183 / 247
183.
しおりを挟む
馬車がガタゴト音を響かせながら十数分かけてタウンハウスへと向かう。
その十数分の中ですでにぐっすりと眠ってしまっているカトリーヌを到着と同時に優しくゆすって起こす。
見慣れたタウンハウスの入り口には、すでに母が使用人たちと一緒に出迎えのために立っているのが見えた。
「カトリーヌ、タウンハウスに着いたわ。お母さまも出迎えのためにいらっしゃるから起きて」
「……んぇ?」
「軽くは起きたわね?着いたから起きて降りなさい。
お母さまも待ってるわよ」
「ええ!?」
最初は疲れて寝ていたのもあって寝ぼけまなこな上にきちんと内容を聞き取れなかったようだが、軽く起きて意識が覚醒しかけている時に「母が待っている」と聞かされればカトリーヌも飛び起きる。
カトリーヌにとって、現在怖い一面を嫌でも見せつけてきた母の存在は下手すると父よりもずっと恐怖を煽ってくることも。
威圧感だけであれば父の方がやはり上ではあるが、母はいつどのように怖い一面を出して怒ってくるのか分からない分、怖かった。
「早く降りなさいね」
そう言って先に鞄を片手に降りていく姉に今回ばかりは感謝である。
「(よかった、寝てたままだとお母さまに何を言われるか…)」
姉のグウェンドリンに続くようにして鞄を手に馬車を降りる。
すでに「ただいま戻りました」と笑顔で母と使用人たちに帰宅の挨拶をして軽く話をしている姉の姿を見て、同じように近づいて「ただいま帰りました」とあいさつする。
「おかえりなさいカトリーヌ、学園はどうだった?」
「授業が進むのがかなり早くてびっくりしました」
どうやら母はカトリーヌが降りてくるのを待っていたらしく、カトリーヌが降りてきて挨拶した後、軽く話をして中へ入る様に促されるので話をしながら屋敷の中へ。
グウェンドリンも軽く話しつつ一緒に中へ入っていっていたが、「それでは仕事を片付けてきますね」と言って先に着替えるためにお付きの侍女、マーガレットに鞄を預けてそのまま部屋へと戻っていく。
その姿を笑顔で母は見送った後、カトリーヌを連れて居間へと向かい、対面して話を切り出す。
「スカルド令息とはお話したの?」
母からの言葉にカトリーヌは「う」と言葉に詰まるものの、素直に「今朝お話ししました」と返事をする。
「今朝、登校したときにお話ししました。昨日の食事会のお礼と、会えて光栄だったと…」
その言葉を発した瞬間、朝の屈辱的に感じる思いがよみがえる。
嫌そうな顔をしたのを母であるフリーンは見逃さなかった。
「(なるほど、カトリーヌ自身に会えて光栄だとは言われなかったのかしら?
それとも、言われはしたもののそれ以上に私たち夫婦やグウェンドリン、シュヴァルド殿の方に対して光栄だとでも言ったのかしら?)」
娘の考え方を長年の付き合いである程度把握しているフリーンは的確に読み取って、さてどう話をするべきかと一瞬頭を悩ませる。
「そう、それは良かったわ。
あなたは昨日の食事会で満足に話せる機会があまりなかったし、私たちやあちらのご両親もいない一対一の状態でフランクに話せるような機会に恵まれたのは良かったのではないかしら?」
「まあ、昨日のような印象ではなかったのは確かです」
多少なりとも笑顔も見られたことで印象が変わったのは確かだ。
ただ、やっぱりカトリーヌ以上にヴォーダン伯爵家の他の家族たちに対して視線が向いているのが分かっているからこそ、複雑なうえに良い感情は浮かばない。
その十数分の中ですでにぐっすりと眠ってしまっているカトリーヌを到着と同時に優しくゆすって起こす。
見慣れたタウンハウスの入り口には、すでに母が使用人たちと一緒に出迎えのために立っているのが見えた。
「カトリーヌ、タウンハウスに着いたわ。お母さまも出迎えのためにいらっしゃるから起きて」
「……んぇ?」
「軽くは起きたわね?着いたから起きて降りなさい。
お母さまも待ってるわよ」
「ええ!?」
最初は疲れて寝ていたのもあって寝ぼけまなこな上にきちんと内容を聞き取れなかったようだが、軽く起きて意識が覚醒しかけている時に「母が待っている」と聞かされればカトリーヌも飛び起きる。
カトリーヌにとって、現在怖い一面を嫌でも見せつけてきた母の存在は下手すると父よりもずっと恐怖を煽ってくることも。
威圧感だけであれば父の方がやはり上ではあるが、母はいつどのように怖い一面を出して怒ってくるのか分からない分、怖かった。
「早く降りなさいね」
そう言って先に鞄を片手に降りていく姉に今回ばかりは感謝である。
「(よかった、寝てたままだとお母さまに何を言われるか…)」
姉のグウェンドリンに続くようにして鞄を手に馬車を降りる。
すでに「ただいま戻りました」と笑顔で母と使用人たちに帰宅の挨拶をして軽く話をしている姉の姿を見て、同じように近づいて「ただいま帰りました」とあいさつする。
「おかえりなさいカトリーヌ、学園はどうだった?」
「授業が進むのがかなり早くてびっくりしました」
どうやら母はカトリーヌが降りてくるのを待っていたらしく、カトリーヌが降りてきて挨拶した後、軽く話をして中へ入る様に促されるので話をしながら屋敷の中へ。
グウェンドリンも軽く話しつつ一緒に中へ入っていっていたが、「それでは仕事を片付けてきますね」と言って先に着替えるためにお付きの侍女、マーガレットに鞄を預けてそのまま部屋へと戻っていく。
その姿を笑顔で母は見送った後、カトリーヌを連れて居間へと向かい、対面して話を切り出す。
「スカルド令息とはお話したの?」
母からの言葉にカトリーヌは「う」と言葉に詰まるものの、素直に「今朝お話ししました」と返事をする。
「今朝、登校したときにお話ししました。昨日の食事会のお礼と、会えて光栄だったと…」
その言葉を発した瞬間、朝の屈辱的に感じる思いがよみがえる。
嫌そうな顔をしたのを母であるフリーンは見逃さなかった。
「(なるほど、カトリーヌ自身に会えて光栄だとは言われなかったのかしら?
それとも、言われはしたもののそれ以上に私たち夫婦やグウェンドリン、シュヴァルド殿の方に対して光栄だとでも言ったのかしら?)」
娘の考え方を長年の付き合いである程度把握しているフリーンは的確に読み取って、さてどう話をするべきかと一瞬頭を悩ませる。
「そう、それは良かったわ。
あなたは昨日の食事会で満足に話せる機会があまりなかったし、私たちやあちらのご両親もいない一対一の状態でフランクに話せるような機会に恵まれたのは良かったのではないかしら?」
「まあ、昨日のような印象ではなかったのは確かです」
多少なりとも笑顔も見られたことで印象が変わったのは確かだ。
ただ、やっぱりカトリーヌ以上にヴォーダン伯爵家の他の家族たちに対して視線が向いているのが分かっているからこそ、複雑なうえに良い感情は浮かばない。
10
お気に入りに追加
955
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
魅了が解けた世界では
暮田呉子
恋愛
【お知らせ】(2024,02,03)
レジーナ文庫様より文庫版も出していただけることになりました。
皆様のおかげです、ありがとうございます。2/9発売予定です。
【お知らせ】
『魅了が解けた世界では』がレジーナブックスより出版されました。
(詳細サイト→https://www.regina-books.com/lineup/detail/1045770/7621)
掲載していた内容を加筆、改稿し、番外編も書き下ろして掲載しています。
書籍化に伴い対象の話は引き下げました。また内容を一部変更しています。
掲載はアルファポリスのみです。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
復讐の慰術師
紅蓮の焔
ファンタジー
※鬱展開あるかもしれません…(鬱展開と鬱展開ではないのラインが分からないので)
1日更新です
後、言う事があるとすれば文章が物凄く稚拙です…
それでもよければお読みください
m(__)mペコリ
「危ないっ!」
歩いていた少年はそこで振り返った
ドスンッ!
気が付くとそこは…知らない場所だった
「あ?」
言葉を話すことすら不可能だった
この少し後で気が付いた
(転生…か)
それに気付いた時、少年は目を瞑った
(今度こそ…)
そう決意し、拳を握ろうとしたが力が入らない
(身体を鍛えよう)
今度はそう決意し、天井へ目を向けた
数年後…
夜中に突然盗賊が押し寄せ、金品を盗んで少年の母親を殺すと家に火を放ち、去っていった
それから更に数年後…
『今までありがとうございました
随分と身勝手ですが妹を宜しくお願いします』
燃えた家から助け出してくれた家の人への書き置きを残してそこから立ち去った
これは幸せを壊された少年の復讐の物語…
※復讐の場面に行くまで少し掛かります。それまではほのぼのとした空気が流れるかと思いますが何卒…
多分良くある話?だと思います
題名は仮の物なので何か提案がある方は教えてくれれば嬉しいです。気に入れば変更します
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる