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最早その場にいることも嫌になったのか、さっさと食事を終わらせたグウェンドリンは失礼しますと一言告げて食堂を出る。
その前に一言、父に「後で少しお話があるのでお時間いただけますか」と問いかけて、ヴァルファズルの方もそれに快くうなずいて、「後で誰かを呼びに行かせる」と言ってグウェンドリンが下がるのを見送った。
それから少ししてヴァルファズルが食べ終わり、次にフリーンが食べ終わった。
これまでの食事では食べるのが遅くても皆が待っているのが普通であったが、今回ばかりは流石に腹に据えかねたグウェンドリンのことも考えれば、一緒にいて食べ終わるのを待つというのは両親揃って無いなと判断したのだろう。
しょもしょもと食べ続けるカトリーヌだけが食堂に残される。
そして食べ終えたのは両親が退室して10分後。
そこからお付きの侍女と食堂を後にして部屋へと向かっている最中に、ひそひそと聞こえてくる悪意のある話声。
「ねえ聞いた、カトリーヌ様の話」
「ああ、あれでしょ?グウェンドリン様の婚約者のシュヴァルド様をエスコート役によこせっていった話でしょ?」
「そうそう、あれ本当にすごいこと言ってるわよねー」
「姉の婚約者をよこせって言ってるのも同じじゃない?とんでもないくらい節操なしなのかもしれないわね」
「そもそもエスコート役がいないのは自分が婚約者候補に手紙送らないからよねー」
「自業自得なのにグウェンドリン様にあつかましいお願いしたものよね」
ひそひそと小さな声であっても、主一家の夕食時が終わり、使用人たちもそれぞれ交代で食事の時間を取っている頃合い。
つまり、いつも以上に屋敷内は静かでひそひそとささやく声が良く聞こえるのだ。
そしてその声はカトリーヌを直撃する。
やってはならないこと、言ってはならないことだとカトリーヌ自身も頭のどこかで分かっていた。
婚約者が別にいて、おまけにそれが自身の姉であるという男性にエスコートを頼むということは、現代における浮気にも相当しかねない。
別の人間へのエスコートにきちんとした理由があり、更にそれを婚約相手が理解して納得しているのであればまだしも、グウェンドリンはあれだけ冷たく怒ったわけであるからそれもあり得ない。
そもそも、カトリーヌはシュヴァルドと会った時にとんでもなく冷たい対応を取られるのがざらで、交流しようとシュヴァルドに話しかけた瞬間かなり嫌そうな顔を隠されることも無く見せられた過去もある。
シュヴァルドのカトリーヌに対しての印象が過去のこともあって悪すぎるのもあるが、それ以上にカトリーヌがグウェンドリンの足かせになるようなお荷物になる可能性を考えたからもあるが、カトリーヌが自分に言い寄りそうな感覚もあったのだろう。
声をかけても一言返して終わり、そのままどこかへ行く。
または仕事中だから邪魔するなと冷たく追い払われる、無視されるという対応がほとんど。
そんな対応ばかりの男のエスコートを望むカトリーヌもカトリーヌだが、長年婚約関係にある状態に近い二人であるというのを知っているにも関わらず、エスコート役に寄越せと言ってのけるカトリーヌの性格の悪さが今回屋敷内に一気に広まった。
部屋の扉をお付きの侍女に開けさせ、そのままベッドに倒れ込むようにして沈み、枕を力強くたたく。
自分のお披露目も同然のデビュタントだからこそ、どうにかエスコートしてくれる男性をと思っての唐突に己の口から出た言葉をカトリーヌはこれほど後悔したことはないだろう。
その前に一言、父に「後で少しお話があるのでお時間いただけますか」と問いかけて、ヴァルファズルの方もそれに快くうなずいて、「後で誰かを呼びに行かせる」と言ってグウェンドリンが下がるのを見送った。
それから少ししてヴァルファズルが食べ終わり、次にフリーンが食べ終わった。
これまでの食事では食べるのが遅くても皆が待っているのが普通であったが、今回ばかりは流石に腹に据えかねたグウェンドリンのことも考えれば、一緒にいて食べ終わるのを待つというのは両親揃って無いなと判断したのだろう。
しょもしょもと食べ続けるカトリーヌだけが食堂に残される。
そして食べ終えたのは両親が退室して10分後。
そこからお付きの侍女と食堂を後にして部屋へと向かっている最中に、ひそひそと聞こえてくる悪意のある話声。
「ねえ聞いた、カトリーヌ様の話」
「ああ、あれでしょ?グウェンドリン様の婚約者のシュヴァルド様をエスコート役によこせっていった話でしょ?」
「そうそう、あれ本当にすごいこと言ってるわよねー」
「姉の婚約者をよこせって言ってるのも同じじゃない?とんでもないくらい節操なしなのかもしれないわね」
「そもそもエスコート役がいないのは自分が婚約者候補に手紙送らないからよねー」
「自業自得なのにグウェンドリン様にあつかましいお願いしたものよね」
ひそひそと小さな声であっても、主一家の夕食時が終わり、使用人たちもそれぞれ交代で食事の時間を取っている頃合い。
つまり、いつも以上に屋敷内は静かでひそひそとささやく声が良く聞こえるのだ。
そしてその声はカトリーヌを直撃する。
やってはならないこと、言ってはならないことだとカトリーヌ自身も頭のどこかで分かっていた。
婚約者が別にいて、おまけにそれが自身の姉であるという男性にエスコートを頼むということは、現代における浮気にも相当しかねない。
別の人間へのエスコートにきちんとした理由があり、更にそれを婚約相手が理解して納得しているのであればまだしも、グウェンドリンはあれだけ冷たく怒ったわけであるからそれもあり得ない。
そもそも、カトリーヌはシュヴァルドと会った時にとんでもなく冷たい対応を取られるのがざらで、交流しようとシュヴァルドに話しかけた瞬間かなり嫌そうな顔を隠されることも無く見せられた過去もある。
シュヴァルドのカトリーヌに対しての印象が過去のこともあって悪すぎるのもあるが、それ以上にカトリーヌがグウェンドリンの足かせになるようなお荷物になる可能性を考えたからもあるが、カトリーヌが自分に言い寄りそうな感覚もあったのだろう。
声をかけても一言返して終わり、そのままどこかへ行く。
または仕事中だから邪魔するなと冷たく追い払われる、無視されるという対応がほとんど。
そんな対応ばかりの男のエスコートを望むカトリーヌもカトリーヌだが、長年婚約関係にある状態に近い二人であるというのを知っているにも関わらず、エスコート役に寄越せと言ってのけるカトリーヌの性格の悪さが今回屋敷内に一気に広まった。
部屋の扉をお付きの侍女に開けさせ、そのままベッドに倒れ込むようにして沈み、枕を力強くたたく。
自分のお披露目も同然のデビュタントだからこそ、どうにかエスコートしてくれる男性をと思っての唐突に己の口から出た言葉をカトリーヌはこれほど後悔したことはないだろう。
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