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◎二年目、五月の章

■光は船に乗り、ようやくその子に名前をつける

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 五月も半ばになろうという頃である。

 光は湾港へ来ていた。これから船で故郷へ帰るためだ。

「姉貴、しっかり絞られてこいよ」

 晴がニシシと笑っている。

「あんた、帰ってきても助けやらないから。覚えときなよ」

 ガンつける姿は獲物追うがごとし。晴は顔を引きつらせる。

 前日、派手に学生寮で騒いでいたせいか。一部はまだ学生寮で寝ている。

 この場にいるのは晴の他に里奈、久遠、それに明里だった。

「光さん、帰ったら連絡くださいよ」

 明里は涙ぐみながら光に感極まって抱きついてくる。

「どうしたどうした。また締めてやろうか?」

光は明里の頭をポンポンと優しく撫でることにした。

「あたし、一八歳になったら光さんに会いに行きますから」

「しっかり歓迎してやるよ」

 明里はその場にへたりこんで大声で泣きだしてしまう。それを晴がなだめに入る。なんとも珍しい光景だろうかと光は思う。

「あんたたちには世話になったね」

 光が里奈と久遠に向き直る。

「由芽ちゃんにも礼を言っておいてよ」

 由芽には散々迷惑をかけたからということだった。

「ええ。伝えておきます」

「ありがと」

 そう言いながら光は里奈を抱擁して、そっと耳打ちする

「名残は惜しいけど、こんなことになっちまって明里には迷惑をかけた。やっぱりケジメはつけないとね」

「光さんはいまの自分に後悔してるんですか?」

「実は全然。あたしは自分のやりたいようにできた。だから、こうなってるのも納得してる」

 光は自分が無責任にいい表情でいることを自覚していた。

「弟には特にね。あたしがこんなことになってからクランで浮いちゃってさ。それでもあたしのために損にも得にもならないことで動いてくれたんだ」

 ――身勝手なお願いだけど、弟を頼むよ。

 光は里奈から離れると子供を抱いて船へと向かう。

 五月の潮風が心地よく頬を撫でる。それにつられてから子供がふと目を覚ます。

 泣くのかと思ったが、そんなことはない。憎たらしくも自分の好きだった男と同じ目が不思議そうに自分を見上げてくる。

 それで光は頭にピンと閃く。

「決めた。あんたの名前はうみにする。決定だからね」

 そう言う光の足取りは軽やかであった。
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