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◎一年目、翌年の四月に至るまでの章―外伝―

■彼女は義務教育を受けている

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 窓を開けていたら桜の花びらが一枚ひらひらと風に流されて机の真ん中に舞い降りる。

 とある学校の教室。三〇席はあるだろうというのに座っているのは二人。
 アナログの掛け時計の針は一〇時を指している。授業ははじまったばかりだった。

 二人の席は前から二番目の真ん中くらいのところで隣り合って座っている。
 二人は黒板に映しだされるアバターが授業内容を喋っているのを聞いていた。

 喋っている内容は持っているタブレットにログが出るので、重要そうなところはペンで線を引いたり、書きこみをしたりしている。

 この教室にはメガネをかけた少年とマスクをしてメガネをかけた少女が二人いるだけだった。
 授業中に二人は声を発することはない。アバターがひたすらペラペラと喋りとおすだけだった。

 アバターの話す内容が聞き取れなかろうが特に問題はない。何故ならログが残るからである。
 では、アバターが授業内容を喋る意味については?
 そもそも教室にこの二人がいる意義は?

 その問いかけに対して、まともに答えを返してくれる人はいない。
 この学校に大人は存在しない。
 二人の両親もこの東京にはいない。

 東京に大人はいなくなった。
 子供たちが大人は必要ないと追い出したからだ。
 
 だからその答えを出せるのは現在、子供たちしかいない。
 それができるかも誰も知らない。
 
 ただ言えることは一つ。東京は迷宮ダンジョンと化した、ということだった。
 子供たちの多くは義務教育を放棄して、東京迷宮にずっとこもっている。
 そんな状況が一〇年ほど続いていた。
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