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ヒーロー?
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それを「事故」と言って良いのだろうか?
街に怪獣が現れた。
無慈悲に全てを巻き上げる竜巻のように、怪獣の通った跡は瓦礫となる。
それに巻き込まれたのであれば「天災」と言えるだろう。
しかし、俺の目の前に迫っているのは防衛隊の戦闘機が放ったミサイルである。
本来であれば怪獣に当たって炸裂するべきものではあるが、そのミサイルは怪獣には向かわずに此方にに向かってきたのだ。
それは「事故」だ!! と主張しても、そこには俺の声を聞いてくれる者は一人としていない。
『…私が聞いているぞ。』
それは「声」ではなかった。
俺の頭に直接響いてきた。
(もしかして神様とか?チートな能力を授かって異世界に転生するってやつ?)
『残念だが私は神ではない。転生というやつも無理だ。』
(じゃあ、何のために俺に声を掛けたんだ?)
『お前は今、死ぬ定めにある。そこで取引なのだが、ここでの死を阻止してやる代わりに暫く私にお前の肉体を使わせてもらいたい。』
(そ、それってウルトラマン的なやつ?)
『私には何の事か解らないのだが?』
(何かの時に俺があんたに変身して怪獣をやっつけるっていうやつだろ?)
『お前はあいつを抹殺したいのだな?よかろう。契約は成立した。先ずはあいつを片付けよう♪』
今まで時間が止まっていたかのように目の前のミサイルが破裂した。
しかし、俺は傷ひとつ付いていない。
あたりが光に包まれる。
そう、俺は今…変身していた?
着ていた服が弾け飛び、全裸となった俺の周りを帯状の物体が取り囲む。
髪の毛が一気に伸び、結い上がる。
帯が体を締め付け腰がくびれる。
髪の色が黄金色に染まり、髪飾りが載せられた。
胸元に寄せられた贅肉が帯に包まれ、帯はフリルに変わる。
他の部位の帯もフリルに、そしてパステルカラーに染め上げられた。
手袋が填められ、ブーツが履かされた。
口紅とかアイシャドーとかの化粧が施される。
手にはバトン状のものが握らされ、地上に降り立った。
当然のようにブーツの踵は高く、もし俺が自分でこの身体を動かしていたらまともには立っていられなかっただろう。
とは言え、怪獣の前でポーズを取り…
「街を壊す悪い子は許さないんだから♪」
と女の子の声で叫んでいたのだと思うと赤面するしかない。
「ファイナル・ラブリー・ストーム!!」
幾度かのキックやパンチでの攻撃は何の効果もなかった。
そして俺はバトンをかざすとそう叫んでいた。
バンクが切り替わり、辺りにハートマークが飛び交う。
閃光の中で俺はクルクルと回らされ、決めポーズ…
「シュート!!」
ハートの形の光の塊が怪獣に突進してゆく。
怪獣は微動だにせず、それを受け止め、ピンク色の光に包まれた。
「ぎゃおーーん…」
最期の咆哮をあげると、薄れてゆく光とともにその姿を消していった。
(…しばらくって、いつまでなんだ?)
俺の肉体を乗っ取った奴は、その後も勝手に俺の肉体を使い続けている。
怪獣を倒した後変身を解いたが、ヒラヒラのドレスでなくなっただけで、俺は女の子が普段に着ているような格好になっていた。
肉体の主導権はまだ奴が持っていて、その場でその肉体の性別を確めるような恥ずかしい事はしていないが、服装だけでなく肉体もまた女の子となっている事を知るにはそう時間は掛からなかった。
「いってきま~す♪」
と家を出て行く。
俺が女の子になってしまった事を誰も不思議に思っていない。
それどころか、俺は生まれた時から女の子だったと思われている。
実際、俺の部屋の中には「俺」のものは一切残っておらず、替わりに女の子のもので埋め尽くされている。
学校に行っても、俺に声を掛けてくるのは親しい女友達と、どうやら俺に気があるらしい1人の男の子だけだった。
まあ、実際に彼女等と声を交わすのは奴なので俺はただ見ているだけなのだが、女の子達の会話にはついていけないし、野郎のチョッカイもうざいものでしかなかった。
(で、いつまでこんな事をやってるんだ
?)
と聞くと
『もうすぐ次の怪獣が現れます。それも倒せば良いのでしょう?』
(次のって、まだ来るのか?)
『だいたい週に一度のペースでしょうか?それをだいたい一年程続ければ終わりになります♪』
俺は返す言葉がなかった。
「エクセレンス・ラブリー・サイクロン!!」
半年もすると怪獣のランクが上がったようで、通常の攻撃では倒せなくなっていた。
少し離れた所にあるパワースポットに行くと新しいアイテムをゲットした。
変身した時のコスチュームが豪華になり、新しい技が使えるようになったのだ。
光の中に怪獣が消えてゆく。
(まだ半年あるのか?)
と愚痴ると
『あと2回位はパワーアップのイベントがあります。楽しみにしていてくださいね♪』
変身が解かれた。
肉体的には問題ないが、精神的なダメージは計り知れない…
『しばらく肉体をお返ししますね♪』
その日は滅多になかった家族旅行が予定されていた。
『少しでもダメージが回復できると良いですね♪』
と、家族で浜辺に降り立ったのだが…
俺が女の子の姿である事はそのままで、肉体の制御権のみが戻されただけのようだった。
まあ、家族以外に知り合いなどいない場所なので女の子が多少変な言動をした所で問題にはならないだろう。
だが…
今、俺が着ているのは…
水着
…である。
それは、女の子が着る胸元を隠すタイプ…所謂「スクール水着」と言われるタイプだった。
ち、違うぞ!!もっとカラフルなのが良いとか、セパレートの方が良かったとか言っているのではない!!
意識が男のまま、女の子の水着を着ている事に抵抗があるだけだ。
勿論、今の肉体は「女の子」なのだから、男物の水着を着ることはできない。
まあ、水の中に入ってしまえば気にする必要もないだろう♪
「「キャーッ!!」」
突然、浜辺に悲鳴が響き渡った。
見ると浜辺近くの海面が膨れている。
その中からギロリと鋭い視線…
(怪獣か?)
このままでは多くの観光客が犠牲となる。
その中には俺の家族も…
幸い、俺は今岩陰で誰からも見られてはいない。
変身するなら今しかない。
が、今ここで変身するという事は俺自身の意志で変身するという事なのだ…
(思い出せ!!俺は怪獣を倒したいと望んでこの能力を手に入れたのではなかったか?)
「変身、チャームアップ!!」
俺はそう叫ぶと岩陰から飛び出していた…
『君自身が戦う事を覚えられた事は幸いです。二人の戦う意志がシンクロすることで更なるパワーアップが期待できます♪』
旅行先での顛末を伝えると、奴はそんな事を言っていた。
それに合わせるかのように、その後に現れた怪獣の方もパワーアップしてきたみたいだった。
『さあ、戦う意志を合わせてください。』
奴がそう言う。
「エターナル・ラブリー・ブリザード!!」
これまで苦戦を強いられたレベルの怪獣が一瞬で消滅した。
『今の感じです。これなら親衛隊クラスとも互角に戦えます♪』
(まだ強いのが出てくるのか?)
『あと数回です。ラスボスを引きずり出して倒せばそれで終わりです。』
(本当だな?)
俺はそう念を押した…
「インフィニティ・ラブリー・フレイヤー!!」
ラスボスが炎の中に消えていった。
『お疲れ様でした。これで貴女の役割は終わりになります♪』
…
あたしには何を言われているのか理解できていなかった。
『もう、変身する必要はありません。』
そう…長いようで短い一年だったわね。
『明日からは普通の女の子の生活に戻れますよ♪』
もう怪獣と戦うこともないんだ…
一抹の寂しさはあったが、それ以上に割りきれない違和感が残っていた。
(元に戻れるのよね?)
その「元」っていうのが…
『大丈夫です。怪獣が現れないだけで昨日までの日常が戻って来るんです♪良かったじゃないですか♪』
(…)
『では、私は戻ります。さようなら♪』
あたしは暫くぼーっと空を見ていた。
そして、今は単なる棒でしかないスティックを振ってみる…
「変身、チャームアップ!!」
…
もう変身することはなかった。
なぜか、あたしの頬を涙が落ちていった。
街に怪獣が現れた。
無慈悲に全てを巻き上げる竜巻のように、怪獣の通った跡は瓦礫となる。
それに巻き込まれたのであれば「天災」と言えるだろう。
しかし、俺の目の前に迫っているのは防衛隊の戦闘機が放ったミサイルである。
本来であれば怪獣に当たって炸裂するべきものではあるが、そのミサイルは怪獣には向かわずに此方にに向かってきたのだ。
それは「事故」だ!! と主張しても、そこには俺の声を聞いてくれる者は一人としていない。
『…私が聞いているぞ。』
それは「声」ではなかった。
俺の頭に直接響いてきた。
(もしかして神様とか?チートな能力を授かって異世界に転生するってやつ?)
『残念だが私は神ではない。転生というやつも無理だ。』
(じゃあ、何のために俺に声を掛けたんだ?)
『お前は今、死ぬ定めにある。そこで取引なのだが、ここでの死を阻止してやる代わりに暫く私にお前の肉体を使わせてもらいたい。』
(そ、それってウルトラマン的なやつ?)
『私には何の事か解らないのだが?』
(何かの時に俺があんたに変身して怪獣をやっつけるっていうやつだろ?)
『お前はあいつを抹殺したいのだな?よかろう。契約は成立した。先ずはあいつを片付けよう♪』
今まで時間が止まっていたかのように目の前のミサイルが破裂した。
しかし、俺は傷ひとつ付いていない。
あたりが光に包まれる。
そう、俺は今…変身していた?
着ていた服が弾け飛び、全裸となった俺の周りを帯状の物体が取り囲む。
髪の毛が一気に伸び、結い上がる。
帯が体を締め付け腰がくびれる。
髪の色が黄金色に染まり、髪飾りが載せられた。
胸元に寄せられた贅肉が帯に包まれ、帯はフリルに変わる。
他の部位の帯もフリルに、そしてパステルカラーに染め上げられた。
手袋が填められ、ブーツが履かされた。
口紅とかアイシャドーとかの化粧が施される。
手にはバトン状のものが握らされ、地上に降り立った。
当然のようにブーツの踵は高く、もし俺が自分でこの身体を動かしていたらまともには立っていられなかっただろう。
とは言え、怪獣の前でポーズを取り…
「街を壊す悪い子は許さないんだから♪」
と女の子の声で叫んでいたのだと思うと赤面するしかない。
「ファイナル・ラブリー・ストーム!!」
幾度かのキックやパンチでの攻撃は何の効果もなかった。
そして俺はバトンをかざすとそう叫んでいた。
バンクが切り替わり、辺りにハートマークが飛び交う。
閃光の中で俺はクルクルと回らされ、決めポーズ…
「シュート!!」
ハートの形の光の塊が怪獣に突進してゆく。
怪獣は微動だにせず、それを受け止め、ピンク色の光に包まれた。
「ぎゃおーーん…」
最期の咆哮をあげると、薄れてゆく光とともにその姿を消していった。
(…しばらくって、いつまでなんだ?)
俺の肉体を乗っ取った奴は、その後も勝手に俺の肉体を使い続けている。
怪獣を倒した後変身を解いたが、ヒラヒラのドレスでなくなっただけで、俺は女の子が普段に着ているような格好になっていた。
肉体の主導権はまだ奴が持っていて、その場でその肉体の性別を確めるような恥ずかしい事はしていないが、服装だけでなく肉体もまた女の子となっている事を知るにはそう時間は掛からなかった。
「いってきま~す♪」
と家を出て行く。
俺が女の子になってしまった事を誰も不思議に思っていない。
それどころか、俺は生まれた時から女の子だったと思われている。
実際、俺の部屋の中には「俺」のものは一切残っておらず、替わりに女の子のもので埋め尽くされている。
学校に行っても、俺に声を掛けてくるのは親しい女友達と、どうやら俺に気があるらしい1人の男の子だけだった。
まあ、実際に彼女等と声を交わすのは奴なので俺はただ見ているだけなのだが、女の子達の会話にはついていけないし、野郎のチョッカイもうざいものでしかなかった。
(で、いつまでこんな事をやってるんだ
?)
