上 下
133 / 266
◎二年目、六月の章

■呆れる乃々子に苦笑いの久遠

しおりを挟む
「君も元気だねぇ」

 次の日の早朝、乃々子が久遠にかけた最初の一声である。

「あなたがそれ言います?」

 その久遠の指摘に乃々子はチロリと舌を出す。

「いいじゃない。細かいことは」

 この話題はさっさと変えてしまうにかぎるなと乃々子は考えた。

 すると、久遠が乃々子をまじまじと見つめていることに気がつく。

「どうかした?」

「乃々子さん、昨日は化粧してたんですか?」

 なるほど。いまはすっぴんだったなと思い出す。客には絶対に見せないようにしているものだ。

「あんな厚化粧、寝るときくらい落とすに決まってるでしょ」

 好き好んでやっているわけではないのだ。

「乃々子さんは化粧しなくてもよさそうですけど」

 そう言うと乃々子は久遠のおでこにデコピンをする。

「素顔隠しになるの。街中でるときはすっぴんにしたら簡単には素顔が一致しないでしょ」

「僕は何でデコピンされたんですか?」

 それなりに痛かったようで久遠はおでこをさすっている。

「君がバカみたいなこと聞くからよ」

「ののさん、少しいいかな?」

 圭都が乃々子と向き合う形で正面に立つ。

「改まってどうしたの?」

 圭都がこれまでこんなことをするのを見たことはなかった。珍しいとも言える。

「私、今日でクイーン・ナイツ抜けるよ」

 ああ、そういうことかと久遠に一瞬だけ視線を向けて、すぐに圭都へ戻す。

クイーン・ナイツここの方針は知ってるよね。だから、私に引き止める権利はない」

 それは今後も決して揺らがない規則となるだろう。しかしである。

「一応、理由は聞かせてもらえる?」

 圭都は真鈴のことを話だす。

 まあ、絡むと言えば真鈴のことだろうと予想はついていたが。

「なるほどね。それで行くアテはあるの?」

 すると二人の視線は自然と久遠に向く。

「どうして僕が責任取るみたいな話になっているんですか?」

「だって圭都ちゃんは久遠くんのクランに入りたいのよ」

 久遠はそうなのかと圭都に視線だけを向けると、圭都は頷く。なるほど。そもそも久遠に相談してなかったか。

「君も大変ね」

 思わず口にしてしまう。

「あ、それと。よかったら、久遠くんがいるクランの拠点とかあったら教えてよ」

 せっかくできた交流だった。それに気に入ってしまったのだ。この久遠という少年を。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【TS転生勇者のやり直し】『イデアの黙示録』~魔王を倒せなかったので2度目の人生はすべての選択肢を「逆」に生きて絶対に勇者にはなりません!~

夕姫
ファンタジー
【絶対に『勇者』にならないし、もう『魔王』とは戦わないんだから!】 かつて世界を救うために立ち上がった1人の男。名前はエルク=レヴェントン。勇者だ。  エルクは世界で唯一勇者の試練を乗り越え、レベルも最大の100。つまり人類史上最強の存在だったが魔王の力は強大だった。どうせ死ぬのなら最後に一矢報いてやりたい。その思いから最難関のダンジョンの遺物のアイテムを使う。  すると目の前にいた魔王は消え、そこには1人の女神が。 「ようこそいらっしゃいました私は女神リディアです」  女神リディアの話しなら『もう一度人生をやり直す』ことが出来ると言う。  そんなエルクは思う。『魔王を倒して世界を平和にする』ことがこんなに辛いなら、次の人生はすべての選択肢を逆に生き、このバッドエンドのフラグをすべて回避して人生を楽しむ。もう魔王とは戦いたくない!と  そしてエルクに最初の選択肢が告げられる…… 「性別を選んでください」  と。  しかしこの転生にはある秘密があって……  この物語は『魔王と戦う』『勇者になる』フラグをへし折りながら第2の人生を生き抜く転生ストーリーです。

転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。

黒ハット
ファンタジー
ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる

お兄ちゃんの装備でダンジョン配信

高瀬ユキカズ
ファンタジー
レベル1なのに、ダンジョンの最下層へ。脱出できるのか!? ダンジョンが現代に現れ、ライブ配信が当たり前になった世界。 強さに応じてランキングが発表され、世界的な人気を誇る配信者たちはワールドクラスプレイヤーと呼ばれる。 主人公の筑紫春菜はワールドクラスプレイヤーを兄に持つ中学2年生。 春菜は兄のアカウントに接続し、SSS級の激レア装備である【神王の装備フルセット】を持ち出してライブ配信を始める。 最強の装備を持った最弱の主人公。 春菜は視聴者に騙されて、人類未踏の最下層へと降り立ってしまう。しかし、危険な場所に来たことには無自覚であった。ろくな知識もないまま攻略し、さらに深い階層へと進んでいく。 無謀とも思える春菜の行動に、閲覧者数は爆上がりする。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

アルケミア・オンライン

メビウス
SF
※現在不定期更新中。多忙なため期間が大きく開く可能性あり。 『錬金術を携えて強敵に挑め!』 ゲーム好きの少年、芦名昴は、幸運にも最新VRMMORPGの「アルケミア・オンライン」事前登録の抽選に当選する。常識外れとも言えるキャラクタービルドでプレイする最中、彼は1人の刀使いと出会う。 宝石に秘められた謎、仮想世界を取り巻くヒトとAIの関係、そして密かに動き出す陰謀。メガヒットゲーム作品が映し出す『世界の真実』とは────? これは、AIに愛され仮想世界に選ばれた1人の少年と、ヒトになろうとしたAIとの、運命の戦いを描いた物語。

惑星エラムより愛をこめて 第三部 化野(あだしの)編 【ノーマル版】

ミスター愛妻
ファンタジー
 惑星エラムの女王である黒の巫女ヴィーナスさん、故郷に帰り、女学生生活を楽しむつもりだったのに……  どこまでも続く女地獄に辟易しながらも、テラの世界を何とかしようと奮闘努力を重ねる事になる。  状況は悪化の一途たどり、ついに、もしもの為に用意していた次善の策が、唯一の人類存続の策になりつつある。  仕方ないのでテラのすべて、妖怪までもマレーネさんの力で作り上げた、二つの新世界に運ぼうと計画、ついに二つの惑星世界移住に目途が……  しかし喉元過ぎれば何とやら……やはり利己特性は強固と思い知る羽目になる。  テラの未来に暗雲を感じるも……怒りを抑え自身の影響下の惑星世界開発に精を出すヴィーナスさん、おかげで火星、つまりマルスやヴィーンゴールヴは繁栄を始めるが……  本作はミッドナイトノベルズ様に投稿していたものから、R18部分を削除、FC2様、カクヨムで公開しているものです。しかしそうはいってもR15は必要かもしれません。  一話あたり2000文字以内と短めになっています。    表紙はシャセリオー,テオドール 海から上がるヴィーナスでパブリックドメインとなっているものです。

スキル【海】ってなんですか?

陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
スキル【海】ってなんですか?〜使えないユニークスキルを貰った筈が、海どころか他人のアイテムボックスにまでつながってたので、商人として成り上がるつもりが、勇者と聖女の鍵を握るスキルとして追われています〜 ※書籍化準備中。 ※情報の海が解禁してからがある意味本番です。  我が家は代々優秀な魔法使いを排出していた侯爵家。僕はそこの長男で、期待されて挑んだ鑑定。  だけど僕が貰ったスキルは、謎のユニークスキル──〈海〉だった。  期待ハズレとして、婚約も破棄され、弟が家を継ぐことになった。  家を継げる子ども以外は平民として放逐という、貴族の取り決めにより、僕は父さまの弟である、元冒険者の叔父さんの家で、平民として暮らすことになった。  ……まあ、そもそも貴族なんて向いてないと思っていたし、僕が好きだったのは、幼なじみで我が家のメイドの娘のミーニャだったから、むしろ有り難いかも。  それに〈海〉があれば、食べるのには困らないよね!僕のところは近くに海がない国だから、魚を売って暮らすのもいいな。  スキルで手に入れたものは、ちゃんと説明もしてくれるから、なんの魚だとか毒があるとか、そういうことも分かるしね!  だけどこのスキル、単純に海につながってたわけじゃなかった。  生命の海は思った通りの効果だったけど。  ──時空の海、って、なんだろう?  階段を降りると、光る扉と灰色の扉。  灰色の扉を開いたら、そこは最近亡くなったばかりの、僕のお祖父さまのアイテムボックスの中だった。  アイテムボックスは持ち主が死ぬと、中に入れたものが取り出せなくなると聞いていたけれど……。ここにつながってたなんて!?  灰色の扉はすべて死んだ人のアイテムボックスにつながっている。階段を降りれば降りるほど、大昔に死んだ人のアイテムボックスにつながる扉に通じる。  そうだ!この力を使って、僕は古物商を始めよう!だけど、えっと……、伝説の武器だとか、ドラゴンの素材って……。  おまけに精霊の宿るアイテムって……。  なんでこんなものまで入ってるの!?  失われし伝説の武器を手にした者が次世代の勇者って……。ムリムリムリ!  そっとしておこう……。  仲間と協力しながら、商人として成り上がってみせる!  そう思っていたんだけど……。  どうやら僕のスキルが、勇者と聖女が現れる鍵を握っているらしくて?  そんな時、スキルが新たに進化する。  ──情報の海って、なんなの!?  元婚約者も追いかけてきて、いったい僕、どうなっちゃうの?

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

処理中です...