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4「結城くんと、仲良くしたいし……ね」

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 昨日から、状況を整理しようと思っても、全然整理出来ないでいた。
 これ以上、俺1人で考えるのは時間の無駄だ。
 講義直前、隣の席になった智哉が俺に話しかけてきた。
「司……御門と一緒に教室来てなかった?」
「偶然、外で会ったんだ。ついでに昨日のお礼も言っておいた」
「そっか。お礼言えたみたいでよかったな」
「うん」
 ただ、ついでみたいに感謝してると言っただけで、あんなのは、ちゃんとしたお礼とは言えないかもしれない。
 むしろ助けてくれなかったことに関して、文句を言ってしまったくらいだ。
「にしても、あいつ結構力あんだな」
「え?」
「だって司、図書室で寝てたんだろ? 4階だよ? よく運ぼうと思うよな」
 御門くんが智哉にどう話したかは知らないけど、俺が寝ていたのは図書室じゃない。
 そもそも、俺は御門くんに眠らされた可能性だってある。
 救急車だって呼んでくれなかった。
 きっと御門くんは、さらりと嘘をつける人間なんだろう。
 だから、いろんな人と付き合ってたり、やってたりするウワサが絶えないんだ。
 そして、智哉とも――
「智哉は……御門くんのどこが好きなの?」
「俺、御門のこと好きなんて言った?」
「……直接は、言ってなかったかもしれないけど。最近、たくさん褒めてたから」
 あまりにもたくさん褒めるもんだから、結局、どこが好きなのかわからない。
 全部だって言われたら、それまでだけど。
「そんなに褒めてたっけ。あんまり意識してなかったけど。まあ、人当りいいし、あいつ、誰にでも優しいしな」
「人当り良くて、誰にでも優しいやつって、浮気しまくると思う」
「かもな。司は、注意しなよ」
「智哉は?」
「俺はいいんだよ。友達だから」
 友達だって言うけれど、実際、やっていた。
 それは、友達以上の行為じゃないんだろうか。
 御門くんは、いい奴なんかじゃない。
 好きにならない方がいい。
 そう智哉に伝えながら、俺は自分に言い聞かせているのかもしれない。



 放課後――
 智哉と別れた俺は、1人、図書室に向かった。
 智哉とは、ほとんど全部、一緒の講義だけど、御門くんとは、そういうわけでもない。
 ドアを開けてすぐ、テーブル席につく御門くんを見つける。
 その両隣には、少し派手な女の子が2人座っていた。
 モテる男は、大学の図書室でも声をかけられるらしい。
 この状況で御門くんに声をかけたくはないけれど、約束してしまっている。
 仕方なくテーブルに向かうと、俺に気づいた御門くんが席を立った。
「行こうか」
 当然ながら、ここで話をする気はないらしい。
「うん……」
 御門くんの家がどれくらい遠いのか知らないけど、話をするだけ。
「もう行っちゃうの?」
 隣にいた女の子が、不満そうに呟く。
「その子、まさか友達じゃないよね?」
 俺みたいな地味なタイプの男は、御門くんの友達に見えないだろう。
 あきらかに見下されている感じがして、居心地が悪い。
「友達だよ」
 御門くんは迷うことなく、そう告げてくれた。
 たったそれだけのことで、ものすごく救われたような気がしてしまう。
「よく一緒の講義、受けてるんだ。今日は、この子と遊ぶから、きみたちとはまた今度ね」
 御門くんが優しい口調で告げると、女の子たちはたったそれだけで、納得したらしい。
 俺のことは、どう思っているのかわからないけど、怖いから、そっちは見ないでおくことにした。

 図書室を出てすぐ、ついいつもの癖で、非常階段に足が向く。
「結城くんて、真面目な子だと思ってたんだけど、使用禁止の階段使っちゃうなんて意外だな」
 御門くんの言う通り、どちらかといえば真面目な方だろう。
 授業をさぼったことも、夜遊びしたこともない。
 だからこんな些細なことで、俺は楽しめるんだと思う。
「非常階段って、非日常って感じがして……」
「好きなんだ? 非日常」
「まあ……うん……」
 1年も続けば、この非日常も日常みたいなものだけど、俺は人と違う日常を楽しんでいた。
 とはいえ、使用禁止の理由が劣化ってことなら話は変わってくる。
 危険が好きなわけじゃない。
 知ってたら、こんなことにはならなかっただろう。
「僕となら、もっと非日常を味わえるかもしれないね」
 昨日の出来事は、ありえないほどの非日常だった。
 事故ってだけじゃなく、怪我が治ってしまったから。
 御門くんといるだけで、日常が、こんな非日常になってしまうのか。
 そもそも、御門くんと話していることが、非日常なんだけど。
「今日も使う?」
「使わないよ。さすがに」
 ここからじゃ、床が抜けた3階付近はよく見えないけれど、確認しようとも思わない。
「……黙っててくれるんだよね?」
「結城くんが、非常階段使ってたこと?」
「うん……壊しちゃったわけだし……いつかは言うかもしれないけど、自分で言うから」
「いいよ。黙っててあげる。僕も使ったし、そんなに気にすることないんじゃないかな。使用禁止の理由を、明確にしていなかった大学も悪い」
「ん……」
 御門くんは誰にでも優しい。
 智哉が言ってた言葉の意味を、なんとなく理解する。
 悪いことをした俺にだって、こうして優しく寄り添ってくれるんだ。
「それより、御門くんが言ってた説明ってのは、家でしか出来ないの?」
「その方が話しやすいでしょ。邪魔が入っても困るし、結城くんと、仲良くしたいし……ね」
 整った顔が、俺を覗き込む。
 まただ。
 誘われているみたいで、ドキドキしてしまう。
 相手が女の子だったら、だいぶ期待しただろう。
 男でも、これは期待する。
 でも俺は、期待しない。
 御門くんは、好きになってはいけない相手だし、ただ説明を聞くだけ。
 智哉みたいなことには……。
「あれ、結城くん、警戒してる?」
「し、してないよ」
 俺は智哉と違って、御門くんと友達ってわけじゃない。
 そもそも御門くんなら、俺じゃなくても相手はいる。
 期待するのも、警戒するのも、おこがましい。
「とりあえず、行こうか。裏の駐車場に車停めてるから」
「御門くんって、車で通ってたんだ?」
「電車はあまり好きじゃないんだ。ここから1時間もかからないし、ちゃんと送り届けるよ」
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