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幻影
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そこは宇宙空間…
俺は独りそこに漂っている。
宇宙服一枚
それだけが俺と外界を隔てている。
まあ、圧縮空気の予備槽もあるから、飲み食いを度外視すればまだ1ヶ月は漂っていられる計算ではある。
とは言え、水はあと2週間、凝縮口糧は1週間分を切っている。
別に遭難とかではない。
ただ単に、浮かんでいたいからここに来たのである。
ここは磁場が絶妙に絡み合い、有害なデブリ等が飛んでくることがない極めて特殊な空域である。
と、同時にここから外部への連絡手段も塞がれてしまっている。
予め回収してもらう算段をしていないと、数週間後のここには餓死した遺体が漂っていることになる。
が、今はそんな事を気に掛ける時ではないのだ。
独り…の筈が、何故か俺の目の前には少女の姿があった。
宇宙服ではなく、薄衣の白いドレスをヒラヒラさせて俺に微笑みかけている。
夢か、幻か…
勿論それはあり得ない光景である。
「問題はないわ。あたしはヒトではないから♪」
彼女はそう言った。
「そんな重たい服なんか脱いでしまいたいでしょう?」
蠱惑的な問い掛けに戸惑いを覚える…
「さぁ、あたし達と一緒に自由になりましょ♪」
気が付くと、俺は手袋のファスナーを下ろし始めていた。
分厚い手袋が外れてゆく。
ヘルメットの止め金に指を掛けていた。
カチリと音がした。
シュッとヘルメットの中の空気が洩れ出てゆく…
「どお?気持ち良いでしょ♪」
彼女の言う通り、開放された気分である。
「他も脱いでしまいましょ♪」
その言葉に従い、俺は宇宙服のファスナーを全て開いていった。
気が付くと脱ぎ去ったものはいつの間にか目の前から消えていた。
「大丈夫よ。もうアナタはそんなモノに頼らずに生きていけるのだもの♪」
そして、着ていたもの全てを剥ぎ取ってしまっていた…
「よかったら、コレを着ない?」
それは彼女の着ているものと同じ白い薄衣のドレスであった。
「わたしが着ても良いのか?」
「問題ないわ。アナタはもうあたし達の仲間なのだから♪」
わたしは被るようにドレスの中に頭を入れた。
腕を袖の中に通す。
襟首に手を差し込み、長く伸びた髪の毛を引き出した。
わたしは彼女と同じようにドレスをヒラつかせ、宙に髪を漂わせた。
「行きましょうか?」
わたしは「うん♪」と応え、差し伸べられた手を握っていた…
とある宇宙の一画…何故か宇宙服だけが置き去りにされていた。
回収作業にあたっていた者達が一様に「女の歌声を聞いたような気がする」と
中には「白いドレスの少女を見た」と証言する者もいた。
が、その事は複雑な磁場によるストレスの一種として葬られてしまっていた。
そして、幾年か経ち忘れた頃にまた同じ出来事が繰り返される。
いつしか彼女達の声を聞いた事のある者達の間で彼女達は「幻の歌姫」と呼ばれるようになっていた…
そう…わたしは「自由」♪
自由に翔んで、自由に歌う…
ほら、アナタも一緒に自由になろう♪
そう…わたしたちは…
俺は独りそこに漂っている。
宇宙服一枚
それだけが俺と外界を隔てている。
まあ、圧縮空気の予備槽もあるから、飲み食いを度外視すればまだ1ヶ月は漂っていられる計算ではある。
とは言え、水はあと2週間、凝縮口糧は1週間分を切っている。
別に遭難とかではない。
ただ単に、浮かんでいたいからここに来たのである。
ここは磁場が絶妙に絡み合い、有害なデブリ等が飛んでくることがない極めて特殊な空域である。
と、同時にここから外部への連絡手段も塞がれてしまっている。
予め回収してもらう算段をしていないと、数週間後のここには餓死した遺体が漂っていることになる。
が、今はそんな事を気に掛ける時ではないのだ。
独り…の筈が、何故か俺の目の前には少女の姿があった。
宇宙服ではなく、薄衣の白いドレスをヒラヒラさせて俺に微笑みかけている。
夢か、幻か…
勿論それはあり得ない光景である。
「問題はないわ。あたしはヒトではないから♪」
彼女はそう言った。
「そんな重たい服なんか脱いでしまいたいでしょう?」
蠱惑的な問い掛けに戸惑いを覚える…
「さぁ、あたし達と一緒に自由になりましょ♪」
気が付くと、俺は手袋のファスナーを下ろし始めていた。
分厚い手袋が外れてゆく。
ヘルメットの止め金に指を掛けていた。
カチリと音がした。
シュッとヘルメットの中の空気が洩れ出てゆく…
「どお?気持ち良いでしょ♪」
彼女の言う通り、開放された気分である。
「他も脱いでしまいましょ♪」
その言葉に従い、俺は宇宙服のファスナーを全て開いていった。
気が付くと脱ぎ去ったものはいつの間にか目の前から消えていた。
「大丈夫よ。もうアナタはそんなモノに頼らずに生きていけるのだもの♪」
そして、着ていたもの全てを剥ぎ取ってしまっていた…
「よかったら、コレを着ない?」
それは彼女の着ているものと同じ白い薄衣のドレスであった。
「わたしが着ても良いのか?」
「問題ないわ。アナタはもうあたし達の仲間なのだから♪」
わたしは被るようにドレスの中に頭を入れた。
腕を袖の中に通す。
襟首に手を差し込み、長く伸びた髪の毛を引き出した。
わたしは彼女と同じようにドレスをヒラつかせ、宙に髪を漂わせた。
「行きましょうか?」
わたしは「うん♪」と応え、差し伸べられた手を握っていた…
とある宇宙の一画…何故か宇宙服だけが置き去りにされていた。
回収作業にあたっていた者達が一様に「女の歌声を聞いたような気がする」と
中には「白いドレスの少女を見た」と証言する者もいた。
が、その事は複雑な磁場によるストレスの一種として葬られてしまっていた。
そして、幾年か経ち忘れた頃にまた同じ出来事が繰り返される。
いつしか彼女達の声を聞いた事のある者達の間で彼女達は「幻の歌姫」と呼ばれるようになっていた…
そう…わたしは「自由」♪
自由に翔んで、自由に歌う…
ほら、アナタも一緒に自由になろう♪
そう…わたしたちは…
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退会済ユーザのコメントです
コメントへの返信が遅れて申し訳ありません。
>幻想的で、かつ美しい物語でした。
過分なコメントありがとうございます。
SF/ファンタジーには境目はないと思っています。(もともとどちらの定義もあいまいですからね)
よろしければ、他の作品も見て行ってください。