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「なぁ! ちょっと起きて!」
僕は水谷高貴。桜ヶ丘音楽高校に通う、ピアノ専攻の高校生だ。
バァンという勢いのある音を立てながら、僕は朝早くから隣室のドアを開け放った。ここに住む友人は、中学からの付き合いで、偶然同じ高校に通い、偶然下宿先も隣同士になった。そんなもので、お互い玄関の暗証番号も知っているし、しょっちゅう部屋を行き来している仲なのだ。
都内の音楽学校の学生向けに建てられたその防音アパートは、1Kのとてもコンパクトな間取りになっている。小さい玄関の向こう側に十畳ほどの部屋があり、玄関と部屋までの短い通路の両側に、簡易的なキッチンと風呂やトイレがある。隣の僕の部屋とほぼ同じ間取りだ。僕は玄関でポイポイと靴を脱ぎ捨て、勝手知ったる友人の家の奥にずかずかと踏み入れた。
「おーい、聖、起きろよ!」
これまたバァンと部屋のドアを突破すると、まだカーテンも開けられていない薄暗な部屋が現れた。僕はあまりの暗さに目を細め、友人を見つけるのにしばし目を凝らさなければならなかった。
「せ、」
夜目をきかせ、よくよく確認すれば、それ以降の言葉は喉まで出かけて引っ込んだ。
(うーわ、こりゃ大変…)
──そこには、部屋の角にすっぽりはめられたシングルサイズのベッドに、美形(泣)な双子が抱き合いながらすやすや寝てるではないか。
(やっば…今日は聖一人じゃなかったか。兄貴の方も最近よく泊まりに来てるのは知ってたけど)
弟の聖だけなら、こんな風に朝早く突撃しても怒られることはない。しかし、聖の兄貴が一緒となると、そうともいかない。
(引き返そ…)
心の中で「サーセンしたっ」と呟きながら、そろそろと元きた道に回れ右をする。
しかし、残念なことに、背後から「な…、に……?」と寝ぼけた声がした。先ほどまでの行いが災いを呼び、聖がむにゃむにゃ言いながら起きてしまったのだ。
「すまんすまん、また後で出直す」
「…えー…いいよ。…どうせ僕も起きる時間だったし。……ふぁ~あ…、何か…あったの?」
振り返ると、鳥の巣頭の友人は、眠そうな目を擦りながら身体半分だけむくりと起き上がっていた。胸のあたりにかけていた毛布たちがハラリと落ちると、この友人が双子の兄と昨日どんな格好で寝て、どんなことをしていたのかを、否が応でも知ることになってしまった。
(おえ、ふたりとも素っ裸かよ!)
「……う、邪魔した。か、帰る…」
「いいよ、いて? 僕を起こしたんだから。高貴が興奮して飛び込んでくるということは、きっといいことなんでしょ?」
逃げ腰になっている自分に、友人はわざわざトゲのある言い方をして追い詰める。
「いや、ほんとにすんません…」
「いいって」
……友人はにこやかにそう言うけれど、彼の隣にいる髪の赤いお方はそうはおっしゃっていなかった。ベッドに寝そべって鼻まで毛布を被ったまま、鋭い眼光でこちらをじーっと睨みつけてきている。どうやら、朝の微睡みの時間を奪われたのと、単純に僕という邪魔な人間がふたりだけの空間に入ってきたのが嫌だったみたいだ。
口にこそ出していないけれど、今にも帰れと言わんばかりの形相をしている。
(そりゃ当たり前だよな…)
双子にジリジリとそれぞれ真逆の圧をかけられて立ちすくんでいると、友人たちはまるで息を合わせたかのように同時に動き出した。そしてふたりとものそのそとベッドから抜け出せば、恥ずかしげもなく全裸を披露して、僕の目の前で身体をピッタリと密着させる。その様子を目の当たりにして非っ常~~に嫌な予感がしたけれど、直後にそれは見事的中してしまうことになった。
(う…わぁ…)
……彼らはナルキッソスよろしくお互いの顔をうっとりと見つめ合い、愛の言葉を囁きながらおはようのキスをおっ始めてしまったのだ!
(おいおいおい…っちょっ待てよっ! ここに人いる! 僕いるから!!)
「耀、愛してる…」
「ん…ぅ」
ディープキスとやらに夢中の彼らに、かける言葉も出なくなる。僕は羞恥と友人の普段見ない甘い顔に冷や汗と脇汗がぐっしょりと吹き出していた。早くここから逃げたい。自分の部屋に戻ってア○マスを見て心を落ち着けたい。
しかし、そんなことは、どっぷり浸かって周りが見えなくなってしまった双子には関係のないことのようだ。むしろ、見せつけて、僕の犯した大罪を解らせようとしているみたいだ。
(うわ~~ほんとに大失敗!!! もう突撃隣の朝ごはんしないから! 許して!! 許してぇえええええ)
友人が双子の兄と両想いで付き合ってることは知っている。別にそれに対して偏見はない。
でも!!
(ごめん、僕は男女か百合が好きなんだぁぁあああああ!!!!)
──こうして波乱に満ちた1日が始まったのだった。
僕は水谷高貴。桜ヶ丘音楽高校に通う、ピアノ専攻の高校生だ。
バァンという勢いのある音を立てながら、僕は朝早くから隣室のドアを開け放った。ここに住む友人は、中学からの付き合いで、偶然同じ高校に通い、偶然下宿先も隣同士になった。そんなもので、お互い玄関の暗証番号も知っているし、しょっちゅう部屋を行き来している仲なのだ。
都内の音楽学校の学生向けに建てられたその防音アパートは、1Kのとてもコンパクトな間取りになっている。小さい玄関の向こう側に十畳ほどの部屋があり、玄関と部屋までの短い通路の両側に、簡易的なキッチンと風呂やトイレがある。隣の僕の部屋とほぼ同じ間取りだ。僕は玄関でポイポイと靴を脱ぎ捨て、勝手知ったる友人の家の奥にずかずかと踏み入れた。
「おーい、聖、起きろよ!」
これまたバァンと部屋のドアを突破すると、まだカーテンも開けられていない薄暗な部屋が現れた。僕はあまりの暗さに目を細め、友人を見つけるのにしばし目を凝らさなければならなかった。
「せ、」
夜目をきかせ、よくよく確認すれば、それ以降の言葉は喉まで出かけて引っ込んだ。
(うーわ、こりゃ大変…)
──そこには、部屋の角にすっぽりはめられたシングルサイズのベッドに、美形(泣)な双子が抱き合いながらすやすや寝てるではないか。
(やっば…今日は聖一人じゃなかったか。兄貴の方も最近よく泊まりに来てるのは知ってたけど)
弟の聖だけなら、こんな風に朝早く突撃しても怒られることはない。しかし、聖の兄貴が一緒となると、そうともいかない。
(引き返そ…)
心の中で「サーセンしたっ」と呟きながら、そろそろと元きた道に回れ右をする。
しかし、残念なことに、背後から「な…、に……?」と寝ぼけた声がした。先ほどまでの行いが災いを呼び、聖がむにゃむにゃ言いながら起きてしまったのだ。
「すまんすまん、また後で出直す」
「…えー…いいよ。…どうせ僕も起きる時間だったし。……ふぁ~あ…、何か…あったの?」
振り返ると、鳥の巣頭の友人は、眠そうな目を擦りながら身体半分だけむくりと起き上がっていた。胸のあたりにかけていた毛布たちがハラリと落ちると、この友人が双子の兄と昨日どんな格好で寝て、どんなことをしていたのかを、否が応でも知ることになってしまった。
(おえ、ふたりとも素っ裸かよ!)
「……う、邪魔した。か、帰る…」
「いいよ、いて? 僕を起こしたんだから。高貴が興奮して飛び込んでくるということは、きっといいことなんでしょ?」
逃げ腰になっている自分に、友人はわざわざトゲのある言い方をして追い詰める。
「いや、ほんとにすんません…」
「いいって」
……友人はにこやかにそう言うけれど、彼の隣にいる髪の赤いお方はそうはおっしゃっていなかった。ベッドに寝そべって鼻まで毛布を被ったまま、鋭い眼光でこちらをじーっと睨みつけてきている。どうやら、朝の微睡みの時間を奪われたのと、単純に僕という邪魔な人間がふたりだけの空間に入ってきたのが嫌だったみたいだ。
口にこそ出していないけれど、今にも帰れと言わんばかりの形相をしている。
(そりゃ当たり前だよな…)
双子にジリジリとそれぞれ真逆の圧をかけられて立ちすくんでいると、友人たちはまるで息を合わせたかのように同時に動き出した。そしてふたりとものそのそとベッドから抜け出せば、恥ずかしげもなく全裸を披露して、僕の目の前で身体をピッタリと密着させる。その様子を目の当たりにして非っ常~~に嫌な予感がしたけれど、直後にそれは見事的中してしまうことになった。
(う…わぁ…)
……彼らはナルキッソスよろしくお互いの顔をうっとりと見つめ合い、愛の言葉を囁きながらおはようのキスをおっ始めてしまったのだ!
(おいおいおい…っちょっ待てよっ! ここに人いる! 僕いるから!!)
「耀、愛してる…」
「ん…ぅ」
ディープキスとやらに夢中の彼らに、かける言葉も出なくなる。僕は羞恥と友人の普段見ない甘い顔に冷や汗と脇汗がぐっしょりと吹き出していた。早くここから逃げたい。自分の部屋に戻ってア○マスを見て心を落ち着けたい。
しかし、そんなことは、どっぷり浸かって周りが見えなくなってしまった双子には関係のないことのようだ。むしろ、見せつけて、僕の犯した大罪を解らせようとしているみたいだ。
(うわ~~ほんとに大失敗!!! もう突撃隣の朝ごはんしないから! 許して!! 許してぇえええええ)
友人が双子の兄と両想いで付き合ってることは知っている。別にそれに対して偏見はない。
でも!!
(ごめん、僕は男女か百合が好きなんだぁぁあああああ!!!!)
──こうして波乱に満ちた1日が始まったのだった。
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