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第65話 あの声

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 「ハァ…ハァ…」

 息を荒くて走るのはカナファと、シーフを抱えたコマリだ。

 2人は洞窟の出口を目指していた。

 走っていると時々地響きが聞こえ、洞窟全体が震える。

 ユウエイと黒龍が激しく戦っているのが原因だ。

 「大丈夫ですか…カナファさん!」

 コマリが走りながら、カナファに声をかけた。

 「うん…私はなんとか…それより、コマリの方が重症じゃ…」

 カナファは心配を返した。

 実際、見た目にしてもコマリの方が重症だろう。

 手は治癒魔法で応急処置はしたものの、焼き焦げている。

 黒龍の火炎によるものだ。

 そんな中シーフを抱えている。
 負担も大きい。

 「いえ…僕は大丈夫ですよ」

 コマリは作り笑いを浮かべた。

 カナファにも、無理して笑顔を作っているとわかった。

 「助けてくれ~ううぅ…」

 惨めに声を上げるのはソールだった。
 両手をユウエイに斬られ、その痛みに耐えかねていた。

 途中にあの3人組がいた。
 カベスとコスイは気絶しており、ソールは両手を失って悶絶していた。

 「結界が無くなってる…」

 「ユウエイさんのおかげですね」

 結界はユウエイによって破壊済みだ。
 おかげで、通れるようになっていた。

 「うう…助けて…助けてぇ…」

 ソールが震えた声を上げた。

 「あなた達は僕達を裏切った。裏切り者を助けるほど、僕はお人好しではないですよ」

 コマリはそう言った。

 「さあ、先へ急ぎましょう」

 コマリはソール達を助けなかった。
 当然だ。
 裏切り者を助けるわけがない。

 ソール達に触れずにまた、出口を目指して歩みを進めた。

 「もうすぐ、出口です」

 やっとの思いで、洞窟の出口へ辿り着くことができた。

 途中の魔物は行きの時点で倒しておいたため、出現しなかった。

 「ここまで来れば、安全でしょう」

 コマリは安堵した。

 「シーフさんも、今は気絶してますが命に別状はなさそうですね」

 シーフは気絶していた。

 「うん…でも、ユウエイは?」

 今も、ユウエイは黒龍と戦っている。
 カナファはユウエイことが心配だった。

 無事だろうか。
 
 目の前で黒龍の火炎を斬り裂いた事実と、あの自信のありようを見ていると大丈夫だと思えるが。相手もあの黒龍だ。

 一緒に逃げるのが正解だったのでは?

 カナファはそう思っていた。

 「ユウエイさんなら大丈夫ですよ」

 コマリが自信満々にそう言った。

 コマリはユウエイが勝つと確信があった。
 会って間もない仲間なのだが、なぜかそう思えた。

 「僕はユウエイさんを信じていますから」

 コマリとカナファは洞窟の入り口で、ユウエイを待つのだった。




 ◇◆◇
 
 さて、どうしたものか。

 黒龍は倒した。
 倒したけどな…

 結果は最悪だ。

 仲間を失ってしまった。
 僕が、寄り道なんてしなければよかったんだ。
 
 全ては僕のせい。
 そう僕が悪いんだ。
 僕が死なせた。
 僕が殺した。

 僕が……こ…ろした…?

 助けれなかった?

 「なんで助けてくれなかったの?」

 唐突に声が頭に響いた。

 「ハッ!ハァ…ハァ…ハァ!!」

 呼吸が荒くなった。
 息が…うまく呼吸ができない。
 鼓動が早くなる。

 「ねぇ!なんで!なんでなのよぉ!!!」

 あの人の声が頭に響いた。
 頭が割れるぐらい大きく。

 ああ…またか…
 また、僕は同じことを…
 繰り返したのか…

 「そうだよ。お前はまた過ちを犯したんだ」

 誰だ?
 僕か…
 僕の中のもう1人の僕の声か。

 僕の中には僕と、僕であり、僕ではないものがいる。

 時々、僕に僕じゃない僕が話しかけてくる。

 「お前が、殺したんだよ。あの時と同じようになぁ」

 「僕が…殺した…」

 「そうだ、可哀想になぁ…お前のせいで死んだんだ」

 「僕のせい…」

 「お前が、しっかりしてれば死なずにすんだのになぁ…」

 「………………」

 「何度同じことを繰り返すんだ?」

 「……僕は………」

 「どうせ、答えなんてでないだろ?」

 「………………」

 「いや、いいよ…お前はそういうやつだからな…」

 「……………」

 「だけど、変えたいんじゃねーのかよ?」

 「……………」

 「お前は、もう後悔したくないって思ったんじゃねーのかよ?」

 「……そ………」

 「だったら、早く生まれ変われよ」

 「ん………」

 「ったく…よぉ…」

 それを最後にもう1人の僕の声は消えた。

 空想なのか、幻想なのか、幻覚なのか、幻聴なのかはわからないが…

 トラウマってやつだな。

 さてこれからどうするか…
 おそらく、コマリとカナファは馬車に戻っただろう。
 そこで、僕の帰りを待っていると思う。

 そこへ帰るか…?

 いや、僕はあの2人に合わせる顔なんてない。

 途中でいなくなった訳をどう話す?
 お宝を探してましたなんて言えるわけがない。
 
 もう帰ろう。
 人間のエリアの様子もわかった。
 十分だ。

 何より疲れた…
 
 でも、帰り道がわからないな…
 ラノール王国はここから、ほぼ一直線だった。

 とりあえず、ラノール王国に一旦行けば、帰り道がわかるはず。

 よし、とりあえずラノール王国に帰ろう。
 そこから、自宅(城)へ行けるはずだ。
 ネイン達も僕の帰りを待ち侘びていると思うし。

 また、無断な行いをするが、許してねカナファ、コマリ、シーフ。
 また、どこかで会えるといいな。

 僕は無理矢理洞窟の真上に穴を開けて地上にでた。

 「うわっ…暗くなってきたな…」

 夕暮れ時というやつだろうか。
 もう、日が落ちる寸前だった。
 早く帰らなければ、夜になってしまう。

 急ごっと…

 僕はラノール王国の方向に飛んだ。







 



 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 

 



 
 
 
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