2 / 13
2「隠さなくていいよ。偏見ないから」
しおりを挟む
悠斗くんに誘導されるようにして、俺たちは中庭のベンチへと移動した。
「ここなら、とりあえず二人でゆっくり話せるからね」
二人でゆっくり……なにを話すんだろう。
とりあえず隣同士で座る。
「……玲矢、緊張してる?」
「あ、えっと……少し」
「人見知り?」
「そういうわけじゃ……ないと思ってたけど、そう、なのかな。悠斗くん、かっこいいし」
思わず、本音が出てしまう。
悠斗くんは言われ慣れているのか、とくに照れる様子もなく、優しく笑った。
むしろ、俺の方が照れてしまう。
「ありがとう。玲矢は、かわいいね」
「え、ええ……?」
言われ慣れていない俺は、当然、どう答えていいのかわからない。
「かわいいって言われるの、嫌だった? 俺的には褒め言葉なんだけど、やっぱりかっこいいの方が……」
「う、ううん。そうじゃなくて……わざわざ褒めてくれなくていいよ」
「玲矢も褒めてくれたし」
「褒めたっていうか、俺のはただの感想で……」
「じゃあ、俺もただの感想ね」
そう言われたら、どう否定すればいいのかわからない。
本気なのか冗談なのか。
よくわからなけど、なんとなくこの人がモテる理由はわかったかもしれない。
例に漏れず、俺まで惚れそうだ。
そう自覚したら、なんだか急に恥ずかしくなってきた。
「悠斗くん、俺とどういう話がしたかったの?」
妙な空気に耐え切れなくなった俺は、つい催促してしまう。
催促した後で、あまりいい態度ではないと思ったけど、いまさら取り消すこともできない。
「玲矢と話せるならなんでもいいけど……あんまり回りくどいのもなんだしね」
やっぱり、なにか話したい内容があるようだ。
悠斗くんは、俺の方を見ながら話を切り出した。
「玲矢、オカルトとか……興味ある?」
オカルト……。
それって、UFOとか超常現象とか心霊現象のことを言ってるんだろうか。
嫌いじゃないし、そういった特番があれば見てしまう方だけど、想定外すぎる話を振られて、返答し損ねる。
「隠さなくていいよ。偏見ないから」
黙っていると、悠斗くんはまるで俺を気遣うみたいに優しく笑った。
「えっと、別に隠してるわけじゃないんだけど……」
「好きなんだろうなぁって思ってたんだ」
悠斗くんは、なぜか確信しているみたいだった。
いったいどういうことだろう。
これが本題?
さっきまで感じていた気恥ずかしいような空気感が、少しずつ落ち着いてくる。
「偏見ないって言うけど、俺がオカルト好きだって決めつけるのも、偏見だよ」
俺はつい、そう強めに言い返していた。
かっこいいとか、かわいいとは違って、オカルト好きそうなんてのは、褒め言葉じゃない。
悠斗くんは、俺の反応が意外だったのか、少しだけ驚いた表情を見せた後、小さくペコリと頭をさげてくれた。
「たしかに、そうだったかもしれないね。ごめん。そう思ったってだけで、決めつけてるわけじゃないよ」
決めつけじゃないなら、なんでそう思ったんだろう。
ますますわからない。
そういう見た目……だろうか。
それとも……――
ひとつだけ、思い当たることがあった。
でもそれは、誰にも話していない。
ドクドクと、心臓が早鐘を打つ。
「悠斗くん、どうして俺がオカルト好きそうだって思ったの?」
なるべく平静を装いながら、悠斗くんに尋ねる。
「んー……玲矢が、事故物件に住んでるから……かな」
事故物件。
俺が大学入学を機に一人暮らしを始めた部屋が、まさにそれだ。
不動産会社をやっている叔父の勧めで、住むことになった。
一人暮らしにしては部屋も広いし、大学にも近いし、その上、格安でよかったと思ってる。
ときどき妙な物音くらいはするけれど、風か隣の部屋の音だと思い込むことにした。
俺が事故物件に住んでいることは、誠にも話してないのに……。
「あの……なんで、それ……」
「全然、挨拶できてなかったんだけど、俺、玲矢んちの隣なんだよね」
「え……」
「玲矢が隣の部屋に入ってくの、たまに見かけてたんだ。挨拶しようと思って、何度かインターホン押してみたんだけど……」
「ご、ごめん……気づかなかったか、新聞の勧誘だと思って無視しちゃってた、かも」
俺も引っ越してすぐ、一応、隣の部屋まで挨拶に向かったけど、そのときちょうど留守だったのか、誰も出てこなかったことを思い出す。
2回ほど繰り返した時点で、事故物件に住む人間に挨拶されても嬉しくないだろうと、理由をつけて諦めてしまっていた。
「まさか、隣だったなんて……」
俺が事故物件に住んでいることを知っているのなら、オカルトに興味があると思われても仕方ない。
「偏見だなんて言ってごめん。そんなとこ住んでるわけだし、当然、オカルト好きだって思うよね……」
「違った?」
「UFOとか超常現象とか、そういうのならちょっと興味あるし、心霊現象ネタも……まあ、嫌いじゃないけど、好き好んで事故物件に住もうと思ったわけじゃないから……」
「じゃあ、嫌々住んでるの? もしかして騙された?」
「そういうわけじゃないよ。不動産やってんのが親戚で、勧められたっていうか、頼まれた感じ」
悠斗くんは、なるほどと言った様子で頷いていた。
「玲矢って、頼まれたら断れないタイプ?」
「うーん……そうかもしんない」
「押しに弱いんだ?」
「そう、なのかな。でも、無理やり決められたとかじゃないよ。ちゃんと納得してる」
叔父さんのためにも、そう言っておかないと。
「へぇ……そうなんだ……」
なぜか少しうっとりした表情を浮かべながら、俺を見つめる悠斗くん。
もしかしたら、クセなのかもしれない。
こっちとしては常に誘われている気分で、なんだかおかしくなりそうだけど。
「悠斗くん、オカルト好きなの?」
「まあね。好きだし、結構、身近かな」
「身近……?」
「玲矢も身近でしょ」
事故物件に住んでるくらいだし、悠斗くんの言う通り、俺も、オカルトが身近になっているのかもしれない。
「そうなるのかな。悠斗くん、俺とオカルトの話しようとしてたんだ?」
「うん。いろいろ聞いてみたいなって思って」
なんとなくだけど、事故物件に住んでいる俺をからかいたいだとか、そんな雰囲気ではなさそうだ。
そのことに、少しだけ安堵する。
「部屋も隣だし、少し親近感、沸いてたんだよね」
「ええ……さすがに親近感は、ないよね?」
いくら悠斗くんがオカルト好きで、俺が事故物件に住んでいるからって、それはない。
「こっちが勝手に抱いてるだけだから、いやなら気にしないで」
「い、いやじゃないし、否定はしないけど」
いまのところ、俺は抱けそうにない。
大学生で一人暮らしという共通点があるとはいえ、こっちは事故物件。
通常価格の家賃なら、たぶん、この部屋に住んでいなかっただろう。
なにより……俺は気づいていた。
夜な夜な隣の部屋から聞こえてくる、ベッドが軋むような物音に。
「ここなら、とりあえず二人でゆっくり話せるからね」
二人でゆっくり……なにを話すんだろう。
とりあえず隣同士で座る。
「……玲矢、緊張してる?」
「あ、えっと……少し」
「人見知り?」
「そういうわけじゃ……ないと思ってたけど、そう、なのかな。悠斗くん、かっこいいし」
思わず、本音が出てしまう。
悠斗くんは言われ慣れているのか、とくに照れる様子もなく、優しく笑った。
むしろ、俺の方が照れてしまう。
「ありがとう。玲矢は、かわいいね」
「え、ええ……?」
言われ慣れていない俺は、当然、どう答えていいのかわからない。
「かわいいって言われるの、嫌だった? 俺的には褒め言葉なんだけど、やっぱりかっこいいの方が……」
「う、ううん。そうじゃなくて……わざわざ褒めてくれなくていいよ」
「玲矢も褒めてくれたし」
「褒めたっていうか、俺のはただの感想で……」
「じゃあ、俺もただの感想ね」
そう言われたら、どう否定すればいいのかわからない。
本気なのか冗談なのか。
よくわからなけど、なんとなくこの人がモテる理由はわかったかもしれない。
例に漏れず、俺まで惚れそうだ。
そう自覚したら、なんだか急に恥ずかしくなってきた。
「悠斗くん、俺とどういう話がしたかったの?」
妙な空気に耐え切れなくなった俺は、つい催促してしまう。
催促した後で、あまりいい態度ではないと思ったけど、いまさら取り消すこともできない。
「玲矢と話せるならなんでもいいけど……あんまり回りくどいのもなんだしね」
やっぱり、なにか話したい内容があるようだ。
悠斗くんは、俺の方を見ながら話を切り出した。
「玲矢、オカルトとか……興味ある?」
オカルト……。
それって、UFOとか超常現象とか心霊現象のことを言ってるんだろうか。
嫌いじゃないし、そういった特番があれば見てしまう方だけど、想定外すぎる話を振られて、返答し損ねる。
「隠さなくていいよ。偏見ないから」
黙っていると、悠斗くんはまるで俺を気遣うみたいに優しく笑った。
「えっと、別に隠してるわけじゃないんだけど……」
「好きなんだろうなぁって思ってたんだ」
悠斗くんは、なぜか確信しているみたいだった。
いったいどういうことだろう。
これが本題?
さっきまで感じていた気恥ずかしいような空気感が、少しずつ落ち着いてくる。
「偏見ないって言うけど、俺がオカルト好きだって決めつけるのも、偏見だよ」
俺はつい、そう強めに言い返していた。
かっこいいとか、かわいいとは違って、オカルト好きそうなんてのは、褒め言葉じゃない。
悠斗くんは、俺の反応が意外だったのか、少しだけ驚いた表情を見せた後、小さくペコリと頭をさげてくれた。
「たしかに、そうだったかもしれないね。ごめん。そう思ったってだけで、決めつけてるわけじゃないよ」
決めつけじゃないなら、なんでそう思ったんだろう。
ますますわからない。
そういう見た目……だろうか。
それとも……――
ひとつだけ、思い当たることがあった。
でもそれは、誰にも話していない。
ドクドクと、心臓が早鐘を打つ。
「悠斗くん、どうして俺がオカルト好きそうだって思ったの?」
なるべく平静を装いながら、悠斗くんに尋ねる。
「んー……玲矢が、事故物件に住んでるから……かな」
事故物件。
俺が大学入学を機に一人暮らしを始めた部屋が、まさにそれだ。
不動産会社をやっている叔父の勧めで、住むことになった。
一人暮らしにしては部屋も広いし、大学にも近いし、その上、格安でよかったと思ってる。
ときどき妙な物音くらいはするけれど、風か隣の部屋の音だと思い込むことにした。
俺が事故物件に住んでいることは、誠にも話してないのに……。
「あの……なんで、それ……」
「全然、挨拶できてなかったんだけど、俺、玲矢んちの隣なんだよね」
「え……」
「玲矢が隣の部屋に入ってくの、たまに見かけてたんだ。挨拶しようと思って、何度かインターホン押してみたんだけど……」
「ご、ごめん……気づかなかったか、新聞の勧誘だと思って無視しちゃってた、かも」
俺も引っ越してすぐ、一応、隣の部屋まで挨拶に向かったけど、そのときちょうど留守だったのか、誰も出てこなかったことを思い出す。
2回ほど繰り返した時点で、事故物件に住む人間に挨拶されても嬉しくないだろうと、理由をつけて諦めてしまっていた。
「まさか、隣だったなんて……」
俺が事故物件に住んでいることを知っているのなら、オカルトに興味があると思われても仕方ない。
「偏見だなんて言ってごめん。そんなとこ住んでるわけだし、当然、オカルト好きだって思うよね……」
「違った?」
「UFOとか超常現象とか、そういうのならちょっと興味あるし、心霊現象ネタも……まあ、嫌いじゃないけど、好き好んで事故物件に住もうと思ったわけじゃないから……」
「じゃあ、嫌々住んでるの? もしかして騙された?」
「そういうわけじゃないよ。不動産やってんのが親戚で、勧められたっていうか、頼まれた感じ」
悠斗くんは、なるほどと言った様子で頷いていた。
「玲矢って、頼まれたら断れないタイプ?」
「うーん……そうかもしんない」
「押しに弱いんだ?」
「そう、なのかな。でも、無理やり決められたとかじゃないよ。ちゃんと納得してる」
叔父さんのためにも、そう言っておかないと。
「へぇ……そうなんだ……」
なぜか少しうっとりした表情を浮かべながら、俺を見つめる悠斗くん。
もしかしたら、クセなのかもしれない。
こっちとしては常に誘われている気分で、なんだかおかしくなりそうだけど。
「悠斗くん、オカルト好きなの?」
「まあね。好きだし、結構、身近かな」
「身近……?」
「玲矢も身近でしょ」
事故物件に住んでるくらいだし、悠斗くんの言う通り、俺も、オカルトが身近になっているのかもしれない。
「そうなるのかな。悠斗くん、俺とオカルトの話しようとしてたんだ?」
「うん。いろいろ聞いてみたいなって思って」
なんとなくだけど、事故物件に住んでいる俺をからかいたいだとか、そんな雰囲気ではなさそうだ。
そのことに、少しだけ安堵する。
「部屋も隣だし、少し親近感、沸いてたんだよね」
「ええ……さすがに親近感は、ないよね?」
いくら悠斗くんがオカルト好きで、俺が事故物件に住んでいるからって、それはない。
「こっちが勝手に抱いてるだけだから、いやなら気にしないで」
「い、いやじゃないし、否定はしないけど」
いまのところ、俺は抱けそうにない。
大学生で一人暮らしという共通点があるとはいえ、こっちは事故物件。
通常価格の家賃なら、たぶん、この部屋に住んでいなかっただろう。
なにより……俺は気づいていた。
夜な夜な隣の部屋から聞こえてくる、ベッドが軋むような物音に。
1
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
溺愛前提のちょっといじわるなタイプの短編集
あかさたな!
BL
全話独立したお話です。
溺愛前提のラブラブ感と
ちょっぴりいじわるをしちゃうスパイスを加えた短編集になっております。
いきなりオトナな内容に入るので、ご注意を!
【片思いしていた相手の数年越しに知った裏の顔】【モテ男に徐々に心を開いていく恋愛初心者】【久しぶりの夜は燃える】【伝説の狼男と恋に落ちる】【ヤンキーを喰う生徒会長】【犬の躾に抜かりがないご主人様】【取引先の年下に屈服するリーマン】【優秀な弟子に可愛がられる師匠】【ケンカの後の夜は甘い】【好きな子を守りたい故に】【マンネリを打ち明けると進み出す】【キスだけじゃあ我慢できない】【マッサージという名目だけど】【尿道攻めというやつ】【ミニスカといえば】【ステージで新人に喰われる】
------------------
【2021/10/29を持って、こちらの短編集を完結致します。
同シリーズの[完結済み・年上が溺愛される短編集]
等もあるので、詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。
ありがとうございました。
引き続き応援いただけると幸いです。】
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる