6 / 12
第6話 おバカな選択
しおりを挟む「お前さん、バカなのか?」
盗賊ギルドに行って盗賊系魔法を使えるようにして貰おうとした際、盗賊ギルドの担当者の第一声がそれだった。
「否定は出来ません」
その点については反論のしようもないので、苦笑しながら応じる。
アイテム無限収納忍術である≪影の倉≫の会得に向けて経験値稼ぎに夢中になり、レベル40になってようやく≪影の倉≫を獲得。
どのくらいの量の荷物を収納できるのか、収納や持ち運びに伴って何のエネルギーを消費するのか、大量の荷物を収納した状態で長時間過ごすとどうなるのか、それらを確認するのにまた熱中してしまい。
さらに念のためにレベル50まで上げて、レベルアップボーナスの取りこぼしが無いを確かめ。
全てクリアして第3ジョブにチェンジしようかという時になって、盗賊系魔法を全く習得していなかった事に気付き、慌てて盗賊ギルドにやって来たのだから。
「ま、こっちとしちゃあ金さえ払ってくれるなら構わないんだが。
いくら何でもレベル50になるまで≪アンロック≫すら使えなかったとか、あり得ないだろ」
「ははは、経験値稼ぎに夢中になって、宝箱は後回しにしていたもので」
俺は儀式料より少々多めのリブルと、トートバック1つ分くらいの魔石をテーブルの上に置く。
無駄話はそのくらいにして、さっさと魔法の儀式をやってくれと言う意思表示である。
「ちょっと待ってろ。
お前さんが盗賊ギルドに不義理をした経歴が無いかの確認作業がある。
コイツだけは絶対に外せない手続きなんでな」
むう、面倒くさい。
確かにアングラな組織ならそういうのも必要だろうが、ゲームのシステムを採用している世界ならパパッと出来ないモノなのか。
相変わらず、変なトコロにリアルを持っている世界である。
「あ、じゃあそれまでの時間で、ちょっとお伺いしたい事があるんですが」
「何だ?」
俺は少しだけ真面目モードになって、
「聖歴316年02月01日、新人のダンジョン探索者50名から装備と所持金を追い剥ぎしたパーティーが居ました。
そいつらと同じ事をしたパーティーが他に現れていないか、情報を〝買う〟ことって出来ますか?」
そう告げると、目の前の男の表情も険しくなる。
「そんな情報を〝買って〟どうするつもりだ?」
「俺自身がまさに、そいつらに追い剥ぎされた探索者の1人でね。
だけどその時のパーティーは、使い捨ての実行役で、黒幕は別に居ると言われていました。
その黒幕を、被害に遭った俺がぶっ飛ばしてやりたいと考えて、何か不自然ですか?
探索者ギルドにも同じ事を質問してますけど、そんな奴らは現れていないの一点張りで。
もしかしてターゲットを、別のギルドにしていないかと思ってね」
第1の目的では無いが、嘘にならない理由を話す。
相手は盗賊ギルド。
ゲームのNPCのように余計な事を一切しない機械的な相手だったら、ココまで警戒はしなかっただろうが、リアルが混ざっているとなると、嘘を見抜かれて不都合が起きる可能性も捨てきれない。
第1の目的は、このゲームを主人公としてプレイしている者の動向を把握する事。
けれど、今はその希望は叶わなかった。
「残念ながら、その手の情報は入っていない。
だが、入手したらあんたに回すように手配しておこう」
「親切な事で」
「盗賊ギルドに不利益を齎さない限り、金払いの良いお得意様は大事にするのは当然の事だろ?」
そんなやり取りをしている間に、審査は終わったらしい。
この世界に来てからダンジョンに潜る生活しかしていない俺の素性確認結果は、盗賊ギルドにとって問題なし扱い。
俺は無事、怪盗魔法を入手した。
◆
第3のジョブである『黒僧忍』は、僧侶と忍者を合わせた代物のようだ。
元より忍者が好きだった事もあって、その選択肢が出た時、後先考えずに選択していた。
身軽で素早い攻撃を行う忍者と、攻撃術式のためにウェストサイズを常時大きくしている俺との相性は、決して良いとは言えないにも関わらず、だ。
「ま、まあ。
もうココまで来ると、実用性より趣味の世界なので」
慌てて口にした言い訳は、果たして誰に対しての物か。
ちなみに転職の神殿の司祭には、思いっ切り呆れた顔をされた。
「おまっ、お前、そのデブった体型で、忍者って、正気かよっ」
ダンジョン探索者ギルドの、顔馴染みになった男達にも笑われた。
やっぱりこの鈍重な体型で忍者にジョブチェンジってのは、普通じゃありえない選択らしい。
(逆に言うと、別ゲームの攻撃手段がボーナスとして獲得できる人間は、他に居ないという事か。
ゲーム主人公の他、俺と同じようにモブキャラに転生だか憑依だかしている人間を判別するのに使えそうだな)
関係者にひとしきり笑われたり呆れられたりした後、俺はお馴染みの経験値稼ぎダンジョンにやって来た。
「さて、とりあえずはレベル15あたりを目指しますか」
第1ジョブの時のレベルアップボーナスは、レベル5毎だった。
第2ジョブの時は、レベル10ずつになった。
となると第3ジョブになった今、レベルアップボーナスが貰えるとしたら、レベル15かレベル20になった時だろう。
「怪盗魔法で、ダンジョンから一瞬で脱出できる≪ダンジョンエスケープ≫なんて魔法が使える事が判ったからな。
地上に戻るための時間と、その道中の戦闘に掛かる消耗を全部、経験値稼ぎに使える。
今までよりも1日の獲得経験値量は増やせるはず」
