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義体
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失われた肉体の一部を人工的な機器で補間することで、普段通りの生活を営むことができるようにする技術がある。
その行き着く先にあるのが「義体」である。
魂以外の全てを失った人を補間するという機器である。
死人を生き返らせる技術とも言われているが、昇天/成仏した魂を取り戻す事は不可能である。
義体に納められるのはあくまでも本人が特定できる魂…肉体とのリンクが辿れる状態にある魂のみが対象となった。
しかし、それは未だ研究段階のものであった…
「…ここは?」
一気に覚醒した俺はまだ事態が呑み込めずにいた。
ゆっくりと記憶が回復してゆく。確か俺は飛行機に乗っていた。
ごく普通の旅客機で、東京に向かっていたのだ。まだ着陸までは時間があった。
そんな機内が一気にざわつき始めた。
(ハイジャックだ‼)
そんなことを言っている人がいた。
正面にあるモニタの画面が男の顔を映していた。
「この機体は我々が確保した。行き先を変更させてもらう。」
別の声がその言葉を英語に翻訳していた。
「我々の目的地は首相官邸だ。」
俺は即には理解できなかった。これは単なるハイジャックで、当然どこかの国とかに向かうのかと思っていた。
が、彼が告げたのは国内…それも羽田からもそう遠くない場所である。
機体が大きく傾いた。どんどん高度を落としてゆく。
(墜落するんじゃ?)と呑気なことを考えていた俺だが、周りの叫び声にただならぬ事態であると感じた。
機体は地面に向かって突き進んでいた。
その先にあったのが「首相官邸」であったとは後で知った事だった。
その航空機テロでは生存者は皆無であった。俺も確実に死んでいたのだ。
しかし、事態が事態であった。義体に適合する魂が探索され、そこに引っ掛かったのが俺の魂だった。
俺は…俺の魂は義体に納められ覚醒した。
最初は事故の影響で肉体に違和感を感じていると思っていたが、その理由は即に知らされた。
「君は義体に蘇生している。つまり、その肉体は別人のものと言って良い。」
更に
「なにぶん緊急を要したので、用意できた義体は…それしかなかったのだ。」
と宣言された。
「リハビリをすればその肉体にも慣れると思うが、それより先に君の記憶している情報を提供してもらいたい。」
とにかく優先させられたのは俺の魂に刻まれた記憶だった。
ハイジャックされた機内の状況を聞き出されていった。
モニタに映っていた男の事は更に仔細に追及された。
その結果、犯人の特定ができたらしい。
警察や政府は、この後の「騒動」に向かって突き進んでゆくが、情報を伝え終えた俺は役目を終える事となった。
しばらく遊んで暮らせるほどの現金を詰めた引手付きのカバンを手渡された。
「君の協力で犯人の特定ができたよ♪ありがとう。」
そうお礼を言われても嬉しいとは思えなかった。
唯一、尋問のような事情聴取の日々から解放されたことだけには喜びを覚えた。
ダメもとではあるが…
「この義体…俺本来の姿に近づけることはできないのですか?」
と聞くと
「義体一体作るのにいくら掛かるか知っているかい?」
「君はあの事件で死んだ事になっているんだ。その義体なら別人として新しい人生を送ることにも都合が良いだろう?」
緊急を要したということで用意できた義体は女性体しかなかったということだった。
俺はこの先、「女」として生きていくことになる。
資金として渡されたカバンとともに用意された女物の服…ピンク色のワンピースを着させられた俺は次の一歩を踏み出していった。
その行き着く先にあるのが「義体」である。
魂以外の全てを失った人を補間するという機器である。
死人を生き返らせる技術とも言われているが、昇天/成仏した魂を取り戻す事は不可能である。
義体に納められるのはあくまでも本人が特定できる魂…肉体とのリンクが辿れる状態にある魂のみが対象となった。
しかし、それは未だ研究段階のものであった…
「…ここは?」
一気に覚醒した俺はまだ事態が呑み込めずにいた。
ゆっくりと記憶が回復してゆく。確か俺は飛行機に乗っていた。
ごく普通の旅客機で、東京に向かっていたのだ。まだ着陸までは時間があった。
そんな機内が一気にざわつき始めた。
(ハイジャックだ‼)
そんなことを言っている人がいた。
正面にあるモニタの画面が男の顔を映していた。
「この機体は我々が確保した。行き先を変更させてもらう。」
別の声がその言葉を英語に翻訳していた。
「我々の目的地は首相官邸だ。」
俺は即には理解できなかった。これは単なるハイジャックで、当然どこかの国とかに向かうのかと思っていた。
が、彼が告げたのは国内…それも羽田からもそう遠くない場所である。
機体が大きく傾いた。どんどん高度を落としてゆく。
(墜落するんじゃ?)と呑気なことを考えていた俺だが、周りの叫び声にただならぬ事態であると感じた。
機体は地面に向かって突き進んでいた。
その先にあったのが「首相官邸」であったとは後で知った事だった。
その航空機テロでは生存者は皆無であった。俺も確実に死んでいたのだ。
しかし、事態が事態であった。義体に適合する魂が探索され、そこに引っ掛かったのが俺の魂だった。
俺は…俺の魂は義体に納められ覚醒した。
最初は事故の影響で肉体に違和感を感じていると思っていたが、その理由は即に知らされた。
「君は義体に蘇生している。つまり、その肉体は別人のものと言って良い。」
更に
「なにぶん緊急を要したので、用意できた義体は…それしかなかったのだ。」
と宣言された。
「リハビリをすればその肉体にも慣れると思うが、それより先に君の記憶している情報を提供してもらいたい。」
とにかく優先させられたのは俺の魂に刻まれた記憶だった。
ハイジャックされた機内の状況を聞き出されていった。
モニタに映っていた男の事は更に仔細に追及された。
その結果、犯人の特定ができたらしい。
警察や政府は、この後の「騒動」に向かって突き進んでゆくが、情報を伝え終えた俺は役目を終える事となった。
しばらく遊んで暮らせるほどの現金を詰めた引手付きのカバンを手渡された。
「君の協力で犯人の特定ができたよ♪ありがとう。」
そうお礼を言われても嬉しいとは思えなかった。
唯一、尋問のような事情聴取の日々から解放されたことだけには喜びを覚えた。
ダメもとではあるが…
「この義体…俺本来の姿に近づけることはできないのですか?」
と聞くと
「義体一体作るのにいくら掛かるか知っているかい?」
「君はあの事件で死んだ事になっているんだ。その義体なら別人として新しい人生を送ることにも都合が良いだろう?」
緊急を要したということで用意できた義体は女性体しかなかったということだった。
俺はこの先、「女」として生きていくことになる。
資金として渡されたカバンとともに用意された女物の服…ピンク色のワンピースを着させられた俺は次の一歩を踏み出していった。
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