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「意地悪してごめんね、椎名」

申し訳なさげに眉を寄せるだけで、こんなにも人を惑わせるのだから、美形はキモオタの目には毒だ。
無言で目を逸らすと、密着していた体が離れて、振り返ることなく歩き去っていった。

その背中を眺めながら、燐との不毛な完成が始まった日のことを思い出して深いため息をついた。

あれは中学二年の頃、燐と椎名は地元の同じ中学に上がったが、当然のごとく燐は中学でも目立っていた。

燐とカースト底辺の椎名が学校で話すことは数えるほどしかなかったが、なぜか登下校だけは一緒にしていたので、正直かなり注目を浴びていた。

燐と近づくために、椎名を当てにした女子によく言い寄られていたが、断固として断っていたら結局誰も来なくなった。
むしろ青い顔をして椎名のことを避けているかのようにも見えたが、多分気の所為だろうと思う。

もちろん、燐に直接言いよる女子もいたし、すぐに彼女もできた。ただ三ヶ月もしないうちに別れては次の彼女と付き合っていたので、正直呆れて物も言えなかった。

「燐……また彼女と別れたの?」
「まぁ、向こうが勝手に逆ギレして殴られて帰っただけ」

放課後、いつものごとく燐と一緒に下校していた。
燐と違い美術部に入部していた椎名は、週三日しか部活がなかったが、燐はバスケ部だから毎日ある。それでも椎名の部活がある日は、いつも二人で帰っていた。

この日も下駄箱で待っていたが、なかなか来なかったのでスマホで連絡して帰ろうとしていた。

校門を出たところで呼び止められたのだが、燐は頬を腫らして、この有様。

「燐、もう少し彼女と一緒にいてあげたら良いのに。いつも僕、彼女に睨まれて肩身が狭いし……」

友達思いと言っても、燐は明らかに度が過ぎている。常に椎名を優先するし、帰りも椎名と帰れる日は椎名と帰ろうとする。

そのせいで、前の彼女と口論になっているのを見かけたことさえあるが、なぜか彼女が直接椎名に文句を言ってくることはなかった。

「椎名は俺の幼馴染だから。椎名を優先するのは当然でしょう?」

さも当たり前かのように言うものだから、椎名は呆れを通り越して宇宙人を見ているような気分になってしまう。

それでも、流石に顔を殴られたのは堪えたらしく、燐は顔を歪ませて「癒やしがほしい…」とぼやいていた。

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