いつものように入口付近で3匹のゴブリンを見掛けたので、雷撃で仕留める。
俺の広範囲攻撃術式≪雷帝の陣≫は、攻撃範囲の中に居るユニット数に応じてコストが増えるタイプ。
相手が1匹でも50匹でも、1匹あたりに掛けるコストは変わらないので、消耗を抑えるなんて理由でダンジョンモンスターを見逃す事は無い。
まあ、ゴブリンみたいな経験値をあんまり稼げないモンスターに使うのは勿体ないかなと思いはするけれど。
「お、中層に降りて早々にコレか。
幸先良いな」
階段を下りて角を曲がった先の通路から聞こえて来たのは、無数の羽音。
全長が1メートルほどもある巨大蜂、ジャイアントビーの群だ。
ただでさえ群れで行動するダンジョンモンスターだが、今回は軽く50匹は超えていそう。
ジャイアントビーの大群とか、範囲攻撃魔法を持っている魔法使いにとっても厄介な相手と言われているが、俺にとっては個々の経験値が高い上に集団で来てくれるので美味しい相手。
前後左右を囲まれるとか、剣が届かない天井近くから攻撃されるとか、普通なら絶体絶命だろうが、
「≪雷帝の陣≫」
自分を中心とした全方位攻撃の前では、一網打尽で楽々経験値ゲットのチャンスでしかない。
こういう攻撃を気兼ねなくぶっ放せるのが、ソロ活動のメリットだ。
ジャイアントビーの大群は、あっと言う間に周囲の床を埋め尽くす魔石となる。
「≪影の倉≫、発動。
魔石を回収」
以前は魔石を拾うのも大変な作業だったが、『陰妖魔殿-邪忍をもって妖魔を制す』の邪忍術である≪影の倉≫を入手してからは、その手間も格段に省略されるようになった。
俺の足元の影がグワッと広がり、周囲に散らばっていた魔石が影の中に沈み込んで行く。
いちいち手で拾って収納口に放り込まなくても、「俺の所有物」である事と「影が発生できる場所」である事の条件が揃えば、こうして影が勝手に魔石を回収してくれるのだ。
入手までにした苦労に見合っただけの性能である。
影の倉に納めたアイテムの一覧は、ステータス表示と同じように俺だけが見られるホロウィンドウにて確認が可能。
倉の中のアイテム一覧をチェックすれば、「ジャイアントビーの魔石」が72個追加されていた。
レベルアップの恩恵で燃費が改善されたのか、これだけの数のダンジョンモンスターを狩っても、まだベルトの示すウェストサイズはイエローラインに遠い。
「討伐だけじゃなく魔石回収効率も上がったし。
ダンジョンからの脱出手段もある事だし。
今日はイエローラインが終わるギリギリのところまで、狩ってみますかね」
ベルトの位置を確認した俺は、ダンジョンの奥へと歩みを進めた。
6
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
続・異世界温泉であったかどんぶりごはん
渡里あずま
ファンタジー
異世界の街・ロッコでどんぶり店を営むエリ、こと真嶋恵理。
そんな彼女が、そして料理人のグルナが次に作りたいと思ったのは。
「あぁ……作るなら、豚の角煮は確かに魚醤じゃなく、豆の醤油で作りたいわよね」
「解ってくれるか……あと、俺の店で考えると、蒸し器とくれば茶碗蒸し! だけど、百歩譲ってたけのこは譲るとしても、しいたけとキクラゲがなぁ…」
しかし、作るにはいよいよ他国の調味料や食材が必要で…今回はどうしようかと思ったところ、事態はまたしても思わぬ展開に。
不定期更新。書き手が能天気な為、ざまぁはほぼなし。基本もぐもぐです。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜
金華高乃
ファンタジー
死んだはずの僕が蘇ったのは異世界。しかもソーシャルゲームのように武器を召喚し激レア武器を持つ強者に軍戦略が依存している世界だった。
前世、高槻亮(たかつきあきら)は21世紀を生きた日本陸軍特殊部隊の軍人だった。しかし彼の率いる部隊は不測の事態で全滅してしまい、自身も命を失ってしまう。
しかし、目を覚ますとそこは地球とは違う世界だった。
二度目の人生は異世界。
彼は軍人貴族の長男アカツキ・ノースロードという、二十二歳にも関わらず十代前半程度でしかも女性と見間違えられるような外見の青年として生きていくこととなる。運命のイタズラか、二度目の人生も軍人だったのだ。
だが、この異世界は問題があり過ぎた。
魔法が使えるのはいい。むしろ便利だ。
技術水準は産業革命期付近。銃等の兵器類も著しい発展を迎える頃だから大歓迎であろう。
しかし、戦術レベルなら単独で戦況をひっくり返せる武器がソーシャルゲームのガチャのように出現するのはどういうことなのか。確率もゲームなら運営に批判殺到の超低出現確率。当然ガチャには石が必要で、最上位のレア武器を手に入れられるのはほんのひと握りだけ。しかし、相応しい威力を持つからかどの国も慢心が酷かった。彼の所属するアルネシア連合王国も他国よりはマシとは言え安全保障は召喚武器に依存していた。
近年は平穏とはいえ、敵国の妖魔帝国軍は健在だと言うのに……。
彼は思う。もし戦争になったらガチャ武器に依存したこの世界の軍では勝てない。だから、改革を進めよう。
これは、前世も今世も軍人である一人の男と世界を描いた物語。
【イラスト:伊於さん(Twitter:@io_xxxx)】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる