屋の屋根などに飛び移ったりして逃げようとしている。

 そうしても何故か付いてくる。そんなにおちょくりたいのかと思っているが、今は様々なルートを計算して何とか撒こうと試行錯誤している。だが次第に見たことの無い場所に行き着いているせいで計算が追いつかなくなってきている。

 それから2時間が経過し、流石にもう疲れて民家の屋根に隠れながら覗き込む。どうやらここまですれば追いかけては来なかったようだ。実際は1時間すれば追いかけなかったが、その点に気付きはしないのであった。

 安全を確認すると、今度はリツウェッドのマップを起動して現在位置を確かめる。家から約2マイル離れた場所に位置しており、よくここまで行けたなと率直な感想を思う。

 見渡してみると、民家が殆どであるため住宅街まで来ていたことが分かった。そして動きすぎて空腹になったので、付近のスーパーマーケットをリツウェッドで確認すると家と家の間の細道に降り立つ。

 ピエロの仮面を脱ぎ、念の為パーカーのフードの中に仮面を隠して歩いてそこまで向かう。少し広めの店内を徘徊し何かあるかと探していく。最終的に買ったのは大豆バー2本とコーラ1本、ついでにゼリー飲料も1つ。

 それらを買って、何処か休めるところを探しながらゼリー飲料を飲む。だが公園が見つからないので、付近の森林で結局休むことになった。涼しげな森の中で、近くの隆起している木の根に座り大豆バーを頬張る。

 サクッという食感が静寂な辺りに少しだけ発せられ、大豆バーのカスが地面に落ちていく。コーラのキャップを開けると炭酸が空気中に出ていき、プシューッと特有の音がまた響く。

 そしてコーラをがぶ飲みし、喉の乾きと糖分を充足させた。


「──Huh, really tiredめっちゃダルいThose guys just beforeさっきの奴等it’s really annoyingマジでしんどい.」


 1人愚痴をこぼす。先程の輩はクロードにとっては先ず厄介な者であった。関わりを持たない方が良いとふんでいた。例え弱腰であることを笑われようが、面倒なことに首を突っ込む方がバカらしいのだ。

 何故ならば、弱いから。1人では出来ないことが多いことは既に知っている、だからこそ自分に出来ることしか選択肢がない。大人になれば、また違うのだろうが。

 そんなことをボケーッとしながら思い浮かべつつ、クロードは休憩を終えて“どうせなら”と考え森の中へと入っていく。まだまだ時間はある上に多少迷っていても、いつか開けた場所に出ることは当たり前だからこその考えであった。

 差し込む日の光は少しずつ、中へ入って行けば行くほど少なくなっていく。薄暗くて少し不気味に感じてしまうものの、クロードの心は好奇心に駆られていて“畏れ”以上に“興味”や“探求”への欲求が大いに働いていた。

 次第に歩を進めていくと、少しだけ開けた場所が見えた。何やら言い知れぬ不安と、この先に何があるのだろうかという人特有の性が入り混じりつつも、ゆっくりと開けた場所へと近付いていく。

 そうして進んでいく内に、クロードの目にはあるものが映っていた。

 であった。なぜこのような場所にあるのかは今のところ定かでは無いにせよ、明らかに異質な雰囲気を放っていた。まるで幽霊屋敷のように所々風化していたりボロが見えていたりしている。

 だが1つだけ、この場所に相応しくないものがある。古びているが、明らかにそれだけはこの外観には合っていない物に見えるのだ。

 車──それもジープである。そのジープにもつたや埃、土などが付着しているように見えるが比較的新しい車だ。昔からあったものではなく、何者かがこのジープでここまで来たというのが正しいのだろうとクロードは考えた。

 その廃洋館を遠目にじっくりと見ていくと、1階辺りに僅かながら光に照らされた影が見えた。その影が何なのかはまだ分からないので、ピエロの仮面を着けて門をよじ登り敷地内へと侵入する。

 そろりそろりと気付かれないように、物陰やアシの群生に隠れて身を潜ませつつ徐々にその距離を詰めていく。冷たく不気味な風が恐怖を煽らせてくるが、クロードはそうしなかった。ゆっくりと、ゆっくりとその光に近付く。

 そして窓の傍まで近付くと、その窓の下に小さな穴が空いて光が漏れだしていた。そこを覗き穴とし、室内を見た。

 誰かが、背を向けて何かしている。ランタンのわずかな灯火だけがその人物と部屋の1部を照らしていた。よーく耳を澄ますと、ほんの少しだけカリカリという時の音が聞こえる。何を書いているのか、もっとよく見ようとした途端であった。

 1歩だけ、後退りしたのが不味かった。体勢を変えようとしたのが仇となった。踵の辺りに小石がぶつかり、カラカラと音を立てて転がった。それに気付いてこちらへと振り向き、バレたと思ったクロードはその場から無言で逃げ出した。

 いや、正確には声は出していた。怖いという感情を込めた声は出していたが、小さすぎて仮面越しとなると聞こえにくくなるだけである。ダッシュで逃げて門をよじ登り越えると、また追い付かれないように走って行った。

 音に気づいた人物は、窓を開けて外の様子を見た。すると何者かの後ろ姿を発見し、そして門を越えていく様子を目撃した。姿を見られたと思いすぐに逃げる準備を始めようとしたが、すぐにその考えを止めた。

 先ず第一に、彼は研究者であって戦闘要員というものではない。もしも捕らえるのであれば1人であろうと銃を向けて脅せば良いだけの話だからだ。そして次に、あの逃げて行った様子からして部外者で、あのと何の関係も無い人物であること。

 それらの理由が合わさったことで、彼は何も行動しなかった。だが安心しきった訳でもない。時期に奴等もここを嗅ぎつけて狙ってくるだろうと予想している。そうなる前に、ここを脱出するしかない。

 その彼はランタンを持ち廊下へと出ると、2階へと続く階段の下にある扉を開ける。するとそこに地下室へと続く階段が現れる。その階段を降りて行き、地下室へと入っていく。

 彼は迷わず真っ直ぐ前へと行き、作業台へと到着する。目の前には埃を被ったデスクだけだが、何故か一部分が綺麗であった。

 スっとその場所へと手を伸ばすと、そこから円筒状のカプセルのようなものが現れた。その円筒状のカプセルのは、カプセルを動かしていないのにも関わらず独りでに左右に動いていた。まるで喜んでいるかのように。
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