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◎二年目、六月の章

■六月の雨の中、少年はやってくる

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 どこかのホテルのロビーだろうかに簡素な受付台が置かれて、そこに女の子が一人で外に見える雨の景色を退屈そうに眺めている。

 夕方の五時にいったい誰が来るというのか。しかし、こうしているだけでも給料は出るのだから離れるわけにもいかない。

 受付台にはクイーン・ナイツと記載のあるデジタルサイネージが置かれている。

 ――退屈なものは退屈なのよね。

 女の子の右胸にはノアちゃんというプラの名札が下がっている。

 年齢の割には化粧も濃いようにある。

 大きなあくびが出てしまう。このまま居眠りしてやろうかとさえ思いだす。

 そんなときに限って自動ドアは開く。

「……あ」

 しまったと思うが、すでに時遅しだった。あくびをしながら入ってきた男の子とばっちり目が合う。

「い、いらっしゃいませ~」

 ごくたまにここをのホテルだと勘違いする客がいるが、そんなのはごくまれである。

 大概の男どもは理解したうえでやってくる。

 少年は自分を見てぽかんとしているようだった。

 さっきのあくびをしているところを見られたのはまずかったと思うが、何よりも単純に恥ずかしかった。

「先ほどは失礼しました……」

 とりあえず頭を下げておく。そうしながらも少年を観察することは忘れない。

 彼女の記憶をたぐっても見たことのない客だ。つまり一見さんだろう。

 それにしても、この時間にやってくるのがわからない。

 この時間にくる客は泊まり客である。夜に出歩くのは危険だとされているためだ。

「本日はどういったご用で?」

 顔つきはここでよく見る感じの顔つきだが、この少年にかぎっては何かが違うように思えた。

「ここに山入端圭都さんっていますか?」

 ピシリと頭の中に亀裂が入る音がする。少年は決定的にやってはいけないことをやってしまった。

 コイツには出るところに出てもらわないといけない。

「君さ」

 どうしてやろうかと少年を見てやると、まるで何もわかってない風の顔をしている。

 これ本当に何もわかってないなと察してしまうと、さすがに考えこんでしまう。

 しかも先ほどのやりとりはこの少年と自分しか知らないわけだ。

「はあ」とため息をつくと、少年を奥へ連れて行くことにする。

「君の名前、教えてもらえる?」
 
「古輪久遠です」

 おそらく本名だろう。バカ正直なヤツだと苦笑する。

 それと同時に少しだけこの古輪久遠という少年に興味が湧いてしまった。
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