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そんなグウェンドリンはとにかく移動の時間が続く。
伯爵家の屋敷があるのは領地内でも特に栄えているところで、これから行く町と村は領地内でも山の麓やその付近にあるものだから領地内の端へ行くようなものなので、それだけ時間がかかる。
馬の上にすでに半日近くいて、時折休憩が挟まれるもののやはり疲労もそれなりに大きい。
「(普段から馬に乗っている時間も多くしていっているとはいえ、やっぱり厳しいな)」
筋肉が張る感覚を感じると同時にすでにしびれて感覚のない状態に近い太ももの状態にグウェンドリンは明日以降の地獄を考えると気がどんどん沈むように重たくなるのを感じた。
明日も明後日も視察のために馬に乗り、時折休憩をはさみながらも移動の時間だけが続く。
ただ、その中での楽しみと言えば知らない町、村に立ち寄ってみる機会があるというものだろう。
真っ暗な夜中ではけっして分からなかった風景は、グウェンドリンの目を楽しませ、夢中にさせるのにはぴったりだった。
ただし、その最中に父から「この道はどう改善すべきだと思うか」「この村を発展させるにはどう思うか」「この町についての所感はどうか」といったことを適宜問われるものだから、風景ばかりに気を取られるわけにもいかない。
ただ、その日泊まる宿で自分なりにその問いかけに対しての答えを書き連ねるために、屋敷から持ってきた紙束に思ったことを全て書いていた。
宿の部屋で護衛の女騎士に見守られつつ、必死に書き連ねているものの、途中で寝落ちすることも普通にあったので、ミミズがのたくったような文字が数カ所見受けられる。
「…あとで書き直さなきゃよね」
困ったようにその箇所を見つめているグウェンドリンに、今回の視察の傍付きを命じられた女騎士はなんてことないように笑う。
「書き直す必要はあるかと思いますが、清書すると思えばよろしいかと。
綺麗に書き直して伯爵様にお出しすれば問題ありませんよ」
「そうね、そうよね…。ただ忘れそうで嫌だなあ」
一番視察しなければならないのはこれから行く山の麓の村と町なので、道中の街や村、道にあれこれ書いていたらきりがない。
むしろ途中で紙を購入しなければならない事態に陥ると、出費を強いられるのと余計な荷物が増えるのもあってあまり歓迎できない。
紙束だからと侮るなかれ、こうした領地の事情を書き連ねた紙が1枚紛失するだけでもとんでもない事態に陥るのだ。
紙に書かれているのが、村や町を守るための防衛柵であったり、外壁の侵入経路になりかねない穴であったり、軍備の不十分さを指摘する様な内容で、それを無くしたうえに紙を拾った賊が町や村に侵入してきたと言えば事の重大さが分かってもらえるだろう。
おまけに、紙を拾うのが賊だけとは限らない。
ヴォーダン伯爵家を良く思っていない派閥の家にでも渡ったのであれば、それを理由に弱みを握られたり、下手をすると密偵を放たれて領内の主要産業の秘密であったり、マル秘事項を探られて持っていかれたりするのである。
紙一枚で大騒ぎになるのだ。
なので、下手に紙を増やしてきちんと保管する手間をかけることもできないし、紙を増やすとしても帰りのもうそれ以上何も増えない状態にしてからにしておきたい。
だから、箇条書きでがりがりとミミズののたくったところを修正して、インクが乾いたらきっちりと折りたたんで封筒に入れて保管するようにしている。
封筒であれば、場所も取らないし折りたたんでまとめておけば後は自分の荷物に紛れさせておけば問題なく持って帰れる。
お付きの女騎士も父と今回護衛に来る領軍の部隊長のお墨付きの信頼度があるのと、彼女自身が伯爵家への忠誠心も非常に高いので下手なことはしない。
そもそも、グウェンドリンの荷物に触れる事すらまずない。
どうしても触れなければならない時は、グウェンドリンの指示のもと触れるか、多くの人の目がある場所でグウェンドリンがお願いしたときくらいである。
それくらい、領地の情報を入れている荷物というのは大事なものなのだ。
とっぷりと暮れた夜、それなりに上等な宿の窓から見えるのは異国の、それも昔の街並み。
夕食時から少し経った時間ではあるけれど、団らんの時間であったり、お酒を楽しむ時間だったりするのだろう。
窓から見える家々からは蝋燭の暖かな光が窓からこぼれ、暗い夜の街並みをほのかに照らしている。
そんな街並みを見てゆっくりと時間を過ごした後、宿に用意してもらったお湯で軽く体を清め、歯を磨いたグウェンドリンは明日に備えて速やかにベッドに入った。
伯爵家の屋敷があるのは領地内でも特に栄えているところで、これから行く町と村は領地内でも山の麓やその付近にあるものだから領地内の端へ行くようなものなので、それだけ時間がかかる。
馬の上にすでに半日近くいて、時折休憩が挟まれるもののやはり疲労もそれなりに大きい。
「(普段から馬に乗っている時間も多くしていっているとはいえ、やっぱり厳しいな)」
筋肉が張る感覚を感じると同時にすでにしびれて感覚のない状態に近い太ももの状態にグウェンドリンは明日以降の地獄を考えると気がどんどん沈むように重たくなるのを感じた。
明日も明後日も視察のために馬に乗り、時折休憩をはさみながらも移動の時間だけが続く。
ただ、その中での楽しみと言えば知らない町、村に立ち寄ってみる機会があるというものだろう。
真っ暗な夜中ではけっして分からなかった風景は、グウェンドリンの目を楽しませ、夢中にさせるのにはぴったりだった。
ただし、その最中に父から「この道はどう改善すべきだと思うか」「この村を発展させるにはどう思うか」「この町についての所感はどうか」といったことを適宜問われるものだから、風景ばかりに気を取られるわけにもいかない。
ただ、その日泊まる宿で自分なりにその問いかけに対しての答えを書き連ねるために、屋敷から持ってきた紙束に思ったことを全て書いていた。
宿の部屋で護衛の女騎士に見守られつつ、必死に書き連ねているものの、途中で寝落ちすることも普通にあったので、ミミズがのたくったような文字が数カ所見受けられる。
「…あとで書き直さなきゃよね」
困ったようにその箇所を見つめているグウェンドリンに、今回の視察の傍付きを命じられた女騎士はなんてことないように笑う。
「書き直す必要はあるかと思いますが、清書すると思えばよろしいかと。
綺麗に書き直して伯爵様にお出しすれば問題ありませんよ」
「そうね、そうよね…。ただ忘れそうで嫌だなあ」
一番視察しなければならないのはこれから行く山の麓の村と町なので、道中の街や村、道にあれこれ書いていたらきりがない。
むしろ途中で紙を購入しなければならない事態に陥ると、出費を強いられるのと余計な荷物が増えるのもあってあまり歓迎できない。
紙束だからと侮るなかれ、こうした領地の事情を書き連ねた紙が1枚紛失するだけでもとんでもない事態に陥るのだ。
紙に書かれているのが、村や町を守るための防衛柵であったり、外壁の侵入経路になりかねない穴であったり、軍備の不十分さを指摘する様な内容で、それを無くしたうえに紙を拾った賊が町や村に侵入してきたと言えば事の重大さが分かってもらえるだろう。
おまけに、紙を拾うのが賊だけとは限らない。
ヴォーダン伯爵家を良く思っていない派閥の家にでも渡ったのであれば、それを理由に弱みを握られたり、下手をすると密偵を放たれて領内の主要産業の秘密であったり、マル秘事項を探られて持っていかれたりするのである。
紙一枚で大騒ぎになるのだ。
なので、下手に紙を増やしてきちんと保管する手間をかけることもできないし、紙を増やすとしても帰りのもうそれ以上何も増えない状態にしてからにしておきたい。
だから、箇条書きでがりがりとミミズののたくったところを修正して、インクが乾いたらきっちりと折りたたんで封筒に入れて保管するようにしている。
封筒であれば、場所も取らないし折りたたんでまとめておけば後は自分の荷物に紛れさせておけば問題なく持って帰れる。
お付きの女騎士も父と今回護衛に来る領軍の部隊長のお墨付きの信頼度があるのと、彼女自身が伯爵家への忠誠心も非常に高いので下手なことはしない。
そもそも、グウェンドリンの荷物に触れる事すらまずない。
どうしても触れなければならない時は、グウェンドリンの指示のもと触れるか、多くの人の目がある場所でグウェンドリンがお願いしたときくらいである。
それくらい、領地の情報を入れている荷物というのは大事なものなのだ。
とっぷりと暮れた夜、それなりに上等な宿の窓から見えるのは異国の、それも昔の街並み。
夕食時から少し経った時間ではあるけれど、団らんの時間であったり、お酒を楽しむ時間だったりするのだろう。
窓から見える家々からは蝋燭の暖かな光が窓からこぼれ、暗い夜の街並みをほのかに照らしている。
そんな街並みを見てゆっくりと時間を過ごした後、宿に用意してもらったお湯で軽く体を清め、歯を磨いたグウェンドリンは明日に備えて速やかにベッドに入った。
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