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第6話 おバカな選択

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「お前さん、バカなのか?」

 盗賊ギルドに行って盗賊系魔法を使えるようにして貰おうとした際、盗賊ギルドの担当者の第一声がそれだった。

「否定は出来ません」

 その点については反論のしようもないので、苦笑しながら応じる。
 アイテム無限収納忍術である≪影の倉≫の会得に向けて経験値稼ぎに夢中になり、レベル40になってようやく≪影の倉≫を獲得。
 どのくらいの量の荷物を収納できるのか、収納や持ち運びに伴って何のエネルギーを消費するのか、大量の荷物を収納した状態で長時間過ごすとどうなるのか、それらを確認するのにまた熱中してしまい。
 さらに念のためにレベル50まで上げて、レベルアップボーナスの取りこぼしが無いを確かめ。

 全てクリアして第3ジョブにチェンジしようかという時になって、盗賊系魔法を全く習得していなかった事に気付き、慌てて盗賊ギルドにやって来たのだから。

「ま、こっちとしちゃあ金さえ払ってくれるなら構わないんだが。
 いくら何でもレベル50になるまで≪アンロック≫すら使えなかったとか、あり得ないだろ」

「ははは、経験値稼ぎに夢中になって、宝箱は後回しにしていたもので」

 俺は儀式料より少々多めのリブルと、トートバック1つ分くらいの魔石をテーブルの上に置く。
 無駄話はそのくらいにして、さっさと魔法の儀式をやってくれと言う意思表示である。

「ちょっと待ってろ。
 お前さんが盗賊ギルドに不義理をした経歴が無いかの確認作業がある。
 コイツだけは絶対に外せない手続きなんでな」

 むう、面倒くさい。
 確かにアングラな組織ならそういうのも必要だろうが、ゲームのシステムを採用している世界ならパパッと出来ないモノなのか。
 相変わらず、変なトコロにリアルを持っている世界である。

「あ、じゃあそれまでの時間で、ちょっとお伺いしたい事があるんですが」

「何だ?」

 俺は少しだけ真面目モードになって、

「聖歴316年02月01日、新人のダンジョン探索者50名から装備と所持金を追い剥ぎしたパーティーが居ました。
 そいつらと同じ事をしたパーティーが他に現れていないか、情報を〝買う〟ことって出来ますか?」

 そう告げると、目の前の男の表情も険しくなる。

「そんな情報を〝買って〟どうするつもりだ?」

「俺自身がまさに、そいつらに追い剥ぎされた探索者の1人でね。
 だけどその時のパーティーは、使い捨ての実行役で、黒幕は別に居ると言われていました。
 その黒幕を、被害に遭った俺がぶっ飛ばしてやりたいと考えて、何か不自然ですか?
 探索者ギルドにも同じ事を質問してますけど、そんな奴らは現れていないの一点張りで。
 もしかしてターゲットを、別のギルドにしていないかと思ってね」

 第1の目的では無いが、嘘にならない理由を話す。
 相手は盗賊ギルド。
 ゲームのNPCのように余計な事を一切しない機械的な相手だったら、ココまで警戒はしなかっただろうが、リアルが混ざっているとなると、嘘を見抜かれて不都合が起きる可能性も捨てきれない。

 第1の目的は、このゲームを主人公としてプレイしている者の動向を把握する事。
 けれど、今はその希望は叶わなかった。

「残念ながら、その手の情報は入っていない。
 だが、入手したらあんたに回すように手配しておこう」

「親切な事で」

「盗賊ギルドに不利益を齎さない限り、金払いの良いお得意様は大事にするのは当然の事だろ?」

 そんなやり取りをしている間に、審査は終わったらしい。
 この世界に来てからダンジョンに潜る生活しかしていない俺の素性確認結果は、盗賊ギルドにとって問題なし扱い。

 俺は無事、怪盗魔法を入手した。

 ◆

 第3のジョブである『黒僧忍』は、僧侶と忍者を合わせた代物のようだ。
 元より忍者が好きだった事もあって、その選択肢が出た時、後先考えずに選択していた。
 身軽で素早い攻撃を行う忍者と、攻撃術式のためにウェストサイズを常時大きくしている俺との相性は、決して良いとは言えないにも関わらず、だ。

「ま、まあ。
 もうココまで来ると、実用性より趣味の世界なので」

 慌てて口にした言い訳は、果たして誰に対しての物か。
 ちなみに転職の神殿の司祭には、思いっ切り呆れた顔をされた。

「おまっ、お前、そのデブった体型で、忍者って、正気かよっ」

 ダンジョン探索者ギルドの、顔馴染みになった男達にも笑われた。
 やっぱりこの鈍重な体型で忍者にジョブチェンジってのは、普通じゃありえない選択らしい。

(逆に言うと、別ゲームの攻撃手段がボーナスとして獲得できる人間は、他に居ないという事か。
 ゲーム主人公の他、俺と同じようにモブキャラに転生だか憑依だかしている人間を判別するのに使えそうだな)

 関係者にひとしきり笑われたり呆れられたりした後、俺はお馴染みの経験値稼ぎダンジョンにやって来た。

「さて、とりあえずはレベル15あたりを目指しますか」

 第1ジョブの時のレベルアップボーナスは、レベル5毎だった。
 第2ジョブの時は、レベル10ずつになった。
 となると第3ジョブになった今、レベルアップボーナスが貰えるとしたら、レベル15かレベル20になった時だろう。

「怪盗魔法で、ダンジョンから一瞬で脱出できる≪ダンジョンエスケープ≫なんて魔法が使える事が判ったからな。
 地上に戻るための時間と、その道中の戦闘に掛かる消耗を全部、経験値稼ぎに使える。
 今までよりも1日の獲得経験値量は増やせるはず」

 いつものように入口付近で3匹のゴブリンを見掛けたので、雷撃で仕留める。
 俺の広範囲攻撃術式≪雷帝の陣≫は、攻撃範囲の中に居るユニット数に応じてコストが増えるタイプ。
 相手が1匹でも50匹でも、1匹あたりに掛けるコストは変わらないので、消耗を抑えるなんて理由でダンジョンモンスターを見逃す事は無い。
 まあ、ゴブリンみたいな経験値をあんまり稼げないモンスターに使うのは勿体ないかなと思いはするけれど。

「お、中層に降りて早々にコレか。
 幸先良いな」

 階段を下りて角を曲がった先の通路から聞こえて来たのは、無数の羽音。
 全長が1メートルほどもある巨大蜂、ジャイアントビーの群だ。
 ただでさえ群れで行動するダンジョンモンスターだが、今回は軽く50匹は超えていそう。
 ジャイアントビーの大群とか、範囲攻撃魔法を持っている魔法使いにとっても厄介な相手と言われているが、俺にとっては個々の経験値が高い上に集団で来てくれるので美味しい相手。
 前後左右を囲まれるとか、剣が届かない天井近くから攻撃されるとか、普通なら絶体絶命だろうが、

「≪雷帝の陣≫」

 自分を中心とした全方位攻撃の前では、一網打尽で楽々経験値ゲットのチャンスでしかない。
 こういう攻撃を気兼ねなくぶっ放せるのが、ソロ活動のメリットだ。

 ジャイアントビーの大群は、あっと言う間に周囲の床を埋め尽くす魔石となる。

「≪影の倉≫、発動。
 魔石を回収」

 以前は魔石を拾うのも大変な作業だったが、『陰妖魔殿-邪忍をもって妖魔を制す』の邪忍術である≪影の倉≫を入手してからは、その手間も格段に省略されるようになった。
 俺の足元の影がグワッと広がり、周囲に散らばっていた魔石が影の中に沈み込んで行く。
 いちいち手で拾って収納口に放り込まなくても、「俺の所有物」である事と「影が発生できる場所」である事の条件が揃えば、こうして影が勝手に魔石を回収してくれるのだ。
 入手までにした苦労に見合っただけの性能である。
 影の倉に納めたアイテムの一覧は、ステータス表示と同じように俺だけが見られるホロウィンドウにて確認が可能。
 倉の中のアイテム一覧をチェックすれば、「ジャイアントビーの魔石」が72個追加されていた。

 レベルアップの恩恵で燃費が改善されたのか、これだけの数のダンジョンモンスターを狩っても、まだベルトの示すウェストサイズはイエローラインに遠い。

「討伐だけじゃなく魔石回収効率も上がったし。
 ダンジョンからの脱出手段もある事だし。
 今日はイエローラインが終わるギリギリのところまで、狩ってみますかね」

 ベルトの位置を確認した俺は、ダンジョンの奥へと歩みを進めた。
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