二人の転生伯爵令嬢の比較

紅禰

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学園に通う為の準備としては、基本的な勉学の振り返りと同時に同世代の有力な家柄の人間を覚えることがあげられる。

グウェンドリンの場合は跡継ぎということもあってそういう有力な家の令息令嬢とこれまで以上に触れ合うことになるし、問い合わせが来た時にどこの家の人間なのかを即座に把握して判断することも求められ始める。

とはいえ、さすがに絵姿を入手するのは無理なので、相手の自己紹介などを合わせて情報を照らし合わせて「あ、あそこの家の令嬢/令息か」というように判断ができるようにするような教育が施され始めていた。

普段の教育にプラスしてこれなので、多少実務の時間が減ったし、事業に関しての書類確認の時間を圧迫しているがこれに関しては両親の公認なので何も言わずにその通りにする。

実際、事業の権利者となった後の大人のやり取りでは求められたものなので、それが学生仕様になったと思えば今後の交流に関しても大きな力になってくれるものだ。

そして最大の難関はカトリーヌへ送られてくる宰相補佐の家の令息からの手紙の返事の内容を考える事である。
カトリーヌにも一応手紙が来ていることを告げているのだが、彼女はツンとそっぽを向いたまま。

ただ、手紙がずっと来ていることに関しては少々嬉しいらしく、時折強制的にではあっても手紙を読まされた後はその手紙を粗末に扱わない。

それにちょっと嬉しそうな顔をしている。

なので、好かれることに関しては嫌な気はしないのだろう。

その婚約に乗り気かどうかは別として、いろんな人に好かれたいという欲が彼女にはある。

まあ、そんなカトリーヌの様子を見ているグウェンドリンや両親、カトリーヌの傍付きの侍女やメイドたちの感想としては

「このまま絆されて嫁に行ってくんねーかな」

である。

言葉は乱れるが、まさにそのままの事を誰しもが思っていた。

しかし、それでも返信は出そうとせずに家族の署名入りの代筆業みたいなものがずっと続いている状態で、カトリーヌの事を多少誤魔化しつつありのままを教えたほうがいいなと思っている家族側としては非常に内容に困っているのである。

何故ならカトリーヌの現状を教えると、良い所の家柄は基本的に即座にお断りの分類に入りかねないから。

これまでの勉強はさぼり気味、社交は積極的に行こうとするがそこに値するマナーができるとは言い難い。

本気で勉強しようとしているのが12歳からなんて、どこからどう見てもお断り物件なのである。

だからこそ、下手に真実をそのまま記載して送ってもカトリーヌの有望かつ非常に安心できる嫁ぎ先が一つ潰れるだけに終わってしまうので気を遣うのだ。

「(本当、そろそろ唐突に病弱になってしまって長閑な領地の片隅で長期療養になりましたって書きたいわ…)」

家族会議で返信内容を決め、今回代筆を担当したグウェンドリンは最後に自身の名前を書き記して封をした。

こうして家族がかわるがわるカトリーヌではなく己の名前を記し、封をして返信のために使用人たちによって適切に処理されていく手紙を見るたびに思うのが、相手は一体どんな気持ちなんだろうということだけだ。

本当ならば、グウェンドリンとシュヴァルドのようにお互いのやり取りをして、少しずつプレゼントも一緒に送ってということをしたかっただろうに、まさかの家族との文通状態。

相手は一体どんな気持ちでこの手紙を受け取っているのやら。

考えるだけで気の毒になる。

「とはいってもねえ…」

「どうしたグウェンドリン」

「ああ、シュヴァルド、今日もいらしてたんですか」

居間で手紙をしたためてマーガレットに渡した後、書類を抱えて居間にやってきたシュヴァルドは垂れ目をぱちぱちと瞬かせながら「よう」と気軽に挨拶をしてから傍に寄ってくる。

「で、どうした?ため息ついて」

「いえ、カトリーヌの代わりの手紙の返信が私の番だったんですけど」

「ああ、あれな。そろそろ自分でやらせたらどうだよ」

「そう思って両親と一緒に言ってみたんですけどね」




「何言ってるのよお姉さま、これは駆け引きよ。私が焦らせば焦らすほど相手は私の事ばっかり考えるでしょ?」



「と答えが来ました」

「数年掛かりの焦らしはただのアホじゃね?」

「ですよね」

約3年近く本人からの返事がない手紙とか、もはや焦らしとして機能していない。

むしろあちらも駆け引きどころかやる気がないカトリーヌを理解しているからこそ、家同士のやり取り位はと手紙を出しているだけの状態だと思われる。

「ま、いいや。俺とグウェンドリンに害がないなら放置な。そんじゃ行くぞ、伯爵が任せたい仕事があるって言ってた」

「あら、呼びに来てくださったんですか?誰かに頼めばよかったでしょうに」

「愛しの婚約者のお迎えくらいはさせてくれ」

カトリーヌの婚約とは違う、非常に順調なグウェンドリンとシュヴァルドを見て、手紙を適切に届けるための処理を終えて戻ってきたマーガレットは「これが普通の婚約関係なのよね…」と全く違う姉妹の状態に二人の後ろで苦笑をこぼすしかなかった。
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