158 / 266
◎二年目、七月の章
■由芽は久遠におかえりを伝えたくて
しおりを挟む
寮が近くなる。
空けていたのはほんの二日程度なのにずいぶんと懐かしく感じていた。
由芽なりに久遠という少年についてわかったことがあった。
たしかに彼はゲーム中や東京での生活について驚くような行動をする。しかし、何を考えているのかというと、その実は普通の少年なのではないだろうかと思うのだ。
ここ数ヶ月の間で東方旅団は規模を少しずつだが、大きくしていっている。他のクランとの交流も増えつつあった。
それでも久遠が帰る場所はこの寮なのだ。それはどれだけの変化があっても変わらない。
ここにまた帰ってこれるよう自分は久遠にかけるべき声があるのではないか。
それをしなければ次に何かあったとき久遠は帰ってこないかもしれない。
「乃々子さん、明里さんと寮にいるってさ」
圭都が報告してくる。それを聞くと由芽も気が重たい。
どうもあのノリ的なものが由芽は苦手だ。それでもある程度は受け入れなければならないのだろう。
やはり由芽にとってもあの寮は居場所になりつつある。
それに新たに仲間が増えるかもしれないのだ。それも待望の後輩だ。
「宴会場にするのはやめてほしいんだけどね」
でも、どうしようもないかもしれないと久遠はあきらめ口調だ。
寮の玄関を由芽は早足で久遠より先に入り、くるりと旋回して久遠に顔を向ける。
いま彼に伝えるべきはきっとこの一言なのだ。
「久遠くん、おかえり」
久遠は立ち止まり最初はキョトンとしていたが、急に顔を伏せる。
久遠は右手で目のあたりを拭ってから顔を上げる。
「……ただいま」
久遠ははにかんだような笑顔でそう言った。
空けていたのはほんの二日程度なのにずいぶんと懐かしく感じていた。
由芽なりに久遠という少年についてわかったことがあった。
たしかに彼はゲーム中や東京での生活について驚くような行動をする。しかし、何を考えているのかというと、その実は普通の少年なのではないだろうかと思うのだ。
ここ数ヶ月の間で東方旅団は規模を少しずつだが、大きくしていっている。他のクランとの交流も増えつつあった。
それでも久遠が帰る場所はこの寮なのだ。それはどれだけの変化があっても変わらない。
ここにまた帰ってこれるよう自分は久遠にかけるべき声があるのではないか。
それをしなければ次に何かあったとき久遠は帰ってこないかもしれない。
「乃々子さん、明里さんと寮にいるってさ」
圭都が報告してくる。それを聞くと由芽も気が重たい。
どうもあのノリ的なものが由芽は苦手だ。それでもある程度は受け入れなければならないのだろう。
やはり由芽にとってもあの寮は居場所になりつつある。
それに新たに仲間が増えるかもしれないのだ。それも待望の後輩だ。
「宴会場にするのはやめてほしいんだけどね」
でも、どうしようもないかもしれないと久遠はあきらめ口調だ。
寮の玄関を由芽は早足で久遠より先に入り、くるりと旋回して久遠に顔を向ける。
いま彼に伝えるべきはきっとこの一言なのだ。
「久遠くん、おかえり」
久遠は立ち止まり最初はキョトンとしていたが、急に顔を伏せる。
久遠は右手で目のあたりを拭ってから顔を上げる。
「……ただいま」
久遠ははにかんだような笑顔でそう言った。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
辺境の町バラムに暮らす青年マルク。
子どもの頃から繰り返し見る夢の影響で、自分が日本(地球)から転生したことを知る。
マルクは日本にいた時、カフェを経営していたが、同業者からの嫌がらせ、客からの理不尽なクレーム、従業員の裏切りで店は閉店に追い込まれた。
その後、悲嘆に暮れた彼は酒浸りになり、階段を踏み外して命を落とした。
当時の記憶が復活した結果、マルクは今度こそ店を経営して成功することを誓う。
そんな彼が思いついたのが焼肉屋だった。
マルクは冒険者をして資金を集めて、念願の店をオープンする。
焼肉をする文化がないため、その斬新さから店は繁盛していった。
やがて、物珍しさに惹かれた美食家エルフや凄腕冒険者が店を訪れる。
HOTランキング1位になることができました!
皆さま、ありがとうございます。
他社の投稿サイトにも掲載しています。
転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。
黒ハット
ファンタジー
ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる
さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~
みなと
ファンタジー
目が覚めた私は、ぼんやりする頭で考えた。
生まれた息子は乳母と義母、父親である夫には懐いている。私のことは、無関心。むしろ馬鹿にする対象でしかない。
夫は、私の実家の資産にしか興味は無い。
なら、私は何に興味を持てばいいのかしら。
きっと、私が生きているのが邪魔な人がいるんでしょうね。
お生憎様、死んでやるつもりなんてないの。
やっと、私は『私』をやり直せる。
死の淵から舞い戻った私は、遅ればせながら『自分』をやり直して楽しく生きていきましょう。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい
三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです
無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す!
無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!
スキル【海】ってなんですか?
陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
スキル【海】ってなんですか?〜使えないユニークスキルを貰った筈が、海どころか他人のアイテムボックスにまでつながってたので、商人として成り上がるつもりが、勇者と聖女の鍵を握るスキルとして追われています〜
※書籍化準備中。
※情報の海が解禁してからがある意味本番です。
我が家は代々優秀な魔法使いを排出していた侯爵家。僕はそこの長男で、期待されて挑んだ鑑定。
だけど僕が貰ったスキルは、謎のユニークスキル──〈海〉だった。
期待ハズレとして、婚約も破棄され、弟が家を継ぐことになった。
家を継げる子ども以外は平民として放逐という、貴族の取り決めにより、僕は父さまの弟である、元冒険者の叔父さんの家で、平民として暮らすことになった。
……まあ、そもそも貴族なんて向いてないと思っていたし、僕が好きだったのは、幼なじみで我が家のメイドの娘のミーニャだったから、むしろ有り難いかも。
それに〈海〉があれば、食べるのには困らないよね!僕のところは近くに海がない国だから、魚を売って暮らすのもいいな。
スキルで手に入れたものは、ちゃんと説明もしてくれるから、なんの魚だとか毒があるとか、そういうことも分かるしね!
だけどこのスキル、単純に海につながってたわけじゃなかった。
生命の海は思った通りの効果だったけど。
──時空の海、って、なんだろう?
階段を降りると、光る扉と灰色の扉。
灰色の扉を開いたら、そこは最近亡くなったばかりの、僕のお祖父さまのアイテムボックスの中だった。
アイテムボックスは持ち主が死ぬと、中に入れたものが取り出せなくなると聞いていたけれど……。ここにつながってたなんて!?
灰色の扉はすべて死んだ人のアイテムボックスにつながっている。階段を降りれば降りるほど、大昔に死んだ人のアイテムボックスにつながる扉に通じる。
そうだ!この力を使って、僕は古物商を始めよう!だけど、えっと……、伝説の武器だとか、ドラゴンの素材って……。
おまけに精霊の宿るアイテムって……。
なんでこんなものまで入ってるの!?
失われし伝説の武器を手にした者が次世代の勇者って……。ムリムリムリ!
そっとしておこう……。
仲間と協力しながら、商人として成り上がってみせる!
そう思っていたんだけど……。
どうやら僕のスキルが、勇者と聖女が現れる鍵を握っているらしくて?
そんな時、スキルが新たに進化する。
──情報の海って、なんなの!?
元婚約者も追いかけてきて、いったい僕、どうなっちゃうの?
サバイバー最弱の俺はハズレスキル『フェイカー』で天使な彼女とSランクを目指す
海翔
ファンタジー
山沖凜は一六歳の高校一年生。
異形のモンスターが出現するようになってしまったこの世界で異能を操るサバイバーとしてモンスター討伐に参加している。
凜のスキルは『フェイカー』他のサバイバーのスキルを模倣して使えるようになるレアスキルだが、模倣したスキルは本来の能力よりも格段に劣化してしまうという致命的な欠陥があり、サバイバーになって一年が経つが最底辺のレベル1のままで高校では無能者と呼ばれて馬鹿されている。
ある日凛はゴブリンとの戦闘で、このハズレスキル『フェイカー』の本当の力に目覚める。
小説家になろうカクヨムにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる