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◎二年目、十一月の章
■学園祭はじまる
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秋晴れが広がる中、里奈がステージに立つと高らかに宣言する。
「これより学園祭をはじめます!」
グラウンド中が歓声で沸き立つ。
お祭りがはじまった。しかし、ステージを降りた里奈はぐったりとしていた。
「お疲れさま」
由芽がペットボトルの飲み物を差し出してくれる。
「由芽みたいな人を秘書っていうんだっけ?」
「どうなんだろ? 意識したことないけど」
由芽に関しては里奈の手が届かないところまで動いてくれていた。
対比となるのは頼果だが、彼女は無軌道に動きすぎだった。
その点でいうと由芽とは阿吽の呼吸だったと言えよう。
「あとは特に何もないわよね?」
「出店は一四時までで。それから体育館で一六時まで後夜祭だね」
「夜じゃないのに後夜祭なのね」
「夜に出歩くのは危ないから仕方ないよ」
まあ、それはそうなのだが。とりあえずしばらくはゆっくりできそうだ。
「せっかくだから出店をまわってこようかな」
「あ、それなら待って」
由芽は誰かにメッセージを送ったようで、それからしばらくして久遠と頼果が顔を出す。
「そういう約束だったよね」
由芽は満面の笑みで三人を送り出したのであった。
「何だかステージがやけに盛況じゃない?」
里奈は外に出てステージの方に目を向ける。
「アイドル活動やってるクランがステージを貸してほしいって申請してたでしょ」
そういえばそんなこともあったかもしれない。一応、一通り目は通していたが、細かい内容までは把握してなかった。それくらいには忙しい日々だったといまならわかる。
「何するの?」
「歌って踊るくらいしか把握してないけど」
男女構わず熱狂的な歓声がステージに贈られる。
「それはそうとやたら視線を感じるんだけど?」
久遠が二人にしか聞こえないくらいの声で囁く。
「何でかしらね?」
「私が知るわけないでしょ」
里奈は先ほどステージで挨拶までしたこの学園祭の主催者。
久遠は言わずもながら英雄としての地位を得つつあった。
頼果は長身とそのスタイルのために勝手に人の目を惹いた。
目立たないわけがない組み合わせである。
問題は三人がその事に気がついてないことだ。
「久遠く~ん」
すると出店の方から久遠を呼ぶ女性の声。
「乃々子さん」
クイーンナイツのクランリーダーである。そういえばお好み焼きを売っていたなと里奈は思い出した。
「君って本当に女性関係が派手よね。見た目に似合わず」
久遠は苦笑いを浮かべる。言い返せないようだ。
「いいんですよ、こいつはこれで。私がしっかり管理しますから」
それはそれで怖いなと頼果は思う。もちろん顔に出すほど浅はかではない。
「食べてく?」
乃々子は営業スマイルだ。
「……一つください」
久遠がため息交じりに注文する。
お好み焼きは既にできあがった冷凍のものを解凍して、あとは鉄板風のヒーターにのせて温める。
原理はこうなのだが、当時の人間が見ても何ら遜色のない雰囲気なのだそうだ。もっともそれを語れる人間は地上にもはや存在していないが。
「おいしそうねぇ」
「たこ焼きだっけ? あれも良さそうね」
里奈と頼果は思い思いに語る。
いくらでも食べてやろう。全部久遠のおごりだ。
「これより学園祭をはじめます!」
グラウンド中が歓声で沸き立つ。
お祭りがはじまった。しかし、ステージを降りた里奈はぐったりとしていた。
「お疲れさま」
由芽がペットボトルの飲み物を差し出してくれる。
「由芽みたいな人を秘書っていうんだっけ?」
「どうなんだろ? 意識したことないけど」
由芽に関しては里奈の手が届かないところまで動いてくれていた。
対比となるのは頼果だが、彼女は無軌道に動きすぎだった。
その点でいうと由芽とは阿吽の呼吸だったと言えよう。
「あとは特に何もないわよね?」
「出店は一四時までで。それから体育館で一六時まで後夜祭だね」
「夜じゃないのに後夜祭なのね」
「夜に出歩くのは危ないから仕方ないよ」
まあ、それはそうなのだが。とりあえずしばらくはゆっくりできそうだ。
「せっかくだから出店をまわってこようかな」
「あ、それなら待って」
由芽は誰かにメッセージを送ったようで、それからしばらくして久遠と頼果が顔を出す。
「そういう約束だったよね」
由芽は満面の笑みで三人を送り出したのであった。
「何だかステージがやけに盛況じゃない?」
里奈は外に出てステージの方に目を向ける。
「アイドル活動やってるクランがステージを貸してほしいって申請してたでしょ」
そういえばそんなこともあったかもしれない。一応、一通り目は通していたが、細かい内容までは把握してなかった。それくらいには忙しい日々だったといまならわかる。
「何するの?」
「歌って踊るくらいしか把握してないけど」
男女構わず熱狂的な歓声がステージに贈られる。
「それはそうとやたら視線を感じるんだけど?」
久遠が二人にしか聞こえないくらいの声で囁く。
「何でかしらね?」
「私が知るわけないでしょ」
里奈は先ほどステージで挨拶までしたこの学園祭の主催者。
久遠は言わずもながら英雄としての地位を得つつあった。
頼果は長身とそのスタイルのために勝手に人の目を惹いた。
目立たないわけがない組み合わせである。
問題は三人がその事に気がついてないことだ。
「久遠く~ん」
すると出店の方から久遠を呼ぶ女性の声。
「乃々子さん」
クイーンナイツのクランリーダーである。そういえばお好み焼きを売っていたなと里奈は思い出した。
「君って本当に女性関係が派手よね。見た目に似合わず」
久遠は苦笑いを浮かべる。言い返せないようだ。
「いいんですよ、こいつはこれで。私がしっかり管理しますから」
それはそれで怖いなと頼果は思う。もちろん顔に出すほど浅はかではない。
「食べてく?」
乃々子は営業スマイルだ。
「……一つください」
久遠がため息交じりに注文する。
お好み焼きは既にできあがった冷凍のものを解凍して、あとは鉄板風のヒーターにのせて温める。
原理はこうなのだが、当時の人間が見ても何ら遜色のない雰囲気なのだそうだ。もっともそれを語れる人間は地上にもはや存在していないが。
「おいしそうねぇ」
「たこ焼きだっけ? あれも良さそうね」
里奈と頼果は思い思いに語る。
いくらでも食べてやろう。全部久遠のおごりだ。
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