と聞くと
『もうすぐ次の怪獣が現れます。それも倒せば良いのでしょう?』
(次のって、まだ来るのか?)
『だいたい週に一度のペースでしょうか?それをだいたい一年程続ければ終わりになります♪』
俺は返す言葉がなかった。
「エクセレンス・ラブリー・サイクロン!!」
半年もすると怪獣のランクが上がったようで、通常の攻撃では倒せなくなっていた。
少し離れた所にあるパワースポットに行くと新しいアイテムをゲットした。
変身した時のコスチュームが豪華になり、新しい技が使えるようになったのだ。
光の中に怪獣が消えてゆく。
(まだ半年あるのか?)
と愚痴ると
『あと2回位はパワーアップのイベントがあります。楽しみにしていてくださいね♪』
変身が解かれた。
肉体的には問題ないが、精神的なダメージは計り知れない…
『しばらく肉体をお返ししますね♪』
その日は滅多になかった家族旅行が予定されていた。
『少しでもダメージが回復できると良いですね♪』
と、家族で浜辺に降り立ったのだが…
俺が女の子の姿である事はそのままで、肉体の制御権のみが戻されただけのようだった。
まあ、家族以外に知り合いなどいない場所なので女の子が多少変な言動をした所で問題にはならないだろう。
だが…
今、俺が着ているのは…
水着
…である。
それは、女の子が着る胸元を隠すタイプ…所謂「スクール水着」と言われるタイプだった。
ち、違うぞ!!もっとカラフルなのが良いとか、セパレートの方が良かったとか言っているのではない!!
意識が男のまま、女の子の水着を着ている事に抵抗があるだけだ。
勿論、今の肉体は「女の子」なのだから、男物の水着を着ることはできない。
まあ、水の中に入ってしまえば気にする必要もないだろう♪
「「キャーッ!!」」
突然、浜辺に悲鳴が響き渡った。
見ると浜辺近くの海面が膨れている。
その中からギロリと鋭い視線…
(怪獣か?)
このままでは多くの観光客が犠牲となる。
その中には俺の家族も…
幸い、俺は今岩陰で誰からも見られてはいない。
変身するなら今しかない。
が、今ここで変身するという事は俺自身の意志で変身するという事なのだ…
(思い出せ!!俺は怪獣を倒したいと望んでこの能力を手に入れたのではなかったか?)
「変身、チャームアップ!!」
俺はそう叫ぶと岩陰から飛び出していた…
『君自身が戦う事を覚えられた事は幸いです。二人の戦う意志がシンクロすることで更なるパワーアップが期待できます♪』
旅行先での顛末を伝えると、奴はそんな事を言っていた。
それに合わせるかのように、その後に現れた怪獣の方もパワーアップしてきたみたいだった。
『さあ、戦う意志を合わせてください。』
奴がそう言う。
「エターナル・ラブリー・ブリザード!!」
これまで苦戦を強いられたレベルの怪獣が一瞬で消滅した。
『今の感じです。これなら親衛隊クラスとも互角に戦えます♪』
(まだ強いのが出てくるのか?)
『あと数回です。ラスボスを引きずり出して倒せばそれで終わりです。』
(本当だな?)
俺はそう念を押した…
「インフィニティ・ラブリー・フレイヤー!!」
ラスボスが炎の中に消えていった。
『お疲れ様でした。これで貴女の役割は終わりになります♪』
…
あたしには何を言われているのか理解できていなかった。
『もう、変身する必要はありません。』
そう…長いようで短い一年だったわね。
『明日からは普通の女の子の生活に戻れますよ♪』
もう怪獣と戦うこともないんだ…
一抹の寂しさはあったが、それ以上に割りきれない違和感が残っていた。
(元に戻れるのよね?)
その「元」っていうのが…
『大丈夫です。怪獣が現れないだけで昨日までの日常が戻って来るんです♪良かったじゃないですか♪』
(…)
『では、私は戻ります。さようなら♪』
あたしは暫くぼーっと空を見ていた。
そして、今は単なる棒でしかないスティックを振ってみる…
「変身、チャームアップ!!」
…
もう変身することはなかった。
なぜか、あたしの頬を涙が落ちていった。
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