12 / 20
12「からかわないでくれる?」
しおりを挟む
翌朝――
頭の整理がつかないまま、俺は寝不足状態で大学に向かった。
「どうした、実琴。疲れた顔してんな」
「寝不足か?」
拓斗より先に、蒼汰と慧汰が俺のもとへとやってくる。
「うん……」
「お、今日はマジで寝不足か」
蒼汰はそう言うと、なにか気にした様子で辺りを見渡す。
「あー……あのさ、実は昨日、拓斗に注意されたんだけど」
拓斗の名前を出されたせいか、少し鼓動が速くなる。
「注意って?」
平静を装いながら、蒼汰に聞き返す。
「高校時代の話は、実琴にあまりしないで欲しいって」
「え……なにそれ」
「実琴があんまりいい気しないだろうってことなんだけど。嫌だったなら悪かったな」
申し訳なさそうに顔を歪める蒼汰に、俺は大丈夫だと首を振る。
「そんなの気にしないでいいよ。そりゃあ、3人しか知らない話題で盛りあがられたら、ちょっと寂しいかもしれないけど。高校でどんな感じだったか、知るのも楽しいし」
楽しい……はず。頭ではそう思うのに、いつもなぜかもやもやしていた。
正直、どうしてそんな気持ちになったのか、いまもよくわかっていない。
「俺もそう思ったんだよ。拓斗と実琴、仲いいみたいだし、それなら、実琴が知らない高校時代の拓斗を教えてやろうって思ったんだけど。なんか逆効果だったみたいで……」
「逆効果?」
蒼汰の言っている意味がいまいち理解できないでいると、慧汰がじれったそうに頭を掻きながら、わかりやすい言葉を口にした。
「だから、実琴は自分が知らない拓斗を、俺らから聞きたくねぇんじゃねぇかって話。ようは嫉妬するからってことなんだけど」
「え……」
俺が知らない拓斗を2人に教えられて、嫉妬……?
「待てって。拓斗が勝手にそう言ってるだけだから。実琴自身がどう思ってるかはわかんないだろ」
慌てた様子で、蒼汰が慧汰の言葉をフォローする。そして答えを待つみたいに、2人の視線が俺に注がれた。
そっか。これは嫉妬だったんだ。拓斗のことは俺の方が知ってるはずなのに、高校時代の拓斗を教えられて、それが俺の知らない拓斗で。悔しくて、嫉妬してたんだ。
「その……俺……」
「あー……俺ら、そういうの偏見ないから」
気を使うように蒼汰に言われて、顔が熱くなる。完全に、見透かされているみたい。
「ごめん……。でも、ただの独占欲みたいなもんだと思う。深い意味はないっていうか。ホント、ごめん」
「拓斗の方は、都合のいいように解釈してるみたいだけど」
そう慧汰が苦笑いしてみせる。そういえば拓斗に注意されたんだっけ。
「それは……拓斗の自意識過剰だよ……」
「実琴の様子見てると、過剰でもなさそうに見えてきたな」
「ち、違うって」
慧汰の言う通り、図星かもしれない。それでもなんとか否定したのに――
「実琴のこと、からかわないでくれる?」
タイミング悪く拓斗が現れる。
拓斗の口調も、俺をからかっているみたいに聞こえた。真面目なトーンで言われても困るけど。
いつからそこにいたんだろう。もしかしたら、俺が気づいていないだけで、少し前から聞いていたのかもしれない。
「わかった、わかった。もうすぐ講義始まるし? 席着こう」
蒼汰が話を切りあげるようにして、近くの席に着く。拓斗は俺の隣。
「おはよう、実琴」
「お……おはよう」
俺は拓斗の顔がまともに見れなくて、ごまかすように鞄からテキストを取り出した。
講義の内容が、全然頭に入ってこない。
拓斗のことばかり考えてしまう。
自分が活躍してる場面を友達に見て欲しいだけだなんて拓斗は言ってたけど、やっぱりそうとは思えなかった。
どう考えても、あんなの聞かれた拓斗の方が恥ずかしいはずなのに、たぶん、俺の方が恥ずかしくてたまらない。
本当に、いったいどういうつもりなんだろう。
拓斗の冗談で、俺は拓斗のこと好きになっちゃったかもしれないってのに。
これ以上、こんな状態を続けるわけにはいかない。こういうことは、ちゃんとはっきりさせないと……。
昼休みになっても、拓斗は配信のことを俺に聞いてはこなかった。それはそれで気になるんだけど。ただ、配信のことを気にしていたのは俺だけじゃなかったようだ。
「そういえば、拓斗、配信してるとか言ってたじゃん? どういう配信してんの」
高校の話を避けた結果なのか、慧汰が配信について拓斗に尋ねる。
「もしかして、俺と慧汰には言えないような配信?」
蒼汰は冗談めかしていたけれど、あながち間違っていないのかもしれない。
「うーん……」
拓斗がどう答えるのか、俺が窺うと同時に拓斗もこっちを窺ってきた。言えないようなものだって自覚があるのなら、聞いた俺が妙な意識をしてしまうことにも納得してくれるだろう。
「雑談だったり、声優の真似事だよ」
拓斗は自分の動画を、そう説明した。声優の真似事……つまり、あれは拓斗にとって演技だってことだ。
「実琴はその配信、見たのか?」
「え……まあ……うん」
慧汰に直接聞かれて、さすがに濁せず肯定する。
「どうだった?」
「結構うまいんじゃないかな。声だけだったけど、女の子に人気みたい」
「え……拓斗、女の子に人気の動画を、実琴に聞かせたの?」
蒼汰が、やたら心配した様子で拓斗に尋ねる。いったいなにを心配しているのかわからないけど、あの配信を聞かせた理由がわかるなら俺も知りたい。
「……まあね」
拓斗はただ肯定するのみで、あいかわらずその意図は読めなかった。
「そういうの、ほどほどにしとけよ」
「わかってる」
蒼汰はなにか理解しているみたいだったけど、俺は聞くに聞けなくて、沈黙をごまかすようにスパゲティを掻き込んだ。
頭の整理がつかないまま、俺は寝不足状態で大学に向かった。
「どうした、実琴。疲れた顔してんな」
「寝不足か?」
拓斗より先に、蒼汰と慧汰が俺のもとへとやってくる。
「うん……」
「お、今日はマジで寝不足か」
蒼汰はそう言うと、なにか気にした様子で辺りを見渡す。
「あー……あのさ、実は昨日、拓斗に注意されたんだけど」
拓斗の名前を出されたせいか、少し鼓動が速くなる。
「注意って?」
平静を装いながら、蒼汰に聞き返す。
「高校時代の話は、実琴にあまりしないで欲しいって」
「え……なにそれ」
「実琴があんまりいい気しないだろうってことなんだけど。嫌だったなら悪かったな」
申し訳なさそうに顔を歪める蒼汰に、俺は大丈夫だと首を振る。
「そんなの気にしないでいいよ。そりゃあ、3人しか知らない話題で盛りあがられたら、ちょっと寂しいかもしれないけど。高校でどんな感じだったか、知るのも楽しいし」
楽しい……はず。頭ではそう思うのに、いつもなぜかもやもやしていた。
正直、どうしてそんな気持ちになったのか、いまもよくわかっていない。
「俺もそう思ったんだよ。拓斗と実琴、仲いいみたいだし、それなら、実琴が知らない高校時代の拓斗を教えてやろうって思ったんだけど。なんか逆効果だったみたいで……」
「逆効果?」
蒼汰の言っている意味がいまいち理解できないでいると、慧汰がじれったそうに頭を掻きながら、わかりやすい言葉を口にした。
「だから、実琴は自分が知らない拓斗を、俺らから聞きたくねぇんじゃねぇかって話。ようは嫉妬するからってことなんだけど」
「え……」
俺が知らない拓斗を2人に教えられて、嫉妬……?
「待てって。拓斗が勝手にそう言ってるだけだから。実琴自身がどう思ってるかはわかんないだろ」
慌てた様子で、蒼汰が慧汰の言葉をフォローする。そして答えを待つみたいに、2人の視線が俺に注がれた。
そっか。これは嫉妬だったんだ。拓斗のことは俺の方が知ってるはずなのに、高校時代の拓斗を教えられて、それが俺の知らない拓斗で。悔しくて、嫉妬してたんだ。
「その……俺……」
「あー……俺ら、そういうの偏見ないから」
気を使うように蒼汰に言われて、顔が熱くなる。完全に、見透かされているみたい。
「ごめん……。でも、ただの独占欲みたいなもんだと思う。深い意味はないっていうか。ホント、ごめん」
「拓斗の方は、都合のいいように解釈してるみたいだけど」
そう慧汰が苦笑いしてみせる。そういえば拓斗に注意されたんだっけ。
「それは……拓斗の自意識過剰だよ……」
「実琴の様子見てると、過剰でもなさそうに見えてきたな」
「ち、違うって」
慧汰の言う通り、図星かもしれない。それでもなんとか否定したのに――
「実琴のこと、からかわないでくれる?」
タイミング悪く拓斗が現れる。
拓斗の口調も、俺をからかっているみたいに聞こえた。真面目なトーンで言われても困るけど。
いつからそこにいたんだろう。もしかしたら、俺が気づいていないだけで、少し前から聞いていたのかもしれない。
「わかった、わかった。もうすぐ講義始まるし? 席着こう」
蒼汰が話を切りあげるようにして、近くの席に着く。拓斗は俺の隣。
「おはよう、実琴」
「お……おはよう」
俺は拓斗の顔がまともに見れなくて、ごまかすように鞄からテキストを取り出した。
講義の内容が、全然頭に入ってこない。
拓斗のことばかり考えてしまう。
自分が活躍してる場面を友達に見て欲しいだけだなんて拓斗は言ってたけど、やっぱりそうとは思えなかった。
どう考えても、あんなの聞かれた拓斗の方が恥ずかしいはずなのに、たぶん、俺の方が恥ずかしくてたまらない。
本当に、いったいどういうつもりなんだろう。
拓斗の冗談で、俺は拓斗のこと好きになっちゃったかもしれないってのに。
これ以上、こんな状態を続けるわけにはいかない。こういうことは、ちゃんとはっきりさせないと……。
昼休みになっても、拓斗は配信のことを俺に聞いてはこなかった。それはそれで気になるんだけど。ただ、配信のことを気にしていたのは俺だけじゃなかったようだ。
「そういえば、拓斗、配信してるとか言ってたじゃん? どういう配信してんの」
高校の話を避けた結果なのか、慧汰が配信について拓斗に尋ねる。
「もしかして、俺と慧汰には言えないような配信?」
蒼汰は冗談めかしていたけれど、あながち間違っていないのかもしれない。
「うーん……」
拓斗がどう答えるのか、俺が窺うと同時に拓斗もこっちを窺ってきた。言えないようなものだって自覚があるのなら、聞いた俺が妙な意識をしてしまうことにも納得してくれるだろう。
「雑談だったり、声優の真似事だよ」
拓斗は自分の動画を、そう説明した。声優の真似事……つまり、あれは拓斗にとって演技だってことだ。
「実琴はその配信、見たのか?」
「え……まあ……うん」
慧汰に直接聞かれて、さすがに濁せず肯定する。
「どうだった?」
「結構うまいんじゃないかな。声だけだったけど、女の子に人気みたい」
「え……拓斗、女の子に人気の動画を、実琴に聞かせたの?」
蒼汰が、やたら心配した様子で拓斗に尋ねる。いったいなにを心配しているのかわからないけど、あの配信を聞かせた理由がわかるなら俺も知りたい。
「……まあね」
拓斗はただ肯定するのみで、あいかわらずその意図は読めなかった。
「そういうの、ほどほどにしとけよ」
「わかってる」
蒼汰はなにか理解しているみたいだったけど、俺は聞くに聞けなくて、沈黙をごまかすようにスパゲティを掻き込んだ。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる