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だからこそ、一番最初に雇い入れるのは地元の中でも信頼のおける人間として評判のいい人物をピックアップした中から選ぶことを決めていた。
責任者には伯爵家内から選ばれた人間を宛がうつもりでもいる。
そんな内心を多くの無関係の人間がいるパーティー会場で言うつもりもないので、簡単にアルファズル侯爵の質問に答えるだけにしておく。
「ああ、先に工房なども建てておけば、最悪権利をこちらによこせと言われた時にまとめて工房なんかも相手側に売り払う。
流石に無償で寄越せと言えば、王家側が権力を振りかざしたともいわれる原因にもなるからな、下手に無料で寄越せとも言えないだろうし、多少値を下げたとしても買わざるを得ない」
「なるほどな。絹という王家も無視できない事業だからこそ、スムーズに事業が行われるように下準備していた貴族のこれまでの出費をマイナスにするようなことはこちらとしても反発するな」
下手すると他の貴族の事業に関しても、国益にもなりえる、貴重なものであると認定した瞬間権利を取り上げにかかる可能性があると思われれば、他の貴族からの厳しい目は避けられない。
家によっては王家との距離を取りたがるようなところも出てくるので、反王家とは言わないものの、王家に対して全面的に協力する様な家柄はかなり減り、そうした家が集まった派閥もまた出てくることになるだろう。
せっかく上手に貴族との関係を保っている王家がそこまでの暴挙を仕出かす可能性は低いが、それでもこの事業を安く買いたたかれるような状態にはしたくないので、最悪の場合を考えて高く買ってもらえるように下準備をしているのである。
おまけにこの下準備をパーにするくらい王家が馬鹿な事を仕出かせば、伯爵家は王家に対してその馬鹿なことをした分強く出られるところが増える。
伯爵家としてはギリギリの攻め方をしているのを把握して、アルファズル侯爵は苦笑した。
そんな二人の耳にざわざわとこれまでとは違うざわつきが耳に入った。
「なんだ?」
「おい、何の騒ぎだ?」
アルファズル侯爵が不思議そうにざわつきの方へと目を向け、ヴァルファズルは慌てて寄ってきた侍従の1人に声をかけて事態を即座に把握しようとする。
「そ、それが、ガウト伯爵家の方々がやってきて、会場入り口で騒いでいるのです。
招待状はお持ちではないのでお帰り願いますとはっきり申し上げているのですが、かなりごねられていて…」
「誰が今応対している?」
「ジェームズさんです」
当初は侍従の1人が対応していたが、あちらは招待状が送られていないのにもかかわらず、カトリーヌ嬢の婚約者の家だとかなりごねているらしい。
結果、騒ぎ始めたことで執事のジェームズが代わりに対応し、直接的に「招待状が無い方はおかえりください」と伝えてもいまだに帰らない状態にあるという。
それを聞いた瞬間、ヴァルファズルの表情は無になった。
「すまない、ちょっと行ってくる」
「ああ、わかった」
話をしていたアルファズル侯爵へ一言告げて、侍従の案内で会場入り口へと足を向けたヴァルファズルは、常識のないあの家の者にどう言ってやろうかと頭の中で延々と罵詈雑言を滾らせつつも、表情と歩き方には出さないまま会場入り口へと颯爽と歩いて行った。
責任者には伯爵家内から選ばれた人間を宛がうつもりでもいる。
そんな内心を多くの無関係の人間がいるパーティー会場で言うつもりもないので、簡単にアルファズル侯爵の質問に答えるだけにしておく。
「ああ、先に工房なども建てておけば、最悪権利をこちらによこせと言われた時にまとめて工房なんかも相手側に売り払う。
流石に無償で寄越せと言えば、王家側が権力を振りかざしたともいわれる原因にもなるからな、下手に無料で寄越せとも言えないだろうし、多少値を下げたとしても買わざるを得ない」
「なるほどな。絹という王家も無視できない事業だからこそ、スムーズに事業が行われるように下準備していた貴族のこれまでの出費をマイナスにするようなことはこちらとしても反発するな」
下手すると他の貴族の事業に関しても、国益にもなりえる、貴重なものであると認定した瞬間権利を取り上げにかかる可能性があると思われれば、他の貴族からの厳しい目は避けられない。
家によっては王家との距離を取りたがるようなところも出てくるので、反王家とは言わないものの、王家に対して全面的に協力する様な家柄はかなり減り、そうした家が集まった派閥もまた出てくることになるだろう。
せっかく上手に貴族との関係を保っている王家がそこまでの暴挙を仕出かす可能性は低いが、それでもこの事業を安く買いたたかれるような状態にはしたくないので、最悪の場合を考えて高く買ってもらえるように下準備をしているのである。
おまけにこの下準備をパーにするくらい王家が馬鹿な事を仕出かせば、伯爵家は王家に対してその馬鹿なことをした分強く出られるところが増える。
伯爵家としてはギリギリの攻め方をしているのを把握して、アルファズル侯爵は苦笑した。
そんな二人の耳にざわざわとこれまでとは違うざわつきが耳に入った。
「なんだ?」
「おい、何の騒ぎだ?」
アルファズル侯爵が不思議そうにざわつきの方へと目を向け、ヴァルファズルは慌てて寄ってきた侍従の1人に声をかけて事態を即座に把握しようとする。
「そ、それが、ガウト伯爵家の方々がやってきて、会場入り口で騒いでいるのです。
招待状はお持ちではないのでお帰り願いますとはっきり申し上げているのですが、かなりごねられていて…」
「誰が今応対している?」
「ジェームズさんです」
当初は侍従の1人が対応していたが、あちらは招待状が送られていないのにもかかわらず、カトリーヌ嬢の婚約者の家だとかなりごねているらしい。
結果、騒ぎ始めたことで執事のジェームズが代わりに対応し、直接的に「招待状が無い方はおかえりください」と伝えてもいまだに帰らない状態にあるという。
それを聞いた瞬間、ヴァルファズルの表情は無になった。
「すまない、ちょっと行ってくる」
「ああ、わかった」
話をしていたアルファズル侯爵へ一言告げて、侍従の案内で会場入り口へと足を向けたヴァルファズルは、常識のないあの家の者にどう言ってやろうかと頭の中で延々と罵詈雑言を滾らせつつも、表情と歩き方には出さないまま会場入り口へと颯爽と歩いて行った。
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