上 下
45 / 67

第45話 翡翠の花

しおりを挟む
 「大分マシになりました。ありがとうございます」

 僕はしっかりちゃんとした回復液を見極めてソルメイスに飲ませた。

 「悪かったな…部下の悪戯らがすぎた」
 
 まさか激辛の液体だとは思わなかった。しかし今考えてみるとフカシギならあり得なくもない。むしろやばいのが無い方がおかしい。

 回復液を渡してくれた時のフカシギを思い出すと怪しげな薄ら笑いを隠しきれてなかった。まるでびっくり箱を渡し、驚く様を期待している子供のように。

 それにしても飲まなくてよかった…

 僕は辛いのは苦手だからな…

 辛党には申し訳ないが、辛さに旨みは感じないと思ってしまう。なぜなら辛い=痛いだからだ。痛いのは嫌だ…

 「酷いですよ…師匠。あんな辛いものを飲ませるなんて」
 
 ソルメイスは頬を膨らませて言った。

 「本当に悪かった…まさかあんな液だとは思わなかった。ただの回復液だと思ったんだ」

 僕は精一杯の弁解をした。

 僕が仕込んだと思われるのは癪だ。

 なぜなら僕は今ソルメイスの師匠だからかね。師匠は尊敬の目で見られなくてはならない。こんな悪戯をしたと思われてしまったら師匠として顔が潰れてしまう。

 「……師匠がそんなことしないぐらい…僕にだってわかりますよ」

 ソルメイスは僕が仕込んでないと理解してくれたようだ。

 よかった…これで、師匠の威厳は守られる。

 「驚きましたけど…今はもう回復しましたから…その…ありがとうございます」
 「ん…そうか、ならよかった」

 僕はひとまず安心した。

 「歩けるか?」
 「はい…回復液のおかげで大丈夫です!」

 ソルメイスは元気なった。

 どうやらちゃんとした回復液もあったらしい。

 全てやばい液体の可能性も疑ったが、どうやら3本中2本はしっかりとした回復液だった。

 3本中1本は激辛だということになる。

 ロシアンルーレットかよ。本当にタチの悪い悪戯だ。

 だが、フカシギにとっては実験や、観察のつもりなんだろう…マッドサイエンティストめ…

 僕は心の中で呟いた「飲まなくて良かったそしてソルメイス…どんまい」


 「この先に翡翠の花があるはずです」

 僕とソルメイスは洞窟の奥深くへと進んでいった。

 「ようやく目的の花のところか」
 「ええ…本当に師匠がいて良かったです。僕1人だったらどうなっていたのか…」

 ソルメイスが顔を真っ青にして言った。

 「ソルメイス1人だったら即死だったな」

 僕は軽く笑いながら言った。

 ソルメイス1人で翡翠の洞窟に来た場合のことを考えると…まあ、即死だろう。

 「笑い事ではありません!運が無かったら…僕は……」
 「まあ、どうせ逃げただろう?」
 「ウ…」

 図星だった。

 「図星か?」
 「はい…正解です…」
 「時には逃げるのも大事だ」
 「………勇者は逃げていてはダメなのではないでしょうか?」
 「なぜだ?」
 「だって勇者ですよ?皆んなを守る存在が逃げていたら……ダメですよね…」
 「1番ダメなのは逃げることじゃ無い、死ぬことだ」
 「アッ…」
 「死んでしまったら守れるものも守れなくなるだろう?それじゃ意味がない」
 「そ…そうですね…」
 「逃げたくも、死にたくもなければ強くなることだ…そして何より大切なのは、大事な人を守り抜くことだ、あの時にこうすればよかったと、後悔してはならないぞ…」

 そう…僕にはたくさんの後悔がある。

 今さらになって、ああすればよかったとかを考えてしまう。だが、考えるだけ無駄なのだ。過去には戻れないし、結果はもう出てしまっている。だから、今の選択や、行動がとても大事なのだ。

 「……そうですよね…頑張ります!」

 そうソルメイスと他愛のない会話をしているうちに奥に薄く光が見えた。

 「奥に…なにか光ってますね…」

 ソルメイスは遠くを見るようなポーズをして言った。

 「行ってみよう」

 僕とソルメイスはその光の場所へ向かった。

 そこには一輪の緑に神々しく光を放っている花がそっと咲いていた。

 まさに翡翠…僕の世界では緑色の宝石のことだが、その花は翡翠の宝石の輝きを放っていた。

 「これが翡翠の花…」
 
 ソルメイスは声を漏らした。

 「美しいな」
 「はい…とっても…」
 「摘むのか?」
 「そういう命令ですので…でも師匠はいいのですか?」
 「私か?」
 「だって…この花を摘む権利は師匠があると思います。師匠がいなければ僕はこの花を拝むことすらできませんし。僕は結局ほぼ何もしていないのに…摘ませてもらうのは…」
 
 ソルメイスは申し訳なさそうに言った。

 別に花なんて、いらない。持って帰っても一瞬にして枯らす自身があるし…。

 「私は特に使い道がないからな…いい。ソルメイス、貴様の好きにするがいい」
 「本当ですか…ではお言葉に甘えさせて頂きます」

 そう言ってソルメイスはそっと翡翠の花を摘んだ。

 地面から離れてもなお緑色の光は神々しいままだった。

 

 

 

 

 

 

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~

昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。

毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー活劇〜 

天海二色
SF
 西暦2320年、世界は寄生菌『珊瑚』がもたらす不治の病、『珊瑚症』に蝕まれていた。  珊瑚症に罹患した者はステージの進行と共に異形となり凶暴化し、生物災害【バイオハザード】を各地で引き起こす。  その珊瑚症の感染者が引き起こす生物災害を鎮める切り札は、毒素を宿す有毒人種《ウミヘビ》。  彼らは一人につき一つの毒素を持つ。  医師モーズは、その《ウミヘビ》を管理する研究所に奇縁によって入所する事となった。  彼はそこで《ウミヘビ》の手を借り、生物災害鎮圧及び珊瑚症の治療薬を探究することになる。  これはモーズが、治療薬『テリアカ』を作るまでの物語である。  ……そして個性豊か過ぎるウミヘビと、同僚となる癖の強いクスシに振り回される物語でもある。 ※《ウミヘビ》は毒劇や危険物、元素を擬人化した男子になります ※研究所に所属している職員《クスシヘビ》は全員モデルとなる化学者がいます ※この小説は国家資格である『毒物劇物取扱責任者』を覚える為に考えた話なので、日本の法律や規約を世界観に採用していたりします。 参考文献 松井奈美子 一発合格! 毒物劇物取扱者試験テキスト&問題集 船山信次  史上最強カラー図解 毒の科学 毒と人間のかかわり 齋藤勝裕  毒の科学 身近にある毒から人間がつくりだした化学物質まで 鈴木勉   毒と薬 (大人のための図鑑) 特別展「毒」 公式図録 くられ、姫川たけお 毒物ずかん: キュートであぶない毒キャラの世界へ ジェームス・M・ラッセル著 森 寛敏監修 118元素全百科 その他広辞苑、Wikipediaなど

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...